私、異世界で保護されました! 〜やりたいことのために猪突猛進です〜

星宮歌

文字の大きさ
上 下
1 / 49
第一章 保護されました

第一話 プロローグ

しおりを挟む
 私の物心がついた頃というのは、いったいいつだったか……。その辺りのことは全く分からないが、一つだけ確かなことがある。それは、私の人生は、生まれてから今に至るまで、全て灰色だということ。


「ちょっと、邪魔よっ!」

「うっ……」


 フラフラしながら屋敷の隅を歩いていると、誰かに突き飛ばされる。
 ……いや、『誰か』なんていうのは分かりきっている。


「すみ、ません……」

「あなた、これを外に捨ててきてちょうだい」

「かしこまりました。奥様」


 彼女は、私の母親。物心ついた頃から私を目の敵にしてきた人。ただ、昔の方がまだマシだったかもしれない。

 ズルズルと使用人に引き摺られるようにして歩く私は、ちょうど、その言葉を耳に捉える。


「本当に、さっさと死ねば良かったのに」


 生まれつき、魔力逆流症という病を患い、そう長くは生きられなかったはずの私。しかし、どういうわけか、その魔力逆流症を治す方法が見つかったらしく、私は今や、余命を考えなくとも良い状態になった。
 本来なら、それは喜ばしいことなのだと、常識で考えればそうなのだろうと、理解はしている。ただ、母親から愛されず、父親からは無視される日々は、確実に私の精神をすり減らしていった。

 使用人からは虐められ、動けるようになれば、ほとんど食事も与えられない状態で働かされる。


 いっそのこと、死んでしまえたら良かったのに……。


 寒空の下、屋敷から放り出された私は、寒さに震えながらそう思ってしまう。しかし……。


 きっと、チャンスが来るから、だから、頑張れ私。


 同時に、前世の私が今の私を励ましてくる。

 そう、私は、前世を何となく覚えている。ただし、それは事細かなものではなく、曖昧なもので、唐突に前世の言い回しのようなものが頭に浮かんで混乱したり、前世の私が知っていたであろう知識が浮かんだりするというもの。

 前世の私がどんな人間で、どんな生活をしていたのかは酷く曖昧だ。ただ、きっと、前世の私は、自分を必死に励ましながら暮らしていたのだろうということだけは理解できた。

 『まだ、大丈夫』『頑張れるよ、私』『きっと、チャンスが来るから』……そんな言葉を何度も言っていたような、そんな気がするし、その励ましの言葉がそのまま、私へかけられているようなのだ。


「まだ……がんば、れ、る……」


 きっと、いつか、お父様もお母様も、私を見てくれる。そんな日を夢見たのがいけなかったのだろうか。私はそれからしばらく経った頃、意地悪な使用人達から、とんでもないことを知らされることとなる。


「奥様と旦那様が亡くなりました」

「え……」


 いつの間にか十歳を迎えていたらしい私は、そんな現実を突きつけられた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...