上 下
33 / 57
第一章 望まぬ聖女召喚

第三十話 再び演奏

しおりを挟む
「それなら、しょくじのじかんはしっかりとれるように、おやすみも、しっかりきめるのがだいじっ」

「あぁ、確かにそうだな。詳しくは、この後決めるとして……ひとまず、一時間ほど弾いてもらうことは可能でしょうか?」


 一時間、という時間を制限されて、私はすぐに足りない、と思ってしまう。そして、それはきっと表情に出ていたのだろう。


「一時間が難しいのであれば、三十分でも構いません、いかがでしょう?」


 しかし、残念ながらそれは反対に取られてしまったらしい。


「……その二十分とかは……?」

「おーたいしでんかっ! ぎゃくだとおもう!」


 さらに短く設定された時間にどうにかして時間を長くしてもらいたいと思っていると、ルーナがすかさず助け舟を出してくれる。
 それを逃すまいとコクコク頷けば、さすがにアルヴァンにもそれは伝わったらしく、『もっと長くても良いのですか?』と確認してくる。


(もちろんっ!)


 声は出ずとも、きっとこの言葉は伝わったのだろう。


「ならば「にじかんまで! それいじょうは、おやすみするの!」……だそうだが、いかがですか?」


 正直、もっと弾きたい思いはある。しかし、食事や休憩を忘れないという約束をできそうにないのも確かで、渋々頷く。


「ありがとうございます。聖女様」


 そんなアルヴァンの感謝に、私はどうにも複雑な気持ちになる。
 別に、この世界がどうなろうと、私にとってはどうでもいい。むしろ、こんな世界、さっさと滅んでしまえくらいに思っている。それが、私が楽しむことで、世界が救われるというのだから、しかも、それを私をこの世界に誘拐した張本人から感謝されるわけだから、喜ぶことも悲しむことも違う気がする。
 だから、アルヴァンの言葉を無視するかのようにピアノの方へ向き直ったのは当然のことだろう。


「じゃあ、いまからはかるの!」


 そう言われて、私はピアノを弾くことに没頭し始めた。そして……試そうと思っていたピアノを弾きながら歌うというのは、そんなアルヴァンの言葉が頭の片隅に引っかかっていたせいか実現せず、言葉は出ないままに終わった。
 ただし、ルーナ曰く、私はまた、ピアノを弾いている最中に光っていたらしい。いや、私自身も、それを自覚するくらいには、集中できていなかった。


 声、出なかったな……。


 前回は、思いっきり楽しめた自覚がある。そして、今回はあまり集中できていなかった。楽しむ度合いによって声が出るかどうかが決まるのであれば、しばらくはアルヴァンには会いたくないところだった。一人でのんびりピアノを弾いていたい。
 しかし、翌日も、その翌日も、アルヴァンはピアノがある部屋で私を待ち受けていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

絶縁書を出されて追放された後に、王族王子様と婚約することになりました。…え?すでに絶縁されているので、王族に入るのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
セレシアは幼い時に両親と離れ離れになり、それ以降はエルクという人物を父として生活を共にしていた。しかしこのエルクはセレシアに愛情をかけることはなく、むしろセレシアの事を虐げるためにそばに置いているような性格をしていた。さらに悪いことに、エルクは後にラフィーナという女性と結ばれることになるのだが、このラフィーナの連れ子であったのがリーゼであり、エルクはリーゼの事を大層気に入って溺愛するまでになる。…必然的に孤立する形になったセレシアは3人から虐げ続けられ、その果てに離縁書まで突き付けられて追放されてしまう。…やせ細った体で、行く当てもなくさまようセレシアであったものの、ある出会いをきっかけに、彼女は妃として王族の一員となることになる…! ※カクヨムにも投稿しています!

二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき
恋愛
Side A:エリーは、代々海馬を使役しブルテン国が誇る海軍を率いるアーチボルト侯爵家の末娘だった。兄たちが続々と海馬を使役する中、エリーが相棒にしたのは白い毛のジャーマン・スピッツ…つまりは犬だった。 Side B:エリーは貧乏なロンズデール伯爵家の長女として、弟妹達のために学園には通わずに働いて家を守っていた。17歳になったある日、ブルテン国で最も権力を持つオルグレン公爵家の令息が「妻になってほしい」とエリーを訪ねてきた。 ーーーー 章ごとにエリーAとエリーBの話が進みます。 ヒーローとの恋愛展開は最後の最後まで見当たらないですが、ヒーロー候補たちは途中でじゃんじゃん出すので誰になるのか楽しみにしてください。 スピンオフ作品として『理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました』があります。 全6章+エピローグ 完結まで執筆済み。 一日二話更新。第三章から一日四話更新。

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた

海野宵人
恋愛
魔王を倒した勇者ライナスは、わたしの幼馴染みだ。 共に将来を誓い合った仲でもある。 確かにそのはずだった、のだけれど────。 二年近くに及ぶ魔王討伐から凱旋してきたライナスは、私の知っている彼とはまったくの別人になってしまっていた。 魔王討伐に聖女として参加していらした王女さまと旅の間に仲を深め、この度めでたく結婚することになったのだと言う。 本人の口から聞いたので、間違いない。 こんなことになるのじゃないかと思って、前から少しずつ準備しておいてよかった。 急がなくちゃ。旅支度を。 ────これは、最後の勇者ライナスと私による本当の魔王討伐の物語。 ※序盤のヒーローはかなり情けないやつですが、それなりに成長するので見捨てないでやってください。 本編14話+番外12話+魔王城編12話+帰還編54話。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

浄化の巫女は裏切られたので隠居することにしました~気付けばもふもふな聖獣に囲まれたスローライフが始まりました~

チハキ
恋愛
 神浄の巫女と呼ばれる少女、ウラリア・クロンシュタット。  彼女は邪悪な瘴気によって汚された土地や水源を浄化する事で魔物と呼ばれる怪物と病の発生を防ぎ、人々に安寧を齎し国に貢献し続けて来た。  しかし、そんな彼女を良く思わない者たちがいた――宗教家と王家である。  元来国教であったザバルスク教では信者離れを起こし、王家もウラリアを新たな王にすべきとする世論に恐怖心を持ち始めたのだ。    二大国家権力を敵に回してしまった事に気付いたウラリアは、フェンリルを名乗る少女の助けを経て、『邪神の森』と呼ばれ畏怖される地へ逃げ込む。  そこには様々な地域の神々が集まっていて――奇しくも、ウラリアはもふもふとの戯れを謳歌するスローライフが始まった。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

処理中です...