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第二章 本当の心

第四十六話 とある少女と魅了魔法(二)

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 魔族は諜報活動に長けていると、世間では良く言われているが、それは片翼を捜すために自然と身に付く技術でしかない。
 そして、アリアナはまだ、片翼への憧れはあるものの、そうした調査を自らの手で行えるほどには精神的にも身体的にも成熟していなかった。いや、恐らくは、たとえ成熟していたとしても、調査は難航しただろう。
 アリアナの片翼は、とある国の王族だったのだから。


「ねぇ、あなた、片翼を嫉妬させてみたくはなぁい?」


 片翼との出会いから数日。調査はできず、片翼の情報が何も得られない苛立ちを抱えながら、外を歩いていた時に不意にかけられた女性の声。
 内容はあまりにも不穏で、警戒心を顕にしたアリアナだったが、次の言葉で、その気持ちも揺らいでしまう。


「この前のこと、見てたけど、きっと、あなたの片翼は、あなたを片翼だと認めることが照れ臭かったのよ」

「照れ臭かった……? じゃあ、あんな風に睨んできたのも、それのせい?」


 様々な要因が重なった結果、アリアナには、その女性の言葉が真実であるように思えた。実際、片翼に嫌われたと思うよりは、照れていただけだと思える方が精神衛生上にも良かったのだろう。

 これが、アリアナと魅了の魔女の出会いだった。

 そもそも、アリアナが騎士達に捕まらずに済んだのは、この魅了の魔女が手を回した結果だったりもするのだが、アリアナがそれを知ることは永遠になかった。

 魅了の魔女との出会いから数年後、ようやく魅了魔法を自在に扱えるようになった頃。
 アリアナはロレーヌとその片翼に出会いロレーヌのその幸せそうな姿に嫉妬した。そして、ロレーヌの片翼が、どこかアリアナ自身の片翼を思わせる姿だったことも相まって、アリアナは初めて、他人の片翼を奪うという暴挙に出る。
 ロレーヌの周囲に居た魔族へは、何となくアリアナ自身を好意的に見てしまう程度の魅了魔法を振り撒き、ロレーヌを孤立させて、ロレーヌの片翼を奪い取る。その目論見は上手くいき、貴族だったロレーヌは平民として生きることとなった。

 ただ、そんなことをしても、今、自分の隣に居るのは片翼ではない。もしかしたら、どこかで自分の片翼が見ていて、嫉妬してくれているのかもしれないが、それを確認する手段もない。

 そんなモヤモヤとした思いを抱えている時に知らされたのが、平民となったロレーヌが、どこかの学院で友人と仲良くしているという情報。そして、その友人の家族が、今、ロレーヌの片翼が在籍している学院に入学しているという情報。
 その情報を元に、アリアナはモヤモヤとした気持ちを晴らすためだけに、ロレーヌを追い詰めることにした。
 ロレーヌの友人の家族を魅了して、ロレーヌを再び孤立させる。それだけを目的に動いて、結果、恐ろしく残酷な処罰を受けることとなったのだった。
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