【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第二夜

045.黄の君との第二夜(一)

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 黄色の扉が開くなり「イズミさん、お会いしたかったです!」と、ヒューゴが自分の顔が隠れるほどの花束をわたしに差し出してきた。黄色の薔薇とか、名前はわからないけど可憐な花とか、とにかく「可愛い」を詰め込んだ花束。ヒューゴにはわたしがそう見えているんだろうな。嬉しい。

「わぁ、ありがとう、ヒューゴ! 可愛い! わたし、花束もらったの初めて」
「本当ですか!? イズミさんの初めてをいただいてしまったなんて、幸せの極み!」
「あ、でも花瓶あったかなぁ?」
「そう仰ると思いまして、花瓶もお持ちいたしました!」

 至れり尽くせりでありがたい。わたしはいい匂いがする花束を持ち、ヒューゴは花瓶を小脇に抱えランプを持って廊下を歩く。意気揚々と、ではなく、ヒューゴは少し落ち込んでいるようだ。何かあったのだろうか? さっきの宮女官のこととか?

「ヒューゴ、元気ないけど何かあった?」
「……あぁぁ、イズミさん、すみませんでした! ジェラール、ええと従者から、八回はダメです節度を持ってくださいと毎日毎日言われまして、私は毎日毎日反省しておりました。先日、イズミさんの体に多大な負担をおかけしたこと、大変申し訳なく思っております!」

 あ、めっちゃ反省してきたんだね? めっちゃ頭下げたね。いい子、いい子。金色の髪を撫でると、ヒューゴは縋るような視線でわたしを見つめてくる。だから、「気にしてないよ」と笑っておく。ほんと、気にしてないもん。
 従者に「八回もヤッちゃいました」って報告しちゃうあたり、ヒューゴは素直なんだよなぁ。可愛くて憎めない。毎日毎日、ネタにされたんだろうなぁ。

「つきましては、イズミさんの体に負担がない回数を教えてください。その回数内で収まるように自分を律する覚悟をしてまいりました。ジェラ……従者からは一晩では三回程度が限度だと聞きました。朝は一回でいいと。その倍もイズミさんに負担をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。イズミさんは夜は何回、朝は何回がよろしいですか?」

 従者ジェラール、いい感じの回数を提示してくれたわね。夜三回、朝一回は妥当なところ。ありがたい。でも、ヒューゴは絶倫くんだから、朝一回だと収まらないんじゃないかな? 朝は二回はないと勃ったままなんじゃないかな? そういうのを加味すると、夜三回、朝二回、が限度かなぁ。
 そんなことを考えながら、部屋にたどり着く。花瓶に花を活けてくれるヒューゴの背中に抱きついてみると、夫はカチンコチンに固まった。ちなみに、彼は既に準備万端である。わたしに花束を渡したときからね。確認済み。

「イ、イズミさん、むむ胸が、当たっ」
「当ててるの」
「は花が、花を、飾っ、置かないと」
「ふふ。わたし、邪魔?」
「邪魔だなんて、そんな」

 ヒューゴはわたしの悪戯にもめげず、何とかベッドの横のテーブルに花瓶を置く。綺麗な花。「ヒューゴが選んでくれたの?」と尋ねると、夫は振り向いてぎゅうと私を抱きしめた。

「私は外に出られないので、ジェラ、従者に、こんな感じでと指定して買ってきてもらいました。その中からイズミさんに合う花を選びました」
「ふふ、ジェラールでいいよ、ヒューゴの言いやすいほうで。花、選んでくれてありがと」

 少し伸びをしてキスを催促すると、ヒューゴは優しく口づけてきた。唇が震えている。緊張しているのかもしれない。キスをしながら少しずつ後ろに下がり、ベッドに誘導する。
 わたしがベッドの縁に座ると、いつの間にか靴を脱いだヒューゴが体重をかけて押し倒してくる。抵抗することなくベッドに仰向けになり、わたしは夫を見上げる。

「よく我慢してたね」
「耐えなければ男ではありません。ただの獣ですから」
「本音は?」
「……ただの獣になりたい、です」

 素直でよろしい。ヒューゴとキスをしながら、彼がわたしの寝間着のボタンを外している間に、ズボンのボタンを外す。天を仰ぐ剛直の尖端を指の腹で撫で回し、ヌルヌルを楽しむ。「あっ」とヒューゴがたまに喘ぐのが可愛い。

「イズミさん、何か病気でも? 体調は大丈夫ですか?」
「ん? だいじょぶだけど?」
「でも、足に発疹が」

 あぁー……セルゲイがつけたキスマークだね、それ。うっかりしてた。慌てるヒューゴに病気ではないことを説明して謝る。さすがに消すことはできないから、セルゲイには次から控えてもらわないと。
 ヒューゴは眉根を寄せて唸る。どうやら不快だったようだ。

