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第一夜
011.青の君との初夜(一)
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お風呂のあとは青色の寝間着を着る。デザインは昨日のものと同じ、すとんとしたワンピースだ。今日はさっさと髪を乾かした。同じ失敗は繰り返さないの。
さて、「青の君」はどんな人かしら? わたしは、ランプを片手にまた七色の扉の前で待っている。
赤が情熱の色なら、青は冷静さの色でしょ。夫はクールなイケメンってところかな? 戦隊モノなら定番よね、たぶん。
ラルスやテレサから色々と情報は仕入れてある。世界の成り立ち、七つの国のこと、七聖教の教えのこと。
聖女の夫は、高貴な身分の人間――各国の王侯貴族から選ばれている。次男以降に生まれ、あとを継ぐ必要がなく、婚約者や恋人、妻がいない若者なんだそう。童貞か否かは選別の対象にならないそうだ。
つまり、経験者がいるかもしれない、ということ。朗報だ。筆下ろしのお姉さんに徹さなくてもいい、ということだ。素晴らしい。
「じゃあ、ユーリィ、頼むよ。また明日」
従者に声をかけながら青の扉からやってきた夫を見て、わたしは心底驚いた。青みがかった銀色の長髪なんて、見たことがない。キラキラ輝いていてめちゃくちゃ綺麗。あれ、地毛なんでしょ? カツラでもあんな綺麗な色出ないと思う。水色に近い瞳も透明感がすごい。カラコンでもそんな輝いているもの、ないんじゃないかな。
着ている服も、シースルー。オーガンジーみたいな素材を重ねて作ってあるためか、透け感が半端ない。すごい綺麗。
青の夫は、全体的にキラキラしていて、柔らかな空気をまとった、レベルの高い美人系のイケメンだったのだ。
「あれ、聖女様、迎えに来てくれたの? ありがとう」
「い、いえ」
しかもやたらフレンドリー。人懐こい感じの笑みを浮かべ、夫はわたしの前に立つ。オーウェンよりは大きくないけど、十分背が高い。
「僕はセルゲイ。聖女様は?」
「和泉、です」
「イズミ……じゃあ、イズ。案内してくれる?」
セルゲイはわたしの手を取り、甲に口づけたあと、そのまま手を繋いで歩き出す。流れるような淀みない行為に、ドキドキしながらも、わたしは確信する。
セルゲイは……女慣れしすぎている。かなりの場数を踏んできたに違いない。
じゃあ、巨大すぎるモノを持っていなければ、セックスできるかもしれない、ということね。よし、頑張ろ。
命の実をつけるために必ずしも性交渉をしなければならないということではないのだけど。やっぱり、イケメンと一緒に眠るのに、キスだけで終わるのはちょっと、ね。ディープなキスをしちゃうと、わたしの気持ちも盛り上がっちゃうし。据え膳は美味しくいただきたいし。
セルゲイが同じ気持ちでありますように!
