23 / 91
第一夜
023.聖女、聖樹会に参列する。(一)
しおりを挟む
「なぜ、緑の君の邸宅へ行ったのですか」
ラルスがめちゃくちゃ怒っている。そりゃそうだろうな。部屋を抜け出して、夫に夜這いをかけていたのだから。
わたしは「ごめんなさい」と言いながら、むしゃむしゃサラダを食べる。お腹空いてるんだもん。
「だってリヤーフがわたしの遅刻に腹を立てて来てくれなかったんだもの。じゃあ、わたしから行くべきでしょ」
「前代未聞です。聖女様が夫君の到着を待たずして部屋を抜け出すなど」
「食べ物も飲み物も飲んでないから大丈夫よ」
「そういうことではありません!」
ラルスは頭を抱えて溜め息を吐き出した。「あなたはご自分の立場を知るべきです」と嘆く。ファルファーレみたいなリボン型のパスタの入ったクリームスープを取り分けながら、テレサが「聖女様は唯一無二の存在なのですよ。ご自覚くださいませ」と補足してくれる。
唯一無二。まぁ、わたしがいなくなったら、皆困るんだよねぇ。聖女は一人しかいないんだもの。そこはほんとすみません。
「聖女宮の警護は万全とは言っても、闇夜に紛れて何者かが侵入してくることも考えられます。その者が命の実を持っていたとしたら、夫以外の子を授かってしまう可能性もあるのですよ」
「やだ、何それ、ちょー怖い。やだやだ」
「ですから、お気をつけくださいと、あれほど」
「まぁまぁ、ラルス様。そんなことより、いい知らせがあるとか? ぜひ、お聞かせください」
テレサ大好き。ラルスの小言から守ってくれるんだもの。「聞きたいなー」とわたしも頷く。
ラルスはムスッとしたまま、報告をしてくれる。怒っていてもイケメンはイケメンなのだから、ほんとイケメンは役得だよねぇ。
「赤の国と、黄の国の花が満開だそうです」
「まあ! 素晴らしいことですわね!」
「へぇ」
やっぱりセックスすると成長が早いんだな。どういう理屈なのかはわからないけれど、キスよりもいちゃいちゃよりも、セックスしたほうがいいってことね。よし、頑張ろ。
「黄の君と、何を、どうなさったのですか?」
「何って、欲の解放をたくさん」
「たくさん?」
「七回か八回くらい解放したかなぁ」
聞いてきたくせに、ラルスもテレサも真っ赤にならないでよ。わたしが恥ずかしいじゃん。ポタージュスープみたいなの、めっちゃ美味しいじゃん。
「夜通しとは聞いておりましたが、黄の君はお盛んなのですね」
まぁ、そうね。ヒューゴは早漏で絶倫で、とにかく性欲がすごいよ。気持ちいいけど、大変なの。
二人はわたしの遅刻の理由を察してくれたみたいだ。抱き潰されて、ほんと、しんどかったんだから。
「体調は良いのですか?」
「まだ腰とか足とか痛いけど、まぁ大丈夫。割と丈夫にできてるの」
「そうですか。では――」
ラルスは少し表情を緩めて、わたしを見下ろす。あ、その顔好きだな。ラルスの優しい顔は癒やされる。
「本日の聖樹会に出席なさいますか?」
せいじゅかい? また知らない単語が出てきたなぁ、とわたしはラルスに説明を請うのだ。
休息日には、「聖樹会」と呼ばれる典礼があると言う。三つ時になると、聖職者と信徒が聖樹殿――あの結婚式をした東京ドーム二つ分ほどの建物に集まり聖樹に祈るらしいから、ミサとか礼拝みたいなものかもしれない。
聖樹会への出欠席は、任意なんだそうだ。聖職者は全員参加、一般信徒は、五のつく日もしくは〇のつく日どちらかで参列することが多いと言う。ただ、毎月十五日に行なわれる「大聖樹会」にはなるべく参列することが推奨されているんだとか。だから、大聖樹会では聖樹殿に入れなかった信徒が、建物の周りや道にまで溢れると言う。
わたしと夫たちの出欠もどちらでもいいみたい。会の進行は聖職者が行なうため、聖女とその夫の出番はない。いてもいなくてもいい。夫は大抵参列するものだけれど、わたしはどうしたいのか、ラルスが聞いてくれたのだ。
