【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

文字の大きさ
上 下
84 / 91
第三夜

084.聖女とラルス

しおりを挟む
「ラルス! ラルス? 元気だった? ご飯ちゃんと食べてた? つらくなかった? 大丈夫?」

 リヤーフやアールシュと同じように、ラルスを抱きしめたまま、矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。恥ずかしくて顔が見られない。

「イズミ様」
「あっ、あのね、たくさん嘆願書書いたよ! ラルスが追放されませんようにって! エレミアス死ねって! もげろって!」
「イズミ様」
「ラルス、生きてて、生きててよ、お願い。どこででもいいから……生きてて……っ」

 ぎゅうぎゅうとラルスを抱きしめる。顔見たら、絶対キスしたくなる。もっと触れたくなる。だから、離れられない。

「イズミ様、苦し……っ」
「あ、ごめん!」

 あ。
 離れちゃった。目が合っちゃった。相変わらずイケメン。めっちゃ好み。白じゃなくて、紫の服着ているんだ。ねぇ、ちょっと痩せた?
 近づいてくる顔に、迷いが生じる。キスしていいの? こんなところで? めっちゃ偉い人の部屋でキスしてもいいの?

「ラル――」

 一度、優しく頬に触れて、ラルスはわたしの様子を窺う。唇にするかどうか、迷ってる感じ? まぁ、理性的な行動ができなかったから、こうなっているわけだもんなぁ。我慢しなくちゃ。欲に忠実になっちゃいけない。罪を重ねちゃいけない。
 わたしは顎を引いたまま。ラルスも何もしないままソファに座る。隣に座る。対面座位に持ち込まなかったわたしは偉い。めっちゃ偉い。

「嘆願書、読みました。ありがとうございました」
「ど、どういたしまして」
「どうして、あのようなことを?」
「ラルスが好きだから、に、決まってるでしょ」
「……ありがとう、ございます」

 これ、伝わってないね。失敗した! マジ言葉って難しい! 愛してるって言ってもいいものなのかな? それは彼にとっては鎖にならないかな? どう言うのが正解なのかわからない。

「好きよ、ラルス」

 回りくどいことを考えるのは無理。駆け引きとかできない。アールシュの言う通り、ほんと直情型。

「好き」

 ラルスは目を丸くして、困ったように微笑んだ。

「私も好きですよ」
「わたしの『好き』は夫と同じくらい愛してるって意味だよ? ちゃんと伝わってる?」

「愛してる、ですか……」とラルスはしばらく顎に手をやって考えていたけれど、いきなり、顔が真っ赤になった。あ、これ、やっと通じた感じ?

「……あぁ、八人目の夫にしたい、というあの冗談ですか」
「伝わってない! 伝わってないなぁ! もう!」

 困惑したままのラルスの頬をむぎゅと両手で挟み、口づける。

「せ、イズ」
「うるさい」

 舌を挿れ、ラルスに言葉を紡がせない。くぐもった音は聞こえるけれど、意味のない言葉のよう。ラルスはしばらく何かを発していたけれど、徐々に舌を絡ませてきてくれる。
 これは罪になるのだろうか。
 リヤーフは「キスも罪だ!」と言いそうだけれど、ごめんね、止められないんだ。背徳感溢れるキスなのに、すごく満たされている自分がいる。本当にごめん。
 夫たち以外の人とセックスはしないと約束した手前、ラルスと今交わることはできないし、今後は離れ離れになるからどうしようもなくなる。だから、これは、最後のキスだ。最後の告白だ。

「ラルスのことが好き。どうしようもなく好き。夫たちと同じくらい、あなたのことを、愛してる」
「イズミ、さまっ」

 ずるりと背中が滑る。ラルスの顔は、ずっと目の前にある。わたしを見下ろし、泣きそうな顔をしている。抱きしめ合って、キスをする。
 ほんとは衣服が邪魔。裸で抱き合いたいけれど、我慢。我慢するんだ。ちゃんとお別れをするために。

「お願い、生きて。死なないで。わたしのために、生きていて」
「お約束します。あなたのために、生き続けると」
「約束だよ。それから、それから、わたしの役目が終わったら……」

 何十年先の話だろう。わからない。でも、いつか。いつか。

「お願い、わたしを拐いに来て」

 たぶん、もう、それしかない。
 わたしは七人の夫たちを愛している。八人目を増やすことはできない。だから、七人の夫たちに十分に愛を注ぎ、子どもを生んで、子どもたちを育ててから、そのあとで、拐って欲しい。そしたら、夫たちも子どもたちも、納得して許してくれるんじゃないかな。聖女のセカンドライフ、みたいな感じで。

「晩年、魔物に拐われたっていう聖女みたいに。ラルスが拐いに来てよ、わたしを」

 ラルスは困ったように笑ったあと、「拐いに行きます」とキスをしてくれる。

「何年、何十年かかったとしても、あなたを拐いに行きます」
「約束だよ」
「ええ、約束です」

 何度も何度も、キスをする。心変わりをしないよう、互いの気持ちを確かめるかのように。

「手紙、書いてもいい?」
「もちろん。私も書きますね」
「向こうで結婚しちゃダメだよ」
「それ、七人も夫がいるあなたが言いますか?」

 そりゃそうだな、と笑う。でも、違うんだろうなと思ってラルスを見上げる。真っ黒な瞳がわたしだけを映す。
 あの真っ黒な刺繍は、きっとラルスのことを指していたのだと思う。八人目はあなたなんじゃないかな、なんて彼には言わないけれど。もちろん、夫にも言わないけれど。

「ラルス、拐いに来てね」

 それは、呪いの言葉だろうか。それとも、救いになるだろうか。わたしにはわからない。
 ラルスの頬を伝う涙が、キラキラ光って綺麗。袖で拭ってあげて、わたしは笑う。

「しばらくお別れだけど、ずっと待ってるから」
「はい。私もずっと、ずっと、待っています。必ず、拐いに行きます」
「おじいちゃんとおばあちゃんになっているかなぁ? でも、二人きりで結婚式、しようね」
「そうですね。聖樹の下で」

 何度もキスをする。舌を挿れ、唾液を吸い、もっと深くまで繋がりたくても我慢する。誰に気兼ねすることなく裸で抱き合える日まで、我慢。
 ……あぁ、ほんとは欲しいんだけどね! めっちゃセックスしたいんだけどね! でもさすがに、これ以上の罪は重ねられない。自制心、自制心。

「……うぅ、我慢」
「そうですね。抱きたくて仕方ありませんが、また罪を重ねるのは……」

 理性的に我慢できるようになったよ、わたし。それが普通なんだと思うけど! 気持ちいいことを我慢するなんて、ほんとは無理なんだけど!
 でも、ラルスとまた会うためだもの。今はキスだけで我慢する。

「ラルス、もっかい言って。抱きたくて仕方ないって。めっちゃきゅんきゅんする」

 ラルスは笑って、わたしの耳元で囁いてくれる。

「愛しています、イズミ様。あなたが気を失うまで抱きたくて仕方ない」

 体が震える。堪らなく、気持ちいい。
 再会したとき、気を失うまで抱いてくれるってことだよね!? わぁ、めっちゃ待ってる!!

「愛しています、イズミ様」

 ……ありがとう。その言葉だけで、何十年も待てそうだよ。
 でもでも、できれば、早めに迎えに来てくれると嬉しいかな! 出産に耐えられる年齢のうちにね!
 ずっと、待ってるからね。ずっと。


しおりを挟む
script?guid=on
感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...