【R18】サキュバスちゃんの純情

千咲

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70.性欲か生欲か(二)

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 晴れていれば夕日が沈むのが綺麗に見えるであろうオーシャンビュー。雨が降っているのが残念だ。景色は濃い灰色に塗り潰されている。
 大きなソファに、大きなダブルベッド。そのベッドの上にはテディベアがちょこんと乗っている。持って帰ってもいいらしい。
 部屋は――私の部屋が三つ分入るくらいの大きさだ。翔吾くんと健吾くんのマンションの部屋くらい広い。
 さすが、高いだけのことはある。
 洗面台が二つもある部屋なんて初めて見た。浴室はガラス張り。最近できたホテルではこういうのが流行っているのだろうか。
 部屋全体を見た感じ、たぶん、スイートルームだと思う。
 よく予約が取れたなぁ。三連休の中日なのに。台風が来るから、予約キャンセルがあったのだろうか。このホテルはクルージングを楽しむ人が多く利用するらしいから。

「ダブルベッド……」
「おっ、広いベッド! 望さん、三人で寝られそうだよ!」
「じゃあ、じゃんけんしなくて済むなぁ。さすがキングダブル」

 ええと、新幹線の中でどんな取り決めがあったのか、大変興味があります。ベッドを誰が使うのか、以外に、どんなことを話したのか知りたいです。とても。

「夕飯までまだ時間があるなぁ」
「日本酒があるよ、望さん!」
「夕飯の前に酔い潰れるなよ、翔吾」

 二人は、聞かない。なぜ私が尾道に来たのか、を。
 湯川先生は私の祖母の故郷だと思っている。翔吾くんはどうだろう。湯川先生から聞いただろうか。二人はただの墓参りだと思っているだろうか。

「あの」

 ソファに座り、デニムのクッションを抱きしめて、私は二人の顔を見比べる。日本酒を開けようとしていた翔吾くんは動きを止め、湯川先生はソファに座ってくれる。
 あぁ、今しかない。
 今しか、ない。

「大事な話があるの。聞いてくれる?」

 叡心先生とのことを話すには、今しかないのだ。


◆◇◆◇◆


「私が大好きだった人が、尾道のあの海で死んだの」

 彼が私のせいで死んだこと。大好きだったから、他の人を好きになるのが怖かったこと。彼以外に心を許したくなくて、セックスをするだけの関係を望んだこと。
 それらを、二人に話す。翔吾くんには一度話したことがあるけれど、もう一度、きちんと私の言葉で伝えたかったから。

「でも、一日海にいて……湯川先生と翔吾くんと一緒に生きていたいって、彼にお願いしてきました」

 でも、私は決めたのだ。私一人で考えて、結論を出したのだ。逃げて、逃げて、逃げ続けたことから、目を逸らさずに。
 幸せになりたい、と。

「だから、私……私は、二人のことを、二人のことが……好きで仕方なくて……っ」

 今日だけは、涙もろくても許して欲しい。
 笑顔で言いたいのに、そんなの無理だ。涙が溢れて溢れて仕方ない。
 好きだ。
 好きで仕方ない。
 二人のことが、好きで好きでどうしようもない。

「あかり」

 左右から熱を感じて顔を上げた瞬間に、湯川先生の唇の感触。左からは「うわ、ずるい!」と翔吾くんの声。湯川先生の短いキスのあと、当然のように翔吾くんからも唇にキスをされる。

「つらかったね、あかり。でも、話してくれてありがとう」
「大丈夫。俺たちはいなくなったりしないから。だから、あかりもいきなりいなくならないで」
「……ごめんなさい」

 たぶん、今日はいっぱい心配かけた。健吾くんも水森さんも巻き込んで、二人はずっと心配してくれたに違いない。
 本当に、申し訳ない。

「……あと一つ、二人に言っておかないといけないことが、あっ、て……ちょっと! なに、して……んんっ」

 湯川先生に唇を塞がれて、翔吾くんにカットソーをめくり上げられる。汗をかいたままの双丘に指がかかり、ブラが引き下ろされ、赤く色づいた頂きが外気に晒される。

「なに、って……今すぐあかりを抱きたいんだよね、俺たちは」

 言って、翔吾くんは既に硬く尖った先端を口に含む。私の悲鳴は、湯川先生の舌に邪魔されてくぐもった音にしかならない。手で二人を押し退けようとすると、湯川先生に手首を捕らえられる。

「んんんーっ!」

 溢れる唾液を飲み込んで、状況を整理する。
 ええと……二人は、私を、抱きたい、と。今すぐ。ここで。
 ――ここで? 二人で?
 嘘、でしょ?

