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57.黒白の告白(六)
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極太くんは、Gスポットとクリトリスを攻めるタイプの太めのバイブだ。奥までは届かない設計のくせに、イイところを攻めてくれるから、それだけで満足してしまう。Gスポット用の先端は細く尖っていて、クリトリス側はシリコンの襞が密集している形状だ。
この黒いバイブは、最初全く売れなかった。モノはすごく良く、すぐイッてしまうくらいのバイブなのに、男性が女性を喜ばせるための黒いバイブ、というのが受けなかったらしい。
途中でコンセプトを女性のオナニー用に変更し、パッケージもかわいらしく、色もパステルカラーにしたら、売上が伸びたという経緯がある。
つまり、この黒い極太くんは、初期コンセプトの売れ残り、負の在庫なのだ。
売れ残りなのに、機能も性能もいいグッズ。残念ながら、単一電池を使うため若干音が大きいのが難点だ。その分、パワーがあるということなんだけど。
「やだぁっ、やめっ、イッちゃ、っ、あっ」
「……スゴイね、コレ。そんな気持ちいいの? もう三回目だよ? まだイク?」
蜜に濡れたシリコンの襞が、振動するたびに肉芽を擦り上げる。ビリビリとした刺激が与えられるたび、腰が切なく動く。
同時に、中でいいところをグリグリと突くのがバイブの先端で、何度身を捩って逃げても、ケントくんは上手にポイントを探り当ててくる。
「あかりちゃん、気持ちいい?」
「やだ、イッちゃ、う! やっ、あ!」
「気持ちいいんだね、良かった」
良くない!
と言いたいのに、難しい。体はもうぐったりとしていて、反論をする元気はない。ただ、下腹部に訪れる強すぎる快楽だけを享受するだけになってしまっている。
「あっ、やあぁ!」
体が震えたのは、ケントくんが胸の先端を咥えたからだ。熱い舌がコロコロと突起を転がし、吸い上げる。
痛みと快楽で、頭がおかしくなってしまいそうだ。
「いいよ、おいで、あかりちゃん」
おいで、と言われると、何だか「許された」気持ちになる。食事は――セックスは気持ち良くていいんだ、達することは悪いことじゃないんだ、と。
「ケントく、イッちゃ、う!」
「おいで」
「あっ、あ、ん――っ、んんっ!」
目をぎゅうと閉じた瞬間にびくんと派手に腰が浮き、背中がしなる。何度かビクビクと腰が動き、息を大きく吸い込んだと同時に体が弛緩する。
三回も達すると、もうぐったりだ。
「気持ち良かったね、あかりちゃん」
ズルリと極太くんを引き抜いて、ケントくんはヌラヌラ光る私の愛液を舐め取る。甘い蜜のように、美味しそうに。
ケントくんが色っぽすぎて、恥ずかしすぎて、直視できない。
「……美味しい」
ケントくんにとっては、ただの食事。けれど、本当に恥ずかしい。私も精液を飲み込んだあとはこんな感じなんだろうか。こんな、恍惚の笑みを浮かべているのだろうか。
それはとても恥ずかしい、なぁ。
「僕、あまり道具は使ったことないけど、これは面白いね」
「面白くは、な――っ、ああっ」
膝の後ろが持ち上げられ、ぐずぐずに蕩かされた膣内に、無遠慮にケントくんの肉杭が挿入ってくる。急に増した質量と熱が、私にさらに快楽をもたらしてくれる。
やっぱり、無機物よりはこっちがいい。
「ケントく、あ、っ」
「……スゴイね、中。ドロドロなのにキツい」
「あっ、ん、おく……当たっ、ん」
「ん、奥まで来たよ。わかる?」
ケントくんは奥まで肉棒を埋め込んだあと、しばらくそのままで食事を楽しむ。何とかぐったりした体を起き上がらせて、キスをしたりキスマークをつけたりしながら、彼の食事が終わるのを待つ。
「……あかりちゃん、かわいい」
「っあぁ!」
いきなり抽挿が開始されて、落ち着いていた体にまた一気に熱が宿る。足を高く上げられ、深く深く穿たれて、バイブとは違う腰の動きに合わせて体が跳ねる。打ち付けられているかのよう。
「やっ、ケントく、はげしっ」
「痛い? でも、我慢して、あかりちゃん」
少し上体を倒して、ケントくんは笑う。角度が変わって、さっきとは違う感触に、膣内が悦ぶ。
「中にいっぱい注いであげるからね」
耳元で聞こえる声は、非常に艶っぽい。求められている事実に体が歓喜し、それが快感に変わる。
……うぅ、ダメだ、耳弱すぎっ!
