【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第二夜

050.聖女、新たな宮女官と喋る。

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「ですから、あれほどご夫君の邸宅に赴いてはいけませんとお伝えしたではありませんか」
「ねぇねぇ、これリヤーフに貰ったの。似合う? 似合う?」
「緑の君からいただいたのですか? お綺麗ですねぇ」

 ラルスの小言を無視、スサンナにネックレスと簪を見せてきゃあきゃあ盛り上がる。宮女官がその後ろで、何やらたくさんの木箱を運び入れている。わたしの視線に気づいたレナータが「橙の君からの贈り物です」と答える。覗いてみると……瓶に入った葉っぱと、ジュースっぽい水。

「橙の君が今夜聖女様と飲みたいようです。宮女官のほうで毒がないか、すべて確認いたしました」
「わぁ、ありがとう」
「では、水冷庫と氷冷庫を支度部屋に準備いたします」

 あ、冷蔵庫と冷凍庫かな。近くにあると便利だよね。蓄光石みたいな石が木箱に入っていたから、あれを使うのかな。電源いらないの、便利だねぇ。
 ちょっと冷たい対応のレナータの後ろでうろうろしていたら、さらに背後から冷たい声が落とされる。

「……聖女様、話は終わっておりませんよ」
「すみません! 次からは気をつけます!」
「全然反省していらっしゃらないではないですか」

 反省? しない、しない。仕方なかったんだもん。わたしに反省を促すなら、リヤーフにも同じことを言ってもらいたいわ。プレゼントくらい、七日の間で決めてしまえって。
 ラルスは溜め息をついたあと、部屋を出て行った。呆れられたんだろうな。まぁ、仕方ない。リヤーフが悪いんだから。

「あら、聖女様。だいぶ上手にできたではありませんか」

 作業をしていたスサンナが、ベアナードのためのランプカバーを見つけて微笑む。「可愛らしいカエルですねぇ」と言われ、わたしはがっくり肩を落とす。スサンナもカエルかぁ! いや、確かに茶色のカエルもいるけどさぁ!

「これは何をするものですか?」
「あぁ、ベアナード、夫の一人が極度の恥ずかしがり屋で、明かりがついているといちゃいちゃしてくれないから、ランプを覆うものを縫ってみたの」

 レナータは不思議そうにわたしの刺繍を見つめ、「熊ですか」と小首を傾げる。信用できない子だけど、ビンゴだよ! もう!

「レナータ! 当たり! すごい! やっだ、めっちゃ嬉しい!」
「はぁ」
「皆カエルだの狼だの言って、なかなか当ててくれないんだもん。ラルスなんて、なんて言ったと思う? 『よく焼けたイモですね』よ! イモって!! このファンシーで可愛い熊さんが、焦げてるイモに見えるんですって!」
「イモ……」

 レナータは困惑している。ラルスの声真似、意外と似ていると思ったんだけど、似ていなかったかしら。他の宮女官やスサンナにはバカウケだよ。ヒィヒィ笑ってる。似てたよね、やっぱり!

「なぜ、そのようなものが必要なのでしょう?」
「夫が安心できる環境を作ってあげたいのよ。暗闇がいいなら蓄光石を隠してしまえばいいし、言葉が欲しいならたくさん言ってあげたいし、自信がないならたくさん褒めてあげたいじゃん」
「安心、ですか」
「そ。不安にさせたくないんだよね」

 夫たちは、皆どこかしら何かしら欠落している。体の面で、性格の面で、精神の面で。それを補ってあげようとは思わない。おこがましいし、無理だもの。
 だから、せめて、妻として不安を抱かせたくない。七人全員を平等に愛したいし、平等に受け入れたい。それならできる。無理じゃない。わたしがやるだけだもの。

