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23.恋よ来い(二)
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「健吾くん、夕飯食べるー?」
翔吾くんの部屋からリビングダイニングを挟んで向かい側が健吾くんの部屋だ。扉の向こうから、小さく「食べる」と声がしたので、健吾くんの食器を準備する。
男二人が暮らす部屋の冷蔵庫の中に、食材はないものと思っていたけど、意外と野菜も肉も揃っていた。健吾くんが結構料理をするみたい。調味料もきちんとあったので、二人が勉強をしている間にパパッと作ったのだ。
翔吾くんがテーブルをセットしてくれるので、私は三人分のご飯をよそうだけ。カウンターに料理を並べながら、翔吾くんに配膳を任せる。
「……和食?」
寝起きみたいな顔で、健吾くんが部屋から出てくる。だいぶ疲れているみたいだ。翔吾くんもだけど、試験勉強は大変だなぁと苦笑する。
「健吾くんはイタリアンをよく作るって翔吾くんに聞いたから、和食にしたよ。冷蔵庫の中身、勝手に使ってごめんね」
「……いいよ、別に。また買ってくるだけだし」
「じゃあ、配膳手伝って」
先日のことが気まずいのか、健吾くんは私と目を合わせようとしない。今日はわかりやすいなぁ。
「わぁ、美味しそう!」
「見た目は、な」
「二人とも、食べてから絶賛してください」
四人がけのダイニングテーブルの、翔吾くんの隣に座って、手を合わせる。三人で「いただきます」をしてから、五目ご飯から食べ始める。
「あかり、美味しい!」
「まあまあだな」
たぶん健吾くんの最大限の賛辞なのだろうと受け取って、和食が大好きで「美味しい」を連呼するかわいいセフレくんを見る……あ、すぐおかわりが必要そうですね。
「ご飯と味噌汁はまだ余ってるから」
「おかわり!」
「はいはい」
「あ、俺も」
「……おかずも食べなさい、君たち」
しかし、五目ご飯を持ってきたときには、もう味噌汁も少なくなり、サケの塩焼きはなくなり、ほうれん草のおひたしは残ったまま、だし巻き卵の争奪戦が繰り広げられていた。
二十歳のいい男が、子どもみたいに「これは俺のだ」「いや、俺のだ」と言い争っているのは、本当におかしい。面白い。放っておくと兄弟喧嘩になりそうだ。
「だし巻き、私のあげるから」
「じゃあ、俺がもらう! これ、美味しいね」
「でしょー? 昔、教えてもらったんだ」
「セフレに?」
健吾くんの問いに、翔吾くんの動きが止まる。私は努めて明るい声で、「さぁ、どうでしょうね」と笑う。
セフレではなく、以前働いていた料亭の板長だった人だけど。永田さん、もう自分のお店、持てたかな。それが夢だって言っていたから。
「……健吾」
隣から、怒りを含む冷たい声が聞こえた。怖くて横を向くことができない。ふだん温厚な人が怒ると、めちゃくちゃ怖いからだ。
「あかりに失礼なこと言わないで」
「失礼? 事実だろ。翔吾だってオトモダチの一人なんだろ」
「お前には関係ないだろ」
「関係あるだろ」
健吾くん、自分から「うちに来てもいい」と言いながら、一体何にイライラしているの?
