私、異世界で保護されました! 〜やりたいことのために猪突猛進です〜

星宮歌

文字の大きさ
上 下
29 / 49
第二章 本当の心

第二十九話 ロレーヌという少女(二)

しおりを挟む
 現実逃避のための時間稼ぎは、案外、すぐに破綻してしまった。


 お昼の休憩時間って、長いのね……。


 ここスイーツ学院は、様々なお菓子作りを授業で行う。当然、完成したお菓子は、生徒たちが食べることになるのだが、それによって昼食が入らないとか、お腹を壊すとか、そういった生徒も出てしまうらしい。だから、お昼の休憩時間は多めに取って、できるだけ多くの生徒が昼食を食べられるようにしているそうだ。


「えっと……その、ロレーヌ。話したくなければ、私は無理には聞かないから……」


 とっくに昼食を食べ終えていた私達。しばらくの沈黙の後に出てきたのは、そんな言葉だった。


「ううん、これは、きっとミオも知っておくべきことだと思うから……」


 そう言って、ロレーヌが話し始めたのは、中等科時代の出来事。ここ、リアン魔国での出来事だ。


「私は、元々貴族で、婚約者が居たの」


 ロレーヌは、元はこのリアン魔国で下級貴族だったらしい。そして、婚約者は中級貴族。しかも、片翼同士だったらしい。


「私は、ずっと幼い頃から彼のことが好きで、片翼というものを理解する頃には、彼以外との将来なんて考えられなかったの」


 儚く微笑むロレーヌは、その頃を思い出しているのか、とても嬉しそうで、同時にとても悲しそうだった。


「ただ、中等科に入学した頃から、それは変わっていった。彼は、私が片翼のはずなのに、別の魔族が片翼だと言い始めたの」

「え? でも、そんなの……」


 あり得ない。そう告げたかった私の考えを見抜いてか、ロレーヌは深刻な表情でうなずく。


「そう、あり得ないことよ。私はまだ、彼のことを片翼だと認識しているし、彼も元々は私を片翼だと認識してくれていた。それなのに、私が死んだわけでもないのに、彼は別の魔族が片翼だと言って聞かなかったの」


 魔族にとって、片翼というのは本当に大切な存在だ。だから、片翼に関しての嘘を吐くことなどまず考えられない。あり得るとするなら……。


「確か、片翼を誤認させる薬剤があったと思うけど、あれは国の審査がとても厳しい薬だったはず……」

「そうね。私もそれを考えて、間違って彼がそれを飲んでしまったんじゃないかと話したの。でも、実際に検査をしても、彼からその薬の成分は検出されなかった」


 元は、片翼を失い、衰弱する魔族を救うための薬。衰弱する魔族と、その魔族に身を捧げる覚悟を持つ者同士の間でしか使われない特殊な薬なのだ。過去に、その薬の流出によって犯罪行為が起きたという事例もあるが、今では国の徹底した管理の下、保管されている。


「彼の身に何が起こったのか、必死に調べていたのだけど、そのうち、学校では私が片翼を騙ったという噂が流れるようになっていたの」

「それって……まさか、ロレーヌが薬を使っていたと思われたの?」


 状況だけを見るなら、そう疑われても仕方ない。そうは思うものの、それでも、ロレーヌが嘘を吐いているとは思えなかった。


「そう、私は、彼に自分を片翼だと誤認させた悪女として、婚約破棄をされ、身分を平民に落とされて、中等科から追放されたの」


 ギュッと拳を握って話すロレーヌは、どこか、怯えているように見えた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

処理中です...