私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第二章 訪問者

第三十五話 お茶会開始(リドル視点)

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 きっちりエスコートして席へと案内すれば、両翼ちゃんは物珍しげにケーキスタンドを眺めていた。もしかしたら、初めて見るものなのかもしれない。


「紅茶をお入れしますね」


 両翼ちゃんとワタシが席に着いたことで、メアリーとララは給仕に回る。


「こちらは、リアン魔国シュガー地方産のローズヒップティーです。甘い香りと、フルーティーな酸味をお楽しみください」


 そうメアリーが紅茶を勧めると、両翼ちゃんは緊張気味にうなずく。


(これはいけないわね)

「両翼ちゃん、ワタシも貴女のことを名前で呼んでも良いかしら?」

「(――――)」

「『どうぞ』だそうです」


 側に控えて通訳をしてくれるララに、内心感謝しながら、ワタシは早速名前を呼んでみることにする、


「じゃあ、ユーカちゃん。ユーカちゃんは、どのケーキが食べたいのかしら?」


 極力ユーカちゃんを警戒させないように、笑顔を心がけて話せば、ユーカちゃんはおそるおそる何事かを話す。


「(――――)」

「『どれも美味しそう』だそうです」


 どうやら、嫌いなものはあまりなさそうだと判断して、ワタシは少し、勧めてみることにする。


「なら、これはどうかしら? 魔境で狩ってきた果物をふんだんに使ったケーキ。フルーツタルトよ」


 魔境には、様々な種類の動く果物達がはびこっている。その果実を手にするのは並大抵なことではないけれど、ここのシェフは、自らの武力でもっていつも新鮮な果物達を狩ってきていた。その味は、間違いなく一級品。しかも、シェフ自身の料理の腕も考えると、それ以上の価値がある一品だった。


「それとも、ザッハトルテの方が良いかしら?」


 どれが好みなのか分からない以上、色々な方向性で勧めるべきだ。
 ちなみにザッハトルテは、そこに使用するチョコの原料、カカオが最も入手難易度が高い。カカオを生み出す植物自体は、比較的大人しい植物ではあるものの、そのカカオはドラゴンの大好物で、下手に取ろうとするとドラゴンとの戦闘になりかねない。そんなカカオを使ったケーキは、王候貴族でも滅多に食べられるものではない。

 こういったケーキを見たことがないであろうユーカちゃんのために、ワタシはできる限り味の説明を加えながら様子を見る。


「(――――)」

「はい、かしこまりました」


 それぞれのケーキを説明してあげると、ユーカちゃんはようやく決めたらしく、最初に紹介したフルーツタルトを取ってもらっていた。


「じゃあ、ワタシも同じものをお願い」


 どうせなら、感想も共有しようと思って、ワタシはフルーツタルトをケーキスタンドから取ってもらう。


「まだ取りたい時は、ユーカちゃんのタイミングで好きに言って良いわよ」


 そうあらかじめ言っておけば、遠慮をする可能性は少しくらい下がるはずだ。


「さぁ、食べてみて」


 その言葉を許可と取ったのか、ユーカちゃんはゆっくりとフルーツタルトをフォークでつつき、口に運ぶ。そして……。


「(…………)」


 見事に固まった。


「どうかしら? 口に合わなかった?」


 突然固まったユーカちゃんを見て、ワタシはさすがに不安になる。けれど、どうやら心配は無用だったらしい。


「(――――)」

「『とつても美味しい』だそうです」


 その通訳に、ワタシは大きく安堵する。やはり、甘いものは正解だったらしい。


「ケーキは全部、小さくカットしてるから、色々食べ比べてみると良いわよ」


 まだあまり多くは食べられないとのことだったため、ケーキはそれぞれ三センチ角くらいに切っている。これなら、きっと、ユーカちゃんもいくつか食べられるだろうと思えた。
 心なしか瞳を輝かせながら、黙々と食べるユーカちゃん。その様子は、どこかリスを思い起こさせるもので、ついつい可愛いという感情が先行してしまう。


(いけない、いけない……ユーカちゃんは十八歳っと)


 意識しなければ子供扱いしてしまいそうな自分に気づいて、ワタシは慌てて自らを諌める。


(とりあえず、ユーカちゃんと仲良くならなきゃね)


 そうして、目的をはっきり意識すると、ワタシは早速ユーカちゃんへと話しかけてみる。


「改めて、詳しい自己紹介をするわね。ワタシは、ヴァイラン魔国のテイカー公爵家三男、リドル・テイカーよ。ここには、ユーカちゃんの相談役として来たの」


 本当は、ジークとハミルの相談役だったけれど、こう言っておいた方が色々話してくれるかもしれない。嘘も方便だ。


「(――――――――)」

「『サクラ・ユーカです。十八歳のコウゴウセイです』だそうです?」

「『光合成』?」


 意味の分からない言葉がいきなり来て、ワタシもララも困惑する。そして、ユーカちゃんはその言葉に何か思うところでもあったのか、ララに向かって何かを話す。


「失礼致しました。『コウコウセイ』だそうです」

「『コウコウセイ』、ね」


 正しい言葉に直ったようではあったものの、それでもやはり意味が分からない。もしかしたら、他国の職業か何かの俗称なのかもしれない。


「(――――――?)」

「『こっちには、学校はないの?』だそうです」

「? 学校ならあるわよ。この国で言うなら、ヴァイラン魔国魔導学校ね」


 『コウコウセイ』の意味を尋ねようとする前に、珍しくユーカちゃんから質問が来て、ワタシは一時的に『コウコウセイ』のことを忘れて対応する。


「(――――――――)」

「『私が居たところでは、学校は四段階に分かれているの』だそうです」

「へぇ、それは珍しいわね。どこの国かしら?」

「(――――)」

「『ニホン』だそうです」

「『ニホン』?」


 それは、聞いたことのない国名だった。三男とはいえ、公爵家の者であるワタシが知らないとなると、相当に離れていて国交がない国くらいしかありえない。


(『ニホン』ね。調べて載ってるかしら?)


 ユーカちゃんが居た国が遠い国だとするならば、時々おかしな言葉が出てくるのもうなずける。それはきっと、お国の言葉なのだろう。


「(――――――――)」

「『それで、さっきの話に戻るけれど、その四段階のうちの一つに属している人のことを、コウコウセイって呼ぶの』だそう……です」


 ララは珍しく驚いている様子で、目を見開いている。けれど、驚いているのはワタシも同じだった。


(ユーカちゃんは、教育を受けられるだけの身分を持っていたの!?)


 確かに、思い返してみれば、ユーカちゃんの言葉の端々にはその一端があった。お茶会にマナーがあるなんてことは、きっと王候貴族くらいにしか伝わっていない事柄だ。つまりは、マナーがなっていないかもしれないと不安がったユーカちゃんは、それが分かるだけの教育を受けてきたということだった。


(不味いことになったわね。国交のない国の貴族の娘。黒を持つことから迫害はされていたのでしょうけれど、教育を施していた事実。……下手をすれば、政略の駒に使われかねなかった子ってことかしら?)


 それは、十中八九人質などのろくな役割ではないことは確かだ。


(それで、用ずみになって、捨てられた。もしくは、ユーカちゃん自身が魔力持ちで、自分で逃げ出したか?)


 これは、予想以上の収穫であり、嫌な情報だ。けれど、あの二人にこの事実を伝えないわけにもいかない。


「そう。話してくれて、ありがとう」

「(? ――――)」

「『どういたしまして』だそうです」


 こうして、収穫を得つつも、新たな問題が発生したお茶会は、無事に終わることとなった。
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