「あかりちゃん、耳好きだね。すぐ締まる」
「やっ、言わな、いっ、んんっ」
「でも、そんなに締めたらダメだよ」
「知らなっ、あっ、ん」
中にいっぱい注いで、と求める。精液が欲しい。お腹を満たして欲しい。
「ケントく、おねが、もう……っ!」
「欲しい? じゃあ、ねだってよ」
「欲しいのっ」
「どこに?」
「なか!」
蕩けた頭ではもう何も考えられない。何を言わされているのかも、わからない。朦朧とした意識の中に、本能だけがある。
――精液、いっぱいちょうだい。
「中? このあたり?」
「やだ、そこじゃなくてっ、もっと、奥に」
「奥に何が欲しい?」
「ケント、くんのっ、精液、が」
ケントくんの熱い体を抱きしめる。汗ばんだ体は、嫌いじゃない。その臭いさえ、好ましいと思う。
言わなくてもわかっているはずなのに、ケントくんは意地悪だ。「言わせたい」んだ。「聞きたい」んだ。ほんと、意地悪。
「ケントくん、お願いっ、一番奥に、いっぱい、出して――!」
ケントくんの体がびくんと強く跳ねたあと、じわりと最奥で熱が広がる。吐き出された精液を搾り取って、取り込む。
二人して荒い息をして抱き合ったまま、お互いの体液を求めて「食事」をする。
気持ち良くて、美味しい。性欲と食欲どちらも満たせるセックスは、好き。
「あかりちゃん、終わった?」
「ん、大丈夫。でも」
「うん?」
「もう少し、このままがいい」
ケントくんは私を見下ろして、一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに笑みを浮かべてくれた。
「いいよ。抱き合っていようか。でも、潰しちゃったらごめんね」
「だいじょぶ、重くないよ」
「あ、うん、そうじゃなくて」
ケントくんの指が私の汗ばんだ腹を撫で、そのまま強く腰を抱き寄せる。萎えることのない肉棒の様子に、気づかないわけがない。
……マジか。
「……いや、もう、無理だよ?」
「無理じゃない。大丈夫」
「ダメ、もう、無理だから!」
「大丈夫、大丈夫。僕はまだ元気だから」
「私はもう元気じゃな――っ、や!」
まだまだ元気な肉棒に貪られながら、インキュバスの性欲はいつ尽きるのだろうと考える。けれど、楽しそうに腰を振るケントくんの顔を見て、考えるのをやめた。
何回出したって、きっと彼の性欲は尽きないんだろう。
本来の姿は中学生ではないのに、この姿は盛りのついた中学生のようで、笑うしかない。
相性がいい、なんて言いながら、ケントくんは単純にセックスが好きなんだろうな。インキュバスじゃなくても、きっと。
◆◇◆◇◆
朝、ベッドから体を起こすと、腰にケントくんの腕が巻きついていた。問答無用で払い除けても、彼は目を覚まさない。
寝顔はかわいい。いや、格好いいのか。全体的に色素が薄いのは、不思議な感じ。日本人の色白とはまた違う透明感だ。
……これは、モテるだろうな。
ケントくんの学校での様子は聞いたことがないけれど、格好良くて、モテて、でも手が早い男なんて……日本では生活しづらいのではないだろうか。つい、そんなことを考えてしまう。
全裸のまま浴室へ行き、熱いシャワーを浴びる。昨夜使ったバイブも洗っておく。
……困ったことになった。
荒木さんに、翔吾くんが彼氏であること、健吾くんとも関係があること、二人と同時に関係したことがバレている。さらに、それを知ってもなお、荒木さんは引くことなく迫ってきている。
間違いなく、荒木さんは「許容できる」人間だ。性的に奔放な女でもいいのだ。むしろ、そういう女のほうが好みなのかもしれない。
……しまったなぁ。
完全に選択肢を誤った。荒木さんに対して見せないといけなかったのは、「性的に奔放な女」ではなく「一途で純情な女」だったわけだ。