私は二人の顔を見比べながら、「私のために争わないで」というセリフを思い出す。まさに、今、使うべきではないだろうか。
「昼間っからイチャイチャして、見せつけてんの? 彼女のいない俺に見せつけてんの? 風呂場の声、丸聞こえなんだよ!」
「……」
「……」
それは、大変申し訳ありませんでした、と翔吾くんも思ったらしい。一緒にお風呂に入って、また、お互いにも挿入りました。すみません。
「あっ、あんな声、出してっ!」
喘ぎ、ましたねぇ。だいぶ。
「俺が、どれだけ……っ!」
童貞くんには刺激が強すぎたみたいです。
「……あれ? 健吾くん、我慢したの?」
「っは!?」
「いや、オナっただろ」
「なんっ!?」
健吾くんは顔を真っ赤にして私と翔吾くんを睨む。図星だったようだ。
翔吾くんと顔を見合わせると、「からかおうか」と目が笑っている。酷い兄だ。
「まぁ、別に見られても聞かれても減るもんではないから、俺としては構わないんだけど」
「いや、私は恥ずかしいから、次からやっぱりホテルに行こうよ」
「っえ!?」
「そのほうが私も気兼ねなく声が出せるし」
「うるさい人もいないし、な。じゃあ、あかり、次からホテルで」
「いやいやいやいや、俺が言いたいのは! そうじゃ、なくて……っ!」
健吾くんは真っ赤なまま、消え入りそうな声でただ一つの願望を口にした。
「風呂場でイチャイチャするのだけは、やめて、欲しい……」
下着をはけと言ったり、お風呂でするなと言ったり、結構我が儘だなぁ、健吾くんは。
そんな健吾くんに翔吾くんは呆れている。
「健吾さぁ……自覚していないようだから、言うけど。ホテルには行くな、部屋でしろ、って、つまり、あかりにうちに来てもらいたいってことだよね?」
「はっ?」
「で、セックスの声には我慢できないから、オナって発散するしかない。それでも、うちに来て欲しいってことだよね?」
「えっ?」
「それってさぁ、つまり」
翔吾くんは意地の悪い顔をして、食卓に爆弾を落とす。
「――あかりのこと、好きなんじゃない?」
健吾くんは、真っ赤になったまま、口をぱくぱくとさせて何かを言おうとしたけれど、何も言葉が出てこない。翔吾くんの言葉の処理が追いつかないほど、パニックになっているようだ。
金魚みたいだと思う。真っ赤な金魚。
あぁ、でも、違う。
鯉だ。
それとも……恋?
◆◇◆◇◆
「あかりは健吾のこと、どう思う?」
「どう、って?」
「抱かれたいと思う?」
不思議だと思った。
翔吾くんが怒っていないのだ。
私に執着し始めているのではないかと思ったけど、目の前にライバルが現れても、「あかりは俺のセフレだから」と宣言したり、横恋慕を咎めたりしなかった。
意外だった。相手が健吾くんだからだろうか? 冷静に、健吾くんの反応を見極めようとしていた気がする。
健吾くんは金魚状態になってから、無言でものすごいスピードで料理を平らげて、すぐに部屋に引きこもってしまった。料理を食べてくれないよりは良かったけど、「まあまあ」以上の感想が引き出せなかったのは、悔しい。
そんな健吾くんの行動を、翔吾くんは何も言わず、ただ見つめているだけだった。
そして、何をどう考えたのか、「健吾に抱かれたいと思う?」と私に聞いてきた。
私の答えは至ってシンプル。
精液があるなら――欲しい。それがどんな相手であっても。
「私は別にどんな人が相手でも構わないよ? もちろん、健吾くんでも。翔吾くんは、どうなの?」
「俺かぁ……俺ねぇ……んー、正直に言うと、他の男にあかりは渡したくないんだけど、健吾ならいい、気がする」
ほら、とても、意外な言葉が返ってきた。
ベッドに座った翔吾くんの上に乗った私は、ゆっくり腰を動かして、少し萎えた翔吾くんの肉棒を刺激する。セックスの最中に他の男の話なんかするからだよ、もう。
「産まれたときから一緒だし、そもそも顔も一緒だし……健吾のことは誰よりも知っているから、あかりに乱暴なことはしないと安心できる。……うん、安心、が一番大きいかも」
「他の男の人と会っているときは不安?」
「そりゃ、そうだよ。酷いことされていないか、心配で、不安だよ」
確かに、私のセフレがどんな人なのか、どんなプレイをするのか、翔吾くんは知らない。それは、湯川先生も相馬さんもそうだ。
私は皆に心配させているのだろうか。……まぁ、相馬さんは絶対そんなこと思ってないだろうけど、湯川先生なら心配していそうだ。
「大丈夫だよ。皆いい人たちだから」
「だといいんだけど」
翔吾くんの薄く開いた唇に舌をねじ込んで、これ以上余計なことは喋らせないようにする。抱き合ったまま、腰を上下に揺らす。厚い胸板に乳首が擦れて気持ちがいい。
