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月下の桜(七)
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「……ごめんなさい。私が、由加さんと桜井くんの噂を流したの」
病院の待ち合い室で、あかりの治療と検査が終わるのを待つ間、杉田がぽつぽつと話し始める。
救急センターに人はまばらにいる程度。大声でなければ話していても構わないだろう。
「由加さんの悪い噂を流せば、桜井くんが彼女と別れるかと思って……でも、桜井くん、また別の人と……私、悔しくて」
杉田に怪我はなかった。杉田があかりに正面からぶつかって、杉田を受け止めきれなかったあかりが倒れ、後頭部を地面にぶつけたのだ。
今、脳の画像診断をしているようだ。何もなければ良いのだけど。
「だから、桜井くんの悪い噂を、流して……孤立したところを、励まそうと……」
あかりが乗せられた救急車に、俺と杉田も同乗した。洋介に連絡して、二人の荷物を病院に持ってきてもらっている。合コンもとい同窓会は、お開きになったようだ。まぁ、仕方ない。
「……あの人、月野さんとの写真を桜井くんに送ったのは、私なの」
「なんで、そんなこと」
「羨ましかったの。桜井くん、あんな笑顔、私に向けてくれないから……」
溜め息しか出ない。
杉田はあかりに危害を加えたいわけでも、俺を奪いたいわけでもない、と呟く。ただ、ずっと見ていたのだと知って欲しかったのだそうだ。
「尾行、していたのか?」
「……GPSを、バースデーベアに」
「マジか……」
発信機が仕込まれていたなんて、全然気づかなかった。尾行しなくても居場所がわかるなら、確かに楽だろうけど。
……クリスマスプレゼントを買っているときの動きもバレバレだったということか? それが一番恥ずかしい。
「盗聴は……してないから」
「うん、それ、犯罪だから」
やっていいこととやってはいけないことの境界線が、いつしかあやふやになってしまったのだろう。
杉田は小さく嗚咽を漏らしながら、「好きなの」と再度呟く。
好きだから何をしてもいいわけではない。そんな簡単なこともわからなくなってしまったのか。
「月野さん、私を責めなかった……私が悪いのに」
「そういう人なんだよ」
俺がケータイを壊したときも、そうだった。俺のことを責めなかった。今回は自分が怪我をしたのに、救急車でも震える杉田を気遣って、毛布をかけてあげていた。
そういう人なんだ、あかりは。
「桜井くんは月野さんのことが……好きなの?」
「相手にされてないけどね」
「え?」
「俺の片想い。だから、杉田の気持ちには応えられない。悪いけど」
悪いけど。今は誰も、あかり以上に好きになれそうにない。
「はーい、ありがとうございましたー」
頭に包帯をぐるぐる巻いたあかりがドアをスライドさせて診察室から出てくる。見るからに痛々しそうなのに、声は明るく、俺たちを見て笑顔を浮かべる。
「あかり、大丈夫?」
「うん、大丈夫。頭もかすり傷で血ももう止まったし、脳に異常もないって。良かったぁ」
はぁ、と大きく溜め息を吐き出す。良かった……本当に、良かった。
今、あかりを抱きしめたくて抱きしめたくて仕方がないけど、さすがに杉田の前でそれはできないと自制する。本当はキスまでしたいけど、我慢だ、我慢。
「翔吾くん、心配かけてごめんねぇ。あ、杉田さんも。もう大丈夫ですよ」
「本当にすみませんでした!」
ペコペコと頭を下げる杉田に、笑顔で「大丈夫」を繰り返すあかり。何だか、不思議な光景だ。何しろ、この中の誰一人として、好意の矢印が交わっていない。片想いの軍団だ。とてもおかしな光景だ。
「あー! 杉田! 翔吾!」
あ、もう一人、矢印が増えた。
荷物を持って、洋介が飛んでくる。看護師さんに「走らないでください」と叱られて、早歩きで。
「なに、どうしたの!? お前ら、いきなりいなくなるから!」
「杉田が俺の知り合いにぶつかって怪我させちゃって」
「え、大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ」
洋介があかりを見て、「歳上のお姉さん!?」と驚く。あかりは「あ、はい」と頷く。たぶん、両者とも意味が違うけど、訂正はしない。