荒木さんは、SMが趣味なだけで、藍川のように命の危険を感じるほどのプレイ――過度な暴力行為はきっとしないだろう。でも、いつ豹変するかわからない。それが怖い。
そして、その判断は、セックスの中でしかできない。普段の生活からは判断しづらいのが難点なのだ。
私は、迫られるのも無理やりされるのも嫌いではないけれど、マゾヒストではない。調教されたくもない。騎乗位で攻めるのも結構好きだ。
……たぶん、合わないと思うんだけどなぁ。性質的に。
浴室から出て、冷房の効いた台所で朝食を作る。とは言っても、ケントくんがどれだけ食べるかわからないので、少なめに作る。足りなかったら、自分でどこかで食べてくるでしょ。
トーストにバターを塗って、ベーコンエッグにサラダ、スープを準備してベッドのほうを見ると、既に起きていたケントくんがこちらを見ながらニヤニヤしていた。
「起きてた?」
「うん。おはよう。作ってくれたの?」
「一応ね。食べたら帰ってね」
「え、やだ。帰りたくない」
ベランダに干してあった乾いたトランクスをケントくんに放って、プレートをミニテーブルに置く。トランクスを穿いたケントくんが早速トーストにかじりついているのを見て笑ったあとで、スマートフォンの通知ランプの点滅に気づく。
誰からだろう?
「水森って人から着信があったよ」
「水森さん?」
「もちろん画面を見ただけで、通話はしてないけど。そいつもセフレ?」
「いや、違うけど、お世話になってる人」
サラダを食べながら確認してみると、確かに二件着信があったようだ。そして、そのあとでメッセージアプリにメッセージが届いたみたいだ。
「スープ美味しい」
「インスタントだよ。作ったのはベーコンエッグくら……い?」
メッセージの文面を見て、固まる。ケントくんはさっさと朝食を平らげ、私のベーコンエッグを狙っている。どうやら足りなかったみたいだ。
「ごめん、ケントくん。やっぱ帰って」
「えー、やだ。今日はここにいたい」
「無理。予定ができたの。今夜はたぶん帰らないから」
ブーイングをするケントくんにベーコンエッグを差し出すと、喜んで食べ始める。現金というか、扱いやすいなぁ。そのほうがありがたいけど。
「何かあったの?」
「うん、ちょっと。合鍵、返してね」
「……えー、やだ」
「やだじゃない。もう二度と会わないよ」
会わない、のはもっと嫌だったらしい。
脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから渋々合鍵を取り出して、ケントくんはふくれっ面のまま、聞いてくる。
「……また来てもいい?」
「私服で来てね。制服はダメ」
「わかった。道具は捨てないでね。気に入っちゃった」
「……それはわからないなぁ」
ケントくんの食事に役立つなら置いておいてもいいけど、精液の出ない偽物は私にとっては必要ないものだ。
合鍵を受け取って、チェストにしまう。ついでに、未使用の道具も中にしまう。
食器は「僕が洗う」とケントくんが言ってくれたので任せる。その間に、水森さんにメッセージを送る。『わかりました』と、短く。
そして、メッセージに記載されていた住所から、最寄り駅と乗り換えを調べる。三十分前後はかかるかな。
『湯川が風邪を引いて寝込んでいるようです。住所を教えておきます。看病しに行ってあげてはどうですか?』
ほんと、余計なお世話だ。
『湯川と病院長の娘との縁談が進みつつあります。止めるなら今しかありませんよ』
でも、ありがとうございます。その情報はありがたいです。
湯川先生が会いに来られないなら、私から会いに行けばいいんだ。
そんな簡単な話に、ようやく気づく。
会いに行こう。フラれてもいいから、会いに行こう。
好きな人に。
