【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第二夜

048.緑の君との第二夜(一)

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 聖樹の花茶を飲んだあと、すぐに体力が回復するわけではなく、けれども何となく体がじんわりと暖かくなった気がして気持ちいい。血行を良くするような成分とかがあるのかも。
 だから、今回は遅刻せずに七色の扉の前で待つ。四つ時が来るのを待つ。鐘の音が聞こえて、消えて、そしてリヤーフが――まぁ現れない。マジか。
 また夫の邸宅に行く感じ? またラルスに怒られる感じ? マジかー。まぁ別にいいけどさぁ。

「聖女様、いらっしゃいますか?」

 若い男の声が扉の向こうから聞こえる。たぶん、サーディクっていう従者かな。わたしは元気よく「いるよー」と返事をする。

「申し訳ございません。緑の君が今しばらく待ってほしいと仰せです」
「リヤーフ、何やってんの?」
「聖女様にお贈りする物を選んでいるのですが、迷っていらっしゃるようで」
「えっ、じゃあ見に行くわ」

 贈り物を選ぶのを迷っている我儘王子様なんて滅多に見られないもんね。緑の扉を開けると、サーディクは慌てた様子もなくにっこりと微笑んでいる。

「よろしいのですか? また宮文官に叱られるのではありませんか?」
「ラルスはわたしを叱るのが仕事だから仕方ないよ。わたしはラルスから叱られる性分なんだもの」
「ふふ。僕、聖女様のそういうところ、好きですよ」

 サーディクはわたしの少し前を歩く。ランプの薄明かりが廊下をほのかに照らす。

「ありがと。でも、サーディクはわたしよりリヤーフのほうが好きよねぇ?」
「そうなんです。不器用で我儘なリヤーフ様のことを見ていると本当に飽きないんですよ」

 わかるなぁ、それ。サーディクとわたしはたぶん同じようにリヤーフを解釈している。ハムスターみたいな小動物を愛でるような気分なのだ。
 リヤーフの居室の扉を薄く開け、また中を覗き見る。リヤーフはソファにどっかり座り、後ろ姿しか見えないバラーがあたふたとテーブルの上を片付けている。たぶん、贈り物とやらを吟味していたんだろうな。

「本当によろしいのですか? 何も持参しなくても」
「いい」
「しかし、先ほどの髪飾りや指輪は大変美しい細工のものでした。聖女様もお気に召されるかと思いますが」
「緑も黒も濃い色のものは俺のようで好かん。あいつは黒い髪に黒い瞳だが、肌は透き通るように白い。もっと別な、薄い色のものはないのか」
「薄い緑だと、リヤーフ様のお色とは異なりますよ。ご自分の色の宝石や指輪を贈るのが、贈り物の定番ではございませんか」

 なるほど。自分の色ではなくわたしに似合いそうな色のものを贈りたいリヤーフと、彼の色のものを贈らせたいバラー。その攻防戦ね。それをこっそりサーディクと二人で見守っている。

「僕なんて、聖女様は白い肌だからこそ、濃い色が映えると思うんですけどねぇ」
「わたしも、パステルカラーよりビビッドカラーのほうが好きなんだよねぇ」

 サーディクは言葉の意味がわからないらしく、きょとんとしている。色合いの差を説明すると納得してくれた。
 とにかくリヤーフはわたしへのプレゼント選びを諦めたらしいのだけど、立ち上がる様子がない。いやいやいや、そこでのんびりしていないで聖女の部屋へ行こうよ、リヤーフ!

「……はぁ。贈り物を選ぶのがこんなに面倒だとは」
「ずっと悩まれておられましたが、一つには選べませんでしたね。品物はこちらに置いておきますので、リヤーフ様は早く聖女様の元へお向かいください」
「ん? もうそんな時分か?」
「既に四つ時は過ぎてございます」
「何だって!?」

 コントかよ。わたしは呆れ、サーディクは必死で笑いを噛み殺している。「しまった、前回のあいつと同じことを!」と慌てた様子で立ち上がるリヤーフに、思わずバァンと扉を開けてしまう。リヤーフもバラーも驚いているけれど、仕方ないよね。付き合いきれないよ。

「おっ、おま」
「バラー、リヤーフの相手をありがとう。ここからはわたしが相手をするから」
「かしこまりました」

 バラーはさっさと退室する。テーブルの近くに置いてある木箱の中を覗き込むと、リヤーフは「また宮文官に叱られるぞ、お前!」などとソファに座ったまま喚いている。心配してくれるのは嬉しいけど、贈り物をさっさと決めないあなたが悪いんでしょ。