杉田は洋介から荷物を受け取って、ついでに俺のリュックからクマを抜き取る。そして、財布の中身を見て頷く。
「月野さんの治療費、私が支払います」
「杉田さん、それは必要ありませんよ。私の不注意ですし」
「いや、不注意なら杉田のほうが酷い。ちゃんと前を見ていなかったんだから」
俺の言葉に、あかりがムッとしている。ほんと、他人に甘いんだから。
「それなら私だって同じだよ。ちゃんと前見て歩いていなかったんだもん」
「杉田は前を見ずに走って、あかりは歩いていた。どっちが危険かはわかるよね。実際、あかりは怪我をしたんだから」
「でも、大丈夫だったよ!」
「結果的には、でしょ。俺は治療費だけでなく慰謝料も必要だと思っているくらいだよ」
「慰謝料? そんなもの、いらないよ」
どちらも引かない。
あかりは、杉田のことを知らない。知らなさすぎる。でも、杉田の悪事を伝えるつもりもない。それは俺と杉田の問題だ。
「あかり、お願いだから」
「やだ、聞かない」
「あかりのわからず屋!」
「翔吾くんのバカ!」
二人でバチバチと火花を散らしていると、不意に笑い声が聞こえた。見ると、洋介と杉田がゲラゲラ笑っている。お腹を抱えて笑っている。
そんなにおかしかったか? おかしいところがあったか?
あかりと顔を見合わせて、きょとんとする。意味がわからない。
「病院ではお静かに!」と看護師さんに叱られるまで、二人は涙を浮かべながら笑っていた。
「ふふ……治療費は、支払わせてください。私、月野さんの知らないところで酷いことをしていたので、償わせてください」
「……でも」
「素直に聞いて、あかり」
ムゥと非難の視線を俺に寄越したあと、あかりはようやく杉田の申し出を受け入れることになる。「お金ならあるのに」とブツブツ言っていたけど、ここにいる全員、たぶん、あかりよりは金持ちだ。
「洋介は杉田を送っていって。俺はあかりを送っていくから」
杉田とあかりが窓口に行っている間に、洋介に指示を出す。洋介は一瞬戸惑いの表情を浮かべたあと、頷いた。
「あかり、さんが、例の歳上のお姉さんなんだよな?」
「ん。かわいいだろ」
「……杉田のほうがかわいい」
それには賛同しかねるな。あかりのほうが絶対かわいくて綺麗だ。杉田のほうが上だなんてことは、絶対にない。
「惚れた弱味だな、お互い。杉田、フラれたばかりだから、慰めてあげろよ」
「え? あ、うん、わかった」
洋介が本当にわかっているのか、俺にはわからないけど。弱っている女につけ入るなら、今しかない。今がベストタイミング。
頑張ってくれ、洋介。ほんと、頑張ってくれ。
◆◇◆◇◆
「同窓会、ごめんね?」
最寄りのコンビニでタクシーを降り、寒空の下、街灯の少ない道を一緒に歩く。さすがに好きな女を一人で家に帰らせることはしたくなかった。
「いいよ。つまんないって言ったでしょ。頭はどう? 痛む?」
「大丈夫。痛み止めももらったし、明日は夕方から予定があるだけだから、ゆっくりできるし」
明日は土曜。大学も休み。
夕方からの予定、とやらは、俺以外のセフレに会う予定なんだろうと簡単に予想がつく。……行かせたくないな。
手を繋ごうとして、やめる。俺の邪な気持ちに気づかれたくはない。
しばらく他愛のない話をしながら歩き、あかりが「ここでいいよ」と立ち止まったのは、三階建ての小さなアパート。一人暮らし向けの物件だ。
「部屋まで送る」
「でも、悪いよ」
「いいよ。あかりが心配だから」
悪いことを考えているのは、俺だから。
階段で二階まで上がり、二〇三号室までついていく。あかりは鍵を開けて、じっと俺を見上げた。
「翔吾くん」
「なに、あかり」
「……帰るの?」
「まさか」
ここで帰る男がいたら、顔を見てみたい。好きな女の部屋の前まで来て、「はい、さよなら」なんて器用な真似、俺にはできない。
月明かりの下、あかりはフッと笑みを浮かべて、ドアを大きく開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、あかりが鍵を閉めたのを確認して、着膨れた体を抱きしめる。抱き心地は最悪だ。アンゴラのコートのほうが絶対いいのに。
「あかり、泊まりたい」
「……いいよ」
「抱きたい」
「ん、いいよ」
「中に出したい」
「出して」
触れた唇は冷たい。けれど、お互いの舌を求め合ううち、唇も頬も熱くなってくる。
ここでするの?
