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第二章 本当の心
第二十九話 ロレーヌという少女(二)
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現実逃避のための時間稼ぎは、案外、すぐに破綻してしまった。
お昼の休憩時間って、長いのね……。
ここスイーツ学院は、様々なお菓子作りを授業で行う。当然、完成したお菓子は、生徒たちが食べることになるのだが、それによって昼食が入らないとか、お腹を壊すとか、そういった生徒も出てしまうらしい。だから、お昼の休憩時間は多めに取って、できるだけ多くの生徒が昼食を食べられるようにしているそうだ。
「えっと……その、ロレーヌ。話したくなければ、私は無理には聞かないから……」
とっくに昼食を食べ終えていた私達。しばらくの沈黙の後に出てきたのは、そんな言葉だった。
「ううん、これは、きっとミオも知っておくべきことだと思うから……」
そう言って、ロレーヌが話し始めたのは、中等科時代の出来事。ここ、リアン魔国での出来事だ。
「私は、元々貴族で、婚約者が居たの」
ロレーヌは、元はこのリアン魔国で下級貴族だったらしい。そして、婚約者は中級貴族。しかも、片翼同士だったらしい。
「私は、ずっと幼い頃から彼のことが好きで、片翼というものを理解する頃には、彼以外との将来なんて考えられなかったの」
儚く微笑むロレーヌは、その頃を思い出しているのか、とても嬉しそうで、同時にとても悲しそうだった。
「ただ、中等科に入学した頃から、それは変わっていった。彼は、私が片翼のはずなのに、別の魔族が片翼だと言い始めたの」
「え? でも、そんなの……」
あり得ない。そう告げたかった私の考えを見抜いてか、ロレーヌは深刻な表情でうなずく。
「そう、あり得ないことよ。私はまだ、彼のことを片翼だと認識しているし、彼も元々は私を片翼だと認識してくれていた。それなのに、私が死んだわけでもないのに、彼は別の魔族が片翼だと言って聞かなかったの」
魔族にとって、片翼というのは本当に大切な存在だ。だから、片翼に関しての嘘を吐くことなどまず考えられない。あり得るとするなら……。
「確か、片翼を誤認させる薬剤があったと思うけど、あれは国の審査がとても厳しい薬だったはず……」
「そうね。私もそれを考えて、間違って彼がそれを飲んでしまったんじゃないかと話したの。でも、実際に検査をしても、彼からその薬の成分は検出されなかった」
元は、片翼を失い、衰弱する魔族を救うための薬。衰弱する魔族と、その魔族に身を捧げる覚悟を持つ者同士の間でしか使われない特殊な薬なのだ。過去に、その薬の流出によって犯罪行為が起きたという事例もあるが、今では国の徹底した管理の下、保管されている。
「彼の身に何が起こったのか、必死に調べていたのだけど、そのうち、学校では私が片翼を騙ったという噂が流れるようになっていたの」
「それって……まさか、ロレーヌが薬を使っていたと思われたの?」
状況だけを見るなら、そう疑われても仕方ない。そうは思うものの、それでも、ロレーヌが嘘を吐いているとは思えなかった。
「そう、私は、彼に自分を片翼だと誤認させた悪女として、婚約破棄をされ、身分を平民に落とされて、中等科から追放されたの」
ギュッと拳を握って話すロレーヌは、どこか、怯えているように見えた。
お昼の休憩時間って、長いのね……。
ここスイーツ学院は、様々なお菓子作りを授業で行う。当然、完成したお菓子は、生徒たちが食べることになるのだが、それによって昼食が入らないとか、お腹を壊すとか、そういった生徒も出てしまうらしい。だから、お昼の休憩時間は多めに取って、できるだけ多くの生徒が昼食を食べられるようにしているそうだ。
「えっと……その、ロレーヌ。話したくなければ、私は無理には聞かないから……」
とっくに昼食を食べ終えていた私達。しばらくの沈黙の後に出てきたのは、そんな言葉だった。
「ううん、これは、きっとミオも知っておくべきことだと思うから……」
そう言って、ロレーヌが話し始めたのは、中等科時代の出来事。ここ、リアン魔国での出来事だ。
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ロレーヌは、元はこのリアン魔国で下級貴族だったらしい。そして、婚約者は中級貴族。しかも、片翼同士だったらしい。
「私は、ずっと幼い頃から彼のことが好きで、片翼というものを理解する頃には、彼以外との将来なんて考えられなかったの」
儚く微笑むロレーヌは、その頃を思い出しているのか、とても嬉しそうで、同時にとても悲しそうだった。
「ただ、中等科に入学した頃から、それは変わっていった。彼は、私が片翼のはずなのに、別の魔族が片翼だと言い始めたの」
「え? でも、そんなの……」
あり得ない。そう告げたかった私の考えを見抜いてか、ロレーヌは深刻な表情でうなずく。
「そう、あり得ないことよ。私はまだ、彼のことを片翼だと認識しているし、彼も元々は私を片翼だと認識してくれていた。それなのに、私が死んだわけでもないのに、彼は別の魔族が片翼だと言って聞かなかったの」
魔族にとって、片翼というのは本当に大切な存在だ。だから、片翼に関しての嘘を吐くことなどまず考えられない。あり得るとするなら……。
「確か、片翼を誤認させる薬剤があったと思うけど、あれは国の審査がとても厳しい薬だったはず……」
「そうね。私もそれを考えて、間違って彼がそれを飲んでしまったんじゃないかと話したの。でも、実際に検査をしても、彼からその薬の成分は検出されなかった」
元は、片翼を失い、衰弱する魔族を救うための薬。衰弱する魔族と、その魔族に身を捧げる覚悟を持つ者同士の間でしか使われない特殊な薬なのだ。過去に、その薬の流出によって犯罪行為が起きたという事例もあるが、今では国の徹底した管理の下、保管されている。
「彼の身に何が起こったのか、必死に調べていたのだけど、そのうち、学校では私が片翼を騙ったという噂が流れるようになっていたの」
「それって……まさか、ロレーヌが薬を使っていたと思われたの?」
状況だけを見るなら、そう疑われても仕方ない。そうは思うものの、それでも、ロレーヌが嘘を吐いているとは思えなかった。
「そう、私は、彼に自分を片翼だと誤認させた悪女として、婚約破棄をされ、身分を平民に落とされて、中等科から追放されたの」
ギュッと拳を握って話すロレーヌは、どこか、怯えているように見えた。
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