私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第一章 出会い

閑話 悶々とした時間(ジークフリート視点)

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 片翼の少女の元で猫姿となって現れた俺は、上手く変化できていないにもかかわらず、少女に受け入れてもらい、至福の時間を堪能していたのだけれど……今は、酷く困惑していた。


「ニャッ、ニャッ(待てっ、早まるなっ)」


 表情が変わらない片翼の少女は、無言のまま俺をベッドの中に巻き込む。


(不味いっ、さすがに共寝は不味いっ)


 とにかく少女の手から逃れようと弱々しく暴れてみるものの、離してくれる様子はない。あまり強く暴れて、万が一にでも怪我をさせてしまうわけにもいかないため、これ以上、俺にできることもなかった。

 そうしてどうしたものかと考えていると、いきなりギュッと抱き締められて、心臓が止まるかと思うほどに動揺する。


(抱き締められてる? 俺が? 片翼にっ!?)


 愛しい少女から漂ってくる甘い香りに、理性は焼き切れる寸前だ。


(い、いかんっ! 彼女は、俺を猫だと思ってるんだ。だからっ、だからっ、こんな……ぬおぉぉぉおっ)


 初めて与えられる片翼からの抱擁に、もはや冷静でなどいられない。衝動のまま叫び出したい気持ちに駆られるものの、ふと見れば、少女は穏やかな眠りに就いているのが見てとれた。


「ニャアッ(この衝動を、どうすればっ)」


 せめて、起こさないように腕の中から逃れようともがくも、中々にしっかりと抱き込まれているせいで全く抜け出せる気配がない。

 と、次の瞬間、少女が眉根を寄せたかと思いきや、さらに力強く抱き込まれる。


(ぬおぉぉぉぉおおっ!!?)


 強く香る甘い匂いに、もう、理性は陥落しそうだ。
 しかし、使い物にならないポンコツな頭でも、一つだけ分かることがあった。


(ララが俺の回収に来るはずだっ。それまでにはどうにかしておかなければっ)


 もう、柔らかな肌に接触しているというだけで何が何だが分からなくなりそうなほどに取り乱している俺は、この居心地が良すぎる場所からの脱出だけを考えて行動する。しかし……。


(ぬ、抜け出せないっ。あぁぁぁあっ、片翼が可愛過ぎてつらいぃぃいっ)


 普段無表情な片翼の少女は、楽しい夢でも見ているのか、ふにゃりと相好を崩す。その笑顔がダイレクトに心臓へ直撃し、俺は少女の腕の中でプルプル震えながら叫び声を必死に我慢する。と、そんな時だった。


「失礼します」


 ララが、この部屋に戻ってきたのは。


「……」

「……」


 酷く長い沈黙が、その場にもたらされる。お互いが無言で見つめ合うことしばし。そこに響くのは少女の小さな寝息のみで、何とも気まずい。


「……ニャア(……頼む、何か言ってくれ)」


 先に折れたのは、俺の方だった。


「……では、僭越ながら申し上げます。ユーカお嬢様の腕の中はどうですか? へんた……ご主人様」

「ニャ……ニャアッ!?(至福だ……って、今、変態と言おうとしなかったかっ!?)」

「気のせいです」


 しれっと答えるララだったが、十中八九、今の俺は変態認定されていることだろう。そのことに軽い絶望を覚えつつも、目の前に片翼の少女が居てくれるという事実にどうでも良くなってしまう。


「…………では、私はこれで失礼します」

「!? ニャッ(!? ま、待てっ)」


 酷く冷たい視線を浴びせられた後、なぜか何もせずに退出しようとするララを、俺は慌てて呼び止める。


「何か?」

「ニ、ニャアッ(こ、ここから出してくれっ)」


 絶対零度の冷たい声に、たじろぎながらもどうにか希望を告げると、ララはわけが分からないと言いたげに首をかしげる。


「そのままでよろしいのでは?」

「ニャッ、ニャアッ(よろしくないっ、主に、俺の心臓がもたないっ)」

「ですが、ユーカお嬢様の眠りを妨げることは致しかねます。ご主人様は、どうぞいけに……そのままでお願い致します」

「ニャアッ!? (今、生け贄って言おうとしなかったかっ!?)」

「はて、何のことでしょう? それと、お静かにお願い致します。そのように大声を出しておられると、ユーカお嬢様が目覚めてしまわれます」

「ニ、ニャア? (す、すまない?)」


 どことなく釈然としないものを感じながら素直に謝ると、今度こそララは一礼して部屋を出ていきそうになる。


「ニャッ。フニャアァァァアッ!? (ま、待て。って、ぬおぉぉぉおっ!?)」


 必死になってララを引き留めようとすると、俺は柔らかな感触を頬に感じて大混乱に陥る。


「ニャッニャアァッ(何がっ、何がぁぁっ)」

「頬擦りされておりますね」

「フニャアァァアッ(ぬおぉぉぉおっ)」


 小さな声で叫ぶ俺は、もう、何が起こっているのかすら理解できない。


「では、失礼します」


 そうして、無情にもララは部屋を出ていき、取り残された俺は、朝まで悶々とした時間を過ごした。それから、ようやく、少しだけ眠ることができたかと思いきや、変化が解けた状態で、目覚めた片翼の少女を前にするはめになるのだった。
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