ベッドまで我慢できない。イヤ?
大丈夫。イヤじゃないよ。寒いけど。
囁き合い、キスをしながら、あかりをゆっくり廊下に横たえる。包帯を巻いた頭の下に、俺のジャケットを敷いておく。
オレンジ色の玄関の明かりが、二人をぼんやり照らす。キスだけで上気した頬が、かわいい。
「あかり、好き」
好きだ。本当に、好きだ。
あかりの脳に障害が残ったら、俺が責任を取るつもりでいた。会社は健吾に任せて、俺は静かな場所であかりと二人で暮らそう、と。そんな邪な夢を見た。
だから、あかりの「大丈夫」に、俺は少し失望したのだ。問題がないことを素直に喜べなかった。最低だ。
だから、理解したのだ。
俺の本当の気持ちを。
「あかり」
スーツのボタンも、ブラウスのボタンも、邪魔だ。引きちぎってしまいたい。キャミソールをたくし上げて、ブラのホックを外して、柔らかな双丘に舌を這わせる。
味なんてしないとわかっているのに、あかりの体は全体的に甘い気がする。匂いも甘い。綿菓子? マシュマロ? とにかく、ずっと味わいたいくらいに、彼女の体が好きだ。
硬くなってきた突起を口に含み、舌で転がすと、あかりが切なく喘ぐ。「やっ」とか「あっ」とか、録音しておきたいくらい、かわいい。……録音アプリ、ダウンロードしておくか。
「あかり、汚していい?」
「えっ? スーツ? 血で汚れちゃったし、クリーニングに出すからいいよ」
じゃ、遠慮なく。
汚したいのはスーツではなくて。タイトスカートをたくし上げて、ストッキングの上からショーツに指を滑らせる。布地の上からでも形がわかるくらい、彼女の秘部は目に焼きつけている。ストッキングを少し引っ張って、思い切り、両手で引っ張る。
「ひゃ!?」
ビリリと小気味よい音が聞こえたので、破れたところからそのまま指を侵入させ、ショーツを少しずらしてから、花弁に冷たい中指を滑らせる。
「やっ、あ!」
あかりはすぐ濡れる。面白いくらい、愛液の分泌が多い。
でも、だからと言って、前戯に手を抜きたくはない。おざなりのセックスはしたくない。……我慢できないとき以外は。
「ひあっ!?」
膣内に中指。肉芽に親指。乳首に舌。左手の中指は、あかりの口の中を犯す。あかりは上手に舌を使って俺の中指を舐めてくれる。ちゅうと吸って、唾液を飲み干しながら。
「んんっ」
「そう。声、抑えてね」
玄関先での情事は、声が漏れるリスクが高い。何かで口を塞いでおかないと、嬌声がアパート中に響いてしまう。それはあまり良くない。
「んっ、ふ、ん、んんんっ!!」
「気持ちいいね、あかり。いいよ、イッても」
膣内のいいところは中指が攻め、親指がクリトリスを弾く。そのたびに、あかりはくぐもった嬌声を上げ、体を震わせる。
あかりの目が「挿れて」と訴えてくるけど、無視。硬くなった乳首を堪能する。
本当に、かわいい。
俺の両手と口だけでこんなに乱れてくれるあかりが、かわいくて仕方ない。
キュウと中が締まってきたので、左手はあかりの口から引き抜いて、代わりにキスで嬌声を防ぐ。
左手でベルトを緩め、チャックを下ろして、先走りで濡れすぎている陰茎をスタンバイさせる。
「んっ、ふ、うっ、ん……っ!」
ぐちゅぐちゅとわざと音を立て、あかりに聞かせる。そろそろ限界なのか、あかりは俺の首の後ろに手を回し、ぎゅうと抱きしめてきた。
密着したままイキたいなら、いいよ。いつでも、おいで。
飲み込めなかった唾液が口の端から零れる。あかりの手が、しっかりと俺に巻き付く。