でもなぁ、聖女として参列するのも退屈そうだよなぁ。わたし、聖樹に対する信仰心なんて全くないんだもの。だから、ラルスに提案してみたんだよね。「一般信徒として参列してみたい」って。ラルスはかなり渋っていたけど、テレサが「わたくしも一緒にいましょうか」と進言してくれたおかげで、参列できることになった。なんと、女官として。
わたしの服はほとんど寝間着だから割とダボッとしているものが多いんだけど、女官の制服は動きやすく作られている。可愛いコック服みたいな感じ。裁縫上手な女官は出身国の色で刺繍をしたりして、没個性的な制服に個性を出している。スサンナの制服のオレンジ色の刺繍がめっちゃ可愛いんだよね。
さすがにスサンナの制服は貸してもらえなかったから、新しいものを着ている。聖樹会に出るには、これにベールをかぶらなければならない。結婚式の参列者と同じ格好だ。あれが正装だったわけだ。
ラルスを前に、後ろをテレサに守ってもらいながら、わたしは聖樹殿へと向かう。他の聖職者に気づかれてはいない。まぁ、ベールをかぶってるし、聖女の顔なんて皆知らないもんね。
聖樹殿に着くと、東京ドーム二つ分の長椅子がほとんど埋まっている。それぞれの国の色のベールをかぶり、ざわざわとひしめく信徒たち。緑の国に近いためか、緑色が圧倒的に多い。緑色のアリーナ席だわ。すごーい。
夫たちの姿は、ベールをかぶっていてもすぐにわかった。最前列に座っているんだもの。彼らのうち、わたしに気づく人はいるかしら? まぁ、無理よね。
聖職者は壁際に準備された長椅子に座る。入学式とか卒業式の来賓席みたいな形。こちらは真っ白なベール。
聖職者にも序列があるのだと、ラルスが教えてくれた。トップが総主教と聖女、それから副主教、大主教、中主教、小主教という順番だ。ラルスは中主教らしい。
それから、役職以外にも役割がある。ラルスのように、書類を書いたり行事を取り仕切ったりするような事務仕事をするのが、聖文官。オーウェンのように武器を持ち、聖樹や聖女宮、国境を警備する聖騎士が聖武官。その中でも、聖女宮で働く者は「宮」の字をつけて、宮文官とか宮武官と呼ぶらしい。テレサやスサンナは宮女官だと言っていたもんね。
わたしたちはてくてくと歩き、ちょうど三人が座れそうなスペースに座る。わたしの右側にラルス、左側にテレサが座る。
「おい、ラルス」
座った途端、どこかからか白い衣服に白いベールをかぶった聖職者がやって来た。何だか甘い匂いがする。香水でもつけているのかもしれない。テレサがこっそり「ラルス様の同期のエレミアス様です」と耳打ちしてくれる。
エレミアスは無理やりラルスの右側に座る。わたしの隣じゃなくて良かったけど、詰めなきゃいけないから迷惑だわ。
「聖女様はどうだ? 順調か?」
「順調、とはどういう意味でしょう?」
「緑の国にも蕾が増えてきたそうだぞ。順調に欲を解放なさっているようじゃないか。相当な好き者だな」
エレミアスはきっとベールの下で下卑た笑みを浮かべているのだろう。下品な噂話をされるのは構わない。事実だもんな。ちょっとイラッとするけど。
「聖女様は愛に溢れるお方ですよ」
「なんだ、お前はもう手がついたのか? ハハハ。早いな。さすが好色な聖女様」
「……下品なことを口になさらないでください。聖女様をよく知りもしないくせに、浅ましい」
テレサがハラハラしている。なるほど、二人は犬猿の仲ってやつね。会話の中には棘しかないもの。
「しかし、実際、あの緑の君の欲を解放なさるとはね。気難しいことで有名な黒の王子を手玉に取るとは、恐れ入ったよ」
「すべては聖女様のお心の広さの賜物です」
「はん? ただの男好きなだけだろう」
うっわ、ムカつくな、こいつ。リヤーフの何がわかるって言うの、この男に。素直じゃないくせに愛を欲しがる夫の、何がわかるって言うの! あぁぁ、ムカつく!
