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第二章 どうして今更……

第六話 ハリオール家の内情(二)

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「確かに僕は、その血を引いてはいるんでしょうね。けど、それだけを理由に僕がうなずくとは思っていないのでしょう?」


 思わずアバルにもう一度威圧を浴びせようとしたところで、話を聞いていたライトさんがそんなことを言う。


 いけない。これは、ライトさんのことなんだから、もっと冷静にならないと……。


 そう思って、心を落ち着けてアバルの様子を観察してみれば、どこか、落ち着きがないように見えた。例えば、何か言いたくても言えないと思っているような……。


「その……申し訳ございません。この場で、そういった話はできないことになっております」

「それは、どうしてですか?」


 そんなライトさんの言葉を聞きながら、ふと思う。


 そういえば、この人は、誰に命じられてライトさんを後継者にしようとしているのかしら……?


 アバルは、ハリオール家に仕える執事だと言った。
 しかし、当主夫妻が死んだ今、彼に命令をできる者といえば、先程話題に上ったお嬢様しかいない。ただ、どう考えても、十歳になったばかりの子供が、存在を隠されていたであろうライトさんに辿り着けるとも、後継者にするべくアバルに命じるとも思えない。……それが、転生者でもない限り。


 いや、そんなにホイホイ転生者が居るわけもないわね。と、なると、別の誰かに命じられて来ているということになる。


「っ……申し訳ございません。ただ、言えるのは、王宮に来てくださいということだけなのです」

「王宮?」


 魔王陛下が治めるこの国で、王宮といえば、もちろん、魔王陛下が住む場所だ。そして、私達の職場も、この王宮の一区画である。


「はい、そこで、こちらを見せていただけたら、案内してもらえるかと」


 そうして、アバルが取り出したものは、魔王陛下へ謁見するための書状だった。


「なっ……」

「オリアナ様?」


 しかし、ライトさんはそれに気づいていない。いや、むしろ、知らないのが普通だった。なぜなら、この書状は、普通の謁見用の書状ではない。
 一般的な謁見用の書状であれば、その印章を見るだけで王族との謁見用だと分かるのだが、これは、一見するとそうとは見えないように作られた印章が使われている。ついでに、特殊な隠蔽用の用紙も利用されている。
 膨大な種類の印章と、隠蔽用の用紙の種類の組み合わせによって、誰宛の、どんな緊急性のある内容なのかといったことが分かるようになっているのだが、それを全て頭に叩き込み、判別することの出来る者は、一人しか居ない。
 そして、私はその人の下で働いていたため、そういうものが存在するということと、ほんの少しだけ、その規則性を教えてもらえていた。

 不思議そうにこちらを見るアバルとライトさん。しかし私は、この書状の意味を欠片でも理解できてしまったために、今すぐ、これを見なかったことにしたい衝動を抑えるのに必死だった。


 面倒なことになる。


 それだけは、確実なことだった。
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