私、異世界で魔族になりました!〜恋愛嫌いなのに、どうしろと?〜

星宮歌

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第一章 どうして魔族なんかに……

第十五話 撤退

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 掴まれるっ。


 そう、思って、恐怖に目を閉じたのだが……次の瞬間に聞こえてきたのは、悲鳴だった。


「いででででっ! は、離せっ!」

「すみませんね。害虫が居たので、つい」


 そっと目を開ければ、そこには、彼が……ライトさんが居た。


「っ、何なんだっ、お前っ!」

「何と言われても、自分の片翼に手を出す害虫が居れば、排除するのは当たり前でしょう?」

「なっ、こんな女が魔族の片翼だと!? こいつは、俺の物だぞっ!」


 先輩が人間であることに対して、ライトさんは魔族。よほど鍛えている人間であれば、魔族とも渡り合う力を持っているのだろうが、先輩にはそんな力などないだろう。そして、魔族は、片翼を侮辱されることを酷く嫌う。


「どうやら、その命、惜しくないみたいですね?」

「っ、お、俺は、貴族だぞっ! お前のような庶民が害して良い存在じゃないっ!」


 確かに、先輩はどこかの国の貴族なのだろう。そうでもなければ、こんな高級な店に来られるはずがない。とはいえ……。


「ここはヴァイラン魔国ですので、問題ありません。魔族の片翼を害そうとする者は、それなりに簡単に排除できますので」

「ひっ」


 そう、魔族の国では、片翼のための法律が多い。そしてそれは、他国からも認められていることが多々ある。たとえ、先輩が他国で同じことをしたとしても、きっと、同じように排除対象となっていただろう。

 腰を抜かした先輩を横目に、私は、必死に自分を落ち着かせる。


「もう、大丈夫です」


 震えるな。怯えるな。


 そう、自分に心の中で言い聞かせながら、ライトさんに手を伸ばす。


「それより、早くここを出ましょう」


 ライトさんの手を汚すわけにはいかない。その思いだけで、そっとライトさんの服の裾を掴んで、意識を逸らす。


「っ……分かり、ました。貴女がそう言うのであれば……」


 随分と苦しそうな表情で、それでも、私の提案を受け入れてくれたライトさん。
 そんな表情をさせてしまったことを申し訳なく感じつつも、この場を早く離れてしまいたいことも本心だった。

 先輩のことを、最後に殺意の籠もった目で睨んだライトさんは、そのまま、私の手を取って外に連れ出してくれる。

 先輩の姿が見えなくなって、店からそれなりに離れたところで、私はようやく、まともに息が吐けた気がした。
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