「やっ、ふ、っ」
「抵抗しないで、あかり」
「んっ、んん」
「大丈夫、怖くないから」

 怖くないのはわかっている。優しい二人が乱暴にするわけがないことは知っている。
 でも、翔吾くんは三人ですることを望んでいたけれど、湯川先生は違ったはず。抵抗はないのだろうか、と湯川先生をチラリと見て、それが愚問だと理解する。
 ……勃って、いますねぇ。準備万端、ですねぇ。
 そうか、これが「いつか」か。今が「いつか」のときなのか。
 二人を受け入れるタイミング、なのか。

「あかり?」

 私の体から力が抜けたことに、いち早く湯川先生が気づく。心配そうな表情で私を見下ろしながら、右手が乳首を捏ねている。

「せんせ、いいの?」
「いいよ。翔吾がいても、勃ってる」
「翔吾くん、は? つらく、ない?」
「大丈夫。挿れられないほうがつらい」

 大好きな二人から求められている。
 もうそれだけで、私の心が幸せで満たされ、体に熱が灯っていく。ほら、もう、受け入れようとしている。この状況を。二人を。

「あかり、いい?」とは翔吾くん。
「俺も限界」とは湯川先生。
 二人と生きようと決めた。
 ならば、覚悟を決めよう。
 今が、そのときだ。

 二人の切なそうな顔を交互に見て、頷く。
 ごめんね。いっぱい、待たせたね。

「……望と翔吾、二人が好き」

 愛なんていらないと思っていた。
 生きる理由なんていらないと、思っていた。
 苦しいだけの愛なんていらない、つらいだけの生なんていらない、と。

「二人を愛してる」

 でも、たぶん、本当は、一番欲しかったんだ。
 愛する人に、愛されたかった。
 愛する人と、一緒に生きたかった。

「だから」

 飢えを、満たして。
 食欲と性欲と――生欲、を。

「――二人に、抱いて欲しい」

 幸せで、満たして欲しいの。


◆◇◆◇◆


「んっ、んんっ、ふあ」

 ショーツをずらして挿入された肉杭が、膣内の浅いところを刺激する。挿れては腰を引き、ジリジリと欲を煽る。
 もどかしくて腰を揺すっても、決して奥までは穿たれない、そんな意地悪をするのは翔吾くん。空いている手で肉芽すら擦ってくれない。ほんと、意地悪。

「っ、あ」

 腹に張り付くほどに怒張した湯川先生の肉棒が私の口内を犯す。硬くて太くて、先走りが美味しい。舌の裏で亀頭を舐めると、湯川先生が切なそうな声を零す。その声がたまらなく嬉しい。もっと気持ち良くしてあげたくなる。
 でも、奥までは咥えないようにしないと。先生はすぐイッてしまうから。

「望さん、そろそろ限界なんじゃ?」
「まさか」

 隣の部屋にキングサイズのダブルベッドがあるのに、ソファで、始めてしまった。三人とも、限界だったのだ。
 服は着たまま、最小限脱いだ状態での情事は、裸のときよりもいやらしい気がする。
「まさか」とは言っても、湯川先生はたぶんイク直前。早漏の先生に余裕はないはずだ。初めての、三人でのセックスは、そのシチュエーションだけでかなり興奮するから。

「じゃ、動いていい?」
「いや! ちょっ、と!」

 翔吾くんは、湯川先生がかなりの早漏であることを知っているらしく、背後から聞こえた声にはからかうような色が混じっている。
 ホテルでの下ネタ大会のときには話していなかったから、今日湯川先生が話したのだろう。新幹線の中で他に何を話したのか、本当に気になる。

