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第三夜

080.聖女とオーウェン

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「聖女様! ラルス様の判定がっ、出ましたっ!」

 三つ時がすぎ、アールシュがくれたお酒を飲みながら干し肉を食べていたわたしは、トマスの登場に「マジで!?」と立ち上がる。あ、魔物の干し肉、炙ると臭味がなくて割と美味しいんだよね。燻製っぽい、硬いベーコンみたいな感じ。

「ラルスは、どうなるの!?」
「紫の国に強制送還です、追放ではありません!」
「きょうせいそうかん? 生きていられるってこと?」
「はい! 聖職者として、紫の国で……」

 やったぁぁ、と近くにいたテレサに抱きつく。生きていてくれるなら、それだけでいいんだ。会えなくなったとしても、生きているだけで。

「テレサぁぁ、良かったよぉぉ」

 わあわあと泣きながら、テレサにぎゅっと抱きつく。ちょっと迷惑そうな顔をしていたけれど、テレサはわたしを邪険に扱うことはない。「良かったですねぇ」と背中を撫でてくれる。

「それで、強制送還の前にラルスに会うことはできる?」
「できません」
「即答だなぁ。トマスの権限を使って、ちょーっと会うだけなんだけど」
「できません。他の者の結審が終わり、準備ができ次第、出立すると聞いています」

 わかっている。トマスに大きな権限などない。だから、ちょっと聞いてみただけだ。
 仕方ない。ラルスが生きているだけでいいんだもの。どこかで幸せになってくれるのが一番だ。わたしのことも、聖女宮のことも忘れて、幸せになってくれればいい。

「良かった……良かったよぉ」

 本当はそばにいてもらいたかったけど。本当は宮文官のままここにいてもらいたかったけど。それは、やっぱり難しいことなんだろう。
 全然、良くない。
 本当は、全然、良くないんだけどなぁ。
 それ以上を望むのはいけないことなんだろう。それ以上を望むのは、わたしの我が儘だ。
 だから、言い聞かせる。良かったのだ、これで良かったのだ、と。



「強制送還、か」

 オーウェンはラルスの処分を聞いて少し驚いていた。やっぱり結構軽い処分だったみたい。聖女宮から紫の国に帰らされるのは、左遷ってことになるんだろうな。解雇や免職って感じでもなさそうだし。
 エレミアスやレナータの処分はまだ出ていないみたいだけれど、ラルスより処分が軽いんだろうか。エレミアスがお咎めなしだったら、わたし、やっぱり殴りに行かないといけない。

「いや、イズミ殿に実を食べさせようとした聖職者はおそらく重い罪になるだろう」
「えっ、本当?」
「ああ。実際にはイズミ殿が食べなかったため、黒翼地帯への追放は免れるだろうが……それなりの処分が下るだろう」

 そっかぁ、と呟いて、木刀みたいな模造剣を見る。寝室の隅に立てかけてあるそれは、オーウェンが持ってきてくれたもの。大変ありがたい武器だ。
 エレミアスに重い処分が下されるなら、あれで殴りに行くことができなくなっちゃうなぁ。
 わたしは隣に寝転ぶオーウェンの頬にキスをして、ぎゅうと抱きつく。素肌で触れ合えると気持ちいい。
 七日前、彼はわたしが眠っている間、ずっと起きて待っていてくれたんだそうだ。寝顔をずっと見られていたなんて恥ずかしいよねぇ。ほんと、申し訳ない。

「イズミ殿、宮から出るときは必ず自分を呼んでくれ。イーサンを行かせるから」
「はい、ごめんなさい」
「責めているのではない。ただ、イズミ殿に何かあったらと思うと――」

 オーウェンはわたしのほうを向き、唇にそっとキスをしてくれる。

「胸が張り裂けそうになる」

 唇が何度も触れる。優しいキス。焦れて舌を出すと、夫は苦笑して優しく絡ませてくれる。
 オーウェンがわたしを大事にしてくれているのはわかる。壊れ物のように扱ってくれているのもわかる。もうちょっと乱暴にしてもらっても構わないのだけれど、それはきっとオーウェンには難しいんだと思う。

「オーウェン。わたしが目覚めなくて……怖かった?」
「当たり前だ。怖くて怖くて、堪らなかった。もう二度とイズミ殿に会えないのかと思うと……そんなことを考えただけで、狂いそうになった」

