私、異世界で保護されました! 〜やりたいことのために猪突猛進です〜

星宮歌

文字の大きさ
上 下
27 / 49
第二章 本当の心

第二十七話 友達第一号

しおりを挟む
 エミリーは森の木々の中に隠れながら父の戦いをそっと見ていた。父は多くの魔騎士と魔兵に囲まれつつも、臆することもなく剣と魔法で倒し続けた。だがその父も魔騎士隊のザウス隊長には敵わなかった。攻撃を受けて堀の中に沈んでいったのだ。

「パパ!」

 エミリーは思わず声を上げてその場に駆け寄ろうとしていた。だが突然、何者かにその口をふさがれて抱きかかえられた。

(しまった!)

 もうエミリーにはどうすることもできない。抱えられたまま森の奥へと連れていかれてしまった。

 ◇◇◇

 リーカーは目を開けた。そこは彼の家のソファの上だった。明るい灯りが部屋を照らし、暖炉の薪が暖かく燃えていた。

「パパ。寝ていたの?」

 エミリーがリーカーの顔をのぞきこんでいた。

「パパはお疲れなのよ。さあ、お祝いしましょう。パパは魔法剣士になったのよ」

 妻のアーリーがケーキをもってリビングに入ってきた。

「そうだな・・・」

 リーカーはまだ悪夢から覚めきらぬようにあいまいな返事した。アーリーはそんなリーカーに笑顔を向けて言った。

「おめでとう。これであなたは魔法剣士ね」
「パパ、おめでとう」

 エミリーも笑顔で祝ってくれた。

「ああ、ありがとう」

 リーカーも妻と娘に笑顔で返した。リーカーは悪夢を振り払うように首を振った。これが現実の世界であるはずだと・・・彼は思いこもうとした。エミリーが言った。

「パパ、魔法で何かやって見せてよ。そうね。ここにたくさんの御馳走を並べてみて」
「ははは。料理ならママの方がおいしいよ。それよりもっといいものを見せよう」

 リーカーは呪文を唱えた。すると丸い風船がいくつも現れて、部屋に浮かんだ。それは様々に色を変えた。

「じゃあ、私も」

 アーリーも呪文を唱えた。すると壁に掛けてあったバイオリンが空中に浮かんで弦が音を奏で、同時にピアノも演奏し始めた。家の中はまるで幻想的な劇場の様になり、3人をうっとりとさせた。そこに召喚した小さなかわいい幻獣たちがダンスを踊りながら出て来た。それらは愛想を振りまいていた。

「ははは」

 エミリーも踊って愉快そうにはしゃいでいた。それを見てリーカーとアーリーは笑って顔を見合わせた。

「パパ、パパ」

 エミリーは魔法で浮かびながらリーカーを呼んでいた。


「パパ!、パパ!」

 リーカーはエミリーに何度も呼ばれていた。リーカーは目を開けた。そこは薄暗く冷たい小屋の中だった。夢から覚めると、あの悲惨な出来事は現実のものだったとリーカーは思い知らされた。体をむしばむ痛みに苦しみながらもリーカーは身を起こした。そこにはエミリーと並んで一人の若い娘がいた。その娘には見覚えがあった。

「サランサ殿だな」
「はい。サランサです」

 彼女は青白い顔をしていた。何か深い苦しみを抱えているようだった。エミリーは言った。

「私は森でサランサに助けられたの。パパもサランサが魔法で助けてくれたのよ。そして見つからないようにここに運んでくれたよ」

 リーカーはザウス隊長に手ひどい敗北を喫したのを思い出した。必殺技を受けて堀に転落したのに傷はわずかで済んでいた。サランサが回復魔法で手当てもしてくれたようだった。

「それはすまなかった。助けていただいたとは・・・」

 リーカーが身を起こしかけたが、サランサはそれを止めた。

「悪いのは父です。こんなことをしているとは・・・でもすべて私のせいです。私を将来、女王にしようとマデリー様と企んだのです。リーカー様。謝ったからと言って許されるとは思っておりません。しかし私には何もできないのです。あなたの気が済むまでこの体に剣を突き立ててください」