「んっ、ふっ、あ、やだっ」
翔吾くんが私の腰を掴んで激しく上下に揺さぶる。スプリングのきいたマットレスも手伝い、深々と肉棒の先端が挿入り込み、私の奥に甘い痛みを与えていく。
たまらず翔吾くんの首に抱きついて、押し寄せてくる快感にうち震える。
「やっ、あ、はげし、っ」
「あかり、もっと、声、聞かせて」
翔吾くんの耳に唇を寄せて、耳たぶや耳の裏などをペロリと舐める。そして、望み通り、淫靡な甘い声で喘ぐ。
「ん、っふ、おく、当たって、あ」
「気持ちいい?」
「ん、きもち、い」
気持ちいい。
優しくしてくれるのも、激しくしてくれるのも、どちらも好き。どちらも気持ちいい。
「あかり、今日、泊まってく?」
「ダメ、明日、予定、っ」
「どんな?」
「……」
私の一瞬の沈黙で、翔吾くんはすべてを悟る。ぎゅうと強く抱きしめて、逃げられないようにしてから――首筋に噛み付いた。
「っ!? 翔吾、ダメ!」
「キスマークつけるだけだよ」
「だから、それが――」
ダメだって言っているのに。
翔吾くんは首筋を強く強く痛いくらい吸って、十数秒後にようやく唇を離した。そして、出来ばえを見て満足そうに頷いた。
「十日は消えないよ、これ」
「ばかっ!!」
「だって、しばらく会えないのに、あかりが他の男に会うって言うから」
「言ってな」
むりやり唇を塞がれて、今度は翔吾くんの舌が私の口内を蹂躙する。痛いくらいに舌を吸い上げて、深く深く腰を押し付けてくる。
呼吸まで奪われるような、乱暴なキス。手足を使って離れようともがけばもがくほど、強く捕らえられ、繋がりが強固なものになっていく。
そして、体が高められていく。
「んっ、ふ、ん、う」
泡が生じるほどの激しい交わり。淫らで粘着質な音と甘い声、汗と卑猥な匂いがお互いの熱を煽る。
「あかり、も、無理」
「来て。わた、しも、イッ――」
先に絶頂に達したのが私。膣壁が翔吾くんの肉棒を強く締め上げた瞬間に、彼も昇り詰めて、中で一気に射精した。
びくびくと震えるお互いの性器を一番敏感なところで感じながら、ゆっくり腰を振って、快感の波に身を任せる。
「んっ、ん……」
「……あかり、ごめん」
「うん?」
「キスマーク……見えるところに」
ダメだって言われたのに自制できなかった、と翔吾くんはうなだれて、私の肩に顔を隠すようにして抱きついてくる。
「俺が一番、酷いね……」
「そうだねぇ」
短い髪を撫でながら、苦笑する。そんなにヘコまなくてもいいのに。
「料理中に油が跳ねたことにするよ。絆創膏で隠せばいいし」
翔吾くんは慌てたように顔を上げて、私に縋るような視線を向けてくる。泣き出しそうな瞳に私の顔が映ってよく見える。
「……怒って、ない?」
「怒って欲しいの?」
「いや……でも……別れられるより、怒ってくれたほうが、いいかも」
体だけの関係は、「いつでも別れられる」から便利なのだけど、それゆえに、不安が生じるのだろう。「別れを切り出される」タイミングは、恋とは違い、唐突に訪れる。
「怖い?」
「いつでも、怖いよ」
「キスマークくらいで別れたりしないよ。安心して」
宥めるようにキスをして、翔吾くんの不安を拭う。
今はそれでなくとも精液不足なのだから、別れられるわけがない。精液不足でなければちょっと考えるところだけど、プレイの一環だと思えば構わない。許容範囲内だ。
「さすがに、殴られたり、刺されたりしたら、別れるかもしれないけど」
「暴力は、絶対に、しない! しないから!」
必死に縋ってくる翔吾くんを優しく抱きしめて、思案する。
セックスフレンドを不安にさせない方法、かぁ……そんなマニュアル本なんて、きっと、ないだろう。けれど、今、一番知りたいのだ。
あぁ、本当に。
どうすれば、セフレがセフレでいてくれるのだろう。
どうすれば、セフレが私の全部を欲しがらないでいてくれるのだろう。
誰か、教えて欲しい。
翔吾くんの部屋からリビングダイニングを挟んで向かい側が健吾くんの部屋だ。扉の向こうから、小さく「食べる」と声がしたので、健吾くんの食器を準備する。
男二人が暮らす部屋の冷蔵庫の中に、食材はないものと思っていたけど、意外と野菜も肉も揃っていた。健吾くんが結構料理をするみたい。調味料もきちんとあったので、二人が勉強をしている間にパパッと作ったのだ。
翔吾くんがテーブルをセットしてくれるので、私は三人分のご飯をよそうだけ。カウンターに料理を並べながら、翔吾くんに配膳を任せる。
「……和食?」
