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仲間探し

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 結論から言おう、戦闘技術向上の項目にポイントを振った効果はめちゃくちゃあった。

 目の前に佇む木製版『理科室の人体模型』。
 訓練用のナイフを握り、その表面に記された白い点を突いていく。

 右に左に素早いステップワークを見せた俺が、全ての点を突き終わると、

「はーい、そこまで」
背後からストップウォッチを手にした玲香さんが声を掛けてきた。

「今のタイムは、――28秒。新記録だね。おめでとう」
「おお、やっと30秒切れた」

 結果を聞き、柄にもなくガッツポーズをする。
それを見て玲香さんが嬉しそうに目を細めた。

「それにしても、君の上達速度は凄いね。始めて二週間でここまで出来るようになる人は初めて見たよ」
「はは。それはきっと、玲香さんの指導が良いからですよ。いつもありがとうございます」
「もー、そうやってすぐ調子良いこと言うんだから。そんなに褒めても何も出ないよ?」
「あら、それは残念です」

 フフフと顔を見合わせた俺と玲香さんが笑い合っていると、

「――小僧、随分と楽しそうだな」
不意に後ろから頭を鷲掴みにされた。

 恐る恐る背後を振り向くと、今日も今日とてサングラスを掛けた巨人がそこに立っている。

このオヤジ、他に登場パターンないのかよ……。

「東雲会長、何用でございましょうか?」
 死んだ魚のような目をした俺がぎこちなく尋ねると、腕を組んだ会長が大きく頷きながら言った。

「小僧、今日の貴様の動き――合格だ」

「……ん? 合格?」
 何を言ってるか分からないという顔をする俺の前で、会長が更に言葉を続ける。

「今の貴様の身のこなしなら十分ダンジョンで通用すると言っているのだ。そろそろ、覚醒値を上げ始めてもいい頃合いだ」
「マジですか!?」

 思わず大声を上げる俺に、

「だが、しかーし! その前に――」
言い聞かせるように東雲会長が呟いた。

「仲間を見つけろ。ダンジョンに一人で潜るのと、パーティで潜るのでは死亡率が全然違うからな」

 ……な、なまか?





「え? 大手で戦闘訓練受けたことないの? ――失格」

「元サポーターで現フリーターか ――アウト」

「最終学歴は高校中退? ――ダメだね」

「うち、新人は採ってないから、ごめんね」

 うーむ。
 安物のリクルートスーツを着た俺は、一人炎天下の街中で立ち尽くしていた。
 手元の地図には赤ペンで無数の×が記されている。

 あれ、なんか全然相手にされないんだけど……?

 東雲会長に仲間を作るように言われた俺は、ここ数日、都内にある“ハンター事務所”の面接を受けて回っていた。

 ハンター事務所とは、その名の通りハンターが所属する事務所だ。
 所属することで、ダンジョン探索時に多くのサポートを受けられる。
 代表的なものを例として挙げると、武器の供給や内部施設の無料解放、サポーターの手配などだ。

 その中には当然、スキル相性がいいメンバーとのパーティ構築も含まれており、ぜひ所属したいと思ったのだが、殆ど門前払いされるような結果に終わった。
 思ったより競争率が高いらしい。

 
 ちくしょう、さっきのところが都内最後の事務所だったのによぉ。全然ダメじゃねーか……。

 首元のネクタイを緩め、トボトボと歩き出す。
 ここ数日で得たものと言えば、慣れない革靴で出来た靴擦れだけだ。

「ああ、くだらね……帰ろ」



 台所の水道水をコップに注ぎ、一気に喉へ流し込む。
 八月の炎天下を歩き回り、疲れ切った体に冷たい水がじわりと染み込んだ。

「ああ、生き返るー」

 ふぅーと長く息を吐き出すと、叩き付けるようにコップを置き、畳部屋へと移動する。
 俺のアパートの部屋には、エアコンがない。

 今の季節の昼下がり、特に13時から14時の間は地獄だ。

 あぢぃ~。

 扇風機を回し、しばらく涼む。
 やがて、すっかり汗も乾いた頃、

「いつまでもこうしてても仕方ないか……」
ポケットからスマホを取り出し、一つのアプリを起動した。

 共に戦う仲間を見つける方法は何も、事務所へ所属することだけではない。
 次に俺の打った手が――マッチングアプリだ。

 マッチングアプリと言っても別に、彼女が欲しい訳ではない。
 いや、欲しいと言えば欲しいのだが、今回使うのはあくまで“ハンター専用マッチングアプリ”。

 利用者それぞれが、スキルのタイプやこれまでの実績、相手に求める条件などを入力して簡単なプロフィールを作り、気になった相手がいたらメッセージでやりとりするという単純なシステムだ。

