私、異世界で魔族になりました！〜恋愛嫌いなのに、どうしろと？〜

第二章 どうして今更……

第一話 来襲した者

「……僕は、あなたのような身分の方に、様付けされるような身分ではありませんよ」


　ライトさんと、お母様への挨拶に行った帰りに出会った執事らしき男性。彼は、ライトさんのことを『捜していた』そうだが、どういう理由なのかも分からなければ、ライトさんのこの冷たい反応の理由も分からない。


　いや、もしかしたら、お父様の……？


　先程、ライトさんの父親に関する話を振ったところ、どうにも仲が良くないどころか、破綻していそうな反応を示された。そして、そのことに関して話を聞けそうなところで、この男性の出現により、聞けなくなってしまった。


「いいえ、ライト様は、ハリオール家の正式な後継者でございます。わたくしなどよりも、身分は上にございます」

「ハリオール家……？」


　ハリオール家、といえば、このヴァイラン魔国の中でも五指に入る上級貴族の家の名前だ。
　そんな家の後継者などという話は、全く持って、寝耳に水だった。


「オリアナ様、これは「ライト様、あなた様が格下の者に様付けなどなさる必要はございません」っ……『格下』？」


　ライトさんが何かを説明しようと話しかけてきた直後、執事らしき男は、私を見下すようにそう告げてきた。ただ、当然、片翼に対する魔族の愛情というのは過激なわけで……。


「ライトさん、ストップ！　私は気にしていませんっ」

「いや、駄目ですよ。オリアナ様。こいつは、僕の大切な片翼を侮辱したっ！」


　一気に魔力を噴き上げて激高するライトさん。そして、そんな魔力を前に、執事らしき男は顔色を変える。


「っ、片翼のお方だとは知らず申し訳ありませんでしたっ」


　魔族同士で片翼を侮辱することは犯罪行為だ。しかし、それと知らなかった場合、しっかりと謝罪さえすれば収まることもある。もちろん骨の一、二本折られることもあるが、命の危機にまではならない。
　這いつくばるようにして土下座を行った男は、命の危機に冷や汗を流している。


「ライトさん、この方は知らなかったのです。ですから、許しましょう」

「……オリアナ様がそう言うのであれば……」

「それと、そこの方、名前は存じませんが、話をするのであれば場所を移しましょう。ここでは、邪魔になります」


　人通りはそれほどない道ではあるものの、物珍しげにこちらを見る野次馬が出始めている。ここは、早めに場所を移すべきだと提案すれば、男の方も周りの気配に気づいたのか、もう一度謝罪の言葉を口にしながら立ち上がる。


「ライトさんも、それで良いですか？」

「……この男と話すことなんてない、と言いたいところだけど、相手はそうじゃないみたいですし、どこか、落ち着ける場所へ行きましょうか」


　相変わらず、男へ向けるその視線は冷たいものの、ライトさんは私の言葉に同意を示してくれる。
　そうして、私達は、近くの喫茶店へと入店した。