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第一夜
012.青の君との初夜(二)
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「性交渉は、七聖教では『欲の解放』と言われているから……僕は自分も相手も、欲を満たすことができない出来損ないなんだよ」
「へえ。あ、陰毛も銀色なんだ? すごーい」
「ねえ、イズ、聞いてる?」
聞いているよ、もちろん。勃たないのは残念だけど、ものすごーく残念だけど、イケメンといちゃいちゃできるんなら別にいいよ。
わたしは、銀色の毛の下に鎮座しているふにゃふにゃ柔らかい肉棒を優しく掴み、ゆっくり扱く。まぁ、勃起しないと自己申告してきた通り、セルゲイのそれはうんともすんとも、柔らかなままだ。
「父が娼館を営んでいるというのに、三男がコレじゃあ、ね」
あぁ、裸族ではなかったのね。周りに半裸の女の人がいるのも納得だわ。
欲の解放――七聖教ではセックスをそう呼ぶのだと、テレサから聞いた。相手を慈しみ、愛しく思う上での行為とも、ただ欲のままに己の滾りをぶつける行為とも、言っていた。
つまり、七聖教は特に厳しい規則を設けていないのだ。一夫多妻、一妻多夫、どちらもあり。経済力がある者がない者を養うのが常らしい。不倫も離婚もあるみたいだから、割と自由なんじゃないのかな。
ただ、命の実は夫婦にしか授けられない。その「夫婦」は男女でなければならず、男同士・女同士では命の実を授けてもらえないんだとか。まぁ、利害が一致する異性を見つけて、何とかするしかないよね。
「娼婦としての最初の仕事は、兄弟のうち、誰かを勃たせて射精させることなんだけど、僕には全く声がかからなかったよ。一日かけても勃たないんじゃ、仕方な……イズ!?」
萎えたモノを咥えてみる。ふにゃふにゃしているから噛みたくなっちゃうけど、痛いもんな。たぶん。
カサは小さめ、竿は太め。オーウェンと比べると、普通のサイズ。良かった、勃起しても巨根ではなさそう。銀色の毛の近く、根元をギュッと握って亀頭を舐めてみるけれど、全然反応しない。ビクともしない。コレを一日舐め続けた娼婦には同情してしまう。これはつらい。自信なくしちゃうわ。
「ダメだよ、イズ。顎が外れてしまうから」
「えっ、それは嫌だな」
「うん、だから、抱き合って眠ろう?」
わたしが純情で聞き分けがいいタイプなら、美人系イケメンが困ったように微笑むのを受け入れただろう。男としてのプライドがボロボロで、大変かわいそうなんだもの。あいにく、わたしは純情でも聞き分けがいいタイプでもない。肉食か草食かで答えると、肉食だ。
「セルゲイ、舐めて」
「……え」
「舐めて、イカせて」
昨夜の一件で、わたしは意外と欲求不満なのである。オーウェンは射精したけど、わたしはまだ。童貞を導く体力もなかった。一人で欲求を解消しても良かったけど、毎日セックスできるならいいかなと楽観的に考えていた。次の夫が勃起不全だとは思わなかったしね。
セルゲイは水色の瞳を瞬かせたあと、ごくりと喉を鳴らした。……ん? 今、何か、目が輝いたような?
「どこを舐めてもいいの?」
「うん、いいよ」
セルゲイはシーツの海の中に潜っていき、いきなり、わたしの足の爪先を口に含んだ。びっくりして変な声出たよ。一番にそこを舐める人、初めて見た。セルゲイはかなりの変態なのかもしれない。
生温い舌が、徐々に熱を帯びてくる。セルゲイは、大事なものを扱うかのようにわたしの右足を優しく持ち上げ、一心不乱に舐める。指の間、甲、裏、まんべんなく唾液まみれにしていく。右足の次は左足。同じように、熱い舌が這う。
不思議とゾクゾクする。下腹部が疼き始める。くるぶしのあたりとか、弱いみたい。たぶん、濡れてる。触りたいけど、一人で達しちゃうのも恥ずかしいから、触らないでおこう。
ふくらはぎを堪能し、次に膝を舐め始めたセルゲイを見下ろす。銀色の髪は見えるけれど、布団の中に隠れた顔も体もわからない。手を伸ばし、銀色の頭に触れる。
「セルゲイ、暑くはない?」
「……燃えるように暑いよ」
ずっとその中にいたら窒息しちゃうんじゃない? わたしは慌てて掛け布団をガバとめくり、横によける。
「セルゲイ、大丈夫?」
掛け布団を引っ剥がされたセルゲイは、恍惚の表情でわたしを見つめてくる。ちょっと遅かったみたい。のぼせちゃった、かな?
