【R18】月光の誘惑《番外編》

千咲

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月下の桜(三)

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 挿入った瞬間に、由加のものとも他の元カノのものとも違う、とすぐにわかった。ゴムをつけているとかつけていないとかの問題ではない。全く、違う。
 膣内は思った以上に熱く、トロトロのくせに、膣襞がぎゅうぎゅうに締め付けてくる。持っていかれそうになる。元カノのことを思い浮かべなければ、一瞬で昇天していたかもしれない。半分も押し入っていないのに、それはマズい。

「っ、ああっ」

 ブラジャーをポイと投げて、腰を折り、肌を密着させながら、隘路の奥へ、奥へと突き進む。あかりさんの肌は冷たくて気持ちがいい。俺は興奮しすぎていて、汗が出てきた。

「あぁぁっ」

 ぐっと根元まで中に押し入ると、先端が目指していた場所に到達する。亀頭があかりさんの最奥に、ようやく。

「ぜんぶ、挿入ったよ、あかり」
「うん、翔吾の、おっきい」
「あかりが狭いの」

 あぁ、ダメだ。中が気持ち良すぎて動けない。動いたら、出る。不本意だが、やはりセックス以外のことを考えなければ、保たない。
 奥で繋がったまま、あかりさんとキスをする。上の口は唾液にまみれ、下の口は愛液に濡れ……そこに俺の精液を加えて、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜたい。
 緩く腰を揺らすと、一瞬で、昇ってくる。
 ……ダメだ、良すぎる。

「翔吾、いいよ」
「え?」
「イキたい、でしょ?」

 あかりさんの笑顔に、何度も頷く。
 イキたい。出したい。射精したい。
 あなたを、俺の欲望で汚したい。

「おいで、翔吾」
「っ、あ」

 中が急に締まる。搾り取られるくらいに強い収縮に、何も考えられなくなる。

「中にいっぱい、ちょうだい」
「あかりっ!」

 無理だ。抑えられない。
 あかりさんに煽られて、火が点いた。いや、点いていた火に燃料が追加されたのか。
 一気に肉棒を蜜口付近まで引き抜いて、再度奥を目指して膣壁を割り入っていく。襞という襞が擦れ、俺の律動を受け入れる。
 なんて、気持ちのいい交わり――。
 これは、クセになる。

「あっ、ん! あ、ん、んんっ」
「あかり、気持ちい、も、無理」
「んっ、いーよ、あっ、おいでっ」

 中にいっぱい、ちょうだい。
 あかりさんの声が脳内に響く。もう、無理だ。
 速めた抽挿に合わせて、あかりさんが啼く。その甘い声すら、昇り詰めるための道具でしかない。
 高められた射精感に、抗うことはしない。欲望のまま腰を打ち付けて、昇ってきたものをすべて吐き出すだけ。

「イッ……!」

 先端から精液が弾けるように広がり、あかりさんの奥を汚していく。きゅう、と中が締まり、管の中の精液も残らず吸い取るかのように蠕動する。
 何だこれ。
 気持ち良すぎるだろ。
 律動を緩めながら、ゆっくりとあかりさんの中を味わう。彼女も俺の動きに合わせてびくびくと震える。目をぎゅっと閉じて、頬を紅潮させたまま、小さく喘ぐ。たまらなく、かわいい。

「あかり」

 トロンとした表情のあかりさんの頬に、額に、唇にキスをして、ゆっくりと肉棒を引き抜き――引き抜け、ない。

「あかり?」
「まだ、抜かないで」

 いつの間に腰に足を絡めていたのか。気づかなかった。
 二回戦の誘いか? まぁ、できるけど。でも、せっかくヤルなら体の隅々まで舐って、喘がせて、堪能してから、体位を変えたい。
 今はとりあえず、休憩。あかりさんを潰さない程度に体重をかける。腕の中に囲い込んだ彼女に、優しく口付ける。

「……中で出すの、初めて」
「気持ち良かった?」
「気持ち良すぎるよ、生中出し」

 皆そう言うよ、とあかりさんは笑う。皆。皆、かぁ。

「セフレは俺で何人目?」
「今は、三人だよ。翔吾くんが三人目。一番若い、ねぇ」
「へぇ」

 悪びれることもなく答えてくれるあかりさんに、少し胸が痛む。「今」は三人目、ならば累計で何人目なのか……いや、やめよう。他の男のことを気にしていても、仕方がない。
 まぁ、おかげでだいぶ萎えたけど。

