上 下
37 / 49
第二章 本当の心

第三十七話 報告書

しおりを挟む
 その日の夜、私は中々来ない報告に『もう今日は無理かな』と諦めかけていた。
 本来なら、今すぐにでも情報が欲しい。しかし、こういった調査に時間がかかることもよくよく理解していた。

 窓の外を恨めしく見続けるのを止めて、明日に備えてベッドへ向かおうとしたところで、コツンと窓の方から音がした。
 ハッと振り向けば、窓の外には、緊急連絡用の真っ白な伝書魔鳩でんしょまばとが居た。

 この魔鳩は、自分で身体の色を変えることができ、飛んでいる最中は周囲の景色に同化する色へ変わり、届け先へ辿り着くとその身体の色を目立つ色合いへと変えるよう訓練されている。
 夜の帳が下りた時間。真っ白な伝書魔鳩はとても目立っていた。

 すぐに窓を開けて伝書魔鳩を招き入れると、その足に括られている手紙を取り外して読む。


「なっ……」


 そして、書かれていた内容に、私は絶句した。


「どうして、王家が……」


『調査は王家も協力するとのこと』


 その一文は、あまりにも大きかった。ただ、そうなると、私自身の懸念が現実味を帯びてきているということでもある。


「王家はやっぱり、魅了を疑ってる……?」


 恐らく、ロレーヌの家は『魅了』について知らない家なのだろう。もし知っていたのであれば、ロレーヌの身に起きた出来事は魅了を疑ってもおかしくはないのだから。
 私のロットール家は、家格の高くない新興貴族の部類には入るものの、過去に色々とあったらしく、知らされる情報そのものは上級貴族のそれと変わらない。そのため、私も運良く『魅了』の魔法の存在を知っていたのだ。

 報告書を詳しく読み進めると、その女性の調査そのものは、私が調査を依頼する少し前から行われていたらしい。ただ、その女性はロレーヌから片翼を奪って以降、特に魅了の力を使うような素振りが見られず、本当に魅了の力を有しているのかどうか怪しいという状態だったらしい。


「……ロレーヌの懸念も、当たっちゃったわけね」


 ただ、その状況は、ロレーヌに私という友だちが出来たことで動いた。
 ロレーヌに対してどんな感情を抱いているのか定かではないものの、ロレーヌに嫌がらせをするためだけに、私の弟であるケインに接触した可能性が高いとのことで、高確率でケインは魅了魔法にかかっているとまである。そして、最後に……。


「登城、かぁ……」


 近々、登城の命令が私とケイン、ロレーヌの三人に下されるだろうという内容、そして、読み終えたらこの報告書は燃やすようにとの言葉で締め括られていた。


「……………………よし、寝よう」


 寝る前に考えるような内容ではないと判断して、私はさっさと報告書を燃やし、伝書魔鳩に餌をあげて受け取りのサインとなるリボンを足に括り付けてから、自由なタイミングで飛び立てるように窓を少し開いたままベッドへダイブした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

冤罪で敵国へ追放されたドワーフの姫ですが、多忙なハイエルフ王の癒し妻になりました

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
ドワーフの姫ヴェルデは“とある罪”により、十年の時を地下牢獄で過ごしていた。ようやく地上に出ることができたのも束の間、彼女を待ち受けていたのは、仇敵であるエルフの国への追放だった。 「私の居場所なんてどこにもないのね」 不安と恐怖に押し潰されそうになりながらも、エルフの国に辿り着いたヴェルデ。 「どうしてこうなったの……」 なぜか自分は全裸でエルフ王のベッドの中に居た。 しかも寝起きでエルフ王とご対面。これは処刑エンド待ったなし? 困惑しつつも自分にできることをこなしていると、エルフ王の様子がおかしくなってきて……?

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

処理中です...