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第一章 望まぬ聖女召喚
第十二話 剣を向ける人
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ここで待つようにとの言葉に、私は様々なことに考えを巡らせて待っていると、ふいに、背後から声をかけられる。
「おい、貴様は何者だ? ここは、王族が管理する菜園だぞ?」
振り向けば、そこには真っ赤な髪の男性が一人。髪色だけで言うなら、あのアルヴァンという人とそっくりな色だ。ただ、アルヴァンとは違い、目の前の男性は随分とこちらを警戒しているようだし、髪の色と似た赤い瞳は、私を射抜くように睨んでいる。
何者、と聞かれても、答えられないんだけど……。
声は出ない。そして、この城の者ならば、恐らくはその事実を知っているはずで、彼の方こそ何者なのかと訝る。
「答えぬか。ならば、ここで捕らえさせてもらおう」
そう、言い放った男性は、腰に提げていた剣を抜き放つ。
っ!?
当然のことながら、私は目の前で本物の剣を突きつけられることなど初めてだ。
剣を見るとしても、せいぜいテレビの中か、博物館といった場所でしか見たことなどない。こんな、命の危険を感じるような場面は想定外だ。
こいつらは……勝手に召喚しておいて、私の大切な声まで奪っておいて、最後には、命まで奪うつもり……?
そう考えると、胸が苦しくなると同時に、あまりの理不尽に頭が沸騰する。
(殺すつもりなら、最初から喚ばなければ良かったじゃない!)
そうすれば、私はずっと、平和にあの世界で生きていられた。そうすれば、私はこんなに苦しい思いをしなくても済んだ。
「? お前、もしかして声が……?」
絶対に、死んでたまるものかっ。私は、生きて、声を取り戻して、帰るんだ!
そう思った私は、きっと悪くはない。そして、こうして剣を向けられたことで、周りは全員敵なのだと思い込んだことも、その時は仕方のなかったことだ。
「っ、ルヴィ殿下!? 何をっ!」
とにかく、逃げなければ。そう思って機会を伺っていると、周囲を確認してくると言って離れた騎士の一人が声を上げる。
その声に男性が振り向いた直後、私は男性の横をすり抜け、出口に向かって走り出した。
「っ待て!」
「聖女様っ!?」
男性と騎士のそれぞれの慌てる声を聞きながら、それでも私は走る。
運動は、別に得意というわけではないものの、足の速さにだけは自信があった。
ただ、自分がどこを走っているのかなんて、今の私には分からない。
全く知らない世界の、全く知らない土地。しかも、ボロボロではあるものの、本来は敵の侵入を防いだり惑わせたりするための造りを持つ城の中。
そこは例え、外に設けられた菜園だったとしても、城の敷地から出ることは困難を極めた。
いつの間にか、背後に追ってくる人間は居なくなり、私は一人、どことも分からない場所で座り込むこととなった。
「おい、貴様は何者だ? ここは、王族が管理する菜園だぞ?」
振り向けば、そこには真っ赤な髪の男性が一人。髪色だけで言うなら、あのアルヴァンという人とそっくりな色だ。ただ、アルヴァンとは違い、目の前の男性は随分とこちらを警戒しているようだし、髪の色と似た赤い瞳は、私を射抜くように睨んでいる。
何者、と聞かれても、答えられないんだけど……。
声は出ない。そして、この城の者ならば、恐らくはその事実を知っているはずで、彼の方こそ何者なのかと訝る。
「答えぬか。ならば、ここで捕らえさせてもらおう」
そう、言い放った男性は、腰に提げていた剣を抜き放つ。
っ!?
当然のことながら、私は目の前で本物の剣を突きつけられることなど初めてだ。
剣を見るとしても、せいぜいテレビの中か、博物館といった場所でしか見たことなどない。こんな、命の危険を感じるような場面は想定外だ。
こいつらは……勝手に召喚しておいて、私の大切な声まで奪っておいて、最後には、命まで奪うつもり……?
そう考えると、胸が苦しくなると同時に、あまりの理不尽に頭が沸騰する。
(殺すつもりなら、最初から喚ばなければ良かったじゃない!)
そうすれば、私はずっと、平和にあの世界で生きていられた。そうすれば、私はこんなに苦しい思いをしなくても済んだ。
「? お前、もしかして声が……?」
絶対に、死んでたまるものかっ。私は、生きて、声を取り戻して、帰るんだ!
そう思った私は、きっと悪くはない。そして、こうして剣を向けられたことで、周りは全員敵なのだと思い込んだことも、その時は仕方のなかったことだ。
「っ、ルヴィ殿下!? 何をっ!」
とにかく、逃げなければ。そう思って機会を伺っていると、周囲を確認してくると言って離れた騎士の一人が声を上げる。
その声に男性が振り向いた直後、私は男性の横をすり抜け、出口に向かって走り出した。
「っ待て!」
「聖女様っ!?」
男性と騎士のそれぞれの慌てる声を聞きながら、それでも私は走る。
運動は、別に得意というわけではないものの、足の速さにだけは自信があった。
ただ、自分がどこを走っているのかなんて、今の私には分からない。
全く知らない世界の、全く知らない土地。しかも、ボロボロではあるものの、本来は敵の侵入を防いだり惑わせたりするための造りを持つ城の中。
そこは例え、外に設けられた菜園だったとしても、城の敷地から出ることは困難を極めた。
いつの間にか、背後に追ってくる人間は居なくなり、私は一人、どことも分からない場所で座り込むこととなった。
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