私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第一章 出会い

第九話 本と勉強

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 許可が取れたというメアリーの言葉に、私はとにかくホッとした。許可があれば出してもらえるということは、これは監禁ではないだろうと思えたからだ。


(きっと、間違えて鍵をかけちゃったとか、窓はただただ建て付けが悪いだけとかだよね)


 早とちりで騒がなくて良かったと安心した私は、メアリーとララさんの案内で図書室へと向かう。向かう、のだけれど……。


(ひ、広い……)


 扉を開けた先にあったのは長い廊下で、私が居た部屋以外にもいくつもの部屋が点在している。


(ホテル、とか?)


 あまりの広さに、私はここが何らかの宿泊施設だろうかとも考えたけれど、それにしては扉に番号が振ってあるわけでもない。木製の扉はどこも似たりよったりで、メアリー達が居なければ元の場所に戻れる自信なんてなかった。


(ホテルじゃないとしたら、何だろう? お城、とか?)


 所々に置かれている調度品らしき壺を見て、私はお姫様が暮らすお城をイメージする。図書室があるというのも、お城だったらあり得る。


(まさか、ね?)


 まさか、お城なわけがない。きっと、何らかの施設に違いない。

 無言で黙々と案内をするメアリー達にしっかり着いていく私は、自分が場違いな場所に居るような気分に襲われながらもその扉の前まで辿り着く。


「さぁ、着きましたよ。ここが、マリノア城自慢の図書室でございます」


 キィッと扉が開かれる音を聞いた直後のその説明を、私はすでに聞いていなかった。扉の奥にあったのは、天井までびっしりと納められた本の数々。あまりの高さにどうやって取るのかを想像したら怖くなりそうだったけれど、それだけの数の本がズラリと並ぶ様子に、期待が高まる。


(こんなにたくさんの、本が読めるなんてっ)


 フラフラと本の匂いに誘われるままに扉を潜り抜けると、そこにある本達は読んでくれとばかりに輝いて見える。けれど、そこまで来て、私は絶望を知ることとなった。


(……文字が、読めないっ)


 そう、せっかくの本によるお招きに応えたは良かったものの、そこにある本の文字を、私はちっとも知らなかった。日本語でも英語でもない未知の言語。ミミズがのたくったようにしか見えないその文字達に、私は泣きたくなる。


「ど、どうなさいましたか? ユーカお嬢様?」


 顔を歪めたのを見咎めたメアリーに質問され、私はフルフルと首を横に振る。


「(文字、読めなかっただけだから……)」


 この程度で泣いてはいけない。そう思って、目をギュッと瞑って涙腺を抑えてみせる。


「あぁ、そうでございましたか。では、わたくしどもがお教えいたしましょうか?」


 その素晴らしい提案に、私は一も二もなく飛び付いた。








「これは、恋愛と読みます」

「(恋愛……)」

「こちらは、愛しいと読みます」

「(愛しい、ね。……メアリー、この本って恋愛もの?)」

「えぇ、そうでございますよ」


 私は今、メアリーが選んできた本を参考に、文字の勉強をしていた。この世界には絵本というものは存在していないらしく、文字を教える教本もほとんどないのだそうだ。そして、すぐには教本を見つけられないとのことから、短めの本を選んで勉強していた。ただ、メアリーが選んで教える言葉が、やたらと恋愛に関係するものばかりであることは少し気になったけれど……。


「メアリー、そろそろ休憩を入れるべきです」

「あら? もうそんな時間でしたか?」


 ララさんの指摘に、メアリーはきょとんとして図書室の壁の一部を見る。そこには、壁掛け時計らしきものがあったものの、ちょっと遠すぎてどんな表示になっているのかは読み取れない。


「まぁまぁっ、もうこんな時間っ! ユーカお嬢様、申し訳ありません。こんなに長い時間を使ってしまって……」

「(えっ? いや、私は、文字の勉強ができて嬉しかったよ?)」


 申し訳なさそうにするメアリー。ただ、私はそれが悪いことだとはちっとも思っていなかったし、むしろメアリーやララさんに迷惑をかけたのではないかとヒヤヒヤしてしまう。


「(あの……たくさん、時間を使って教えてくれて、ありがとう。でも……迷惑じゃなかった?)」


 メアリーやララさんには私と違って仕事があるはずだ。専属侍女とは言っていたものの、私にずっと付き従うことが仕事というわけではあるまい。


「迷惑などっ、そのようなことはございませんっ。むしろ、せっかくの気分転換の機会を勉強で丸ごと潰してしまい、申し訳ありません。このお詫びは、ぜひ、この鞭にてっ」

(うん、どこにそんなもの隠し持ってたのかな? というか、何で鞭っ!?)


 一瞬の現実逃避の直後私は出ない声を精一杯張り上げるつもりで叫ぶ。


「(使わないっ! 使わないからぁっ!)」


 この場所には鞭で叩かれることを前提とした侍女しか居ないと言われたら、私は絶望しそうだ。不思議そうに私を見るメアリーに、私は必死に説得を続けるはめになるのだった。
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