ラルスの顔はベールでわからないけれど、めっちゃ怒っているんだろうな。握った拳がぶるぶる震えているもの。だから、そっとラルスの拳にわたしの手を重ねる。気にしないで、と。それ以上失言するのならわたしが殴るから、と。まぁ伝わっているかどうかはわかんないけど。
わたしが男好きじゃなかったら世界が滅ぶだけだというのに、不思議なことを言う人もいたものだ。聖職者と言っても、聖人のような人ばかりではないんだろう。
あまり考えたことなかったけど、もしかしたら、命の実をつけない聖女は追放されるのかもしれない。聖樹の影になる場所に。それから、また新たに聖女を召喚する、と――想像して鳥肌が立っちゃった。ほんと、都合がいい場所があるものよね。
でも、そうじゃなきゃ、エレミアスが余裕しゃくしゃくな顔をしている理由がわからない。聖女は代替のきく器でしかないという考えなら、聖女を見下す理由もわかる。
だとすると、腹立たしいなぁ。召喚された聖女は、わたしみたいに人生を諦めている子ばかりじゃないはずだ。家族がいて、友達がいて、恋人がいるかもしれない。そんな愛する人々と引き離される聖女のことを、この人は何も考えてないってことだもの。
エレミアスが宮文官じゃなくて良かった。こんな考え方の人が近くにいたら、初日に殴っているところだった。
ラルスも同じ考え方なら……ちょっと悲しい、かな。わたし、結構ラルスのことが好きだもの。顔が好みなんだもの。
「……何だ、お前。聖女様じゃなくて宮女官に手をつけたのか」
わたしを見ながら、エレミアスはそんなことを言う。うぅぅ、やっぱめっちゃムカつくなぁ、こいつ。今すぐ聖女だと名乗ってやろうか、それとも殴ってやろうか、と鼻息を荒くした瞬間、リーンゴーンとあの鐘の音が響き始めた。
三つ時、聖樹会の始まりである。
ラルスがめちゃくちゃ怒っている。そりゃそうだろうな。部屋を抜け出して、夫に夜這いをかけていたのだから。
わたしは「ごめんなさい」と言いながら、むしゃむしゃサラダを食べる。お腹空いてるんだもん。
「だってリヤーフがわたしの遅刻に腹を立てて来てくれなかったんだもの。じゃあ、わたしから行くべきでしょ」
「前代未聞です。聖女様が夫君の到着を待たずして部屋を抜け出すなど」
「食べ物も飲み物も飲んでないから大丈夫よ」
「そういうことではありません!」
ラルスは頭を抱えて溜め息を吐き出した。「あなたはご自分の立場を知るべきです」と嘆く。ファルファーレみたいなリボン型のパスタの入ったクリームスープを取り分けながら、テレサが「聖女様は唯一無二の存在なのですよ。ご自覚くださいませ」と補足してくれる。
唯一無二。まぁ、わたしがいなくなったら、皆困るんだよねぇ。聖女は一人しかいないんだもの。そこはほんとすみません。
「聖女宮の警護は万全とは言っても、闇夜に紛れて何者かが侵入してくることも考えられます。その者が命の実を持っていたとしたら、夫以外の子を授かってしまう可能性もあるのですよ」
「やだ、何それ、ちょー怖い。やだやだ」
「ですから、お気をつけくださいと、あれほど」
「まぁまぁ、ラルス様。そんなことより、いい知らせがあるとか? ぜひ、お聞かせください」
テレサ大好き。ラルスの小言から守ってくれるんだもの。「聞きたいなー」とわたしも頷く。
ラルスはムスッとしたまま、報告をしてくれる。怒っていてもイケメンはイケメンなのだから、ほんとイケメンは役得だよねぇ。
「赤の国と、黄の国の花が満開だそうです」
「まあ! 素晴らしいことですわね!」
「へぇ」
やっぱりセックスすると成長が早いんだな。どういう理屈なのかはわからないけれど、キスよりもいちゃいちゃよりも、セックスしたほうがいいってことね。よし、頑張ろ。
「黄の君と、何を、どうなさったのですか?」
「何って、欲の解放をたくさん」
「たくさん?」
