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第二章 訪問者
第三十三話 お茶会、の前の散歩(リドル視点)
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お茶会当日。メアリーに手を引かれて庭に連れて来られた両翼ちゃんは、どこか落ち着かない様子でキョロキョロしていた。
「どうしたのかしら?」
主に、岩の辺りを見ている様子の両翼ちゃんに、その辺りに何かあっただろうかと首をかしげる。
「……ユーカお嬢様。今日はきっと庭には居ませんよ」
「(――――)」
何かを知っているらしいララにそう諭されると、両翼ちゃんは途端にキョロキョロと辺りを観察するのを止めてしまう。ただ、それでも庭の植物が珍しいのか、時折立ち止まって、美しい花を観察したりしていた。
(散歩も良いかもしれないわね)
ずっと部屋に閉じ籠っている両翼ちゃんのために、散歩の時間を作ってやるのも良いかもしれないと思いながら、ワタシは両翼ちゃんが観察しているキラキラと光り輝く透明な花の説明をしてみることにする。
「それは、クリスタルフラワーよ。水晶のような見た目と、その硬質さからそんな名前がついてるの」
「(――――――)」
「『綺麗ですね』だそうです」
「ふふっ、そうよね。あぁ、後、ワタシに敬語は不要よ。友達として、仲良くしましょっ」
「(――――)」
「『うん』だそうです」
ララに通訳を頼みながら、ワタシはこの珍しい植物の説明を続ける。
「このクリスタルフラワーは、属性魔力を流し込むことによって、様々な色合いの種を生み出すのよ。例えば、そうね……これは、ちょうど種をつける頃合いの奴ね」
そこには、花ではなく、小さく丸い実をいくつもつけたクリスタルフラワーがあった。ワタシはそれに軽く触れると、土属性の魔力を流し込む。
「(――――!)」
「『色が変わったっ!』だそうです」
両翼ちゃんが言う通りに、クリスタルフラワーの実は、無色透明から茶色の透き通った色へと変化する。そして、その茶色が実の中心に集まったかと思いきや、パカリと小さな実が割れ、中の茶色の透き通った種だけが出てくる。
「この種からは、そっちにあるようなクリスタルフラワーが咲くわ」
そう言って、ワタシは奥にあるクリスタルフラワーを見せてあげる。そこには、茶色で透き通った色のクリスタルフラワーが、陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「(――――――――)」
「『すごいっ、ふぁんたじ』だそうです?」
「ふぁんたじ?」
何か分からない単語が出てきて、ララが読み間違えたのかと思って見ていると、両翼ちゃんは何やらララに説明をしている様子だった。そして……。
「『ふぁんたじー』ですか?」
「(――――)」
「そうですか。失礼しました。リドル様。先程のユーカお嬢様の言葉は、『すごいっ、ふぁんたじー』だったそうです」
どうやら、ほとんど読み間違えてはいなかったらしい。けれど、『ふぁんたじー』という単語の意味が分からない。
「『ふぁんたじー』ってどういう意味なのかしら?」
知らないことは聞いてしまえば良い。そう考えて尋ねてみたものの、説明が難しいのか、両翼ちゃんは何やら悩んでいる様子だった。
「あぁっ、難しいなら良いのよ。後で辞書で調べるから」
今日は何も、両翼ちゃんを悩ませるために企画したわけじゃない。楽しんでもらえているのならそれで良いのだ。
「(――――)」
「ユーカお嬢様が謝る必要はございません。浅学な私とリドル様が悪いのです」
頭を下げて、恐らく謝罪したのであろう両翼ちゃんに、ララはすかさずフォローをする。けれど、両翼ちゃんは納得していないのか、首を横に振る。
「(――――――――)」
「? それはどういう……? いえ、申し訳ございません。もうこの話はお仕舞いに致しましょう」
今回は何を言ったのかは分からないものの、再び頭を下げた両翼ちゃんは、どこかホッとしているように見えた。
「何を話していたのかは知らないけれど、とりあえず会場に行くわよ」
「(――――)」
「『うん』だそうです」
散歩はもうこの辺で良いだろうと切り上げて、ワタシ達はお茶会の会場へと向かう。
「(――――)」
「『わぁっ、すごい』だそうです」
「ふふっ、気に入ってもらえて何よりだわ」
そこは、薔薇が咲き誇る庭園の一角。真っ白なテーブルと椅子に、可愛らしい花柄のテーブルクロス。そして、そのテーブルの上にはドンとケーキスタンドが置かれ、色とりどりのケーキやサンドイッチが乗せられている。白磁のカップとソーサーも用意ずみ。魔力で作った手のひらサイズのシャボン玉が所々に浮かぶ幻想的なその場所を、両翼ちゃんは気に入ってくれたらしい。ワタシが見ても分かるほどに瞳を輝かせてキョロキョロと辺りを見渡していた。
(掴みはばっちりね)