「私、中で男の人のが小さくなっていくのを感じるのが好きなの」
「……へえ。やらしいね」
「やらしいかなぁ。あ、次もすぐには抜かないでね」

 次も会ってくれるのか。良かった。イクのが早すぎたし、あかりさんをイカせられなかったし、呆れられたと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。
 恥ずかしながら、たぶん、歴代最速の射精だったと思う。中が良すぎる。名器なのか、相性がいいのか、よくはわからないけど。

 だいぶ萎えてしまった陰茎を引き抜いて、せっかくなので指を挿れてみる。精液がトロリと出てくる卑猥な画を期待して。
 あかりさんは抵抗したけど、足を押さえつけてトロトロの中を引っ掻いた。しかし、俺の求めた白濁液はあかりさんの中からは溢れてこない。肩透かしだ。あれはAVだけの演出なのか?

「あれ? 三日分くらい溜まっていたんだけどなぁ。少なかったかな」
「……奥にたくさん出したから、なかなか下りてこないんじゃない?」
「生中出しの醍醐味が……」
「ま、まぁ、また出してくれれば!」

 ベッドにゴロリと横になって、「また?」とあかりさんに尋ねる。

「また、出していいの?」
「うん、いいよ。若いから回復するの早いでしょ」
「一晩中抱いてもいい?」
「……抱き潰す気?」

 視線と思惑が交錯する。唇も交わって、舌が絡まる。あかりさんとのキス、好きだ。細い体を抱きしめて、女の子特有の柔らかさを堪能する。胸も二の腕もお腹も太腿も、程よく柔らかい。
 ……ダメだ、溺れそう。

「あかりさん、明日、休みなんでしょ?」
「まぁ、ね」
「明後日は?」
「……休み、だけど……いやいや、さすがにそこまでは」
「頑張れる?」

 我ながら、意地悪な質問だと思う。
 俺は頑張れるけど、あかりさんはどうする?
 あかりさんも頑張ってくれる?

「あのね、翔吾くん。さっきも言ったけど、私、マグロが苦手なの」
「うん……?」
「求められるなら、応じなきゃいけないでしょ。ほんとに、もう」

 起き上がったあかりさんが俺の体を跨いで、太腿の上に座る。そして、少しずつ勃ち上がってきていた陰茎に手を添えて、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「……勃ってる」
「若いからね」
「頑張れる?」

 あかりさんの挑戦的な笑みに、乗っからないわけがない。
 触れられたところが熱い。
 あぁ、もっと気持ち良くして。

「もちろん」
「じゃあ、耐えてね」

 何人もセフレを抱える、という事実を、このあと俺は身をもって理解することになる。セフレを全員満足させられるだけの性欲とテクニックを、彼女は持ち合わせていた。その清楚な外見からは全然わからないけど。

 俺の歴代射精最速時間が縮められたのは、言うまでもない。
 ……まったく、誰だよ、あかりさんのスマホにストップウォッチ機能がついてるアラームなんて入れたの。壊れてんじゃねえの? 何だよ、十六秒て。ありえない。もう、絶対壊れてる。

 でも、本当に、サンタクロース、ありがとう。
 ありがとう――。


◆◇◆◇◆


 一緒にシャワーを浴びて、フェラをしてもらって、初めて……飲んでもらって。アダルト番組を見ながら「どの体位が好きか」話していたら、いつの間にか彼女を後ろから犯していて。夜食を食べたあと、じっくり前戯をして、ゆっくり交わって、二人で果てた。
 溺れそう、どころか、俺はあかりさんの体にすっかり溺れている。精液が搾り取られる感覚は、病みつきになる。

 目が覚めたとき、俺の腕枕ですやすや眠っているあかりさんを見て、ホッとした。本当に安心した。
 あぁ、夢ではなかったのだ、と。
 由加と初めてセックスをしたときでさえ、こんな気持ちにはならなかった。そもそも、一回して終わりだったと記憶している。……そんなに詳しくは覚えていない。
 もう、終わったことだ。