寝起きみたいな顔で、健吾くんが部屋から出てくる。だいぶ疲れているみたいだ。翔吾くんもだけど、試験勉強は大変だなぁと苦笑する。
「健吾くんはイタリアンをよく作るって翔吾くんに聞いたから、和食にしたよ。冷蔵庫の中身、勝手に使ってごめんね」
「……いいよ、別に。また買ってくるだけだし」
「じゃあ、配膳手伝って」
先日のことが気まずいのか、健吾くんは私と目を合わせようとしない。今日はわかりやすいなぁ。
「わぁ、美味しそう!」
「見た目は、な」
「二人とも、食べてから絶賛してください」
四人がけのダイニングテーブルの、翔吾くんの隣に座って、手を合わせる。三人で「いただきます」をしてから、五目ご飯から食べ始める。
「あかり、美味しい!」
「まあまあだな」
たぶん健吾くんの最大限の賛辞なのだろうと受け取って、和食が大好きで「美味しい」を連呼するかわいいセフレくんを見る……あ、すぐおかわりが必要そうですね。
「ご飯と味噌汁はまだ余ってるから」
「おかわり!」
「はいはい」
「あ、俺も」
「……おかずも食べなさい、君たち」
しかし、五目ご飯を持ってきたときには、もう味噌汁も少なくなり、サケの塩焼きはなくなり、ほうれん草のおひたしは残ったまま、だし巻き卵の争奪戦が繰り広げられていた。
二十歳のいい男が、子どもみたいに「これは俺のだ」「いや、俺のだ」と言い争っているのは、本当におかしい。面白い。放っておくと兄弟喧嘩になりそうだ。
「だし巻き、私のあげるから」
「じゃあ、俺がもらう! これ、美味しいね」
「でしょー? 昔、教えてもらったんだ」
「セフレに?」
健吾くんの問いに、翔吾くんの動きが止まる。私は努めて明るい声で、「さぁ、どうでしょうね」と笑う。
セフレではなく、以前働いていた料亭の板長だった人だけど。永田さん、もう自分のお店、持てたかな。それが夢だって言っていたから。
「……健吾」
隣から、怒りを含む冷たい声が聞こえた。怖くて横を向くことができない。ふだん温厚な人が怒ると、めちゃくちゃ怖いからだ。
「あかりに失礼なこと言わないで」
「失礼? 事実だろ。翔吾だってオトモダチの一人なんだろ」
「お前には関係ないだろ」
「関係あるだろ」
健吾くん、自分から「うちに来てもいい」と言いながら、一体何にイライラしているの?
私は二人の顔を見比べながら、「私のために争わないで」というセリフを思い出す。まさに、今、使うべきではないだろうか。
「昼間っからイチャイチャして、見せつけてんの? 彼女のいない俺に見せつけてんの? 風呂場の声、丸聞こえなんだよ!」
「……」
「……」
それは、大変申し訳ありませんでした、と翔吾くんも思ったらしい。一緒にお風呂に入って、また、お互いにも挿入りました。すみません。
「あっ、あんな声、出してっ!」
喘ぎ、ましたねぇ。だいぶ。
「俺が、どれだけ……っ!」
童貞くんには刺激が強すぎたみたいです。
「……あれ? 健吾くん、我慢したの?」
「っは!?」
「いや、オナっただろ」
「なんっ!?」
健吾くんは顔を真っ赤にして私と翔吾くんを睨む。図星だったようだ。
翔吾くんと顔を見合わせると、「からかおうか」と目が笑っている。酷い兄だ。
「まぁ、別に見られても聞かれても減るもんではないから、俺としては構わないんだけど」
「いや、私は恥ずかしいから、次からやっぱりホテルに行こうよ」
「っえ!?」
「そのほうが私も気兼ねなく声が出せるし」
「うるさい人もいないし、な。じゃあ、あかり、次からホテルで」
「いやいやいやいや、俺が言いたいのは! そうじゃ、なくて……っ!」
健吾くんは真っ赤なまま、消え入りそうな声でただ一つの願望を口にした。
「風呂場でイチャイチャするのだけは、やめて、欲しい……」
下着をはけと言ったり、お風呂でするなと言ったり、結構我が儘だなぁ、健吾くんは。
そんな健吾くんに翔吾くんは呆れている。
「健吾さぁ……自覚していないようだから、言うけど。ホテルには行くな、部屋でしろ、って、つまり、あかりにうちに来てもらいたいってことだよね?」
「はっ?」
「で、セックスの声には我慢できないから、オナって発散するしかない。それでも、うちに来て欲しいってことだよね?」
「えっ?」
「それってさぁ、つまり」
翔吾くんは意地の悪い顔をして、食卓に爆弾を落とす。
「――あかりのこと、好きなんじゃない?」
健吾くんは、真っ赤になったまま、口をぱくぱくとさせて何かを言おうとしたけれど、何も言葉が出てこない。翔吾くんの言葉の処理が追いつかないほど、パニックになっているようだ。
金魚みたいだと思う。真っ赤な金魚。
あぁ、でも、違う。
鯉だ。
それとも……恋?