「リヤーフ、これ何? 何に使うもの?」
「それは……飾りボタンだ。宝石をあしらってある」
「綺麗な緑色ね。こっちは何?」
「手か足の飾りだ。それは首飾り、髪飾り、それは……指輪だ」
「どれも綺麗な緑色。リヤーフの色だね。選んでくれたの?」

 リヤーフの隣に座ると、夫は力なく「選びきれなかった」とうなだれる。わたしはその気持ちだけで嬉しいんだけどな。

「ありがとう、リヤーフ。つけて、つけて」

 リヤーフにネックレスを手渡し、背を向ける。両手でまとめて髪を持ち上げ、「早く早く」と急かす。リヤーフは慌てながら、濃い緑色の宝石がついた金色のネックレスをわたしの首元にかけてくれる。ひやりと冷たい鎖と地金。うなじのあたりで、リヤーフは悪戦苦闘している。慣れていないんだろうな。それも微笑ましい。

「ハァ、ようやくついた」
「リヤーフ、見て見て。似合う?」

 振り向いた先で、リヤーフとばっちり目が合う。深い森の色の瞳。わたしの首元で輝く宝石と同じ色。すっごい綺麗。夫たちの瞳は、何でこんなに綺麗なんだろうな。羨ましい。

「わたし、淡い色より濃い色のほうが好きだよ」
「……そうか」

 リヤーフはわたしの首元に目をやり、一瞬にやりと笑んだあと、すぐに険しい顔になった。

「お、お前、大丈夫か!? 熱は? 体は痛くないか?」
「え?」
「何だ、この発疹は。まさか、お前、疫病に罹ったのか?」
「あ、これ? これはキスマー」
「待っていろ。すぐ、バラーを呼んでくる。我慢できるか? 大丈夫か? 今、熱を下げる薬を――」

 あぁ、心配してくれているんだな、と思った瞬間に、リヤーフの左手を掴んでいた。振り払われるかと思ったけど、リヤーフはわたしの手に気づいて「痛むのか? しんどいのか?」と心配そうに尋ねるだけだ。

「リヤーフ」
「そばにいてやりたいが、今は、バラーかサーディクを呼びに行かなければ。薬を、薬を持って来なければ」
「リヤーフってば」
「何だ? お前の体にもしものことがあったら、俺は」

 ぐいと夫の手を引き抱きしめる。少し落ち着いてちょうだい。話が全然できないよ。

「わたし、病気じゃないよ。大丈夫だから」
「本当か? 熱は? ……ないな、確かに」
「これは、リヤーフが前につけた歯型みたいなものだよ」
「……は?」

 リヤーフの表情が一気に曇る。あれ、まずかったかな? 怒らせちゃった?

「ではこれは、俺以外の夫がつけたものか?」
「そ、う、だね……嫌だった?」
「当たり前だ! お前は俺のものだと、言っただろう! 俺以外が! 俺、以外、が……っ!」

 言いながら、どんどん真っ赤になっていくリヤーフが可愛い。どういう意味か、ようやく理解したみたい。
 俺以外の夫に触らせるな、俺以外の夫に痕をつけさせるな。それって、ものすごい独占欲じゃない? リヤーフ、わたしのことが大好きって言ってるのと同じじゃない?

「わ、笑うなっ」
「笑ってないよ」
「笑うなと、言っている! クソッ!」
「ふふふ。そういうとこ好きだよ、リヤーフ。一緒に寝よ」
「だ、誰が一緒になどっ!」

 でも、手を引けばついてきてくれるのだから、本当に素直じゃないなぁ。おっぱい触りたいでしょ。好きだもんねぇ。
 さて、今夜はセックスできるかな? フェラだけになるかな? 緑の国の命の実を増やすにはセックスしたほうがいいんだけどなぁ。わたし、今夜は元気だし。リヤーフも酔っていないみたいだし。セックスしたいなー。

「今夜は口じゃなくてわたしの中に出す?」

 真っ赤になったリヤーフが「出さん!」と叫んだのを聞いて、わたしは「あ、間違えた」と呟く羽目になった。
 しまった、彼は天邪鬼だったんだ! ここに来ておあずけとか! 嘘でしょ!?


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