 大げさだなぁ、なんて、以前のわたしなら思っていただろう。わたしが死んだって構わない、また聖女を喚び出せばいいじゃん、って。それが世界のためなんだって。
 でも、夫たちにとっては違うんだろう。わたしは聖女だけれど、彼らの妻でもあるのだと知った。彼らにとって、かけがえのない存在であるのだと、知った。

「もう、こんな思いはしたくない。無茶なことはしないでくれ。自分は……イズミ殿を失いたくない」

 オーウェンは優しい。暖かい何かで全身を包んでくれる感じ。たぶん、普通はそれを、愛と呼ぶんだろう。

「オーウェン、ありがと。わたし、オーウェンのことが大好きだよ」

 オーウェンだけじゃなくて、他の六人のことも大好きだ。贅沢かな? 元の世界では絶対にありえないことだもんなぁ。七股になるのかな? そう考えると、すごい贅沢だなぁ。皆イケメンだもの。
 頬に、鼻に、額に、キス。ゆっくりオーウェンを仰向けにさせて、唇にキスをする。鍛え抜かれた体の上に乗っても、夫はびくともしない。胸筋と腹筋、めっちゃ厚いもんね。

「オーウェンはわたしのこと好き?」
「もちろん」
「聖女様じゃなくなっても?」
「そうなったら……嬉しいかもしれない。毎日、他の夫に気兼ねすることなくイズミ殿と過ごすことができる」

 なるほど、そういう考え方もアリか。わたしが聖女じゃなくてただの女になったら、週イチじゃなくて毎日顔を合わせることができるもんなぁ。ただの夫婦として。
 うぅーん、早めに引退ってできるのかな。聖女引退しまーす、夫たちと仲良く暮らしたいでーす、って。まぁ、一緒に暮らしてくれる夫がどれだけいるかわかんないけど。セルゲイなんて理想の足を探しに旅に出ちゃいそうだしなぁ。

「毎日、オーウェンのこれを挿れるのは大変じゃないかなぁ」

 わたしが腹に乗ったときから、お尻に当たる硬いものの存在には気づいている。ピクピクと物欲しそうに動いている。可愛い。

「ま、毎日は……しなくても、大丈夫だ」
「今も? 耐えてる?」
「当たり前だ……あぁ、触ってはいけない。イズミ殿」

 でも、布越しでもわかるくらいはちきれそうだしなぁ。一応、潤滑油も準備してあるし。体も別にしんどいわけじゃない。

「赤の国から、命の実は届けられないの?」
「……届いている」
「わたしに食べさせないの?」

 あ、めっちゃビクッて震えたよ。このまま刺激するだけでイッちゃうかな?

「た、食べてくれるのであれば、きちんと聖樹殿に授かりに行きたい」
「わたしの同意が必要だって考えてるの? オーウェンは本当に優しいんだねぇ」

 口に無理やり突っ込んできたエレミアスとは大違いだ。やっぱり殴りたいな、あいつ。考えるだけでムカムカする。

「自分は……優しくはない。不届き者たちがイズミ殿にした仕打ちを知ったとき、黒翼地帯への追放ですら生ぬるいと思ったくらいだ」

 布の上から手で扱く。尖端が濡れてしまっているのが可愛い。

「好き、オーウェン」

 潤滑油に手を伸ばそうとして、その手をやんわりと止められる。準備万端だから、できればオーウェンのを食べちゃいたいんだけどなぁ。

「ダメかな?」
「いや。それは自分の役目にさせてくれないか」
「一人でできるのに」
「妻の体を準備する楽しみを奪わないでくれ」

 ちょっとゾクってしちゃった。なるほど、準備も夫の楽しみ、だというわけね。オーウェンったら、えっちなんだからー。もー。

「ねぇ、オーウェン。ずっとそばにいてくれる?」

 夫は上体を起こし、わたしに口づける。ちょっとだけ、乱暴に。

「自分たちは夫婦だ。自分はイズミ殿のそばにずっといる。だから、離れていかないでくれ、イズミ殿。そばにいさせてくれないか」

 離れられるわけないじゃん。こんなにわたしを愛してくれて、こんなに立派なモノを挿れてかき回してくれるんだもの。夫がわたしを求めてくれる間は、離れられるわけがない。

「わたしもそばにいさせてね、オーウェン」

 木の器の蓋を開けると、ふわりと香る潤滑油。それだけで欲しくて仕方なくなるんだから、本当に罪作りな巨根だなぁ。


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