私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第一章 出会い

第十八話 鎖

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「(う……んん……)」


 また夢だ。怖い、怖い夢。私の心を蝕み続ける悪夢。

 ハミルトン様に出会った翌日、私はいつものように悪夢によって叩き起こされる。正直、しっかり眠れた気がしないものの、夢の操作なんてできないのだから仕方がない。
 ボーッとうっすら見える天葢を見つめて、悪夢の余韻から徐々に意識を覚ましていく。


(早く、働けるようにならないと、な……)


 きっと、悪夢を見るのは、今がただただ厚意によって養ってもらっているという環境だから、というのもあると思うのだ。まだ成人はしていないとはいえ、働ける年齢。高校卒業前の十八歳。さすがに、見ず知らずの人達にお世話になり続けるのは心苦しい。どこか、地に足がついていないようで、怖い。そんな漠然とした不安が、余計な記憶を呼び起こして、夢に登場させてしまうのだろう。


(まだ、暗い……夜中、かな?)


 さすがに夜中にメアリー達を呼ぼうとは思わない。どんなに汗だくでも、多少は我慢すべきだ。


(暗いの、やだな)


 何もかもを飲み込むような深い闇に閉ざされた部屋。それは、暗い押し入れに閉じ込められた記憶を容易く呼び起こし、震えを誘発する。

 ジャラッ。


(えっ?)


 震えを抑えようと、無意識に体を抱き締めるべく腕を動かすと、何か、耳慣れない音が聞こえた。

 ジャラ、ジャララ。

 暗闇の中、腕を何度も動かせば、それはしっかりと音を出してくる。それに……。


(腕が、重い……?)


 それは、そう。枷でもつけられたかのような重さ……。そう、考えた瞬間、私はガバリと体を起こす。
 腕を、足を動かせば、確かにジャラジャラという音が聞こえる。それに、手で触れてみると、確かに金属の鎖が腕や足を繋いでいることが分かる。


(な……に? どういう、こと……?)


 何が原因で、鎖に繋がれているのか、全く分からない。初めての経験にパニックになりかける心を、私は必死に宥める。


(落ち着こうっ。落ち着こう。私、昨日は何してた?)


 記憶の中に何か手がかりがあればと思って思い返すものの、変わったことといえば、ハミルトン様に会ったことくらいしかない。後は、文字の勉強をして、昼食も夕食もしっかり摂って、お風呂に入って眠った記憶しかない。


(気を、抜き過ぎてた?)


 助けてくれたから、優しくしてくれたから、ここに居る人達は悪い人じゃないんだと思っていた。でも、それが間違いだったのなら? 何かが原因で、今まで手を出さなかっただけだとしたら?


(逃げ、なくちゃ)


 咄嗟に考えたのは、この場所からの逃亡。けれど、それには大きな問題がある。


(どうやって? どこに?)


 鎖はそれなりに長いサイズではあるらしく、もしかしたらこの部屋の中を歩き回る分には苦労しないかもしれない。けれど、とても頑丈そうで、鎖を解くことができるとは思えない。それに、例え逃げられたとしても、どこに行けば良いのかなんて全く分からない。この世界のことなんてほとんど知らない私が、あんな狼が襲ってくるような環境で生きられるとは到底思えなかった。


(どうしてっ、どうしようっ)


 あまりに絶望的な状況にパニックを起こした私は、とにかくベッドから抜け出して、ジャラジャラと音を立てながら廊下に通じる扉の前まで来る。


(うぅっ、開かない。開かないよぉっ)


 扉は、この前確認した時と同様に、施錠されていた。どんなにノブをガチャガチャと動かしても扉が開く気配はない。


(窓、は?)


 それならばと、私は窓の方へと駆け寄る。けれど……。


(っ、やっぱり、少ししか開かないっ)


 拘束されて、閉じ込められた。さすがに異常事態過ぎて、私はどうしたら良いのか全く分からないままにヘタリ込む。


(何で、こんなことに?)


 理由の分からない監禁。それは、私の恐怖を煽るのに十分だった。


「(いやっ、いやぁっ!)」


 押し入れに閉じ込められた記憶が、まざまざと思い起こさせられる。心細くて、寒くて、怖くて、心が押し潰されるような記憶が、フラッシュバックする。


「(やだっ、やだっ)」


 とにかくここから出たい。その思いだけで、私は近くの窓を激しく叩き始める。


「(出してっ、出してっ! お願いっ、やだっ!)」


 鎖も使って割ることができないか試してみるものの、どうやら随分と頑丈なガラスらしく、けたたましい音は立てても、割れることは一切ない。


「(やぁっ、やぁぁぁぁあっ)」


 泣きながら、パニックになりなから、私は必死に叩き続ける。手が痛むのも気にせずに、ずっと、ずっと。


「ユーカお嬢様!? 入りますよっ!」


 どれくらい叩き続けただろうか。一番出られる可能性がありそうだった窓がびくともしないことに、心が折れそうになっていると、ふいに扉の外が慌ただしくなる。


(メアリー?)


 あまりの恐怖にまともに考える力は残っていなかったものの、辛うじてその声の主がメアリーであることだけ分かる。


「ユーカお嬢様っ!」


 暗がりの中、ランプを持って現れたメアリー達を見て、私は恐怖を増長させる。


「っ、《光よ》っ」


 そのメアリーの言葉とともに、なぜか室内が明るくなり、昼間のようになった。けれど……。


「(やだっ、やだぁっ)」


 ランプをサイドテーブルに置いて側に寄ってきたメアリーから、私は必死に距離を取る。ただ、震えるばかりでまともに動けない状態の私ではすぐに捕まってしまう。


「まぁ……手を、こんなに真っ赤にして……」


 えぐえぐと泣き、怯える私を見て、メアリーは真っ先に手の怪我に気づく。


「リリはハミルトン様に、ララはご主人様に報告を」

「「はい」」


 震えが止まらない私を、メアリーは優しく抱き締めてそっと呟く。


「《治癒》」


 その言葉の直後に、私の両手は淡い光に包まれて、痛みが引いていく。けれど、暗闇と閉じ込められたという記憶に怯える私は、それどころじゃない。今、目の前に居るメアリーだって、敵かもしれないのだ。


「ユーカお嬢様……」


 メアリー達は、その後、色々と話しかけてくれたように思う。けれど、私はそれを聞くだけの力もなくて、恐怖に怯えるばかりで……いつしか、私は、恐怖のあまり、ゆっくりと意識を失っていた。
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