この黒いバイブは、最初全く売れなかった。モノはすごく良く、すぐイッてしまうくらいのバイブなのに、男性が女性を喜ばせるための黒いバイブ、というのが受けなかったらしい。
途中でコンセプトを女性のオナニー用に変更し、パッケージもかわいらしく、色もパステルカラーにしたら、売上が伸びたという経緯がある。
つまり、この黒い極太くんは、初期コンセプトの売れ残り、負の在庫なのだ。
売れ残りなのに、機能も性能もいいグッズ。残念ながら、単一電池を使うため若干音が大きいのが難点だ。その分、パワーがあるということなんだけど。
「やだぁっ、やめっ、イッちゃ、っ、あっ」
「……スゴイね、コレ。そんな気持ちいいの? もう三回目だよ? まだイク?」
蜜に濡れたシリコンの襞が、振動するたびに肉芽を擦り上げる。ビリビリとした刺激が与えられるたび、腰が切なく動く。
同時に、中でいいところをグリグリと突くのがバイブの先端で、何度身を捩って逃げても、ケントくんは上手にポイントを探り当ててくる。
「あかりちゃん、気持ちいい?」
「やだ、イッちゃ、う! やっ、あ!」
「気持ちいいんだね、良かった」
良くない!
と言いたいのに、難しい。体はもうぐったりとしていて、反論をする元気はない。ただ、下腹部に訪れる強すぎる快楽だけを享受するだけになってしまっている。
「あっ、やあぁ!」
体が震えたのは、ケントくんが胸の先端を咥えたからだ。熱い舌がコロコロと突起を転がし、吸い上げる。
痛みと快楽で、頭がおかしくなってしまいそうだ。
「いいよ、おいで、あかりちゃん」
おいで、と言われると、何だか「許された」気持ちになる。食事は――セックスは気持ち良くていいんだ、達することは悪いことじゃないんだ、と。
「ケントく、イッちゃ、う!」
「おいで」
「あっ、あ、ん――っ、んんっ!」
目をぎゅうと閉じた瞬間にびくんと派手に腰が浮き、背中がしなる。何度かビクビクと腰が動き、息を大きく吸い込んだと同時に体が弛緩する。
三回も達すると、もうぐったりだ。
「気持ち良かったね、あかりちゃん」
ズルリと極太くんを引き抜いて、ケントくんはヌラヌラ光る私の愛液を舐め取る。甘い蜜のように、美味しそうに。
ケントくんが色っぽすぎて、恥ずかしすぎて、直視できない。
「……美味しい」
ケントくんにとっては、ただの食事。けれど、本当に恥ずかしい。私も精液を飲み込んだあとはこんな感じなんだろうか。こんな、恍惚の笑みを浮かべているのだろうか。
それはとても恥ずかしい、なぁ。
「僕、あまり道具は使ったことないけど、これは面白いね」
「面白くは、な――っ、ああっ」
膝の後ろが持ち上げられ、ぐずぐずに蕩かされた膣内に、無遠慮にケントくんの肉杭が挿入ってくる。急に増した質量と熱が、私にさらに快楽をもたらしてくれる。
やっぱり、無機物よりはこっちがいい。
「ケントく、あ、っ」
「……スゴイね、中。ドロドロなのにキツい」
「あっ、ん、おく……当たっ、ん」
「ん、奥まで来たよ。わかる?」
ケントくんは奥まで肉棒を埋め込んだあと、しばらくそのままで食事を楽しむ。何とかぐったりした体を起き上がらせて、キスをしたりキスマークをつけたりしながら、彼の食事が終わるのを待つ。
「……あかりちゃん、かわいい」
「っあぁ!」
いきなり抽挿が開始されて、落ち着いていた体にまた一気に熱が宿る。足を高く上げられ、深く深く穿たれて、バイブとは違う腰の動きに合わせて体が跳ねる。打ち付けられているかのよう。
「やっ、ケントく、はげしっ」
「痛い? でも、我慢して、あかりちゃん」
少し上体を倒して、ケントくんは笑う。角度が変わって、さっきとは違う感触に、膣内が悦ぶ。
「中にいっぱい注いであげるからね」
耳元で聞こえる声は、非常に艶っぽい。求められている事実に体が歓喜し、それが快感に変わる。
……うぅ、ダメだ、耳弱すぎっ!
