私、異世界で魔族になりました！〜恋愛嫌いなのに、どうしろと？〜

第一章 どうして魔族なんかに……

第三十一話 気づいた気配

　うっかり片翼を気絶させてしまった私は、彼をどこへ運ぼうかと抱き上げて、ふと、妙な気配があることに気づく。


「……戦闘中？」


　誰かが戦っているようなその気配は、私達からさほど離れてはいない。しかし、気絶したままの彼を抱えてその場に飛び込むほど愚かでもない。


　まずは、ライトさんを休ませる場所へ運んで、それから、ね。


　周囲を巡回中の騎士を呼べば良いのだろうが、生憎と、周囲にそれらしき姿はない。夜という時間もあって、酔っ払いの対応にでも駆り出されているのかもしれない。


「ん……」

「あっ、ライトさん、起きましたか？」


　目指す場所を決めあぐねていたところで、彼が目を覚ます。そして……。


「僕の女神……」


　ふにゃり、と無防備に笑ったその姿は、完全に私の心を射抜くものであって、彼を落としそうになり、慌てて力を入れ直す。


「目が、覚めたのであれば、立てますか？」


　我ながら、そうじゃない、とは思うものの、それ以外の言葉が出てこない。もっと、気遣いの言葉でもかけられたら良かったのだろうが、そんな余裕は、先程の笑みで完全に失われた。


「立つ……？　……っすみませんっ！！」


　しかし、どうやら彼は、今、完全に目覚めてくれたらしい。現状を把握するや否や、私の腕から離れて両足でしっかりと立つ。


「あぁぁあっ、お姫様抱っこ……いや、僕がオリアナ様にするのは良いけど、されるのは、プライドが……いや、でも、オリアナ様の顔を間近に見られて幸せで……いやいや」


　何やらブツブツと頭を抱えて呟く彼に、私は何度かそっと深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


　よし、大丈夫。今から、デート。でも、トラブルがあるみたいだから、様子の確認だけはしておいて……ライトさん、可愛かったなぁ。


　どこかまだ、混乱が続いているような気もするが、戦闘の気配がまだ続いているのを感じ取って、意識を切り替え、彼に声をかけた。


「ライトさん。今、あちらで戦闘が行われているようなので、少し確認をしてこようと思います」


　本来ならば騎士の仕事ではあるが、私の実力であれば騎士にも劣らないという自負がある。トラブルの内容次第では、私達の仕事にも関わってくるものになるだろうと思うと、見過ごすことはできなかった。


「戦闘……あー、すみません。あれは、僕の知り合いです」


　しかし、返ってきたのは、予想外の答えで、彼は随分と困ったような表情を浮かべていた。