「七回か八回くらい解放したかなぁ」
聞いてきたくせに、ラルスもテレサも真っ赤にならないでよ。わたしが恥ずかしいじゃん。ポタージュスープみたいなの、めっちゃ美味しいじゃん。
「夜通しとは聞いておりましたが、黄の君はお盛んなのですね」
まぁ、そうね。ヒューゴは早漏で絶倫で、とにかく性欲がすごいよ。気持ちいいけど、大変なの。
二人はわたしの遅刻の理由を察してくれたみたいだ。抱き潰されて、ほんと、しんどかったんだから。
「体調は良いのですか?」
「まだ腰とか足とか痛いけど、まぁ大丈夫。割と丈夫にできてるの」
「そうですか。では――」
ラルスは少し表情を緩めて、わたしを見下ろす。あ、その顔好きだな。ラルスの優しい顔は癒やされる。
「本日の聖樹会に出席なさいますか?」
せいじゅかい? また知らない単語が出てきたなぁ、とわたしはラルスに説明を請うのだ。
休息日には、「聖樹会」と呼ばれる典礼があると言う。三つ時になると、聖職者と信徒が聖樹殿――あの結婚式をした東京ドーム二つ分ほどの建物に集まり聖樹に祈るらしいから、ミサとか礼拝みたいなものかもしれない。
聖樹会への出欠席は、任意なんだそうだ。聖職者は全員参加、一般信徒は、五のつく日もしくは〇のつく日どちらかで参列することが多いと言う。ただ、毎月十五日に行なわれる「大聖樹会」にはなるべく参列することが推奨されているんだとか。だから、大聖樹会では聖樹殿に入れなかった信徒が、建物の周りや道にまで溢れると言う。
わたしと夫たちの出欠もどちらでもいいみたい。会の進行は聖職者が行なうため、聖女とその夫の出番はない。いてもいなくてもいい。夫は大抵参列するものだけれど、わたしはどうしたいのか、ラルスが聞いてくれたのだ。
でもなぁ、聖女として参列するのも退屈そうだよなぁ。わたし、聖樹に対する信仰心なんて全くないんだもの。だから、ラルスに提案してみたんだよね。「一般信徒として参列してみたい」って。ラルスはかなり渋っていたけど、テレサが「わたくしも一緒にいましょうか」と進言してくれたおかげで、参列できることになった。なんと、女官として。
わたしの服はほとんど寝間着だから割とダボッとしているものが多いんだけど、女官の制服は動きやすく作られている。可愛いコック服みたいな感じ。裁縫上手な女官は出身国の色で刺繍をしたりして、没個性的な制服に個性を出している。スサンナの制服のオレンジ色の刺繍がめっちゃ可愛いんだよね。
さすがにスサンナの制服は貸してもらえなかったから、新しいものを着ている。聖樹会に出るには、これにベールをかぶらなければならない。結婚式の参列者と同じ格好だ。あれが正装だったわけだ。
ラルスを前に、後ろをテレサに守ってもらいながら、わたしは聖樹殿へと向かう。他の聖職者に気づかれてはいない。まぁ、ベールをかぶってるし、聖女の顔なんて皆知らないもんね。
聖樹殿に着くと、東京ドーム二つ分の長椅子がほとんど埋まっている。それぞれの国の色のベールをかぶり、ざわざわとひしめく信徒たち。緑の国に近いためか、緑色が圧倒的に多い。緑色のアリーナ席だわ。すごーい。
夫たちの姿は、ベールをかぶっていてもすぐにわかった。最前列に座っているんだもの。彼らのうち、わたしに気づく人はいるかしら? まぁ、無理よね。
聖職者は壁際に準備された長椅子に座る。入学式とか卒業式の来賓席みたいな形。こちらは真っ白なベール。
聖職者にも序列があるのだと、ラルスが教えてくれた。トップが総主教と聖女、それから副主教、大主教、中主教、小主教という順番だ。ラルスは中主教らしい。
それから、役職以外にも役割がある。ラルスのように、書類を書いたり行事を取り仕切ったりするような事務仕事をするのが、聖文官。オーウェンのように武器を持ち、聖樹や聖女宮、国境を警備する聖騎士が聖武官。その中でも、聖女宮で働く者は「宮」の字をつけて、宮文官とか宮武官と呼ぶらしい。テレサやスサンナは宮女官だと言っていたもんね。