「七人全員を、ですか?」
「当たり前じゃん。誰一人として欠けることなく、安心させてあげたいんだよ」
「聖女様がそこまでなさる理由がわかりません」

 理由、かぁ。理由、ねぇ。

「聖女だからだよ」

 それがわたしの存在理由だからだよ。この世界で生きていくために、生かされるために、必要なんだよ。
 一番、欠落しているのがわたしだということはわかっている。一番不安で、誰よりも安心を求めている。でも、それを夫で補うことは考えない。依存したら、元の世界と同じ結果になってしまうとわかっているから。
 レナータにわかるかなぁ? わかんないだろうなぁ。

「……前の聖女様がそのようなことを考えておられたとは聞いたことがありません」
「そりゃまぁ、前の聖女様は前の聖女様だもの。わたしとは考え方が違うでしょ。どんなことを考えていたかなんて、知る由もないわ」
「そうなのですか。前の聖女様との会話は歴代総主教様の手記に綴られていると聞いたことがありますけれど」
「……えっ、そうなの?」

 スサンナを見やると、木箱の中身の整理をしながら「前の聖女様は総主教様とよくお話しをなさっておられたと聞いています」と嫌そうな顔を浮かべて頷く。スサンナは総主教様が好きじゃないみたい。彼女がすぐに支度部屋での作業に戻ったため、レナータと話を続ける。

「その手記見てみたいなぁ。あ、でも、わたし字が読めないから早めにリヤーフから字を教えてもらわないと」
「総主教様の手記は本部の書庫にありますよ」
「書庫? それって、わたしが行けるとこ?」
「宮武官を連れて行くのであれば、大丈夫なのではないでしょうか。字が読めないのであれば、宮女官を連れて行けば良いことですし」

 そっかぁ、と呟く。でも、ラルスの許可が出るかどうかわかんないよなぁ。聖女宮から出るなら、オーウェンの従者も連れて行きたいし。

「黄の国の風習を読み解きたいのであれば、わたくしがお供しても構いませんが」
「それは助かるけど、ラルスの許可が出てから考えるよ」
「さようでございますか。では、ラルス様にお話するのは早めのほうがいいかもしれませんね」

 早め? 毎日会っているんだから、明日でもいいじゃん。今日は叱られたから、できれば明日以降のほうがいいんだけどなぁ。何回も怒られたくないし。

「ラルス様は近々、紫の国へ向かわれるそうです」
「あ、そうなの? 聞いてないけど、何かあったのかな?」
「奥方に命の実を授けるためでしょう。紫の国は遠いですから」

 そっか。妊娠するには故郷の命の実が必要なんだっけ。ラルスは運ばれてくるのを待つと言っていたけど、奥さんが我慢できなかったのかも。今から二人で故郷に向かったほうが、実を待つより早く妊娠できるのかもしれない。
 ラルスは奥さんとやり直すんだろうな。不倫をしていても、セックスレスでも、子どもは命の実で授かることができるもんね。不思議だよねぇ。

「黄の国では既に命の実が信徒に配られているそうですよ」
「そうなんだ? 熟れるの早いね。子どもがたくさん生まれるといいねぇ」
「……そうですね」

 わたしはまだ食べなくてもいいや。子どもが欲しい人に実が行き渡ってからでいいや。何ヶ月先になるかわからないけど、夫たちなら待ってくれるでしょ……たぶん。

「愛の結晶かぁ」

 キスよりセックスより、好きな人の隣で命の実を食べることが、この世界での究極の愛の形なんだろうな。理解し難いけれど。
 でも、夫が命の実の皮を剥いて、微笑みながら一口ずつ食べさせてくれるなら、それはきっと愛なんだろう。愛と呼んでいいのだろう。
 まぁ、わたしはセックスのほうが断然愛の営みなんだと思うから、ぜひ、行為中に実を口移しで食べさせてもらいたいなぁ、なんて考えている。すっごい濡れそうだし、夫もばっちり勃ちそうじゃん。
 ……うん、わたしも大概、ド変態なのかもしれない。


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