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第一章 望まぬ聖女召喚
第三十話 再び演奏
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「それなら、しょくじのじかんはしっかりとれるように、おやすみも、しっかりきめるのがだいじっ」
「あぁ、確かにそうだな。詳しくは、この後決めるとして……ひとまず、一時間ほど弾いてもらうことは可能でしょうか?」
一時間、という時間を制限されて、私はすぐに足りない、と思ってしまう。そして、それはきっと表情に出ていたのだろう。
「一時間が難しいのであれば、三十分でも構いません、いかがでしょう?」
しかし、残念ながらそれは反対に取られてしまったらしい。
「……その二十分とかは……?」
「おーたいしでんかっ! ぎゃくだとおもう!」
さらに短く設定された時間にどうにかして時間を長くしてもらいたいと思っていると、ルーナがすかさず助け舟を出してくれる。
それを逃すまいとコクコク頷けば、さすがにアルヴァンにもそれは伝わったらしく、『もっと長くても良いのですか?』と確認してくる。
(もちろんっ!)
声は出ずとも、きっとこの言葉は伝わったのだろう。
「ならば「にじかんまで! それいじょうは、おやすみするの!」……だそうだが、いかがですか?」
正直、もっと弾きたい思いはある。しかし、食事や休憩を忘れないという約束をできそうにないのも確かで、渋々頷く。
「ありがとうございます。聖女様」
そんなアルヴァンの感謝に、私はどうにも複雑な気持ちになる。
別に、この世界がどうなろうと、私にとってはどうでもいい。むしろ、こんな世界、さっさと滅んでしまえくらいに思っている。それが、私が楽しむことで、世界が救われるというのだから、しかも、それを私をこの世界に誘拐した張本人から感謝されるわけだから、喜ぶことも悲しむことも違う気がする。
だから、アルヴァンの言葉を無視するかのようにピアノの方へ向き直ったのは当然のことだろう。
「じゃあ、いまからはかるの!」
そう言われて、私はピアノを弾くことに没頭し始めた。そして……試そうと思っていたピアノを弾きながら歌うというのは、そんなアルヴァンの言葉が頭の片隅に引っかかっていたせいか実現せず、言葉は出ないままに終わった。
ただし、ルーナ曰く、私はまた、ピアノを弾いている最中に光っていたらしい。いや、私自身も、それを自覚するくらいには、集中できていなかった。
声、出なかったな……。
前回は、思いっきり楽しめた自覚がある。そして、今回はあまり集中できていなかった。楽しむ度合いによって声が出るかどうかが決まるのであれば、しばらくはアルヴァンには会いたくないところだった。一人でのんびりピアノを弾いていたい。
しかし、翌日も、その翌日も、アルヴァンはピアノがある部屋で私を待ち受けていた。
「あぁ、確かにそうだな。詳しくは、この後決めるとして……ひとまず、一時間ほど弾いてもらうことは可能でしょうか?」
一時間、という時間を制限されて、私はすぐに足りない、と思ってしまう。そして、それはきっと表情に出ていたのだろう。
「一時間が難しいのであれば、三十分でも構いません、いかがでしょう?」
しかし、残念ながらそれは反対に取られてしまったらしい。
「……その二十分とかは……?」
「おーたいしでんかっ! ぎゃくだとおもう!」
さらに短く設定された時間にどうにかして時間を長くしてもらいたいと思っていると、ルーナがすかさず助け舟を出してくれる。
それを逃すまいとコクコク頷けば、さすがにアルヴァンにもそれは伝わったらしく、『もっと長くても良いのですか?』と確認してくる。
(もちろんっ!)
声は出ずとも、きっとこの言葉は伝わったのだろう。
「ならば「にじかんまで! それいじょうは、おやすみするの!」……だそうだが、いかがですか?」
正直、もっと弾きたい思いはある。しかし、食事や休憩を忘れないという約束をできそうにないのも確かで、渋々頷く。
「ありがとうございます。聖女様」
そんなアルヴァンの感謝に、私はどうにも複雑な気持ちになる。
別に、この世界がどうなろうと、私にとってはどうでもいい。むしろ、こんな世界、さっさと滅んでしまえくらいに思っている。それが、私が楽しむことで、世界が救われるというのだから、しかも、それを私をこの世界に誘拐した張本人から感謝されるわけだから、喜ぶことも悲しむことも違う気がする。
だから、アルヴァンの言葉を無視するかのようにピアノの方へ向き直ったのは当然のことだろう。
「じゃあ、いまからはかるの!」
そう言われて、私はピアノを弾くことに没頭し始めた。そして……試そうと思っていたピアノを弾きながら歌うというのは、そんなアルヴァンの言葉が頭の片隅に引っかかっていたせいか実現せず、言葉は出ないままに終わった。
ただし、ルーナ曰く、私はまた、ピアノを弾いている最中に光っていたらしい。いや、私自身も、それを自覚するくらいには、集中できていなかった。
声、出なかったな……。
前回は、思いっきり楽しめた自覚がある。そして、今回はあまり集中できていなかった。楽しむ度合いによって声が出るかどうかが決まるのであれば、しばらくはアルヴァンには会いたくないところだった。一人でのんびりピアノを弾いていたい。
しかし、翌日も、その翌日も、アルヴァンはピアノがある部屋で私を待ち受けていた。
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