【R18】サキュバスちゃんの純情

千咲

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72.性欲か生欲か(三)

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「やっぱりお風呂は大きいとこがいいなぁ」

 乳白色の湯がザブザブ揺れる。透明なガラスの仕切りは、今はもう曇って目隠しの役割を果たしている。

 ホテル内のフレンチレストランのディナーは、ものすごく美味しかった。瀬戸内周辺の魚介類と野菜、肉の美味しさに、湯川先生も翔吾くんも驚いていた。
 鮮魚は近隣で水揚げされたばかりのもの。口の中でとろけるロースは広島産黒毛和牛。プリプリのタコは三原のもの。デザートに使われる砂糖は香川の和三盆。とにかく、東京ではすぐには食べられないものばかり。
 ――贅沢な時間だった。

「っ、ふ、あ……んん」

 乳白色の湯が、二人の姿を隠す。その情事さえ、隠してしまう。

 西条の地酒も美味しかった。さっぱりした喉越しの、辛口のお酒。名前、何だったかなぁ。思い出せないなぁ。

「はい、あかり」

 目の前に現れた赤黒い美味しそうな棒を、私は迷うことなく口にする。洗ったばかりのそれは、ボディーソープの香り。鈴口からは先走りが溢れている。

「新居? さすがにこのサイズの浴室を探すのは難しいだろ。マンションなら家賃が高くなるだろうし」
「望さん、本当に開業しないの? 家、建てちゃえば?」

 湯川先生の悩む声と共にザバと波が立つ。深く深く腰を落とすよう誘導されて、穿たれた奥からまた蜜が溢れ出てくる。
 喘ぎ声は翔吾くんの先走りと一緒に飲み込んで、ふわふわとした意識の中で二人の会話を聞いている。
 んん、美味しい。

「自宅兼職場? 簡単に言うけど、かなり金かかるぞ?」
「俺も出すよ。頭金くらいにはなるでしょ。その代わり、お風呂は広いものでお願い」
「こういうことをするために?」
「こういうことをするために」

 湯気で曇ったガラスのカーテンが隠すのは、三人の情事。湯船の中で繋がる湯川先生と私、そして、縁に座った翔吾くんの熱杭を咥える私。
「お風呂でしよう」という翔吾くんの誘いを、普通なら断っていたのに、飲んだ日本酒で思考回路がおかしくなっていたのか、諸手を挙げていた、ようだ。そのあたりの記憶はあやふやだ。

「毎日3Pはあかりがしんどいだろ?」
「別に毎日しなくても俺は大丈夫だけど」
「3Pは週イチだったっけ? 平日は交互に?」
「まぁ、俺の就活の結果次第かな」
「そうだな。俺の就活もあるし……っ、あかり、締めないで」
「んふ?」

 締めたつもりはないのだけれど。
 湯川先生が顔をしかめる。翔吾くんは笑っている。
 誰もイクつもりはないスローなセックス。みんな、ただ、このシチュエーションを楽しんでいる。

「んんんっ」

 お返しとばかりに湯川先生が胸の頂きに甘く噛み付く。そんなことしたら、余計締まってしまうのに。
 きゅうと切なく膣内が収縮して、湯川先生の肉杭を締め上げる。「あ」と甘い声を零す湯川先生の濡れた髪を撫で、片方の手で翔吾くんの肉棒をゆっくり扱く。

「あかりはどっちの口でするのが好きなんだろうね?」
「上の口か下の口か? 両方だよねぇ? 上手だもん、あかり」

 上でも下のでも構わないよ? 両方とも精液を摂取できるのだから。
 根元まで咥えたり、筋の部分を舐め上げたりしながら、少しずつ翔吾くんの射精感を高めてあげる。フェラを褒められるのは嬉しい。気持ち良くなってくれるなら、もっと嬉しい。
 湯川先生は胸元に吸い付いて、チリと痛い赤い花を咲かせていく。先端を口に含まれると、また蜜が溢れてくる。

「ねえ、あかり」

 顔を上気させながら、翔吾くんが私を見下ろす。悪戯を思いついた、かのような顔が妙に色っぽい。

「後ろは使えないの?」
「んんっ!?」

 ……噛みつきそうになってしまった。危ない、危ない。
 何を言うのかと思えば、後ろ? 後ろって、後ろ?
 私は翔吾くんのものを咥えたまま、頭を左右に振る。「あっ」と色っぽい声が聞こえたけど、気にしない。
 無理です!!
 だって、そっちは精液が吸収できないもん!!

