【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第三夜

068.聖女とリヤーフ(二)

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 医者が診察をして「まぁ大丈夫でしょう」と帰ったあと、「何が『まぁ』だ」とリヤーフが悪態をつき、疲れた様子のスサンナが柔らかく煮た野菜スープやヨーグルトっぽいものを持ってきてくれる。「食べさせてやる」とリヤーフが言うので、お言葉に甘えることにする。あ、フーフーしてね、それ。熱そうだから。

「スサンナ、テレサは大丈夫?」
「ええ。大丈夫ですよ。少し疲れていたのでしょう。七色の花茶を飲んで、すっかり元気になりましたよ」

 あ、そっか。花がついたから、命の実が子どもが欲しい夫婦に行き渡るだけじゃなくて、疲れた人たちにも花をあげることができるようになったんだ。それは良かった。

「ラルスは? 今日はいないの? レナータは?」

 すると、リヤーフがムッとした表情になり、スサンナは表情を曇らせる。

「お前なぁ、寝室で他の女の話をするなと自分から言ったことをもう忘れたか」
「ごめん。じゃ、部屋を移動するから連れてって」
「……まったく。その体で動き回るな。治るものも治らん。今回は不問にする。さっさと話してやれ」

 スサンナはリヤーフに促されて話し始める。

「ラルス様は、明後日開かれる査問会で……その、罪を裁かれることになっております」
「エレミアスも? レナータも?」
「はい」
「査問会ってすぐ終わる? それが終わったら、ラルスは戻ってくる?」

「お前なぁ」と呆れたような声が隣から聞こえる。んもう何よ、と夫を睨もうとすると、木のスプーンに乗った野菜を口に突っ込まれる。あ、美味しい。すごい優しいミルク味。空っぽの胃に沁みるわぁ。

「宮文官が聖女と姦淫しておいて、ここに戻って来られるわけがないだろう」
「……かんいん?」
「お前、宮文官に犯されたのではないのか?」
「え? 違うよ? ラルスは助けてくれたんだよ?」

 リヤーフは「聞いていた話と違うな」と眉間に皺を寄せ、スサンナは「やっぱり……!」と安堵の表情を浮かべる。どうやら、わたしが眠っている間におかしなことになっているみたいだ。

「だから、エレミアスがわたしの中に催淫剤を突っ込んで」
「……はあ!? 突っ込んだ!?」
「あ、膣内にね。で、そんな状態でラルスと書庫に閉じ込められてしまって、本当に本当につらくて、椅子の足を突っ込んでもらおうと思っていたんだけど、ラルスに止められて。仕方なく、ラルスのモノを使わせてもらったっていうのが真実かな」

 間違ってないと思う。たぶん。薬のせいか、記憶があやふやなんだけどね。椅子の足は挿れてないと思う。

「仕方なく……俺よりも先に宮文官のモノを挿れたというのか?」
「うん。あ、閉じ込められたのがリヤーフだったら、間違いなくリヤーフとセックスしてたよ。本当につらかったんだって。両手が縛られていたから、自分の指も使えないし」
「本当に、お前は……」
「だから、ラルスはエレミアスにはめられたんだよ。被害者なんだよ。そんなことより、エレミアスに殴られたり蹴られたりされたほうが痛かったんだけど。そっちは罪に問えないの? めっちゃ殴ってやりたいんだけど」

「そんなこと?」とリヤーフがわたしに鋭い視線を向ける。

「聖職者から暴力を振るわれたことよりも、犯されたことのほうを軽視するのか? バカを言うな。どっちも大罪だ。お前は俺の妻だぞ。世界の聖女だぞ。お前は、自分の体を、もっと大事にしろ! 夫たち以外に触れさせるな!」

 リヤーフがめっちゃ怒っている。わたしが自分の価値を見出だせなかったせいで、こんなことになってしまっているんだろう。
「ごめん」と謝ると、「頼むから、もっと自分を労ってくれ」とリヤーフに懇願される。ついでにキスも。
 うぅ、甘い。リヤーフの言葉も行動も、甘すぎる。びっくりなんですけど。そりゃ、スサンナも目を丸くしてびっくりするよね。まさかあの黒の王子が、だもんね。

「とにかく、お前に危害を加えた聖職者たちは、役職を剥奪されるだろう。もう二度と、聖樹殿に足を踏み入れることはないだろうな」
「……ラルスも?」
「当たり前だ。はめられたこととはいえ、聖女と姦淫することは極刑に値する愚行だ。おそらく、それを覚悟の上で、宮文官はお前と交わったのだろうが」

 じゃあ、ラルスともう会えないの? 「じゃあ、またね」って別れたのに、もう二度と会えないの? あれが最後? あれで終わり? 夢の中で会ったような気はするけれど、あれは夢だもの。現実では、あんな……あんな最後で、さようなら?