必死で足を閉じようとしているけど、ムダだよ、あかり。イッたらすぐに、挿れてあげるから。
「んっ、ん……あっ! んっく!」
びくん、とあかりの体が震え、膣内が一気に収縮する。中指をキュウキュウと締め付けながら、あかりはその余韻の中にいる。
「ああっ!!」
中指を引き抜いてすぐ、ショーツの脇から肉棒を差し込み、収縮する隘路を一気に進む。あかりの悲鳴は、聞かない。イッたばかりで敏感な膣内を蹂躙する。
まとわりついてくる愛液。収縮を繰り返す膣襞。……気持ちいい。俺もすぐに果ててしまいそうだ。
「あかり、好きだよ」
「しょーご、くっ」
「嘘でいいから、あかりも言って。好きだって」
目を見開いて俺を見上げ、オレンジ色に染まるあかりは、微笑んだ。
「翔吾」
「うん」
「……好き」
限界だった。
その言葉と笑顔だけで、俺は絶頂を迎え、あかりの中に白濁とした精液をぶち撒けた。何度も腰が震え、じわじわと熱が広がっていく。
あかりの中と、外を汚したかった。いや、もっと、汚したい。俺の精液で、唾液で、あかりを汚したい。
「あかり、好きだよ」
「ん、ありがと」
好き、なんかじゃ足りない。
愛してる。あかりを愛している。
本当は、あかりのすべてを愛している。
でも、言わない。言えない。
隠し続けるんだ。ずっと。
「気持ち、良かった」
「そうだね」
「あかりの体が……気持ち良すぎる」
言わない。言わないから、あかり。
心も欲しいだなんて、言わないから。
だから、まだ、そばにいさせて。
まだ、夢を、見させて欲しいんだ。
病院の待ち合い室で、あかりの治療と検査が終わるのを待つ間、杉田がぽつぽつと話し始める。
救急センターに人はまばらにいる程度。大声でなければ話していても構わないだろう。
「由加さんの悪い噂を流せば、桜井くんが彼女と別れるかと思って……でも、桜井くん、また別の人と……私、悔しくて」
杉田に怪我はなかった。杉田があかりに正面からぶつかって、杉田を受け止めきれなかったあかりが倒れ、後頭部を地面にぶつけたのだ。
今、脳の画像診断をしているようだ。何もなければ良いのだけど。
「だから、桜井くんの悪い噂を、流して……孤立したところを、励まそうと……」
あかりが乗せられた救急車に、俺と杉田も同乗した。洋介に連絡して、二人の荷物を病院に持ってきてもらっている。合コンもとい同窓会は、お開きになったようだ。まぁ、仕方ない。
「……あの人、月野さんとの写真を桜井くんに送ったのは、私なの」
「なんで、そんなこと」
「羨ましかったの。桜井くん、あんな笑顔、私に向けてくれないから……」
溜め息しか出ない。
杉田はあかりに危害を加えたいわけでも、俺を奪いたいわけでもない、と呟く。ただ、ずっと見ていたのだと知って欲しかったのだそうだ。
「尾行、していたのか?」
「……GPSを、バースデーベアに」
「マジか……」
発信機が仕込まれていたなんて、全然気づかなかった。尾行しなくても居場所がわかるなら、確かに楽だろうけど。
……クリスマスプレゼントを買っているときの動きもバレバレだったということか? それが一番恥ずかしい。
「盗聴は……してないから」
「うん、それ、犯罪だから」
やっていいこととやってはいけないことの境界線が、いつしかあやふやになってしまったのだろう。
杉田は小さく嗚咽を漏らしながら、「好きなの」と再度呟く。
