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第一章 望まぬ聖女召喚
第二十三話 第五王子との対面2
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入った部屋の中は、思ったよりも広々とした場所だった。そして、入ってすぐに、赤い髪の儚げな雰囲気の美しい男の子が頭を下げる。
「はじめまして聖女様。私は、アルトラ王国第五王子のマルク・アルトラと申します」
頭を下げられたら、こちらも頭を下げてしまうのは、日本人としての習性だろう。
声は出ないから返事もできないのだが、それでも頭を下げれば、何故か周囲が慌てる。
「せ、聖女様、顔を上げてくださいっ。私に礼を尽くす必要はありませんのでっ」
その言葉で、やはり、私はこの国の王子よりは上の身分らしいと考える。
そうして頭を上げれば、どこかホッとした様子のマルクの姿が映る。
「すみません、取り乱してしまって。聖女様とお会いできるなんて、思ってもみなかったので、少し、浮かれていたようです」
薄っすらと紅潮した頬でそう告げるマルクの言葉に嘘はなさそうだ。
そして、どうやら王族は赤い髪らしいとこれまでの経験から理解する。全員がそうとは限らないものの、アルヴァンも異常者もマルクも、今まで出会った王族は全て赤髪だ。きっと、王家の特徴とか、そういったものなのかもしれない。
「その、聖女様は、楽器に興味がおありなのですか?」
男の子、とはいえ、その年齢は私よりも上に見える背格好なのだが、もしかしたらその年齢はもう少し低いのかもしれない。
ソワソワしながら私の返事を待つ様子などは、同年代だとしても落ち着きがないように見える。
ひとまずは答えようということで、コクリと頷けば、マルクは花が開いたかのように可憐な笑顔を見せる。
「ここにあるのは、打楽器の類が多いのですが、どれか、触ってみたいものはありますか?」
そう言われて、周りをぐるりと見渡せば、確かに見覚えがあるような楽器がいくらか存在していた。そして……。
ピアノも、ある。
先程、マルクがどの楽器を演奏をしていたのかは分からないが、マルクの背後にピアノが存在していた。
「鍵盤ですか?」
そして、どうやらピアノの名前は鍵盤に変わっているらしい。とはいえ、ピアノはピアノだろう。
私が知るピアノよりは大きく見えるものの、鍵盤一つ一つが大きいわけではない。これなら十分弾けるだろうと思って、少しだけ音を鳴らしてみる。
(えっ!? この音って……)
ただ、その音は私が想像していたものとは違った。そう、木琴だと思っていたあの音は、このピアノの音だったらしい。
「いくらでも弾いてみて構いませんよ」
音色そのものは違うかもしれない。それでも、ドの音はドだったし、音階そのものも私が知るものと全く同じだ。ならばと、私は、勧められるがままに椅子に腰掛けて、そっと鍵盤に手を乗せた。
「はじめまして聖女様。私は、アルトラ王国第五王子のマルク・アルトラと申します」
頭を下げられたら、こちらも頭を下げてしまうのは、日本人としての習性だろう。
声は出ないから返事もできないのだが、それでも頭を下げれば、何故か周囲が慌てる。
「せ、聖女様、顔を上げてくださいっ。私に礼を尽くす必要はありませんのでっ」
その言葉で、やはり、私はこの国の王子よりは上の身分らしいと考える。
そうして頭を上げれば、どこかホッとした様子のマルクの姿が映る。
「すみません、取り乱してしまって。聖女様とお会いできるなんて、思ってもみなかったので、少し、浮かれていたようです」
薄っすらと紅潮した頬でそう告げるマルクの言葉に嘘はなさそうだ。
そして、どうやら王族は赤い髪らしいとこれまでの経験から理解する。全員がそうとは限らないものの、アルヴァンも異常者もマルクも、今まで出会った王族は全て赤髪だ。きっと、王家の特徴とか、そういったものなのかもしれない。
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男の子、とはいえ、その年齢は私よりも上に見える背格好なのだが、もしかしたらその年齢はもう少し低いのかもしれない。
ソワソワしながら私の返事を待つ様子などは、同年代だとしても落ち着きがないように見える。
ひとまずは答えようということで、コクリと頷けば、マルクは花が開いたかのように可憐な笑顔を見せる。
「ここにあるのは、打楽器の類が多いのですが、どれか、触ってみたいものはありますか?」
そう言われて、周りをぐるりと見渡せば、確かに見覚えがあるような楽器がいくらか存在していた。そして……。
ピアノも、ある。
先程、マルクがどの楽器を演奏をしていたのかは分からないが、マルクの背後にピアノが存在していた。
「鍵盤ですか?」
そして、どうやらピアノの名前は鍵盤に変わっているらしい。とはいえ、ピアノはピアノだろう。
私が知るピアノよりは大きく見えるものの、鍵盤一つ一つが大きいわけではない。これなら十分弾けるだろうと思って、少しだけ音を鳴らしてみる。
(えっ!? この音って……)
ただ、その音は私が想像していたものとは違った。そう、木琴だと思っていたあの音は、このピアノの音だったらしい。
「いくらでも弾いてみて構いませんよ」
音色そのものは違うかもしれない。それでも、ドの音はドだったし、音階そのものも私が知るものと全く同じだ。ならばと、私は、勧められるがままに椅子に腰掛けて、そっと鍵盤に手を乗せた。
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