私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第一章 出会い

第十九話 敵地

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(……夢じゃ、なかった)


 昨夜、鎖で繋がれていることに気づいてパニックになった私は、また、朝に目が覚めて、それが夢ではなかったことを実感する。ジャラリと音を立て、鈍い光を反射する枷は、きっと昨夜からそこに存在したのだろう。


(うぅ……どうしよう)


 今は暗闇ではない分、少しだけ落ち着きを取り戻しているものの、まだ怖いことに変わりはなかった。むしろ、メアリー達が来た後もまだ繋がれているということは、メアリー達がこの事態を黙認していると確定している。


(味方は、居ない)


 どう考えても、この異常事態を前に庇ってくれるような人は居ない。


「ユーカお嬢様、お目覚めですか?」

「(っ!? メアリー!?)」


 どうしようもない状況に、涙がにじみそうになった直後、いつの間にそこに居たのか、メアリーがベッドのすぐ側に佇んで声をかけてくる。

 取り繕うこともできないまま、ビクリと視線をメアリーの方向へ向けると、メアリーのその表情は随分とやつれたように見えた。


(……? 何で、メアリーがそんな顔をしてるの?)


 やつれて、悲しみに満ちた表情。それを前に、メアリーを警戒しなければいけないという思考は、一時的に吹き飛び、不安の方が表に出る。


「おはようございます。ユーカお嬢様」


 なぜか、無理矢理作った笑みを浮かべるメアリー。何が何だか分からないものの、聞かないわけにもいかなかった。


「(何で、鎖……?)」


 聞くのは怖い。けれど、聞かないままに何かが起こるのはもっと怖い。
 私の問いかけを正確に読み取ったであろうメアリーは、一瞬の躊躇いの後、意を決した様子で口を開く。


「ハミルトン様のご意向です。両翼であるユーカ様に逃げられないようにするための」

(ハミルトン様って、昨日会った人? 『りょうよく』って何?)


 問いかけたは良いものの、その答えの意味が良く分からない。ここは、掘り下げて聞くべきところだろう。


「(『りょうよく』って何?)」


 声が出ていたら震えていただろう状態で問いを重ねると、メアリーは気遣わしげに私を見ながらすぐに答える。


「ユーカお嬢様は、ジークフリート様とハミルトン様の片翼です。二人の魔族に片翼として認識される者のことを両翼と呼びます」

(『かたよく』『りょうよく』……もしかして、『片翼』と『両翼』って漢字変換になるのかな? でも、やっぱり意味が分からない)


 私は分からない言葉ばかりに頭を悩ませるものの、メアリーはそれでこの話は終わったとばかりに、話題を変えてしまう。


「その、申し上げにくいことではございますが……本日もジークフリート様の訪れが予定されております。申し訳ございません」


 グッと頭を下げるメアリーに、私は何を謝られているのかすら分からない。そして、それを問いかけようにも、メアリーは私の方を見ていないため、唇を読んではもらえない。


「すぐに、朝食をお持ちいたします」

「(あの……)」


 伏し目がちなメアリーは、やはり私の声なき声に気づくことはなく、さっさと退出してしまう。

 『鎖、ハミルトン様、両翼、訪れ』、どれもこれも、理解できないことばかりだ。ただ一つ分かることは……。


(多分、この鎖はメアリーの本意じゃなさそう?)


 終始つらそうな、申し訳なさそうな顔をしていたメアリーを見ていれば、そのくらいの予想はつく。問題は、なぜ私が逃げられないようにする必要があったのかということだ。

 昨夜に比べれば幾分か冷静さを取り戻した私は、必死に今までのことを振り返る。


(どう考えても、ネックは片翼って言葉、だよね)


 思えば、ここに置いてもらえる理由が『片翼』だからで、鎖で繋がれているのも片翼だからなのだ。これは真剣に、『片翼』という言葉の意味を調べなければならないだろう。


(でも、聞いて答えてくれるのかな?)


 今まで何度か聞いてきた『片翼』。けれど、メアリーは頑なにその言葉の意味を説明しようとしなかった。説明しにくいことなのか、説明を禁じられていることなのかは分からないものの、それらの可能性は大いにある。


(なら、やっぱり文字を読めるようにならないと……あぁっ、でも、今、鎖で繋がれてるんだった! 図書室に行けないっ)


 文字を読めるようになりさえすれば、こっそり調べることも可能かと考えた私は、すぐに大きな問題にぶち当たる。どんなに引っ張っても壊れてくれない鎖。それに繋がれている現状、自由に図書室へ行けるとは思えなかった。


(本を持ってきてもらう? でも、誰が敵で誰が味方かも分からない)


 敵であってほしくはないものの、それを判断する材料などどこにもない。メアリーですら、申し訳ないと思っていたとしても、今は敵である可能性が高いのだから。


(…………味方を増やすしかない? でも、どうやって……)


 どう考えてもここは敵地だ。鎖で繋いで、逃げられないようにして……。何が目的かは分からないものの、こんなことをする相手にろくな奴はいないだろう。


(うぅ、やっぱり、怖いよ……)


 少しは冷静に判断できていると思った私だったけれど、状況を整理すれば整理するほど恐怖が増していく。


(何、されるの? 痛いのは、苦しいのは、やだよぉ)


 本当は、もっと『片翼』に関して推理する必要がある。もっと冷静に対処する必要がある。けれど、それをするだけの心の強さは持ち合わせていなかった。

 ポロポロと零れ落ちる涙を、ただただ手の甲に落とし続けるしかなかった。
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