「……他の夫の痕跡が、こんなに癪に障るものだとは知りませんでした」
「ごめんね、ヒューゴ。次からやめてもらうね」
「その必要はありません。イズミさんの体に興奮して我を忘れる気持ちはよくわかりますから。これはどうやってつけるのですか? 私もつけたいです。イズミさんが私のものだという証を肌に刻みたい」

 なんと。ヒューゴの独占欲に火をつけてしまったみたい。苦笑しながらキスマークのつけ方を教える。夫は首筋や胸元に舌を這わせながら、少しずつ赤い痕を残していく。……明日、リヤーフがなんて言うかしら。明後日のアールシュは「白い肌が台無しよっ」なんて憤慨しそうだけど。

「っあ、ん」

 キスマークの合間に胸の頂きを吸われ、思わず声が漏れる。片方の乳首も捏ねられている、かと思ったら、もう片方の手がするりと腹を這っている。
 ジェラール、グッジョブ。手を使うことをヒューゴに教えてくれたのね、ありがとう!

「ゆっくり、優しくね。指をヌルヌルにしてから、触って、挿れて」
「は、はい……わ、あったかい……」

 指より大きなモノを挿れたことがあるというのに童貞みたいな反応を見せる夫を導きながら、前回と同じようにわたしの気持ちいいところを一通り教えていく。陰核は探しづらかったみたいだけど、真面目で勉強熱心なヒューゴは、すぐに覚えてくれる。

「中ってこんなに熱かったですか?」
「そだよ。挿入る?」
「……挿れたい、です」

 二本に増えていた指が膣から引き抜かれ、代わりに熱を持った杭が添えられる。割れ目を往復するいやらしい音、堪んない。ヒューゴはハァと一息をついて、ゆっくり尖端を埋め込んでくる。

「っは、あ」
「イズミさん、すみません、回数を、聞いていませんでした」

 奥までガンガンに突いてもらいたいなぁなんて考えている最中に、それ聞く!? めっちゃヤル気満々なのに! 聞いちゃう!?
 冷静でいられる夫がすごい。わたし、どえろいことしか考えらんない。正常な判断ができないんだよね、この状態だと。

「何回、わたしを犯したい?」

 するりと頬を撫でると、ヒューゴは喉を鳴らして「何十回でも」と切なそうに顔を歪める。彼は、そうだよね。明日の二つ時ギリギリまでヤリたいよねぇ。

「何十回は無理かなぁ」
「じゃあ、十回」
「ふふ。前回より増えてるよ」
「イズミさんへの想いが減ることはありません。募るばかりで、苦しいんです。吐き出さないと、解放しないと、つらくてしんどくて、仕方ないんです」

 ゆっくり、ゆっくり、熱が埋め込まれる。夫のはちきれそうな想いが、わたしの心と体を満たしていく。

「好きです、イズミさん」

 ねぇ、ヒューゴ。妄想の中で、わたしを何十回も犯したの? 妄想の中のわたしは、あなたの好意に応えてくれたの? 現実のわたしと比べて、失望していない?

「あなたが好きです」

 わたしは、妄想の中の妻じゃないよ。あなた一人だけを愛してくれる、あなた一人だけに抱かれる、そんな清らかな女じゃないんだよ。七人の夫に平等を強いる、酷い聖女なんだよ。

「っ、奥、当たっ」
「もっと深くまで繋がれたらいいのに。もっと長くあなたの中にいられたらいいのに。ずっと夜のままだといいのに」

 夫の中に燻る火種。火をつけたのがわたしだという自覚はある。見なかったことにしても、きっと延焼は止まらない。
 その純粋で真っ直ぐで切実な願いを、わたしは聞いてしまった。もう、夫の暗い気持ちに気づかないふりはできない。彼が病んでしまう前に、わたしに何ができるだろう。

「夜が明けたらまた七日もイズミさんに会えなくなる。寂しいです、イズミさん。とても寂しかった。苦しかった」

 ごめん。ごめんね、ヒューゴ。
 わたしは夫を抱きしめる。本当はわたしを独占したくて堪らない夫を、力いっぱい、ぎゅうと抱きしめる。

「ヒューゴ、いいよ。いっぱい抱いて。好きなだけ抱いて」

 一夜は平等だ。時間の使い方は夫によって違うけれど、平等なんだ。
 なのに、体がつらいからと言って、セックスの回数を決めるなんておこがましい。ヒューゴに対して失礼だ。だって、彼は、もうこんなにも我慢しているんだもの。

「好きよ、ヒューゴ。中にいっぱい出して」

 まぁ、少しは遠慮してもらえると嬉しいけど、たぶん難しいだろうな。切なそうな表情で腰を振るヒューゴを見ると何が正解かわからなくなる。
「イズミさん、好きです」とうわ言のように零しながら、我慢をして顔を歪める夫を、愛しいと思う。可愛いと思う。それから、やっぱり、セックスが好きだなぁとも、思う。
 困ったな。明日、また遅刻しないといいんだけどなぁ。


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