「せんせ、一回、イク?」
「――っ、ダメ、あかり。それ、エロい」

 上目遣いで先生を見上げるのはまずかったみたいです。ビクンと熱杭が震える。腰を引こうとする先生だけど、その腰に抱きついて、私がそれを許さない。
 限界なのに強がるのはなぜなのか。私は別に早漏でも構わないのに。口の中に出してもらっても構わないのに。
 ……ん、出してもらおう。

「っ!? あかり!?」

 根元まで――はさすがに咥えられないくらいの大きさだけど、歯に当てないように注意して奥まで肉棒を滑らせる。
 それに合わせるようにして、翔吾くんが勢い良く膣壁を擦る。子宮口まで届くように。その動きは予想外だったけど、私の膣内は難なく奥まで迎え入れたようだ。
 好きな人のものを二つ、奥まで咥え込むことがどれだけ幸せなことか。どれだけ気持ちのいいことか。

「んっ、ふ……んっ」
「ちょっ、と、ダメ、こら、やめ」
「イイじゃん。望さん、限界でしょ?」

 翔吾くんの言う通り、湯川先生は結構ギリギリだ。たぶん、すぐイク。数秒でイク。
 我慢、しなくていいのに。して欲しくないのに。
 でも、翔吾くんも、結構限界だと思う。めちゃくちゃ硬くて太い。
 二人して、我慢なんかしなくていいのに。ぜんぶ、受け止めてあげるのに。

「まぁ、俺もそろそろ出るし……って、あかり!?」
「……っ、あ」

 スルリと二人の根元に繋がっている柔らかな袋に手を伸ばす。ふにふにと少し汗ばんだ冷たい感触が気持ちいい。両手が使える体位で良かった。

「あかり、ダメ、っ」

 湯川先生はその刺激が引鉄となったらしく、ふるりと体を震わせて、私の口内の奥のほうに精液を吐き出す。
 一般的には苦いと言われる精液の味は、私にとっては甘い蜜だ。とても美味しいもの。喉を鳴らして飲み込むと、精液が私の喉を潤していく。
 翔吾くんに穿たれながら、湯川先生の蜜を一滴残らず吸い上げる。見上げると、湯川先生は眉間にシワを寄せて、切なそうに震えていた。

「はっ、あ、あかり、出るっ」

 背後から声が聞こえると同時に、抽挿と水音が激しくなる。ぐちゅぐちゅと音を立てて、翔吾くんが私の体を揺する。ゆらゆら揺れる袋がかわいくて、手が離せない。

「っ、あ、イっ――」

 肉棒の先で熱が爆ぜる。膣奥でじわりと精液が広がっていく。その精液は、今度は私の腹を満たしていく。
 ビクビクと何度も震える翔吾くんの肉杭から精液を搾り取り、萎えていく湯川先生の肉棒を舌で舐りながら、私は思わず笑ってしまう。

 ――ダメだ、これは、気持ちいい。
 笑ってしまうくらい、幸せだ。幸せすぎる。これは病みつきになってしまう。
 私にとっては普通の――いわゆる、愛のないセックスが霞んでしまうくらいの、充足感だ。
 イカなくても、満たされてしまう。
 心も、体も。ぜんぶ。

「あかり?」
「大丈夫?」

 二人が心配してくれている。心と体を。労ってくれている。
 ちゅうと湯川先生の柔らかな肉棒を吸ったあと、口から取り出す。名残惜しいけど。
 膣内から翔吾くんの萎えた肉杭も抜き取られてしまう。こちらも名残惜しい。
 背後から翔吾くんに抱きつかれ、湯川先生には前からぎゅっとされて、やっぱり幸せだなぁと思う。

「……ありがと、望、翔吾」

 声が震える。目の前が滲む。頬を熱が伝う。
 外は灰色の世界。風も強い。今夜中にこのあたりを台風が通過していくだろう。
 けれど、私の心は、嵐が去ったかのように穏やかだ。晴れやかだ。

「私……幸せだよ」

 本当に良かった。
 二人に出会えて、本当に。

「生きてて良かった……」

 二人が無言で抱きしめてくれる。幸せな幸せな、暖かいサンドイッチ。
 私はそのとき初めて――叡心先生が死んでしまってから初めて、生きていて良かったと、心の底から思ったのだ。

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