「無理?」
「うん」
「じゃあ、試してみようよ」

 何が「じゃあ」なのか、説明して! 今の会話のどこに「じゃあ」の部分があったの!?
 翔吾くんは三人ですることにやけに積極的になっているけど、穴という穴を全部使ってみたいとか言わないでよ!?

「後ろって、ここ?」
「ひゃあ!」

 湯川先生がいきなり私の体を引き寄せて、お尻のほうから手を伸ばし、話題に上がっている窪みを指で押した。途端にきゅうと中が締まって、先生が甘い息を零す。

「ちょっと、二人とも!」

 思わず咥えていた熱杭を口から取り出し、抗議の意味を込めて翔吾くんを睨みつけると、彼は悪びれることもなく笑う。

「だって、セックスのバリエーションが増えるじゃん?」
「だからって、そこは!」
「ここ?」
「ちょっ! 湯川先生っ!?」

 二回も触った! 酷い!
 湯川先生もニヤニヤと笑っている。本当に酷い人たちだ。私の体を何だと思っているのか。玩具じゃないのに!
 ザブンと湯船に翔吾くんも入る。乳白色の湯が湯船の外へと落ちる。三人で入ると少し窮屈だったのか、翔吾くんは半身浴用の段差に腰掛け、私を背後から抱きすくめた。

「そろそろ交代してよ、望さん」
「はいはい、わかってるって」

 翔吾くんが背後から私の乳房をぎゅうと掴み、その頂きを指で摘む。甘やかな刺激に思わず膣内が収縮すると、湯川先生が私の足を持ち上げながら「締めないで」と笑う。
 左足が湯船の縁に引っ掛けられて、右の太腿を先生がしっかりと持つ。ゆっくりと腰を進められると、座っていたときよりも深いところで先生の先端を感じる。
 腰が浮いた不安定な体勢に、翔吾くんの腕をしっかりと握るけれど、その不安感が逆に体を熱くする。

「あっ、やぁっ」
「あかり、わかる? 望さんと繋がってるの、丸見えだね」

 少し視線を動かすだけで、確かに湯川先生の太くて硬い肉杭が私の中に出入りしているのがはっきり見える。赤黒く怒張したそれが出入りするたび、体が揺れる。
 翔吾くんの言葉に、先生がゆっくり見せつけるように抽挿を始めたので、なおさら恥ずかしさが煽られる。

「やだ、はずか、しっ」
「ほら、ちゃんと見て。望さんが気持ち良くさせてくれるんだから」

 翔吾くんの言葉に、いちいち体が反応してしまう。きゅうと中が収縮するたび、湯川先生の顔が色っぽく歪み、甘い声が漏れる。

「あっ、あ、っ、ん」
「ね、あかり。俺と望さんの、どっちが好き?」
「そんな、の、決められ、なっ」
「両方好きなの? あかりは欲張りだなぁ」

 二人は別に示し合わせて連携しているわけではないと思う。ただ、私の体を知り尽くしている二人だからこそ、何も言わなくてもわかる、通じる部分があるのだろう。
 翔吾くんが私の耳を犯し、先生が私の中を犯す。こんな背徳的なプレイ――悪くない。

「あかり、中は気持ちいい?」
「んっ、きもち、いっ」
「さっきは俺のを咥え込んでいたのに、あかりのそこはやらしいね。今度は望さんのを咥えて離さないなんて」
「っ、あ……ダメ、んんっ」