好きだから何をしてもいいわけではない。そんな簡単なこともわからなくなってしまったのか。
「月野さん、私を責めなかった……私が悪いのに」
「そういう人なんだよ」
俺がケータイを壊したときも、そうだった。俺のことを責めなかった。今回は自分が怪我をしたのに、救急車でも震える杉田を気遣って、毛布をかけてあげていた。
そういう人なんだ、あかりは。
「桜井くんは月野さんのことが……好きなの?」
「相手にされてないけどね」
「え?」
「俺の片想い。だから、杉田の気持ちには応えられない。悪いけど」
悪いけど。今は誰も、あかり以上に好きになれそうにない。
「はーい、ありがとうございましたー」
頭に包帯をぐるぐる巻いたあかりがドアをスライドさせて診察室から出てくる。見るからに痛々しそうなのに、声は明るく、俺たちを見て笑顔を浮かべる。
「あかり、大丈夫?」
「うん、大丈夫。頭もかすり傷で血ももう止まったし、脳に異常もないって。良かったぁ」
はぁ、と大きく溜め息を吐き出す。良かった……本当に、良かった。
今、あかりを抱きしめたくて抱きしめたくて仕方がないけど、さすがに杉田の前でそれはできないと自制する。本当はキスまでしたいけど、我慢だ、我慢。
「翔吾くん、心配かけてごめんねぇ。あ、杉田さんも。もう大丈夫ですよ」
「本当にすみませんでした!」
ペコペコと頭を下げる杉田に、笑顔で「大丈夫」を繰り返すあかり。何だか、不思議な光景だ。何しろ、この中の誰一人として、好意の矢印が交わっていない。片想いの軍団だ。とてもおかしな光景だ。
「あー! 杉田! 翔吾!」
あ、もう一人、矢印が増えた。
荷物を持って、洋介が飛んでくる。看護師さんに「走らないでください」と叱られて、早歩きで。
「なに、どうしたの!? お前ら、いきなりいなくなるから!」
「杉田が俺の知り合いにぶつかって怪我させちゃって」
「え、大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ」
洋介があかりを見て、「歳上のお姉さん!?」と驚く。あかりは「あ、はい」と頷く。たぶん、両者とも意味が違うけど、訂正はしない。
杉田は洋介から荷物を受け取って、ついでに俺のリュックからクマを抜き取る。そして、財布の中身を見て頷く。
「月野さんの治療費、私が支払います」
「杉田さん、それは必要ありませんよ。私の不注意ですし」
「いや、不注意なら杉田のほうが酷い。ちゃんと前を見ていなかったんだから」
俺の言葉に、あかりがムッとしている。ほんと、他人に甘いんだから。
「それなら私だって同じだよ。ちゃんと前見て歩いていなかったんだもん」
「杉田は前を見ずに走って、あかりは歩いていた。どっちが危険かはわかるよね。実際、あかりは怪我をしたんだから」
「でも、大丈夫だったよ!」
「結果的には、でしょ。俺は治療費だけでなく慰謝料も必要だと思っているくらいだよ」
「慰謝料? そんなもの、いらないよ」
どちらも引かない。
あかりは、杉田のことを知らない。知らなさすぎる。でも、杉田の悪事を伝えるつもりもない。それは俺と杉田の問題だ。
「あかり、お願いだから」
「やだ、聞かない」
「あかりのわからず屋!」
「翔吾くんのバカ!」
二人でバチバチと火花を散らしていると、不意に笑い声が聞こえた。見ると、洋介と杉田がゲラゲラ笑っている。お腹を抱えて笑っている。
そんなにおかしかったか? おかしいところがあったか?
