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SNS調査
しおりを挟む――ええっ、グリフォンクエストっと。
SNSでアプリの評判を調べる。
消費者の反応は良くも悪くもないといったところ。
俺のように頭の中で声が聞こえたなどの書き込みはない。
まあ、それはそうか……。
もし本当に俺がスキルに目覚めたのだとしても、同じ条件で他の人も目覚める訳ではない。
結局、覚醒したかどうか確かめるには、実際にスキルを使ってみるしかないのだ。
現在、俺は深夜のコンビニバイト中。
時刻は午前2時を回っていた。
客足が途絶えた店内で、完全に暇を持て余している。
特にやることもないし、スキルでも試してみるか。
思い立ったが吉日だ。
そそくさとスマホをポケットにしまい、バックヤードから表へ戻った。
そのまま、ゆっくりと店内を徘徊する。
俺が会得したであろうスキルは“サンダースラッシュ”。
名前的に剣技の類いだと思われる。
そもそも、アナウンスが聞こえた瞬間、スマホ画面に『剣技スキル』と書いてあった気がする。
「剣、剣、剣――」
剣の替わりになるものを探して店内を物色していると、入口付近にビニール傘が置いてあるのを見つけた。
その内の一本を手に取り、ブンブンと振ってみる。
おおっ、これはちょうど良さそうだ。
両手で傘の柄を掴み、胸の前で構えてみた。
そのまま、上段に振りかぶり、
「――サンダースラァァァッシュ!」
一気に振り下ろす。
ブンッ。
傘が空を切る音が閑散とした店内に響いた。
しかし、特別な事は何も起こらない。
あれ? やり方を間違えたかな……。
そう思った俺が手元に顔を近づけた瞬間、
ボォッ!
傘が内側から火を噴いた。
「うおっ!」
慌てて傘を放り投げ、足で踏みつける。
そのまま、何度も踏みつけていると、やがて火が消えた。
危ねぇ……。
恐る恐る傘を持ち上げ、床の表面を確認する。
幸いにも、焦げ跡が残った様子はない。
チラリと天井を見上げると、離れた位置にある火災報知器が目に入った。
もう少し横にズレていたら反応してしまっていただろう。
まさか、時間差で発火するとは。
一度、ゲームの方でオリジナルのスキルを確認した方がいいかもしれないな。
そう思い、焦げた傘を見つめる。
こりゃ、流石に買い取らないとダメか――。
◇
「おはようございます」
「ども」
俺の一日は決まって隣人さんとの挨拶から始まる。
まあ、夜通し働いていたので、始まるも何もないのだが。
夜勤明けの疲れた目に朝日がやたらと眩しく感じる。
早朝のこの時間に帰宅する度、やはり人間は太陽の下で生きるべきだと実感できた。
「ただいまー」
畳の上に鞄を下ろすと、早速スマホアプリを起動する。
立ち上げたのは勿論、グリフォンクエスト。
データをロードし、さっそく冒険を再開した。
ドット絵の勇者が画面内をちょろちょろと動き回り、ストーリーが展開して行く。
“始まりの村”を飛び出した俺は、話の流れに従い、近くの草むらでレベル上げをすることにした。
タララララララー♪
低い効果音と共にさっそく魔物と遭遇する。
――ツノウサギ。
名前の通り角の生えた可愛らしい兎だ。
BGMに合わせて画面上をピョコピョコと跳ね回っている。
『剣技』のコマンドを選択した俺は、ツノウサギ相手に早速サンダースラッシュを試してみる事にした。
→『サンダースラッシュ』。
バチバチ。
技名をタップすると、勇者が大きく剣を振りかぶる。
直後に、その剣先が青く帯電した。
そのまま、
『サンダースラァァァッシュ!!!』
叫び声と共に一気に振り下ろす。
すると、剣の腹から青白い斬撃が飛び出し、ツノウサギを真っ二つに切り裂いた。
いや、飛び技かい。思ってたのと全然違うじゃねーか……。
左上のSPゲージがゼロになり、『YOU WIN!!!』の文字がデカデカと表示される。
“SPゲージ”は“スキルポイントゲージ”の略だ
どうやら、サンダースラッシュは気軽に乱発できるようなスキルではないらしい。
まあ、まだ俺自身がLv.2なのでこのスキルに限った話ではないのかもしれないが……。
ペコペコと画面をタップした俺が、その後もツノウサギを狩っていると、
レベルアップ!!! 『Lv.2』→『Lv.3』
スマホから煌びやかなファンファーレが鳴り響いた。
それと同時に、
『レベルアップゥゥゥー♪』
頭の中で陽気な声が響く。
更に、直前まで全身に重くのしかかっていた眠気や疲れがなくなった気がした。
ん? なんだ? 俺のスキルって……サンダースラッシュじゃないのか?
試しに立ち上がり、その場で飛び跳ねてみる。
すると、嘘みたいに体が軽かった。
「こりゃ、勘違いとか思い込みじゃなさそうだな」
頭の中を整理する為、これまで起こった気になる事象をスマホのメモアプリに書き出してみる。
1.ゲーム内でサンダースラッシュを習得したら、現実でも使えるようになった(おそらく)。
使用した得物が傘だった為、斬撃は確認できなかったが、突然発火した事からほぼ習得したとみて間違いないだろう。
2.レベルアップしたら全身の疲れが吹っ飛んだ。
今思い返すと、初めてレベルアップした際も眠気が消えていた気がする。
当時は大量にアドレナリンが分泌されて疲れを感じなくなっているのだと思っていたが、実際は疲れそのものが吹き飛んでいたのかもしれない。
―タイガ―
Lv.3 勇者
HP 183
SP 44
攻撃力 23
防御力 36
魔攻力 11
魔防力 14
俊敏性 15
【サンダースラッシュ】
振り分け可能Pt.8 →詳細ステータスへ
基本ステータス画面を開き、ジーッと睨めっこする。
んー、なんだ? ……ゲーム内での事象が現実にも反映されている?
ゲーム内でサンダースラッシュを獲得したら、現実でも使えるようになった。
そして、レベルアップには“ステータス上昇効果”と“HP&SP全快効果”がある。
――後者のHP全快効果で疲れが吹き飛んだか?
様々な可能性が脳内を駆け巡るが、結論は出ない。
結論を下すにはあまりにもデータが少なすぎる。
「もし、ステータス上昇効果が反映されるのなら相当強いスキルだけどなぁ」
ぼやきながらもバシバシと敵を狩っていった。
『レベルアップゥゥゥー♪』
俺のスキルにはまだ分からない事が多い。
ただ一つ確かな事は、
――このスキルのお陰で今、かつて無いほどわくわくしているという事。
久しぶりに生の実感を得られた気がする。
そういえば、楽しいってこんな感覚だったなぁ……。
ここ数年、仕事漬け、バイト漬けですっかり忘れていた。
ニマニマとする俺の脳内で、朗らかなアナウンスが響いた。
『レベルアップゥゥゥー♪』
『あなたはスキル――“ヒール”を覚えました』
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