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第二章 本当の心
第三十話 ロレーヌという少女(三)
しおりを挟む こんな話を受けて、どう反応するのが正解なのかは分からない。ただ、もしも私が、誰かにそうした誤解を受けたとしたら……。
「っ……」
ズキリと、胸が痛み、意図せずして涙が溢れる。
「っ、ミオ!? ご、ごめん。やっぱり、私は一人の方が「いいえ! 違うの!」」
どうして、片翼を感知できないはずの私が、こんなにも感情移入してしまうのかは分からない。どうして、この時、大切な家族であるケインを思い浮かべてしまったのか分からない。
きっと、この想いはまやかしなのに、涙が出るほどにロレーヌの想いに共感してしまうのは、私の意思が弱いからかもしれない。
「違うの、ただ、ロレーヌが、そんな思いをしたんだと考えると、涙が出てしまって……」
「……私が、薬を使ったとは思わないの?」
「出会って間もないけど、ロレーヌのその涙は本物だと思うから」
そう応えると、ロレーヌはキョトンとした表情を浮かべて、頬に手を当てる。
どうやら、ロレーヌ自身も気付いていなかったようだが、ロレーヌは、静かに涙を流していた。
「そっか……そっかぁ……」
魔族は、愛情深い種族だ。ロレーヌの話を聞く限り、きっと、ロレーヌ自身の家族は、ロレーヌを庇ったのだろう。しかし、それでも、リアン魔国から外に出せるほどの力がなかったために、ロレーヌを知る魔族がこの学院にも居るということなのではないだろうか。
「お父様とお母様は、私を庇ってくれて、しばらくは遠くの土地で療養という名目で休んだら良いっていってくれたの。でも、私の家はあまり裕福じゃなくて、迷惑はかけられなくて、特待生としてこの学院に入学できれば、授業料とか、色々と免除してもらえるから……」
そういう過程で、どうにか入学したロレーヌ。平民だと名乗ったのは、実際に、ロレーヌ自身が父親に勘当を願い出て、渋々ながらでも承諾してもらったからだとのこと。
「ロレーヌは、真相を明かそうと思ってるの?」
貴族であれば、柵があって動けなかったのかもしれないという予測をして、そう問いかけるものの、ロレーヌは首を横に振る。
「最初は、それも考えたよ。でも、そうしようと動けば動くほど、彼は私を突き放して、酷い言葉を投げつけるの」
ポタポタと零れ落ちる涙を、ロレーヌは拭うこともなく、ただただ、その当時のことを話す。
「もう、耐えられなくて、私は、逃げたの。臆病かもしれないけど、もう、これ以上は……」
愛する人に拒絶される恐怖から逃げることの、どこが臆病なのか、私には分からない。ただ、一つ分かるのは、ロレーヌが深く深く傷付いて、その決断を下したことだけだ。
「……分かった。ロレーヌ、私にできることがどれだけあるかは分からないし、今は向き合う必要もないと思う。だから、ひとまずはこの学院で楽しく過ごそう。私達の時間は長いんだから」
そう言いながらも、私は、久々に前世の声を聞いていた。
『魅了……』
どの国でも使用を禁じられ、その力を持つ者が現れれば、国が管理する存在。しかも、国の上層部に位置する貴族家にしか知らされることのない力。
まさかと思いながらも、私は、密かに調査することを決意した。
「っ……」
ズキリと、胸が痛み、意図せずして涙が溢れる。
「っ、ミオ!? ご、ごめん。やっぱり、私は一人の方が「いいえ! 違うの!」」
どうして、片翼を感知できないはずの私が、こんなにも感情移入してしまうのかは分からない。どうして、この時、大切な家族であるケインを思い浮かべてしまったのか分からない。
きっと、この想いはまやかしなのに、涙が出るほどにロレーヌの想いに共感してしまうのは、私の意思が弱いからかもしれない。
「違うの、ただ、ロレーヌが、そんな思いをしたんだと考えると、涙が出てしまって……」
「……私が、薬を使ったとは思わないの?」
「出会って間もないけど、ロレーヌのその涙は本物だと思うから」
そう応えると、ロレーヌはキョトンとした表情を浮かべて、頬に手を当てる。
どうやら、ロレーヌ自身も気付いていなかったようだが、ロレーヌは、静かに涙を流していた。
「そっか……そっかぁ……」
魔族は、愛情深い種族だ。ロレーヌの話を聞く限り、きっと、ロレーヌ自身の家族は、ロレーヌを庇ったのだろう。しかし、それでも、リアン魔国から外に出せるほどの力がなかったために、ロレーヌを知る魔族がこの学院にも居るということなのではないだろうか。
「お父様とお母様は、私を庇ってくれて、しばらくは遠くの土地で療養という名目で休んだら良いっていってくれたの。でも、私の家はあまり裕福じゃなくて、迷惑はかけられなくて、特待生としてこの学院に入学できれば、授業料とか、色々と免除してもらえるから……」
そういう過程で、どうにか入学したロレーヌ。平民だと名乗ったのは、実際に、ロレーヌ自身が父親に勘当を願い出て、渋々ながらでも承諾してもらったからだとのこと。
「ロレーヌは、真相を明かそうと思ってるの?」
貴族であれば、柵があって動けなかったのかもしれないという予測をして、そう問いかけるものの、ロレーヌは首を横に振る。
「最初は、それも考えたよ。でも、そうしようと動けば動くほど、彼は私を突き放して、酷い言葉を投げつけるの」
ポタポタと零れ落ちる涙を、ロレーヌは拭うこともなく、ただただ、その当時のことを話す。
「もう、耐えられなくて、私は、逃げたの。臆病かもしれないけど、もう、これ以上は……」
愛する人に拒絶される恐怖から逃げることの、どこが臆病なのか、私には分からない。ただ、一つ分かるのは、ロレーヌが深く深く傷付いて、その決断を下したことだけだ。
「……分かった。ロレーヌ、私にできることがどれだけあるかは分からないし、今は向き合う必要もないと思う。だから、ひとまずはこの学院で楽しく過ごそう。私達の時間は長いんだから」
そう言いながらも、私は、久々に前世の声を聞いていた。
『魅了……』
どの国でも使用を禁じられ、その力を持つ者が現れれば、国が管理する存在。しかも、国の上層部に位置する貴族家にしか知らされることのない力。
まさかと思いながらも、私は、密かに調査することを決意した。
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