 手のひらで柔らかく胸の突起を撫でて転がされると、もっと強い刺激が欲しくなる。中ももっと激しく打ち付けて欲しくなってくる。
 ――ダメだ、二人に昇らされてしまう。

「あかりは中に何が欲しいの?」
「あぁっ、ふ……せ、えき」
「欲しいもの、言って? 望さんの何が欲しいの?」

 翔吾くんの言葉に煽られているのは私だけではない。湯川先生の抽挿が徐々に激しくなってくる。彼ももう、限界のはずだ。

「あかり、言ってごらん? 望さんの何が欲しいの?」
「せい、えきっ、あぁっ」
「精液がどこに欲しいの?」
「なかっ、中に、ほし――っ、ダメ、来ちゃっ」

 湯川先生と目が合う。先生は短く「俺も」と微笑んで、私の太腿を強く掴む。激しく揺さぶられて、乳白色の湯がザバザバと波打つ。奥に熱杭の先端を感じる。湯川先生の眉間にしわが寄る。
 ああ、ダメだ。イッてしまう。

「のぞむ、奥に、ちょうだ――あぁっ」

 ビクンと体が震えた。膣内がきゅうと収縮し、一気に湯川先生の肉棒を締め上げる。先生は一瞬顔を歪めたあと、太腿を痛いくらい掴んで、最奥で精を吐き出した。

「はぁ、はぁ……あかり、だいじょぶ?」
「ん、だいじょ、ぶ」

 二人で昇るのは、気持ちいい。不安定な場所でのセックスは、ちょっとドキドキしてしまう。
 ハァハァと荒い息が浴室に響き、お互い熱の余韻の中で弛緩していく快感に打ち震えていた。
 もうこのまま眠ってしまいたい。けれど、そうはいかない。

「あかり、気持ち良かったね?」

 ぐいと体を抱き起こされ、ズルリと湯川先生の熱が抜け、「あぁ」と声が漏れる。
 まだ余韻を楽しんでいたかったのに、翔吾くんのバカ。
 湯川先生も抗議の視線を翔吾くんに向けるけれど、彼は気にしていない。私を自分の太腿に座らせて、その中央で存在をアピールしている肉杭を私の腹になすりつけてくる。
 少し休ませて! イッたあとの二回目は、結構キツいです!

「次は俺の番ね」

 翔吾くんのものは萎える様子もない。翔吾くん自身も吐くことはない。彼は、この状況を楽しんでいる。それがいいことなのか、悪いことなのか。私には判断できない。

「ひあっ」

 翔吾くんが腰を少し動かして、私の膣口に熱杭を宛てがい、一気に隘路に侵入してくる。ぬかるんでいる膣襞が屹立した肉杭をすんなりと飲み込む。
 あ、ダメ、ふと……っ!
 敏感になっている膣内が、歓喜する。それだけで達してしまいそうになり、思わず翔吾くんに抱きつく。

「しょーご、くっ」
「ん、おいで、あかり」

 舌を絡ませ、唾液を飲む。翔吾くんの指が私の肉芽を見つけて捏ねる。ビクンと体が震えると、背後からいきなり乳房を掴まれる。

「んっ、やぁっ」
「大丈夫、気持ち良くなるだけだから」

 私の耳元で甘い言葉を囁きながら、湯川先生の指が先端を捏ね、翔吾くんの腰の動きに合わせて私の体を持ち上げたり深く落としたりする。そのたび、痛いくらいの意図せぬ刺激に、体が悦ぶ。

「あぁっ、ダメ、ふかっ……!」
「痛い? 気持ちいい?」
「きもち、いっ」

 痛いのか気持ちいいのか、恥ずかしいのか見てもらいたいのか、ここまで来ると、もう頭では何も考えられなくなってくる。
 考えるだけ無意味、なんだろう。
 私はただ、二人の愛を感じていればいい。二人から与えられる快楽を享受していればいい。
 昇らされるままに、気持ち良いと思えばいい。

