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スキル覚醒
しおりを挟む『グリフォンクエスト』。
中世ヨーロッパ風の“剣と魔法の世界”を舞台とした冒険RPG。
自身が勇者となり、魔王討伐を目指す。
チャララララッチャラ~♪
アプリを起動すると、陽気な効果音と共にタイトルロゴが表示された。
連打してスキップすると、ドット絵の勇者が表示される。
――主人公に名前を付けて下さい。
ええっと、『タイガ』っと。
こういう主人公の名前を決めれる系のゲームでは、俺は基本的に本名でプレイする。
これは自身と同じ名前のキャラで冒険した方が没入感が高くなるから――ではない。
変に凝らず、ストレートに本名を付けるという行為が、イケてると思っているからだ。
―世界の女神―
『お目覚めですか、勇者タイガ。今からあなたに魔を祓う力を授けます。さあ、剣を構えて下さい』
“ゲームスタート”をタップすると、画面が暗転し、金髪の美女が画面横に表示される。
続けて、主人公が開けた草原ステージに放り出された。
タララララララー♪
低い効果音と共には緑の子鬼が目の前に現れる。
――ゴブリン。
それと同時に主人公の胴元に四つの選択肢が浮かび上がった。
『剣技』 『魔法』
『回復』 『逃走』
……なるほど。戦闘チュートリアルか。
少ない説明で状況を理解する。
グリフィンクエストの戦闘はターン制のコマンド選択システムだ。
ガイド役の女神の指示に従い、
『剣技』→『斬り付ける』の順番でコマンドを選択する。
すると、画面内の勇者が敵を斬り付けた。
ズシャッ。バシュッ。
緑の血を示すエフェクトが舞い、子鬼が地面に倒れ込む。
―世界の女神―
『やった、やったー! 大勝利! モンスターを倒すと経験値が貰えるよ! たくさん経験値を稼いでレベルアップしようー!」
チャリンチャリン。コインが落ちるような音と共に左上の経験値バーが振り切った。
レベルアップ!!!
『Lv.1』→『Lv.2』
デカデカと文字が表示され、ファンファーレが鳴り響く。
どうやらこれでチュートリアルは終わりらしい。
ふぅー、やっと終わったか……。
アプリ版だからだろうか? 説明が多く、意外と時間がかかった。
流石にこれ以上続けるのはマズいな。貫徹はキツいし、今日はここまでにしておこう。
そう思った瞬間、信じられないことが起こる。
『レベルアップゥゥゥー♪』
突然、陽気な声が響いたのだ。
――頭の中で。
「ん?」
何が起こったか分からず、部屋中をキョロキョロと見回した。
勿論、部屋の中には誰も居ない。
改めてスマホの画面を見ると、チュートリアルを終えた主人公が“始まりの村”の入口に立っている。
勇者タイガ Lv.2。
わからん。何が起こったか全く分からん……。
茫然自失とする俺の目の前で、新たなメッセージが画面に表示された。
「ゲームリリースキャンペーン!!!」
――剣技スキル【サンダースラッシュ】プレゼント!
直後に、今度は大人しめの声が頭の中で響く。
『あなたはスキル――“サンダースラッシュ”を覚えました』
……え?
◇
「私さぁ。最近、ダイエットに凝ってるんだよねー。食事制限しながら運動みたいな?」
「はぁ……」
「やっぱさ、食事の制限も大事だけど、結局肝は運動なのよ。でもさ、ウォーキングやランニングって長続きしないじゃん?」
「まぁ……」
「そこでさ、私なりに長続きしない理由を考えてみたわけ。やっぱさ、最大の原因は外へ出ることのハードルの高さだと思うのよね」
「ほぉ……」
「そこで、私が始めたのが踏み台昇降。サウナスーツ着込んでさ、ドラマを見ながら台を上り下りするの。そしたらさ、なんと一ヶ月で3キロも痩せちゃった! 凄くない?」
「へぇ……」
「場所も取らないし、お金も掛からない。めっちゃくちゃおすすめだよ!」
「ふむ……」
「大河くんさ」
「はぁ……」
「さっきから私の話聞いてる?」
「……」
「……」
「……」
「――おおおおおおおおおおおいっ!!!」
突然、耳元で叫ばれ、飛び上がる。
「うおっ! 葉月先輩! そんな怒ってどうしたんですか!」
「どうしたんですかじゃなあああああーい! さっきからずーっと喋ってるんですけど!!!」
左を振り向くと、エプロン姿の細身女性が半目でこちらを睨んでいた。
透明感のある黒髪ショートボブの美人。
形のいい眉を怒りでピクピクと揺らしている。
彼女は“葉月 綾”先輩。
俺の二歳年上で、気の置けないバイト仲間だ。
ここは『居酒屋こころ』。
東京の僻地にある大衆居酒屋で、俺の夕方からてっぺんまでのバイト先。
立地が悪く、客が殆ど来ない為、葉月先輩やオーナーさんとの世間話が主な仕事となってしまっている。
現に今も誰一人として客がいない。
こんなんで店の経営は大丈夫なのか? と思わないでもないが、なんでも、オーナーさんがここら一帯の地主らしく、収支は全く気にしていないそうだ。
店の経営はあくまで趣味。
これだけ楽なのに給料は高いので手放せない。
因みに、今日オーナーさんは不在だ。
店のことは基本的に葉月先輩が全て出来るので問題はない。
「なーんかさ、今日、大河くん元気ないよね」
「えっ、そうですか?」
「うん。心ここに在らずというか、ぼぉーっとしてさ。私の話も全然聞いてないし。何か悩み事でもあるの?」
葉月先輩からの質問に、一瞬返事に窮する。
うーむ、悩みって言う訳ではないんだけどな……。
――あなたはスキル“サンダースラッシュ”を覚えました。
脳内でアナウンスが聞こえたあの後、結局一睡もできなかった。
しかし、絶えず脳からアドレナリンが分泌されているからか不思議と疲れはない。
あれはいったい何だったのか。自分の身に何が起こったのか。
それだけをずっと考えていた。
そして、ある一つの結論に至る。
「葉月先輩、大事な話があります――」
「な、なに? もしかして告白? ちょっと心の準備がまだ……」
ゴクリと唾を飲む葉月先輩の目を真っ直ぐ見つめて告げた。
「実は俺――スキルに覚醒したかもしれません」
一瞬でシンと静まり返る店内。
次に聞こえてきた音は、
「ま……」
ま?
「紛らわしいわぁぁぁ!!!」
葉月先輩の怒号だった。
バチンッ!!!
思い切り頬を張られ、派手に地面を転がる。
「うげぇぇぇ!!!」
な、なんで俺殴られたの……?
愕然とする俺に、
「言い方ってものがあるでしょ! 大体、スキル覚醒なんてイマドキ珍しくもない! 期待して損した!」
散々文句を言った葉月先輩が肩を怒らせて離れて行った。
「……」
個人的には大ニュースだったのだが。
女心とは何とも難しいな……。
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