「あかりちゃん、耳好きだね。すぐ締まる」
「やっ、言わな、いっ、んんっ」
「でも、そんなに締めたらダメだよ」
「知らなっ、あっ、ん」
中にいっぱい注いで、と求める。精液が欲しい。お腹を満たして欲しい。
「ケントく、おねが、もう……っ!」
「欲しい? じゃあ、ねだってよ」
「欲しいのっ」
「どこに?」
「なか!」
蕩けた頭ではもう何も考えられない。何を言わされているのかも、わからない。朦朧とした意識の中に、本能だけがある。
――精液、いっぱいちょうだい。
「中? このあたり?」
「やだ、そこじゃなくてっ、もっと、奥に」
「奥に何が欲しい?」
「ケント、くんのっ、精液、が」
ケントくんの熱い体を抱きしめる。汗ばんだ体は、嫌いじゃない。その臭いさえ、好ましいと思う。
言わなくてもわかっているはずなのに、ケントくんは意地悪だ。「言わせたい」んだ。「聞きたい」んだ。ほんと、意地悪。
「ケントくん、お願いっ、一番奥に、いっぱい、出して――!」
ケントくんの体がびくんと強く跳ねたあと、じわりと最奥で熱が広がる。吐き出された精液を搾り取って、取り込む。
二人して荒い息をして抱き合ったまま、お互いの体液を求めて「食事」をする。
気持ち良くて、美味しい。性欲と食欲どちらも満たせるセックスは、好き。
「あかりちゃん、終わった?」
「ん、大丈夫。でも」
「うん?」
「もう少し、このままがいい」
ケントくんは私を見下ろして、一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに笑みを浮かべてくれた。
「いいよ。抱き合っていようか。でも、潰しちゃったらごめんね」
「だいじょぶ、重くないよ」
「あ、うん、そうじゃなくて」
ケントくんの指が私の汗ばんだ腹を撫で、そのまま強く腰を抱き寄せる。萎えることのない肉棒の様子に、気づかないわけがない。
……マジか。
「……いや、もう、無理だよ?」
「無理じゃない。大丈夫」
「ダメ、もう、無理だから!」
「大丈夫、大丈夫。僕はまだ元気だから」
「私はもう元気じゃな――っ、や!」
まだまだ元気な肉棒に貪られながら、インキュバスの性欲はいつ尽きるのだろうと考える。けれど、楽しそうに腰を振るケントくんの顔を見て、考えるのをやめた。
何回出したって、きっと彼の性欲は尽きないんだろう。
本来の姿は中学生ではないのに、この姿は盛りのついた中学生のようで、笑うしかない。
相性がいい、なんて言いながら、ケントくんは単純にセックスが好きなんだろうな。インキュバスじゃなくても、きっと。
◆◇◆◇◆
朝、ベッドから体を起こすと、腰にケントくんの腕が巻きついていた。問答無用で払い除けても、彼は目を覚まさない。
寝顔はかわいい。いや、格好いいのか。全体的に色素が薄いのは、不思議な感じ。日本人の色白とはまた違う透明感だ。
……これは、モテるだろうな。
ケントくんの学校での様子は聞いたことがないけれど、格好良くて、モテて、でも手が早い男なんて……日本では生活しづらいのではないだろうか。つい、そんなことを考えてしまう。
全裸のまま浴室へ行き、熱いシャワーを浴びる。昨夜使ったバイブも洗っておく。
……困ったことになった。
荒木さんに、翔吾くんが彼氏であること、健吾くんとも関係があること、二人と同時に関係したことがバレている。さらに、それを知ってもなお、荒木さんは引くことなく迫ってきている。
間違いなく、荒木さんは「許容できる」人間だ。性的に奔放な女でもいいのだ。むしろ、そういう女のほうが好みなのかもしれない。
……しまったなぁ。
完全に選択肢を誤った。荒木さんに対して見せないといけなかったのは、「性的に奔放な女」ではなく「一途で純情な女」だったわけだ。