「イズ、とても美味しい。とても美味しいよ」
あ、変態だった。彼は変態だった。太腿に舌を滑らせながら、ニコニコ笑っている。足フェチなのかもしれない。
ふと、視線を移して、驚く。見間違ったかと思って、何度か瞬きをする。でも、見間違いではない。
「ねぇ、セルゲイ」
「うん?」
「それ、勃ってない?」
「ふふふ、勃ってる」
手でも口でも勃たせられなかった彼の肉棒が、棒らしく、杭らしく、剛直らしく、勃起している。素晴らしい。素晴らしいのだけれど。
「セルゲイ、もしかして、足フェチ?」
「ふぇち?」
「足が好きで好きで仕方なくて、それでしかイケないという……」
セルゲイはわたしの言葉に合点がいったのか、「なるほど!」と声を上げた。そっか、自分の癖に今気づいたのね。そっかー、口でも手でもダメだわ、足じゃなきゃダメだったんだわ。そりゃ無理だわ。娼婦、気づくわけないわ。
「ありがとう、イズ! 僕は今とても興奮しているよ!」
「でしょうね」
「このまま舐め続けたいんだけど、いいかな?」
「うん、いいよ。好きにしてちょうだい」
わたしは今、足フェチはどこまでを「足」だと認識しているのか、考えている。太腿まで? それとも、足の付け根まで? 膣内は足に含まれる? 含まれないかなー? 含まれないんだったら、わたしは今夜も欲求不満になるんじゃないかなー!?
「イズ……ねぇ、僕、太腿に挟みたい」
泣き出しそうな美人系イケメンが、プライドなんかかなぐり捨てた上でそう懇願してくる。勃起したの、何ヶ月ぶりなの? 射精できるの、何年ぶりなの? 聞いたら哀れすぎて泣けちゃうかもしれないから、わたしは聞かない。堪える。わたしの欲も堪える。
「いいよ、挟んであげる」
わたし、めっちゃ聖女様じゃん。聖女様してるじゃん! 夫を救ってる!
ベッドの近くに準備してある潤滑油を太腿に塗りながら、ちょっと泣きそうになっている。巨根を迎え入れるためではなく、太腿で扱くために使われる、すごくいい匂いのするトロトロの油。植物性だとテレサが言っていたから、口に入れても安心安全。舐めすぎると胃にもたれるから注意、だったっけ。
「あぁ、イズ……! すごく気持ちいいよ!」
でしょうね。念願の、ヌルヌルの太腿だもんね。堪らないよね。わたしは別の意味で溜まっているけど!
後背位で素股をされながら、ちょっと間違えて挿入してくれないかなーなんて思いながら、わたしの、セルゲイとの初夜は終わった。
セルゲイは間違えることなく、わたしの太腿に大量の白濁液をぶっかけて、果てたのだった。ちぇっ。
「へえ。あ、陰毛も銀色なんだ? すごーい」
「ねえ、イズ、聞いてる?」
聞いているよ、もちろん。勃たないのは残念だけど、ものすごーく残念だけど、イケメンといちゃいちゃできるんなら別にいいよ。
わたしは、銀色の毛の下に鎮座しているふにゃふにゃ柔らかい肉棒を優しく掴み、ゆっくり扱く。まぁ、勃起しないと自己申告してきた通り、セルゲイのそれはうんともすんとも、柔らかなままだ。
「父が娼館を営んでいるというのに、三男がコレじゃあ、ね」
あぁ、裸族ではなかったのね。周りに半裸の女の人がいるのも納得だわ。
欲の解放――七聖教ではセックスをそう呼ぶのだと、テレサから聞いた。相手を慈しみ、愛しく思う上での行為とも、ただ欲のままに己の滾りをぶつける行為とも、言っていた。
つまり、七聖教は特に厳しい規則を設けていないのだ。一夫多妻、一妻多夫、どちらもあり。経済力がある者がない者を養うのが常らしい。不倫も離婚もあるみたいだから、割と自由なんじゃないのかな。
ただ、命の実は夫婦にしか授けられない。その「夫婦」は男女でなければならず、男同士・女同士では命の実を授けてもらえないんだとか。まぁ、利害が一致する異性を見つけて、何とかするしかないよね。
「娼婦としての最初の仕事は、兄弟のうち、誰かを勃たせて射精させることなんだけど、僕には全く声がかからなかったよ。一日かけても勃たないんじゃ、仕方な……イズ!?」
萎えたモノを咥えてみる。ふにゃふにゃしているから噛みたくなっちゃうけど、痛いもんな。たぶん。
カサは小さめ、竿は太め。オーウェンと比べると、普通のサイズ。良かった、勃起しても巨根ではなさそう。銀色の毛の近く、根元をギュッと握って亀頭を舐めてみるけれど、全然反応しない。ビクともしない。コレを一日舐め続けた娼婦には同情してしまう。これはつらい。自信なくしちゃうわ。
「ダメだよ、イズ。顎が外れてしまうから」
「えっ、それは嫌だな」
「うん、だから、抱き合って眠ろう?」
わたしが純情で聞き分けがいいタイプなら、美人系イケメンが困ったように微笑むのを受け入れただろう。男としてのプライドがボロボロで、大変かわいそうなんだもの。あいにく、わたしは純情でも聞き分けがいいタイプでもない。肉食か草食かで答えると、肉食だ。
「セルゲイ、舐めて」
「……え」
「舐めて、イカせて」
昨夜の一件で、わたしは意外と欲求不満なのである。オーウェンは射精したけど、わたしはまだ。童貞を導く体力もなかった。一人で欲求を解消しても良かったけど、毎日セックスできるならいいかなと楽観的に考えていた。次の夫が勃起不全だとは思わなかったしね。
セルゲイは水色の瞳を瞬かせたあと、ごくりと喉を鳴らした。……ん? 今、何か、目が輝いたような?