あかりと顔を見合わせて、きょとんとする。意味がわからない。
「病院ではお静かに!」と看護師さんに叱られるまで、二人は涙を浮かべながら笑っていた。
「ふふ……治療費は、支払わせてください。私、月野さんの知らないところで酷いことをしていたので、償わせてください」
「……でも」
「素直に聞いて、あかり」
ムゥと非難の視線を俺に寄越したあと、あかりはようやく杉田の申し出を受け入れることになる。「お金ならあるのに」とブツブツ言っていたけど、ここにいる全員、たぶん、あかりよりは金持ちだ。
「洋介は杉田を送っていって。俺はあかりを送っていくから」
杉田とあかりが窓口に行っている間に、洋介に指示を出す。洋介は一瞬戸惑いの表情を浮かべたあと、頷いた。
「あかり、さんが、例の歳上のお姉さんなんだよな?」
「ん。かわいいだろ」
「……杉田のほうがかわいい」
それには賛同しかねるな。あかりのほうが絶対かわいくて綺麗だ。杉田のほうが上だなんてことは、絶対にない。
「惚れた弱味だな、お互い。杉田、フラれたばかりだから、慰めてあげろよ」
「え? あ、うん、わかった」
洋介が本当にわかっているのか、俺にはわからないけど。弱っている女につけ入るなら、今しかない。今がベストタイミング。
頑張ってくれ、洋介。ほんと、頑張ってくれ。
◆◇◆◇◆
「同窓会、ごめんね?」
最寄りのコンビニでタクシーを降り、寒空の下、街灯の少ない道を一緒に歩く。さすがに好きな女を一人で家に帰らせることはしたくなかった。
「いいよ。つまんないって言ったでしょ。頭はどう? 痛む?」
「大丈夫。痛み止めももらったし、明日は夕方から予定があるだけだから、ゆっくりできるし」
明日は土曜。大学も休み。
夕方からの予定、とやらは、俺以外のセフレに会う予定なんだろうと簡単に予想がつく。……行かせたくないな。
手を繋ごうとして、やめる。俺の邪な気持ちに気づかれたくはない。
しばらく他愛のない話をしながら歩き、あかりが「ここでいいよ」と立ち止まったのは、三階建ての小さなアパート。一人暮らし向けの物件だ。
「部屋まで送る」
「でも、悪いよ」
「いいよ。あかりが心配だから」
悪いことを考えているのは、俺だから。
階段で二階まで上がり、二〇三号室までついていく。あかりは鍵を開けて、じっと俺を見上げた。
「翔吾くん」
「なに、あかり」
「……帰るの?」
「まさか」
ここで帰る男がいたら、顔を見てみたい。好きな女の部屋の前まで来て、「はい、さよなら」なんて器用な真似、俺にはできない。
月明かりの下、あかりはフッと笑みを浮かべて、ドアを大きく開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、あかりが鍵を閉めたのを確認して、着膨れた体を抱きしめる。抱き心地は最悪だ。アンゴラのコートのほうが絶対いいのに。
「あかり、泊まりたい」
「……いいよ」
「抱きたい」
「ん、いいよ」
「中に出したい」
「出して」
触れた唇は冷たい。けれど、お互いの舌を求め合ううち、唇も頬も熱くなってくる。
ここでするの?
ベッドまで我慢できない。イヤ?
大丈夫。イヤじゃないよ。寒いけど。
囁き合い、キスをしながら、あかりをゆっくり廊下に横たえる。包帯を巻いた頭の下に、俺のジャケットを敷いておく。
オレンジ色の玄関の明かりが、二人をぼんやり照らす。キスだけで上気した頬が、かわいい。
「あかり、好き」
好きだ。本当に、好きだ。
あかりの脳に障害が残ったら、俺が責任を取るつもりでいた。会社は健吾に任せて、俺は静かな場所であかりと二人で暮らそう、と。そんな邪な夢を見た。
だから、あかりの「大丈夫」に、俺は少し失望したのだ。問題がないことを素直に喜べなかった。最低だ。
だから、理解したのだ。
俺の本当の気持ちを。
「あかり」
スーツのボタンも、ブラウスのボタンも、邪魔だ。引きちぎってしまいたい。キャミソールをたくし上げて、ブラのホックを外して、柔らかな双丘に舌を這わせる。
味なんてしないとわかっているのに、あかりの体は全体的に甘い気がする。匂いも甘い。綿菓子? マシュマロ? とにかく、ずっと味わいたいくらいに、彼女の体が好きだ。