 サランサは悲しそうに言った。彼女の肩にはあの白フクロウが止まっていた。リーカーは静かに言った。

「いいや、あなたは悪くない。すべてワーロン将軍の仕組んだことだ。それにあなたは白フクロウを使って私を助けてくれた。礼を言う。この上は、私はエミリーを連れて王宮に乗り込みつもりだ」
「いえ、お逃げください。エミリー様を連れて。王宮の中には父の配下の魔騎士や魔兵がおります。お命が危のうございます」

 サランサは強く止めた。だがリーカーはゆっくる首を横に振った。

「いや、敵が多かろうが私はエミリーとともに行く。女王様のお身が危ないのだ。私が止めねばならぬ」

 リーカーはきっぱりと言った。

「それならせめてエミリー様だけでもここに・・・。こんな幼いエミリー様を戦いに連れて行こうとおっしゃるのですか!」

 サランサは声を上げた。

「ああ、そうだ。エミリーも命を狙われている。逃げても魔騎士たちがいつまでも追ってくるだろう。それならば私の近くに・・・。我らにはもう道はない。自らが切り開いていかねばならぬ。死を恐れずに・・・」

 リーカーは言った。その言葉にエミリーはしっかりとうなずいた。その親子の死を覚悟する決心の固さにサランサは涙をこぼした。そしてサランサ自身も決心した。

「わかりました。私が王宮に案内いたします」
「よいのか? 父上を裏切ることになるのだぞ」
「ええ、私も自分の信じる道を進みます」

 サランサは涙を拭いてそう答えた。

 ◇◇◇◇

「リーカーは討ち取ったのだな!」

 将軍執務室でワーロン将軍がザウス隊長を問うた。

「必殺技で倒したはずですが、しかし堀に沈んでしまって死体は確認しておりません」

 ザウス隊長はそう答えた。

「娘のエミリーはどうした?」
「まだ見つかっておりません。遠くには行っていないはずですからじきに見つかると思いますが・・・」

 ザウス隊長は言葉を濁した。ワーロン将軍は非常に不満だった。リーカーの死を確認できないばかりか、肝心のエミリーの行方すらつかんでいないとは・・・。

「貴様は当てにならんな! 何のために隊長にしてやったというのだ! 奴らの死体を見つけるまでここに戻ってくるな! 行け!」

 ワーロン将軍は怒鳴り散らした。ザウスは不服そうな顔をしながら執務室を出て行った。

「どいつもこいつも使い物にならぬ。サランサは出て行くし、ザウスはあのざまだ・・・まあいい。女王の命はあとわずかだ。もうすぐ儂の天下だ」

 ワーロン将軍は怒りおさまらず、ドンと机を叩いた。

 ◇◇◇◇

 サランサは辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、リーカーとエミリーを連れて林の小屋を出た。

「王宮へはごく一部の者しか知られていない抜け道を通ります。多分、魔騎士たちに気付かれずに王宮には入れるはずです」

 先を歩くサランサは振り返って言った。リーカーは深くうなずき、エミリーの手を引いて進んだ。日の沈みかけた夕刻で辺りが薄暗くなっていた。彼らは林の木々に隠れながら、誰にも見つからずに抜け道に入っていった。
 だがそれを見ているものがあった。それは一羽の魔法の黒カラスだった。3人が穴に入るのを見届けると王宮の方に飛んでいった。

 ◇◇◇◇

 一羽の黒カラスが王宮に飛んできた。そして庭にいたザウス隊長の肩に止まり、何やらささやいた。

「何! 奴が生きている! それもこっちに向かっているだと!」

 ザウス隊長は声を上げた。

「ならばここで奴を仕留めるだけよ!俺一人でな」

 ザウス隊長は憤然として立ち上がった。その彼の目は不気味に光っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...