「あかり、かわいい」

 湯川先生にペロリと耳の後ろを舐められて、また腰が跳ねる。きゅうと中が締まると、翔吾くんの眉間にしわが寄る。

「ちょっと、望さ、あんまり、刺激を」
「俺のときにもやられたんだから、イイだろ」
「んっ、ん、ふ……っ」

 左の肩に湯川先生の唇が触れる。ほくろのあるところを吸い上げて、痕を残す。彼のお気に入りの位置。私には見えない、湯川先生のキスマーク。
 翔吾くんの舌に吸い付いて、もっと、とキスをねだる。もっと、深くまで繋がりたい。もっと、気持ち良くなりたい。もっと――。

「……あかり、俺」
「あっ、わた、しもっ」

 熱い。体が熱い。湯だけのせいではない。欲を煽られて、気持ち良くて、体が熱い。
 中はぐずぐずにとろけてしまっている。
 高まってくる快楽を止める術はなく、波に飲み込まれるのを待つだけだ。

「しょーご、っ、あぁっ」
「――っ、く」

 湯川先生がぐいと私の肩を下に押して、翔吾くんと痛いくらいに深く繋がった瞬間に、私の中が強く収縮し、彼の精が最奥で吐き出される。
 視界が真っ白になる。下肢に力が入らない。ご馳走を何度も搾り取って、私はそのまま翔吾くんの胸に体を預ける。
 気持ちいいけど……すごく気持ちいいけど……やっぱり、すぐ二回目はキツいです……。

「っ、は……んんっ」

 湯川先生の指と舌がするりと背中を這う。背を仰け反らせると、まだ中に残っている翔吾くんの肉杭を刺激してしまう。翔吾くんは一瞬体を震わせたあと、苦笑する。

「……あかりは、セックス好きだねぇ」
「二人が、セックス、好き、なんでしょ?」
「まぁ、俺も翔吾もあかりとするのは好きだな」
「でも、あかりも相当だよね」

 二人は頷いて、セックスが好きな理由を私のせいにする。酷い。私のせいだけじゃないでしょ、それ。
 そもそも、私はセックスが好きなのではなくて、食事のために……生きるためにセックスをしているのであって。
 別に、セックスがめちゃくちゃ好きだというわけでは。

「ほんと、気持ちいー。これからも気持ちいいこと、たくさんしようね、あかり」

 別に、好きでは。

「翔吾、あかりに抱きつきすぎ。はい、あかり。今から体洗ってあげるからおいで。隅々まで綺麗にしてあげる」

 す、好きというわけでは。

「これからも楽しみだなぁ」
「三人も、まぁ、悪くはないな」
「あかりは? しんどくなかった?」
「気持ち良かった?」

 二人の期待に満ちた目。
 ……好きではないと、思っていたのに。

「……気持ち良かった、です」

 私の答えに、二人がほっと胸を撫で下ろす。そして、前から、後ろから、ぎゅうと抱きすくめられる。

「あかり、好きだよ」
「あかり、愛してるよ」
「いや、望さんより俺のほうが!」
「翔吾よりは俺のほうがあかりを愛してるからねー」

 求められると体も心も疼く。応じてあげたいと思う。
 愛されているとわかると、幸せな気分になる。幸せであり続けたいと願ってしまう。
 セックスだけが二人と私を繋ぐものだとは思わないけれど、それがきっかけであることに間違いはない。

 生きていたいという生欲が、食欲と同義だった性欲が、他の意味を持つようになった。
 幸せにしたい幸せでありたい、愛したい愛されていたい、気持ち良くさせてあげたい気持ち良くなりたい、と願うようになってしまった。
 それをずっと叡心先生の死のせいにして向き合わず、悪いことだと思っていたけれど――そうではないんだろう。たぶん、普通のこと、なんだ。
 サキュバスとしては、性欲も生欲もきっと同じもので、求めてしまうのが普通のこと。

「とりあえず……」

 次はベッドでどちらがどういう体位でヤルか、と火花を散らしている二人を呆れながら見つめて。

「今夜はもうセックスはしません!」
「え、何言ってんの、あかり!」
「いやいや、するよ。したいよ、俺!」

 二人のブーイングを聞きながら、私は笑う。

 あぁ……幸せだなぁ。

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