「ええー、スキルタイプは一つしか設定できないのか。攻撃? 回復? まあ、攻撃でいいか。実績はなし。相手に求める条件は、怒りっぽくない人……とか?」
 ブツブツと呟きながら情報を入力していく。

 まあ、こんな感じでいいか。
 一通りの入力を終えた俺が完了ボタンを押すと、

ポロリン♪
さっそく一件のメッセージが届いた。

「おっ、幸先いいな」
どれどれ~とメッセージを開き、言葉を失う。

『お前みたいな雑魚と組む奴いるわけねーだろゴミwwwwwwwwwwwwwwww怒りっぽくない人とかキモwwwwwww陰キャ感wwwwwwwwwww』
「……」

 無言でアプリを終了し、流れるように消去した。

 くそ、だからマッチングアプリとか利用したくなかったんだよ。珍しく人がやる気に成ってるっていうのに、嫌な気持ちにさせやがって……。

「アーッッッ!!!」
 短く奇声を発し、仰向けで床に横たわる。

 ダメだ。もう今日一日何もできん……。

 力なくスマホを掲げ、現実逃避でゲームに興じる。

 プレイするのは勿論、グリフォンクエストだ。

―暗黒騎士シルヴィア―
『勇者よ、よくぞ我が城へ参った。存分に果たし合いをしようぞ』
 ドット絵の黒騎士が両手を広げて言う。

 現在の俺のレベルは66。リリースから一ヶ月ほど掛けて、遂に一面のボスへ到達していた。

『エアバレッド』→『アイアンボディ』→『フレイムウォール』
 スキルを惜しげも無く使い、敵を殴りまくる。

 グリフォンクエストは各ステージに一体ずついる魔王ボスを倒して回るゲームだ。
 魔王を倒すことで始めて次のステージへ進むことができる。

 いい加減、草原ステージも飽きてきたし、先に進ませて貰うぜ――。

 ゴリゴリと敵の体力を削り、最後にトドメの『サンダースラッシュ』を使用した。

 剣先から飛んだ青い斬撃が、黒騎士を地面に沈める。

「よーし、勝った!」
 そのタイミングで自分のHPを見ると、かなりギリギリだった。

 あっぶねー。余裕を持ってレベリングしておいて良かったぜ。
 ホッと安堵の息を吐き、ストーリーを進める。

―暗黒騎士シルヴィア―
『くっ、まさか剣を極めたこの私が負けるとは……貴様が真の王だ……』
 口元から赤い血のエフェクトを流した黒騎士が粒子になって消えた。

 直後に、
――暗黒騎士シルヴィアが仲間に加わりました。
画面上にデカデカと文字が表示される。

「おお、やっと仲間が出来たか。これでこの先の攻略が少し楽になるな」

 これは特別驚く事ではない。グリフォンクエストは元々、倒した魔王を仲間にしていくゲームだからだ。
 コンシューマ版経験者の俺からしたら当然の事と言える。

「現実の世界でもこれくらいサクッと仲間ができたらいいんだけどなぁ」

 ボヤきつつも、パーティ編成画面を開き、今獲得したばかりの“暗黒騎士シルヴィア”をメンバーに加える。

 その瞬間、コンシューマ版経験者の俺でも予想できないまさかの出来事が起きた。

 ピカリッ!
 突如、凄まじい轟音と共に真横の地面が爆発する。

「うお、何だ!?」

 部屋一面に広がった眩い光が収まると、先程まで誰も居なかった真横の空間に一つの人影が立っていた。

 漆黒の鎧を纏った細身の女騎士。その硝子のような銀眼で真っ直ぐこちらを射止めて口を開く。

「――王よ。私をお呼びですか?」


 もしかして……暗黒騎士シルヴィア?
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