わたしたちはてくてくと歩き、ちょうど三人が座れそうなスペースに座る。わたしの右側にラルス、左側にテレサが座る。
「おい、ラルス」
座った途端、どこかからか白い衣服に白いベールをかぶった聖職者がやって来た。何だか甘い匂いがする。香水でもつけているのかもしれない。テレサがこっそり「ラルス様の同期のエレミアス様です」と耳打ちしてくれる。
エレミアスは無理やりラルスの右側に座る。わたしの隣じゃなくて良かったけど、詰めなきゃいけないから迷惑だわ。
「聖女様はどうだ? 順調か?」
「順調、とはどういう意味でしょう?」
「緑の国にも蕾が増えてきたそうだぞ。順調に欲を解放なさっているようじゃないか。相当な好き者だな」
エレミアスはきっとベールの下で下卑た笑みを浮かべているのだろう。下品な噂話をされるのは構わない。事実だもんな。ちょっとイラッとするけど。
「聖女様は愛に溢れるお方ですよ」
「なんだ、お前はもう手がついたのか? ハハハ。早いな。さすが好色な聖女様」
「……下品なことを口になさらないでください。聖女様をよく知りもしないくせに、浅ましい」
テレサがハラハラしている。なるほど、二人は犬猿の仲ってやつね。会話の中には棘しかないもの。
「しかし、実際、あの緑の君の欲を解放なさるとはね。気難しいことで有名な黒の王子を手玉に取るとは、恐れ入ったよ」
「すべては聖女様のお心の広さの賜物です」
「はん? ただの男好きなだけだろう」
うっわ、ムカつくな、こいつ。リヤーフの何がわかるって言うの、この男に。素直じゃないくせに愛を欲しがる夫の、何がわかるって言うの! あぁぁ、ムカつく!
ラルスの顔はベールでわからないけれど、めっちゃ怒っているんだろうな。握った拳がぶるぶる震えているもの。だから、そっとラルスの拳にわたしの手を重ねる。気にしないで、と。それ以上失言するのならわたしが殴るから、と。まぁ伝わっているかどうかはわかんないけど。
わたしが男好きじゃなかったら世界が滅ぶだけだというのに、不思議なことを言う人もいたものだ。聖職者と言っても、聖人のような人ばかりではないんだろう。
あまり考えたことなかったけど、もしかしたら、命の実をつけない聖女は追放されるのかもしれない。聖樹の影になる場所に。それから、また新たに聖女を召喚する、と――想像して鳥肌が立っちゃった。ほんと、都合がいい場所があるものよね。
でも、そうじゃなきゃ、エレミアスが余裕しゃくしゃくな顔をしている理由がわからない。聖女は代替のきく器でしかないという考えなら、聖女を見下す理由もわかる。
だとすると、腹立たしいなぁ。召喚された聖女は、わたしみたいに人生を諦めている子ばかりじゃないはずだ。家族がいて、友達がいて、恋人がいるかもしれない。そんな愛する人々と引き離される聖女のことを、この人は何も考えてないってことだもの。
エレミアスが宮文官じゃなくて良かった。こんな考え方の人が近くにいたら、初日に殴っているところだった。
ラルスも同じ考え方なら……ちょっと悲しい、かな。わたし、結構ラルスのことが好きだもの。顔が好みなんだもの。
「……何だ、お前。聖女様じゃなくて宮女官に手をつけたのか」
わたしを見ながら、エレミアスはそんなことを言う。うぅぅ、やっぱめっちゃムカつくなぁ、こいつ。今すぐ聖女だと名乗ってやろうか、それとも殴ってやろうか、と鼻息を荒くした瞬間、リーンゴーンとあの鐘の音が響き始めた。
三つ時、聖樹会の始まりである。
0
感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。
お気に入りに追加
1,639
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる