俺の番が最凶過ぎるっ

星宮歌

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第二章 復活と変化

第三十五話 甘い果物

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 『淫獄』は、ルカがかつて囚われていた悪神の巣窟。それも、淫の神がリーダーとなっている組織。そんな場所に囚われていたルカが、どんな目に遭ってきたのかなど、想像に難くない。


「ルカ。大丈夫だ。俺がずっと、ルカの側に居るから。だから、大丈夫だ」

「……バカじゃないの?」


 シグルドの励ましに、ルカは言葉でこそ否定をするものの、ルカ自身はシグルドを抱き締める腕に力を込めて、シグルドの胸板に顔を完全に埋める。


「そうだ。ジュライアが、お見舞いにと果物を持ってきてくれたんだ。一緒に食べないか?」


 怯えるルカに、少しでも気晴らしをしてほしい。そんな気持ちからだろうか。シグルドは、無理矢理明るく振る舞って、そんな提案をする。


「ん……食べる」

「そうか、なら、リビングへ行こう。色々と持ってきてくれたから、ルカが好きなものを食べような」


 今、ルカに必要なのは休息だ。神王に頼まれて敵を撃退しなければならないのかもしれないし、ルカ自身が王の神格を宿したことによって、襲ってくる奴も居る。そして、『淫獄』との関係もまだ切れてはいない。問題は山積みではあったが、それでも、魂が傷つき、弱っているルカをこれ以上追い詰めることを、シグルドは良しとしなかった。
 シグルドに手を引かれて大人しくついていくルカは、ジュライアが持ってきたという果物を前に、桃を選ぶ。


「あぁ、確かにいい匂いだな。よしっ、俺が剥こう!」

「……お前は、これを剥けるの?」

「……初めて見るものだが、何とかなるだろう」


 神は、基本的に娯楽か薬効を求めるか以外での食事は行わない。そして、ルカの前にある果物は全て、それなりの薬効が期待できるものとして持ってこられたものだ。ただ、そんな風に普段から食事とは縁遠いため、果物さえも剥く機会がない神が多いのも確かだ。


「僕が剥く。何か、お前が剥いたら酷いことになりそう」

「なっ、そ、そんなことは……」


 言いながら、ないとは言い切れない自分に気づいたらしいシグルドの言葉は尻すぼみになる。


「僕は、こういうのは慣れてるから。なんだったら、教えるし」

「ルカが、俺に……?」


 そして、ルカの言葉に何を思ったか、嬉しそうに耳を立てて、尻尾をフリフリするシグルド。


「そうかっ、これが、夫婦共同作業というやつだなっ!」

「……違うと思うけど……そう思いたいならそれでも良いよ」

「おうっ!」


 呆れたようなルカの様子に、シグルドはそれでも嬉しそうに応える。

 もらった果物の中に、桃は二つ。皿に載ったのは、綺麗に剥けた桃と、かなり歪な形の桃。それを前にしたシグルドは、最初の意気込みはどこへやら、耳も尻尾も垂れ下がり、完全に落ち込んでいたのだった。
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