【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第一夜

018.ラルスの心配

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「聖女様の様子はどうだ?」
「黄の君が帰られてからもずっと眠っていらっしゃるようです。テーブルに水とパンを置いてありますが、今はまだ手をつけていらっしゃいません」

 ラルスは「心配だな」と呟く。
 赤の君と青の君のときはこんなことにはならなかった。どうしたものだろう、とラルスは首を傾げる。
 そんなラルスに、スサンナが少し恥ずかしそうに報告する。

「聖女様は、昨夜はあまりお眠りになられていない様子でございました」
「黄の君と夜通し話をしたと? 黄の君は女性との付き合いに難があると聞いていたが、克服なさったのか?」
「お話をなさるだけではなく、その」
「……まさか」

 スサンナによると、シーツ交換の宮女官が驚くほどに、大量の染みがあったのだという。黄の君が出した体液に間違いない。

「夜通し、欲の解放を?」

 ラルスは頭を抱える。連日連夜、欲を解放していたら、聖女の体力もなくなるだろう。当然のことだ。聖女に節度を求めることはないが、限度や適度という言葉を知るべきだとは思う。聖女だけでなく、夫も。

「黄の君はお元気でいらしたのですけれど」
「欲をすべて聖女様が受け止めてくれたのであれば、そうなるだろうな。何回欲を解放したのか……夜通しとは恐ろしい」

 ラルスは夜通し妻を抱き潰したことなどない。精々、二回までだ。「若さとは恐ろしいものだな」などと呟くと、スサンナが「ラルス様も十分お若いですよ」と笑う。しかし、ラルスももう二十八だ。夜通し妻を抱くことができるかと問われれば、答えは「いいえ」だ。そんな体力も気力もない。

「黄の国の実がなるのは早いかもしれんな」
「そうなのですか?」
「聖女様が夫の欲を解放すると、結実するのが早まるという話がある。定かではないが」

 黄の国。ラルスとスサンナは顔を見合わせ、同時に嫌そうな顔をした。二人があまり好きではない人物が、黄の国出身なのだ。

「ラルス様は紫の君、わたくしは橙の君を応援しないといけませんね。出身国のご夫君は贔屓したくなりますもの」
「あぁ、そうだな」

 ラルスは頷く。
 紫の君が聖女と実をつける行為をしてくれれば、紫の国出身の妻に命の実を与えることができる。そうすれば子どもが生まれ、家族が増えることになる。
 結婚してから一年、待ちわびた命の実。あと少しくらいなら我慢ができる。

「でも、ラルス様はあまり紫色がないのですね。瞳も黒ですし、髪色も紫には見えませんもの」
「私は紫の国出身だが、出自はわからないんだ。紫の国の聖殿に捨てられていてね」
「あら、そうだったのですか!? そうとは知らず、大変失礼なことを」
「構わない。よくあることだ」

 親が魔物に襲われたり、事故に遭遇したりして、孤児が聖殿に預けられることは多い。聖殿で育った孤児は、聖文官や聖武官、女官になるのが常だ。ラルスもそうして紫の国から聖樹殿、聖女宮にやってきた。
 ラルスは本当の親を知らない。知りたいと思ったこともない。ただ、前の聖女、そして今の聖女と同じ色の瞳のおかげで、宮文官という要職に就くことができたため、ほんの少しの感謝だけは持ち合わせている。それだけなのだ。



「聞いてくださいよ、ラルス様!」

 補佐官のトマスが何やら怒りながら執務室に入室してきた。ラルスは見ていた書類から視線を上げる。

「どうした?」
「今、聖職者の妻の間で流行っているものがあるんですって。何だと思います?」

 一時期刺繍が流行っていたことは覚えている。ラルスの妻トニアも紫の花の刺繍をあちこちに施していた。聖職者の妻同士で教え合ったり、評価し合ったりしていたのはいつだっただろうか。

「刺繍か?」
「違いますよ! もっととんでもないものです! 不倫ですよ!」

 それは確かにとんでもないな、とラルスは頷く。
 七聖教の聖職者には一夫一婦制が推奨されている。一夫多妻や一妻多夫の聖職者の家庭もあるが、少数派だ。特に聖樹殿に仕える聖職者の妻が不倫を楽しむなど、あってはならないことだ。

「何でも、どこかの愚かな聖職者が、嫌いな同僚の妻を寝取ったのが始まりということらしいです。それから、夫の同僚に言い寄られた妻が昼間から欲を解放することが流行り始めたとか!」

 トマスは「自分の妻も誰かの毒牙に!」と嘆いているが、彼はまだ結婚していない。未婚なのに将来の妻のことを心配しているちぐはぐさに、ラルスは笑う。

「笑いごとではありませんよ、ラルス様!」
「あぁ、悪い。トマスがあまりに必死なので、つい」
「ラルス様は奥方と仲がよろしいですからね。そんな醜聞なんて気にはならないでしょうけれど」

 聖女召喚の前から聖女宮にかかりきりで、何日も家に帰っていないラルスは、少しだけトニアのことを思い出す。夫が不在でも泣き言一つ言わない、よくできた妻だ。
 聖女宮が落ち着いたら、何日か休暇を取って二人で旅行へ行くのもいいかもしれないとラルスは考えている。命の実を食べたあとは、嫌でも子どものことにかかりきりになってしまうのだから。

「私は妻を信用している」
「あぁ、いいですねぇ。夫婦の信頼関係って素晴らしい! 僕も早く結婚したいです」

 トマスが書類を追加で持ってきたため、ラルスはまた書類に目を通し始める。七国の君の予算を組むのも彼の仕事ゆえに、とんでもないものが計上されないよう目を光らせている。必要があれば夫の邸宅で話を聞かなければならない。

「今夜は緑の君だったな」

 七国のうちたった一人「もっと予算をつけろ」と強気の構えを見せている夫。緑の国の王が直々に「聖女の夫に」と推薦してきた、傲慢で我儘だと評判の王子。王でさえ持て余していたのだと容易に想像できる。
 彼との間に無事に命の実をつけることができるのか。夫君を決定する会議でも賛否があったものだ。
 しかし、ラルスはあまり心配はしていない。聖女様なら大丈夫だろう、と考えている。あの聖女様なら、何とかするだろう、と。


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