上 下
2 / 14

スキル覚醒

しおりを挟む

『グリフォンクエスト』。

 中世ヨーロッパ風の“剣と魔法の世界”を舞台とした冒険RPG。
 自身が勇者となり、魔王討伐を目指す。

 チャララララッチャラ~♪

 アプリを起動すると、陽気な効果音と共にタイトルロゴが表示された。

 連打してスキップすると、ドット絵の勇者が表示される。

――主人公に名前を付けて下さい。

 ええっと、『タイガ』っと。

 こういう主人公の名前を決めれる系のゲームでは、俺は基本的に本名でプレイする。
 これは自身と同じ名前のキャラで冒険した方が没入感が高くなるから――ではない。

 変に凝らず、ストレートに本名を付けるという行為が、イケてると思っているからだ。


―世界の女神―
『お目覚めですか、勇者タイガ。今からあなたに魔を祓う力を授けます。さあ、剣を構えて下さい』

 “ゲームスタート”をタップすると、画面が暗転し、金髪の美女が画面横に表示される。

 続けて、主人公が開けた草原ステージに放り出された。

 タララララララー♪

 低い効果音と共には緑の子鬼が目の前に現れる。
――ゴブリン。

 それと同時に主人公の胴元に四つの選択肢が浮かび上がった。

『剣技』 『魔法』
『回復』 『逃走』


 ……なるほど。戦闘チュートリアルか。

 少ない説明で状況を理解する。

 グリフィンクエストの戦闘はターン制のコマンド選択システムだ。

 ガイド役の女神の指示に従い、

『剣技』→『斬り付ける』の順番でコマンドを選択する。

 すると、画面内の勇者が敵を斬り付けた。

 ズシャッ。バシュッ。
緑の血を示すエフェクトが舞い、子鬼が地面に倒れ込む。

―世界の女神―
『やった、やったー! 大勝利! モンスターを倒すと経験値が貰えるよ! たくさん経験値を稼いでレベルアップしようー!」

 チャリンチャリン。コインが落ちるような音と共に左上の経験値バーが振り切った。

 レベルアップ!!!

『Lv.1』→『Lv.2』

 デカデカと文字が表示され、ファンファーレが鳴り響く。

 どうやらこれでチュートリアルは終わりらしい。

 ふぅー、やっと終わったか……。

 アプリ版だからだろうか? 説明が多く、意外と時間がかかった。

 流石にこれ以上続けるのはマズいな。貫徹はキツいし、今日はここまでにしておこう。

 そう思った瞬間、信じられないことが起こる。

『レベルアップゥゥゥー♪』
 突然、陽気な声が響いたのだ。

――頭の中で。

「ん?」

 何が起こったか分からず、部屋中をキョロキョロと見回した。

 勿論、部屋の中には誰も居ない。

 改めてスマホの画面を見ると、チュートリアルを終えた主人公が“始まりの村”の入口に立っている。

 勇者タイガ Lv.2。

 わからん。何が起こったか全く分からん……。

 茫然自失とする俺の目の前で、新たなメッセージが画面に表示された。

「ゲームリリースキャンペーン!!!」
――剣技スキル【サンダースラッシュ】プレゼント!

 直後に、今度は大人しめの声が頭の中で響く。


『あなたはスキル――“サンダースラッシュ”を覚えました』

 ……え?



「私さぁ。最近、ダイエットに凝ってるんだよねー。食事制限しながら運動みたいな?」
「はぁ……」
「やっぱさ、食事の制限も大事だけど、結局肝は運動なのよ。でもさ、ウォーキングやランニングって長続きしないじゃん?」
「まぁ……」
「そこでさ、私なりに長続きしない理由を考えてみたわけ。やっぱさ、最大の原因は外へ出ることのハードルの高さだと思うのよね」
「ほぉ……」
「そこで、私が始めたのが踏み台昇降。サウナスーツ着込んでさ、ドラマを見ながら台を上り下りするの。そしたらさ、なんと一ヶ月で3キロも痩せちゃった! 凄くない?」
「へぇ……」
「場所も取らないし、お金も掛からない。めっちゃくちゃおすすめだよ!」
「ふむ……」
「大河くんさ」
「はぁ……」
「さっきから私の話聞いてる?」
「……」
「……」
「……」
「――おおおおおおおおおおおいっ!!!」

 突然、耳元で叫ばれ、飛び上がる。

「うおっ! 葉月先輩! そんな怒ってどうしたんですか!」
「どうしたんですかじゃなあああああーい! さっきからずーっと喋ってるんですけど!!!」

 左を振り向くと、エプロン姿の細身女性が半目でこちらを睨んでいた。
 透明感のある黒髪ショートボブの美人。
 形のいい眉を怒りでピクピクと揺らしている。

 彼女は“葉月 綾”先輩。
 俺の二歳年上で、気の置けないバイト仲間だ。

 ここは『居酒屋こころ』。
 東京の僻地にある大衆居酒屋で、俺の夕方からてっぺんまでのバイト先。

 立地が悪く、客が殆ど来ない為、葉月先輩やオーナーさんとの世間話が主な仕事となってしまっている。
 現に今も誰一人として客がいない。

 こんなんで店の経営は大丈夫なのか? と思わないでもないが、なんでも、オーナーさんがここら一帯の地主らしく、収支は全く気にしていないそうだ。

 店の経営はあくまで趣味。
 これだけ楽なのに給料は高いので手放せない。

 因みに、今日オーナーさんは不在だ。

 店のことは基本的に葉月先輩が全て出来るので問題はない。


「なーんかさ、今日、大河くん元気ないよね」
「えっ、そうですか?」
「うん。心ここに在らずというか、ぼぉーっとしてさ。私の話も全然聞いてないし。何か悩み事でもあるの?」
 葉月先輩からの質問に、一瞬返事に窮する。

 うーむ、悩みって言う訳ではないんだけどな……。

――あなたはスキル“サンダースラッシュ”を覚えました。

 脳内でアナウンスが聞こえたあの後、結局一睡もできなかった。
 しかし、絶えず脳からアドレナリンが分泌されているからか不思議と疲れはない。

 あれはいったい何だったのか。自分の身に何が起こったのか。
 それだけをずっと考えていた。

 そして、ある一つの結論に至る。


「葉月先輩、大事な話があります――」
「な、なに? もしかして告白? ちょっと心の準備がまだ……」

 ゴクリと唾を飲む葉月先輩の目を真っ直ぐ見つめて告げた。

「実は俺――スキルに覚醒したかもしれません」

 一瞬でシンと静まり返る店内。
 次に聞こえてきた音は、

「ま……」

 ま?

「紛らわしいわぁぁぁ!!!」
葉月先輩の怒号だった。

 バチンッ!!!
 思い切り頬を張られ、派手に地面を転がる。

「うげぇぇぇ!!!」

 な、なんで俺殴られたの……?

 愕然とする俺に、

「言い方ってものがあるでしょ! 大体、スキル覚醒なんてイマドキ珍しくもない! 期待して損した!」
散々文句を言った葉月先輩が肩を怒らせて離れて行った。

「……」

 個人的には大ニュースだったのだが。
 女心とは何とも難しいな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...