【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

文字の大きさ
上 下
26 / 91
第一夜

026.橙の君との初夜(二)

しおりを挟む
 男の人に媚びなきゃ生きていけなかった。愛したい、愛されたい、そんな願いは、生きるには邪魔な願いだった。
 こっちの世界も、同じだった。
 わたしが生む子どもが総主教の選定に関わってくるのであれば、夫はきっと子どもを望むだろう。きっと、同郷の聖職者を総主教にしたがるだろう。そのために、命の実を食べさせようとしてくるだろう。
 夫たちがわたしと仲良くするのは、子どもを望むのは、七聖教の敬虔な信者だからだ。わたしが聖女だからだ。白澤和泉に――わたしに価値はない。

 わかっている。大丈夫。わきまえている。
 夫たちが優しくしてくれるのは、わたしが聖女だから。それ以上でも、以下でもない。
 わかってるよ。わかっているからさぁ。ちょっとくらい、夢を見させてよ。優しい嘘で、わたしを騙していてよ。バカなふりをして、気づかないふりをするからさ。
 本当に、ちょっとだけでいいから。
 愛されてるって、勘違いをさせてよ。



 すごくいい匂いがする。何だろう、柑橘系の甘酸っぱい匂い。好きな匂い。暖かい。首の後ろが柔らかい。誰かの腕の中にいるみたい。

「アール、シュ!」

 目の前に、オレンジ色の髪と優しげな茶色の瞳があった。昨夜とは雰囲気が全然違う。あ、お化粧を落としたんだ? ちょっと髭も生えてる? うわぁ、ほんとに男の人なんだなぁ。
 じゃなくて! 謝らないと!

「おはよう、イズミちゃん」
「ごめん、アールシュ! 昨日寝ちゃった!」
「そうねぇ。寝ちゃったわねぇ」

 うふふ、と笑ってアールシュはわたしを抱き寄せる。程よい厚みの胸に顔を埋める。踊り子の服は着ていない。寝るには不向きな衣装だったから、脱いだのかもしれない。

「わたし、お酒には強いほうなんだけど」
「あれ、意外と強いのよ。それをカパカパ飲んだりするから」
「そうなの? あぁ、ごめん、アールシュ」

 飲みやすいと思ってめっちゃ飲んじゃった。そんなに強いお酒だったんだ? もっと早くに知りたかったなぁ。アールシュともっとたくさんお喋りしたかったのに。

「ほんと、もっと謝ってもらいたいわ。せっかく可愛い奥さんがそばにいるのに、何もしないで寝なくちゃいけなかったのよ」
「ごめんなさい」
「幸せそうな顔して寝ているかと思えば、いきなり泣き出して……どれだけあたしを焦らせるつもりよ、もう」
「面目ありません」

 アールシュはぎゅうとわたしを抱きしめる。暖かい。でも、手が少し冷たい気がする。

「わたし、泣いてた?」
「ええ。怖い夢でも見たのか、昔のことを思い出したのかわからないけど、泣いて震えていたわよ。だから、ずっと、何もしないで抱きしめてあげていたんじゃないの。あたし、すごく耐えたのよ。褒めてもらいたいわ」
「ありがとう、アールシュ。ごめんね。でも、もう大丈夫だから。もう抱きしめなくてもいいよ。離れていいよ。ありがとう」

 アールシュは不機嫌そうな顔をわたしに近づける。褒め方が気に入らなかったのだろうか。それとも、褒め足りなかった? 拍手したほうが良かったかな?

「あのねぇ、イズミちゃん。何を誤解しているのか本っっ当にわからないんだけど、あたし、あなたの夫なのよ?」
「うん」
「だからね、男なの。女じゃないのよ?」
「うん、わかってるよ、さすがに」

 アールシュの不機嫌は治らない。わかってない、という呟きと共に唇が落ちてくる。あれ、いつの間に、アールシュが上になっているんだろう? しかも、触れるだけのキスじゃない。アールシュは、最初から舌を挿れてきた。
 アールシュの舌は熱く、柔らかい。唇と同じ。優しく、時に荒々しくわたしを貪る。とろけちゃいたいくらい、素敵なキス。もっとしていたくなっちゃう。もっと欲しくなっちゃう。

「ねぇ、まだわかんない?」

 足の付け根に当たる感触に、思わず喉を鳴らす。布越しでもはっきりとわかる熱は、わたしの柔らかい場所に押し付けられている。……とても、硬い、です。

「アールシュ? わたしに欲情してくれているの?」
「当たり前でしょう! 夫だ、男だ、って何度言ったらわかってくれるの? もう!」
「だって、女装しているから、男が好きなのかなって」
「確かに女装はしているけど、それはあたしにそっくりだって言われる母を探すためなの。女になりたいわけでも、男が好きなわけでもないのよ」
「アールシュ、紛らわしいよ!」

 その格好見たら、誰だってそう思うよ! わたしより綺麗なんだもの。男が好きだから、あなたに興味ないから、っていう牽制かと思うじゃん! 思ったわよ!

「紛らわし、いのは、謝るわ。そうね、ごめんなさい。でも、わかって。あたし、あなたを抱きたいのよ」
「わたしだって! 昨日からアールシュを、抱きた――」

 あなたを抱きたい。抱きたくて仕方がない。
 とろけるような深いキスをして、でももっと深いところで繋がりたいと思っている。愛してくれたら幸せなんだろうけど、愛がなくても構わない。優しくしてくれるだけで、構わない。
 ……もちろん、強がりだ。本当に望んでいることは、たぶん、夫にも言うことはないだろう。ずっと。

「ねぇ、イズミちゃん」

 突然のアールシュの低音に、体が痺れる。それダメ。アールシュの地声、めっちゃいい声。一気に腰に来る。

「ダメ、アールシュ、その声」
「どの声?」
「その声! 格好良すぎる!」

 アールシュは目を何度か瞬かせたあと、目を細めて笑う。

「イズミちゃん、可愛い」
「ダメだってば、腰に響く! 欲しくなっちゃう!」
「どんなのが欲しいの?」

 アールシュ、反則だよ、それ! 堪んない!
 夫は笑顔でショーツの紐を引き、冷たい指を下腹部に這わせる。既に体が熱いから、冷たい指が心地好い。

「んふ。濡れてる。可愛い。こんなに涎たらしちゃって……いい子」
「やだ、早く挿れてほし……っ、あ」
「ダメよ、先にこっち。大きいのはあと、ね」

 指が割れ目を滑る。アールシュの細い指なら何本でも咥えられそう。

「アールシュ、キスして」
「キス好きなの?」
「うん、好き」

 可愛く言えたかどうかはわからない。けれど、アールシュは困ったように微笑んで、優しいキスをしてくれる。同時に、夫の冷たい指が蜜口から侵入してくる。待ちに待った刺激に、体が歓喜する。

「あっ、ん」
「……可愛い」

 アールシュ、ダメよ。わたし、その声だけでイッちゃいそうなんだから! ちょっと抑えて欲しいな!
 けれど、笑顔のアールシュが格好いい低音ボイスで「可愛い、可愛い」と連呼するため、わたしはあっさり達してしまいそうになるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...