俺の番が最凶過ぎるっ

第二章 復活と変化

第四十六話 転転と巡る１

（ん……ここ、は……？）


　深海のように深く、暗く、青みがかったその場所で、シグルドはただ一人、揺蕩う。
　シグルドの最後の記憶は、ルカの痛みを引き受けて悶え苦しみ、意識を失ったところだ。ただし……。


（最後、誰かが、来ていたような……？）


　揺蕩うシグルドに、今、痛みは存在しない。ここが死後に見る世界なのか、それとも、ただ夢を見ているのか、それは判断できないものの、シグルドには、死後だろうが夢だろうが、優先すべきものがある。


「ルカ……」

『あ、良かったぁ。意識が回復してきたねぇ』


　その声は、シグルド自身、覚えのあるものだった。特徴的な間延びした口調などは、そうそう忘れられるものではない。しかし……。


「誰、だ……？」

『うん、今は、ルカさんのことだけを考えていてねぇ。今から、君にはルカさんを救ってもらうからぁ』

「ルカを、救う……？　っ、ルカはっ、ルカはどう『じゃあ、行ってらっしゃーい』うぉっ」


　突如として、目の前に現れた渦。シグルドは、それに対した抵抗をすることもできないままに、一気に呑まれる。そして……。


「……？　ここは、下界、か？」


　シグルドに限らず、神々が下界と呼ぶのは、神々が管理する世界のこと。その公園で、黒目黒髪の小さな子供達が、やはり黒目黒髪の親らしき人物達に見守られて遊んでいた。


「え……？」


　そして、その中には、楽しそうに笑う、小さなルカが居た。シグルドが知るルカの瞳は藍色だが、ここでのルカは黒目。それでも、シグルドがルカを間違えることなどない。


「ルカっ！」


　ルカの元へ駆け寄ろうとした瞬間、その場はサッと暗闇に包まれ、場面が変わる。
　今度は、少し成長して、ちょうど、瞳の色以外は変わらない成長を遂げたルカの姿があった。黒い学生服に身を包み、友達と楽しそうに話すルカ。会話内容は聞こえてこないが、そこに映るルカは、幸せそうだ。


「これは、まさか……」


　そして、また、暗闇に包まれ、場面が変わる。
　そこで、ルカはずぶ濡れな捨て犬を、コートの内側に入れて雨から守りながら走っているところだった。


「っ、これはっ、神気！？　っ、ダメだっ、ルカ！　そっちは危険だ！！」


　そこで、シグルドが感知したのは、下界には滅多に現れないはずの神気。神々の干渉がなされる時に発生するそれは、本来ならば、ごく微弱にしか発生させないはずだ。しかし、シグルドが感じたのは、あまりにも大きな神気。そして……ルカは、その神気によって、下界から、消失した。