「ラルスに、会えないの……?」
「そんなことで泣くなよ。たかが宮文官じゃないか。代わりならいくらでもいる」
「代わり? ラルスの代わりなんていないよ! どうしよう、ラルスに会わなきゃ! 謝らなきゃ! どうすれば会える? ねぇ、リヤーむぐ」

 だから、スープの野菜を突っ込まないでよ! 美味しいでしょ! 味わっちゃうでしょ!

「俺が許すと思うか? 夫以外の男に会いに行きたいと言う妻を、この俺が許すと思うか?」
「……思わない。リヤーフ、わたしのこと大好きだもの」
「当然だ」
「じゃあ、他の夫にも聞いてみる。会いに行っていいよっていう寛大な夫のほうが多かったら、会いに行くね」
「……お前なぁ、俺を狭量な男扱いしやがって」
「だって、事実じゃん」
「何をっ」

 睨み合うわたしたちに、「ごほん」とわざとらしい咳をしてみせたのが、スサンナだ。……ごめん、すっかり忘れてた。

「ラルス様は査問会まで自宅謹慎を言い渡されております。聖女様が宮を出ることはできません。お会いすることは難しいかと存じます」
「ええっ、そうなんだ」
「ははっ、残念だったな」
「じゃあ、宮を抜け出す方法ってある?」

 リヤーフもスサンナも、頭を抱える。そんなにバカな質問だった? だって、絶対に抜け道ってあるじゃん? それを教えてほしいなーって思っただけなのよ。

「懲りないな、お前というやつは。そんなにその宮文官のことが大事か?」
「大事だよ」
「それは……夫よりも、か?」

 意地悪な質問だなぁ、それ。めちゃくちゃ答えづらいじゃん。わたしは溜め息をつく。……そうだね、リヤーフにそんな質問をさせたわたしが、一番バカだよね。わかってる。

「ごめん、リヤーフ。比べるまでもなく、わたしは夫たちのほうが大事だよ」
「うむ」
「でも、きちんとお別れだけはさせて欲しい。手紙とか、書いてもいい? 文字、教えてくれる?」

 リヤーフはしばし考えて「教えてやる」とぶっきらぼうに答えてくれる。やっぱ彼は優しいんだよね。口も態度も悪いけど。
 スサンナは一通り四日間のことを教えてくれた。わたしが眠っている間、夫たちはそばで一緒に過ごしてくれていたらしい。夜通し話しかけてくれた夫もいたみたい。リヤーフもそう。だから、幸せな夢を見られたのだろう。夫たちのおかげ。
 そして、スサンナは疲れた様子で寝室から出て行った。テレサとレナータがいない上、ラルスの後任のトマスの仕事ぶりが非常に悪いため、体力的にも精神的にも疲労が溜まっているみたいだ。スサンナが倒れると大変だから、部屋にあった聖樹の花をお裾分けしておいた。お茶にして飲んでもいいし、湯船に浮かべてもいい。少しでも回復できるといいんだけどな。

 食事をしたあと、リヤーフと一緒に眠る。何度もキスをして、何度も愛の言葉を囁いてくれる。名前を呼べば呼び返してくれる。そんなリヤーフが新鮮で、可愛い。
 あぁ、幸せだなぁ。
 胸の奥が暖かい。心と体が満たされていく。
 セックスをすることでしか満たされないと思っていたけれど、そうではないのだと知った。わたしはもう、間違えたりしない。
 わたしは、安心して、夫の腕の中で眠ってもいい。好きになってもいい。愛しても、いい。セックスは、してもしなくてもどっちでもいい。それでいい。
 ……まぁ、でも、欲求が不満にならない程度にセックスはしたいんだけどね。


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