「……」

 アラームをセットして充電器に繋いだままの、赤いスマートフォンの通知ランプが点滅している。一瞬だけ迷ったが、指をスライドさせて、現れたメッセージのポップアップを読む。

『スマホに変えたの? 今日と明日はどうす』

 簡素なメッセージ。宮野。【セ】の人か?
 今日と明日はどうする? そういう誘いだろう。
 俺と出会わなければ、あかりさんは彼と会っていたのだろう。会って、キスをして、セックスをして……そういう人だ。行為自体やセフレが複数人いることに、罪悪感なんて感じない、性欲の人。
 まぁ、そのほうが後腐れなく別れることができる。それは、あかりさんの考えでもある。間違いではないと思う。
 俺にとっても、とても都合がいい、人。

 なのに、俺は。
 なんで、こういうことを、しているんだろうな。
 ジャケットに隠しておいた月と星のストラップをあかりさんのスマートフォンにつけ、シャラリと揺れる三日月を見る。うん、似合う。
 なんで、こんなこと、しているんだろうな。本当に。

 熱いシャワーを浴びるために、浴室へ向かう。さすがに冬の朝の浴室はヒヤリと寒い。
 昨夜の泡風呂はいつの間にかなくなり、浴室の底には水が張られている。最初は湯だったのだろう。浴室の扉が開いていたのは、加湿のためだったのか。

 今日、あかりさんと何をしよう。熱いシャワーを浴びながら、思案する。
 とりあえず、あのダサいダウンジャケットより暖かいコートかジャケットを買ってあげよう。アンゴラのコートとか、暖かいと思うけど。
 服も買ってあげたい。スーツだって、あんまりいいやつじゃない。服にあまりお金をかけない様子だから、私服だってそうなのだろう。
 まさか、稼いだ給料はすべてホテル代に消えているわけではないだろうな? ……ありえそうなところが怖い。
 由加には「買わされて」いたものを、自主的に「買ってあげたい」と思っている心境の変化に、俺が一番驚いている。
 ほんと、何なんだ、これは。

「しょーごくん」

 体を洗っている最中に背後から抱きつかれ、驚いて、シャワーをあかりさんの頭上からかけてしまう。

「ひゃー!」
「わっ、あかり、ごめん!」
「いいよ、気にしないで。ふふ、ぶっかけられちゃった」

 そこは怒ってもいいところなのに、あかりさんは気にしない様子でシャワーヘッドを奪って、俺の泡を洗い流してくれる。

「それより、ストラップありがとう! かわいいねぇ、あのストラップ。あと、お風呂暖めてくれてありがとう! 嬉しい!」
「……うん」

 その無邪気な笑顔は、俺だけのものじゃない。

「月野だから、月なの?」
「買ったとき、名前知らなかったよ」
「あ、そうか! 偶然? スゴイねぇ! 翔吾くんは勘がいいんだねぇ」

 シャワーで温められていく白くて柔らかな体も、俺だけのものじゃない。

「翔吾くん」

 俺の名前を呼ぶ唇で、他の男の名前を呼ぶの? キスをするの? 他の男の体を、愛撫するの?

「おはようの、キス、して」

 そうやって、煽って、理性を吹き飛ばして、欲に狂わせて――。

「あかり」

 シャワーヘッドごと、華奢な体を抱きしめて、優しく唇を重ねて。舌を絡めて、唾液を飲んで。
 もう、キスだけじゃ、我慢できない。
 勃ち上がってくる雄の気配に、彼女の前では欲望のままに行動しよう、と思う。何度抱いたって、何度果てたって、彼女はすべて受け入れてくれる。

 ただ一つのルールを守ろう。

 俺は、あかりさんを好きにならない。
 愛してはならない。

 単純かつ明快な、ルール。

「あかり、抱きたい」

 ここで?
 ここで。
 今すぐ?
 もう待てない。

「しょうがないなぁ、もう」

 その笑顔、その声、たまらない。

「じゃあ、いっぱい、犯して」

 いいよ。
 俺、あかりさんになら、堕ちてもいい。
 だから。
 あかりさんも、俺のところに、堕ちてきて。

 俺はずっと地上で、あなたを、待っているから――。


◆◇◆◇◆

 月は桜のもとに堕ちるのか。

 それはまだ、誰にもわからない、未来の話。

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