両翼ちゃんの様子に気を良くしながら、ワタシは今度こそ両翼ちゃんと仲良くなるべく笑いかける。
「さぁ、座りましょう」
楽しいお茶会の始まりだった。
「どうしたのかしら?」
主に、岩の辺りを見ている様子の両翼ちゃんに、その辺りに何かあっただろうかと首をかしげる。
「……ユーカお嬢様。今日はきっと庭には居ませんよ」
「(――――)」
何かを知っているらしいララにそう諭されると、両翼ちゃんは途端にキョロキョロと辺りを観察するのを止めてしまう。ただ、それでも庭の植物が珍しいのか、時折立ち止まって、美しい花を観察したりしていた。
(散歩も良いかもしれないわね)
ずっと部屋に閉じ籠っている両翼ちゃんのために、散歩の時間を作ってやるのも良いかもしれないと思いながら、ワタシは両翼ちゃんが観察しているキラキラと光り輝く透明な花の説明をしてみることにする。
「それは、クリスタルフラワーよ。水晶のような見た目と、その硬質さからそんな名前がついてるの」
「(――――――)」
「『綺麗ですね』だそうです」
「ふふっ、そうよね。あぁ、後、ワタシに敬語は不要よ。友達として、仲良くしましょっ」
「(――――)」
「『うん』だそうです」
ララに通訳を頼みながら、ワタシはこの珍しい植物の説明を続ける。
「このクリスタルフラワーは、属性魔力を流し込むことによって、様々な色合いの種を生み出すのよ。例えば、そうね……これは、ちょうど種をつける頃合いの奴ね」
そこには、花ではなく、小さく丸い実をいくつもつけたクリスタルフラワーがあった。ワタシはそれに軽く触れると、土属性の魔力を流し込む。
「(――――!)」
「『色が変わったっ!』だそうです」
両翼ちゃんが言う通りに、クリスタルフラワーの実は、無色透明から茶色の透き通った色へと変化する。そして、その茶色が実の中心に集まったかと思いきや、パカリと小さな実が割れ、中の茶色の透き通った種だけが出てくる。
「この種からは、そっちにあるようなクリスタルフラワーが咲くわ」
そう言って、ワタシは奥にあるクリスタルフラワーを見せてあげる。そこには、茶色で透き通った色のクリスタルフラワーが、陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「(――――――――)」
「『すごいっ、ふぁんたじ』だそうです?」
「ふぁんたじ?」
何か分からない単語が出てきて、ララが読み間違えたのかと思って見ていると、両翼ちゃんは何やらララに説明をしている様子だった。そして……。
「『ふぁんたじー』ですか?」
「(――――)」
「そうですか。失礼しました。リドル様。先程のユーカお嬢様の言葉は、『すごいっ、ふぁんたじー』だったそうです」
どうやら、ほとんど読み間違えてはいなかったらしい。けれど、『ふぁんたじー』という単語の意味が分からない。
「『ふぁんたじー』ってどういう意味なのかしら?」
知らないことは聞いてしまえば良い。そう考えて尋ねてみたものの、説明が難しいのか、両翼ちゃんは何やら悩んでいる様子だった。
「あぁっ、難しいなら良いのよ。後で辞書で調べるから」
今日は何も、両翼ちゃんを悩ませるために企画したわけじゃない。楽しんでもらえているのならそれで良いのだ。
「(――――)」
「ユーカお嬢様が謝る必要はございません。浅学な私とリドル様が悪いのです」
頭を下げて、恐らく謝罪したのであろう両翼ちゃんに、ララはすかさずフォローをする。けれど、両翼ちゃんは納得していないのか、首を横に振る。
「(――――――――)」
「? それはどういう……? いえ、申し訳ございません。もうこの話はお仕舞いに致しましょう」
今回は何を言ったのかは分からないものの、再び頭を下げた両翼ちゃんは、どこかホッとしているように見えた。
「何を話していたのかは知らないけれど、とりあえず会場に行くわよ」
「(――――)」
「『うん』だそうです」
散歩はもうこの辺で良いだろうと切り上げて、ワタシ達はお茶会の会場へと向かう。
「(――――)」
「『わぁっ、すごい』だそうです」
「ふふっ、気に入ってもらえて何よりだわ」
そこは、薔薇が咲き誇る庭園の一角。真っ白なテーブルと椅子に、可愛らしい花柄のテーブルクロス。そして、そのテーブルの上にはドンとケーキスタンドが置かれ、色とりどりのケーキやサンドイッチが乗せられている。白磁のカップとソーサーも用意ずみ。魔力で作った手のひらサイズのシャボン玉が所々に浮かぶ幻想的なその場所を、両翼ちゃんは気に入ってくれたらしい。ワタシが見ても分かるほどに瞳を輝かせてキョロキョロと辺りを見渡していた。
(掴みはばっちりね)
両翼ちゃんの様子に気を良くしながら、ワタシは今度こそ両翼ちゃんと仲良くなるべく笑いかける。
「さぁ、座りましょう」
楽しいお茶会の始まりだった。
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