荒木さんは、SMが趣味なだけで、藍川のように命の危険を感じるほどのプレイ――過度な暴力行為はきっとしないだろう。でも、いつ豹変するかわからない。それが怖い。
そして、その判断は、セックスの中でしかできない。普段の生活からは判断しづらいのが難点なのだ。
私は、迫られるのも無理やりされるのも嫌いではないけれど、マゾヒストではない。調教されたくもない。騎乗位で攻めるのも結構好きだ。
……たぶん、合わないと思うんだけどなぁ。性質的に。
浴室から出て、冷房の効いた台所で朝食を作る。とは言っても、ケントくんがどれだけ食べるかわからないので、少なめに作る。足りなかったら、自分でどこかで食べてくるでしょ。
トーストにバターを塗って、ベーコンエッグにサラダ、スープを準備してベッドのほうを見ると、既に起きていたケントくんがこちらを見ながらニヤニヤしていた。
「起きてた?」
「うん。おはよう。作ってくれたの?」
「一応ね。食べたら帰ってね」
「え、やだ。帰りたくない」
ベランダに干してあった乾いたトランクスをケントくんに放って、プレートをミニテーブルに置く。トランクスを穿いたケントくんが早速トーストにかじりついているのを見て笑ったあとで、スマートフォンの通知ランプの点滅に気づく。
誰からだろう?
「水森って人から着信があったよ」
「水森さん?」
「もちろん画面を見ただけで、通話はしてないけど。そいつもセフレ?」
「いや、違うけど、お世話になってる人」
サラダを食べながら確認してみると、確かに二件着信があったようだ。そして、そのあとでメッセージアプリにメッセージが届いたみたいだ。
「スープ美味しい」
「インスタントだよ。作ったのはベーコンエッグくら……い?」
メッセージの文面を見て、固まる。ケントくんはさっさと朝食を平らげ、私のベーコンエッグを狙っている。どうやら足りなかったみたいだ。
「ごめん、ケントくん。やっぱ帰って」
「えー、やだ。今日はここにいたい」
「無理。予定ができたの。今夜はたぶん帰らないから」
ブーイングをするケントくんにベーコンエッグを差し出すと、喜んで食べ始める。現金というか、扱いやすいなぁ。そのほうがありがたいけど。
「何かあったの?」
「うん、ちょっと。合鍵、返してね」
「……えー、やだ」
「やだじゃない。もう二度と会わないよ」
会わない、のはもっと嫌だったらしい。
脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから渋々合鍵を取り出して、ケントくんはふくれっ面のまま、聞いてくる。
「……また来てもいい?」
「私服で来てね。制服はダメ」
「わかった。道具は捨てないでね。気に入っちゃった」
「……それはわからないなぁ」
ケントくんの食事に役立つなら置いておいてもいいけど、精液の出ない偽物は私にとっては必要ないものだ。
合鍵を受け取って、チェストにしまう。ついでに、未使用の道具も中にしまう。
食器は「僕が洗う」とケントくんが言ってくれたので任せる。その間に、水森さんにメッセージを送る。『わかりました』と、短く。
そして、メッセージに記載されていた住所から、最寄り駅と乗り換えを調べる。三十分前後はかかるかな。
『湯川が風邪を引いて寝込んでいるようです。住所を教えておきます。看病しに行ってあげてはどうですか?』
ほんと、余計なお世話だ。
『湯川と病院長の娘との縁談が進みつつあります。止めるなら今しかありませんよ』
でも、ありがとうございます。その情報はありがたいです。
湯川先生が会いに来られないなら、私から会いに行けばいいんだ。
そんな簡単な話に、ようやく気づく。
会いに行こう。フラれてもいいから、会いに行こう。
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