わたしは夫の端正な横顔を見上げ、聖樹に祈るのだった。
結論から言うと、セルゲイはかなりアレな夫だ。アレとは、つまり。
「ねぇ、イズ。こっちにおいでよ」
寝室に入るなり、衣装を脱ぎ捨て、セルゲイは全裸になった。全裸のままベッドにダイブして、お茶を淹れようとするわたしを呼ぶ。
セルゲイは裸族だ。家では裸で過ごしたがる人たちのことを、総称してそう言っていたような気がする。とにかく、セルゲイはベッドの上でわたしを手招きしている。すっぽんぽんで。
「セルゲイ、は、服は着たくない?」
「あぁ、そうだね。実家には半裸の女しかいなかったし、僕自身も堅苦しいのが嫌いでね。あ、イズに強要するつもりはないよ」
それなら良かった。まぁ、さすがに全裸だと寒いし、冷えるし、どこかに体をぶつけたら悶絶しちゃいそうだし。恥ずかしいわけではないあたり、わたしも大概だ。
半裸の女の人が家にいる、という状況はちょっとよくわかんないや。そういう部族なのかもしれない。やっぱ裸族なのかな。
「セルゲイの髪の色、綺麗ね」
「だよね。青の国の人間は大抵全体的に青っぽいんだけど、僕の髪は少し銀色が混ざっているよね。美しいよね」
「うん、美しい、綺麗」
セルゲイは得意気な笑みを浮かべる。意外とナルシストなのかもしれない。
クッションを背もたれにして、セルゲイの隣に座る。彼はすぐにわたしの肩に手を回す。うん、いい雰囲気だ。いい感じだ。すぐに「いただきます」できる感じだ。
「イズの髪は真っ黒で、癖がないんだね」
「そう。何回かパーマ当てたことあるけど、すぐストレートに戻っちゃうんだ」
「ぱーま、すとれえと……イズの世界の言葉かな?」
「うん、そう。ね、セルゲイ。キスしてもいい?」
わたしの申し出に、セルゲイは一瞬だけ水色の瞳を見開いたあと、すぐにそれを細めて微笑む。「もちろん」と答えがあったあと、唇が重ねられた。柔らかな、優しいキス。お互いの唇の感触を味わいながら、見つめ合って微笑む。しばらく堪能したら、戯れに舌で舐めてみる――と、いきなり、体が引き離された。セルゲイは何やら慌てた様子でわたしを見下ろしている。
「今のキスはダメ?」
「いや、もちろん、ダメじゃない。うん、もちろん」
めっちゃ動揺してるなぁ。美人は狼狽えていても美人なんだなぁ。
「何か問題がある感じ?」
「あー……うん、僕のほうに、問題があるんだ」
あ、童貞? 全然気にしないよ。好きなように料理して、何でも美味しくいただくよ。
セルゲイは溜め息をつく。
「夫婦なんだから、隠し事はなしにしないといけないよねぇ」
「うん、隠し事はなし、だね」
「そう、だね」
さて、夫は何を抱えているのかしら。別の世界に喚ばれたこと以上に驚くことなんて、たぶんないと思うんだ。
「……勃たないんだ、僕」
そっか。勃起しないイケメンもいるんだね。セルゲイはこの世の終わりみたいな顔をしているのだけど、わたし、何が問題なのかさっぱりわからないよ。指とか口とか、使えるものを使って気持ち良くなればいいんじゃないかな。
さて、「青の君」はどんな人かしら? わたしは、ランプを片手にまた七色の扉の前で待っている。
赤が情熱の色なら、青は冷静さの色でしょ。夫はクールなイケメンってところかな? 戦隊モノなら定番よね、たぶん。
ラルスやテレサから色々と情報は仕入れてある。世界の成り立ち、七つの国のこと、七聖教の教えのこと。
聖女の夫は、高貴な身分の人間――各国の王侯貴族から選ばれている。次男以降に生まれ、あとを継ぐ必要がなく、婚約者や恋人、妻がいない若者なんだそう。童貞か否かは選別の対象にならないそうだ。
つまり、経験者がいるかもしれない、ということ。朗報だ。筆下ろしのお姉さんに徹さなくてもいい、ということだ。素晴らしい。
「じゃあ、ユーリィ、頼むよ。また明日」
従者に声をかけながら青の扉からやってきた夫を見て、わたしは心底驚いた。青みがかった銀色の長髪なんて、見たことがない。キラキラ輝いていてめちゃくちゃ綺麗。あれ、地毛なんでしょ? カツラでもあんな綺麗な色出ないと思う。水色に近い瞳も透明感がすごい。カラコンでもそんな輝いているもの、ないんじゃないかな。
着ている服も、シースルー。オーガンジーみたいな素材を重ねて作ってあるためか、透け感が半端ない。すごい綺麗。
青の夫は、全体的にキラキラしていて、柔らかな空気をまとった、レベルの高い美人系のイケメンだったのだ。
「あれ、聖女様、迎えに来てくれたの? ありがとう」
「い、いえ」
しかもやたらフレンドリー。人懐こい感じの笑みを浮かべ、夫はわたしの前に立つ。オーウェンよりは大きくないけど、十分背が高い。
「僕はセルゲイ。聖女様は?」
「和泉、です」
「イズミ……じゃあ、イズ。案内してくれる?」
セルゲイはわたしの手を取り、甲に口づけたあと、そのまま手を繋いで歩き出す。流れるような淀みない行為に、ドキドキしながらも、わたしは確信する。
セルゲイは……女慣れしすぎている。かなりの場数を踏んできたに違いない。
じゃあ、巨大すぎるモノを持っていなければ、セックスできるかもしれない、ということね。よし、頑張ろ。
命の実をつけるために必ずしも性交渉をしなければならないということではないのだけど。やっぱり、イケメンと一緒に眠るのに、キスだけで終わるのはちょっと、ね。ディープなキスをしちゃうと、わたしの気持ちも盛り上がっちゃうし。据え膳は美味しくいただきたいし。
セルゲイが同じ気持ちでありますように!