「どこを舐めてもいいの?」
「うん、いいよ」
セルゲイはシーツの海の中に潜っていき、いきなり、わたしの足の爪先を口に含んだ。びっくりして変な声出たよ。一番にそこを舐める人、初めて見た。セルゲイはかなりの変態なのかもしれない。
生温い舌が、徐々に熱を帯びてくる。セルゲイは、大事なものを扱うかのようにわたしの右足を優しく持ち上げ、一心不乱に舐める。指の間、甲、裏、まんべんなく唾液まみれにしていく。右足の次は左足。同じように、熱い舌が這う。
不思議とゾクゾクする。下腹部が疼き始める。くるぶしのあたりとか、弱いみたい。たぶん、濡れてる。触りたいけど、一人で達しちゃうのも恥ずかしいから、触らないでおこう。
ふくらはぎを堪能し、次に膝を舐め始めたセルゲイを見下ろす。銀色の髪は見えるけれど、布団の中に隠れた顔も体もわからない。手を伸ばし、銀色の頭に触れる。
「セルゲイ、暑くはない?」
「……燃えるように暑いよ」
ずっとその中にいたら窒息しちゃうんじゃない? わたしは慌てて掛け布団をガバとめくり、横によける。
「セルゲイ、大丈夫?」
掛け布団を引っ剥がされたセルゲイは、恍惚の表情でわたしを見つめてくる。ちょっと遅かったみたい。のぼせちゃった、かな?
「イズ、とても美味しい。とても美味しいよ」
あ、変態だった。彼は変態だった。太腿に舌を滑らせながら、ニコニコ笑っている。足フェチなのかもしれない。
ふと、視線を移して、驚く。見間違ったかと思って、何度か瞬きをする。でも、見間違いではない。
「ねぇ、セルゲイ」
「うん?」
「それ、勃ってない?」
「ふふふ、勃ってる」
手でも口でも勃たせられなかった彼の肉棒が、棒らしく、杭らしく、剛直らしく、勃起している。素晴らしい。素晴らしいのだけれど。
「セルゲイ、もしかして、足フェチ?」
「ふぇち?」
「足が好きで好きで仕方なくて、それでしかイケないという……」
セルゲイはわたしの言葉に合点がいったのか、「なるほど!」と声を上げた。そっか、自分の癖に今気づいたのね。そっかー、口でも手でもダメだわ、足じゃなきゃダメだったんだわ。そりゃ無理だわ。娼婦、気づくわけないわ。
「ありがとう、イズ! 僕は今とても興奮しているよ!」
「でしょうね」
「このまま舐め続けたいんだけど、いいかな?」
「うん、いいよ。好きにしてちょうだい」
わたしは今、足フェチはどこまでを「足」だと認識しているのか、考えている。太腿まで? それとも、足の付け根まで? 膣内は足に含まれる? 含まれないかなー? 含まれないんだったら、わたしは今夜も欲求不満になるんじゃないかなー!?
「イズ……ねぇ、僕、太腿に挟みたい」
泣き出しそうな美人系イケメンが、プライドなんかかなぐり捨てた上でそう懇願してくる。勃起したの、何ヶ月ぶりなの? 射精できるの、何年ぶりなの? 聞いたら哀れすぎて泣けちゃうかもしれないから、わたしは聞かない。堪える。わたしの欲も堪える。
「いいよ、挟んであげる」
わたし、めっちゃ聖女様じゃん。聖女様してるじゃん! 夫を救ってる!
ベッドの近くに準備してある潤滑油を太腿に塗りながら、ちょっと泣きそうになっている。巨根を迎え入れるためではなく、太腿で扱くために使われる、すごくいい匂いのするトロトロの油。植物性だとテレサが言っていたから、口に入れても安心安全。舐めすぎると胃にもたれるから注意、だったっけ。
「あぁ、イズ……! すごく気持ちいいよ!」
でしょうね。念願の、ヌルヌルの太腿だもんね。堪らないよね。わたしは別の意味で溜まっているけど!
後背位で素股をされながら、ちょっと間違えて挿入してくれないかなーなんて思いながら、わたしの、セルゲイとの初夜は終わった。
セルゲイは間違えることなく、わたしの太腿に大量の白濁液をぶっかけて、果てたのだった。ちぇっ。
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