硬くなってきた突起を口に含み、舌で転がすと、あかりが切なく喘ぐ。「やっ」とか「あっ」とか、録音しておきたいくらい、かわいい。……録音アプリ、ダウンロードしておくか。
「あかり、汚していい?」
「えっ? スーツ? 血で汚れちゃったし、クリーニングに出すからいいよ」
じゃ、遠慮なく。
汚したいのはスーツではなくて。タイトスカートをたくし上げて、ストッキングの上からショーツに指を滑らせる。布地の上からでも形がわかるくらい、彼女の秘部は目に焼きつけている。ストッキングを少し引っ張って、思い切り、両手で引っ張る。
「ひゃ!?」
ビリリと小気味よい音が聞こえたので、破れたところからそのまま指を侵入させ、ショーツを少しずらしてから、花弁に冷たい中指を滑らせる。
「やっ、あ!」
あかりはすぐ濡れる。面白いくらい、愛液の分泌が多い。
でも、だからと言って、前戯に手を抜きたくはない。おざなりのセックスはしたくない。……我慢できないとき以外は。
「ひあっ!?」
膣内に中指。肉芽に親指。乳首に舌。左手の中指は、あかりの口の中を犯す。あかりは上手に舌を使って俺の中指を舐めてくれる。ちゅうと吸って、唾液を飲み干しながら。
「んんっ」
「そう。声、抑えてね」
玄関先での情事は、声が漏れるリスクが高い。何かで口を塞いでおかないと、嬌声がアパート中に響いてしまう。それはあまり良くない。
「んっ、ふ、ん、んんんっ!!」
「気持ちいいね、あかり。いいよ、イッても」
膣内のいいところは中指が攻め、親指がクリトリスを弾く。そのたびに、あかりはくぐもった嬌声を上げ、体を震わせる。
あかりの目が「挿れて」と訴えてくるけど、無視。硬くなった乳首を堪能する。
本当に、かわいい。
俺の両手と口だけでこんなに乱れてくれるあかりが、かわいくて仕方ない。
キュウと中が締まってきたので、左手はあかりの口から引き抜いて、代わりにキスで嬌声を防ぐ。
左手でベルトを緩め、チャックを下ろして、先走りで濡れすぎている陰茎をスタンバイさせる。
「んっ、ふ、うっ、ん……っ!」
ぐちゅぐちゅとわざと音を立て、あかりに聞かせる。そろそろ限界なのか、あかりは俺の首の後ろに手を回し、ぎゅうと抱きしめてきた。
密着したままイキたいなら、いいよ。いつでも、おいで。
飲み込めなかった唾液が口の端から零れる。あかりの手が、しっかりと俺に巻き付く。
必死で足を閉じようとしているけど、ムダだよ、あかり。イッたらすぐに、挿れてあげるから。
「んっ、ん……あっ! んっく!」
びくん、とあかりの体が震え、膣内が一気に収縮する。中指をキュウキュウと締め付けながら、あかりはその余韻の中にいる。
「ああっ!!」
中指を引き抜いてすぐ、ショーツの脇から肉棒を差し込み、収縮する隘路を一気に進む。あかりの悲鳴は、聞かない。イッたばかりで敏感な膣内を蹂躙する。
まとわりついてくる愛液。収縮を繰り返す膣襞。……気持ちいい。俺もすぐに果ててしまいそうだ。
「あかり、好きだよ」
「しょーご、くっ」
「嘘でいいから、あかりも言って。好きだって」
目を見開いて俺を見上げ、オレンジ色に染まるあかりは、微笑んだ。
「翔吾」
「うん」
「……好き」
限界だった。
その言葉と笑顔だけで、俺は絶頂を迎え、あかりの中に白濁とした精液をぶち撒けた。何度も腰が震え、じわじわと熱が広がっていく。
あかりの中と、外を汚したかった。いや、もっと、汚したい。俺の精液で、唾液で、あかりを汚したい。
「あかり、好きだよ」
「ん、ありがと」
好き、なんかじゃ足りない。
愛してる。あかりを愛している。
本当は、あかりのすべてを愛している。
でも、言わない。言えない。
隠し続けるんだ。ずっと。
「気持ち、良かった」
「そうだね」
「あかりの体が……気持ち良すぎる」
言わない。言わないから、あかり。
心も欲しいだなんて、言わないから。
だから、まだ、そばにいさせて。
まだ、夢を、見させて欲しいんだ。
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