わたしは夫の端正な横顔を見上げ、聖樹に祈るのだった。
結論から言うと、セルゲイはかなりアレな夫だ。アレとは、つまり。
「ねぇ、イズ。こっちにおいでよ」
寝室に入るなり、衣装を脱ぎ捨て、セルゲイは全裸になった。全裸のままベッドにダイブして、お茶を淹れようとするわたしを呼ぶ。
セルゲイは裸族だ。家では裸で過ごしたがる人たちのことを、総称してそう言っていたような気がする。とにかく、セルゲイはベッドの上でわたしを手招きしている。すっぽんぽんで。
「セルゲイ、は、服は着たくない?」
「あぁ、そうだね。実家には半裸の女しかいなかったし、僕自身も堅苦しいのが嫌いでね。あ、イズに強要するつもりはないよ」
それなら良かった。まぁ、さすがに全裸だと寒いし、冷えるし、どこかに体をぶつけたら悶絶しちゃいそうだし。恥ずかしいわけではないあたり、わたしも大概だ。
半裸の女の人が家にいる、という状況はちょっとよくわかんないや。そういう部族なのかもしれない。やっぱ裸族なのかな。
「セルゲイの髪の色、綺麗ね」
「だよね。青の国の人間は大抵全体的に青っぽいんだけど、僕の髪は少し銀色が混ざっているよね。美しいよね」
「うん、美しい、綺麗」
セルゲイは得意気な笑みを浮かべる。意外とナルシストなのかもしれない。
クッションを背もたれにして、セルゲイの隣に座る。彼はすぐにわたしの肩に手を回す。うん、いい雰囲気だ。いい感じだ。すぐに「いただきます」できる感じだ。
「イズの髪は真っ黒で、癖がないんだね」
「そう。何回かパーマ当てたことあるけど、すぐストレートに戻っちゃうんだ」
「ぱーま、すとれえと……イズの世界の言葉かな?」
「うん、そう。ね、セルゲイ。キスしてもいい?」
わたしの申し出に、セルゲイは一瞬だけ水色の瞳を見開いたあと、すぐにそれを細めて微笑む。「もちろん」と答えがあったあと、唇が重ねられた。柔らかな、優しいキス。お互いの唇の感触を味わいながら、見つめ合って微笑む。しばらく堪能したら、戯れに舌で舐めてみる――と、いきなり、体が引き離された。セルゲイは何やら慌てた様子でわたしを見下ろしている。
「今のキスはダメ?」
「いや、もちろん、ダメじゃない。うん、もちろん」
めっちゃ動揺してるなぁ。美人は狼狽えていても美人なんだなぁ。
「何か問題がある感じ?」
「あー……うん、僕のほうに、問題があるんだ」
あ、童貞? 全然気にしないよ。好きなように料理して、何でも美味しくいただくよ。
セルゲイは溜め息をつく。
「夫婦なんだから、隠し事はなしにしないといけないよねぇ」
「うん、隠し事はなし、だね」
「そう、だね」
さて、夫は何を抱えているのかしら。別の世界に喚ばれたこと以上に驚くことなんて、たぶんないと思うんだ。
「……勃たないんだ、僕」
そっか。勃起しないイケメンもいるんだね。セルゲイはこの世の終わりみたいな顔をしているのだけど、わたし、何が問題なのかさっぱりわからないよ。指とか口とか、使えるものを使って気持ち良くなればいいんじゃないかな。
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