◆◇◆◇◆
「あかりは健吾のこと、どう思う?」
「どう、って?」
「抱かれたいと思う?」
不思議だと思った。
翔吾くんが怒っていないのだ。
私に執着し始めているのではないかと思ったけど、目の前にライバルが現れても、「あかりは俺のセフレだから」と宣言したり、横恋慕を咎めたりしなかった。
意外だった。相手が健吾くんだからだろうか? 冷静に、健吾くんの反応を見極めようとしていた気がする。
健吾くんは金魚状態になってから、無言でものすごいスピードで料理を平らげて、すぐに部屋に引きこもってしまった。料理を食べてくれないよりは良かったけど、「まあまあ」以上の感想が引き出せなかったのは、悔しい。
そんな健吾くんの行動を、翔吾くんは何も言わず、ただ見つめているだけだった。
そして、何をどう考えたのか、「健吾に抱かれたいと思う?」と私に聞いてきた。
私の答えは至ってシンプル。
精液があるなら――欲しい。それがどんな相手であっても。
「私は別にどんな人が相手でも構わないよ? もちろん、健吾くんでも。翔吾くんは、どうなの?」
「俺かぁ……俺ねぇ……んー、正直に言うと、他の男にあかりは渡したくないんだけど、健吾ならいい、気がする」
ほら、とても、意外な言葉が返ってきた。
ベッドに座った翔吾くんの上に乗った私は、ゆっくり腰を動かして、少し萎えた翔吾くんの肉棒を刺激する。セックスの最中に他の男の話なんかするからだよ、もう。
「産まれたときから一緒だし、そもそも顔も一緒だし……健吾のことは誰よりも知っているから、あかりに乱暴なことはしないと安心できる。……うん、安心、が一番大きいかも」
「他の男の人と会っているときは不安?」
「そりゃ、そうだよ。酷いことされていないか、心配で、不安だよ」
確かに、私のセフレがどんな人なのか、どんなプレイをするのか、翔吾くんは知らない。それは、湯川先生も相馬さんもそうだ。
私は皆に心配させているのだろうか。……まぁ、相馬さんは絶対そんなこと思ってないだろうけど、湯川先生なら心配していそうだ。
「大丈夫だよ。皆いい人たちだから」
「だといいんだけど」
翔吾くんの薄く開いた唇に舌をねじ込んで、これ以上余計なことは喋らせないようにする。抱き合ったまま、腰を上下に揺らす。厚い胸板に乳首が擦れて気持ちがいい。
「んっ、ふっ、あ、やだっ」
翔吾くんが私の腰を掴んで激しく上下に揺さぶる。スプリングのきいたマットレスも手伝い、深々と肉棒の先端が挿入り込み、私の奥に甘い痛みを与えていく。
たまらず翔吾くんの首に抱きついて、押し寄せてくる快感にうち震える。
「やっ、あ、はげし、っ」
「あかり、もっと、声、聞かせて」
翔吾くんの耳に唇を寄せて、耳たぶや耳の裏などをペロリと舐める。そして、望み通り、淫靡な甘い声で喘ぐ。
「ん、っふ、おく、当たって、あ」
「気持ちいい?」
「ん、きもち、い」
気持ちいい。
優しくしてくれるのも、激しくしてくれるのも、どちらも好き。どちらも気持ちいい。
「あかり、今日、泊まってく?」
「ダメ、明日、予定、っ」
「どんな?」
「……」
私の一瞬の沈黙で、翔吾くんはすべてを悟る。ぎゅうと強く抱きしめて、逃げられないようにしてから――首筋に噛み付いた。
「っ!? 翔吾、ダメ!」
「キスマークつけるだけだよ」
「だから、それが――」
ダメだって言っているのに。
翔吾くんは首筋を強く強く痛いくらい吸って、十数秒後にようやく唇を離した。そして、出来ばえを見て満足そうに頷いた。
「十日は消えないよ、これ」
「ばかっ!!」
「だって、しばらく会えないのに、あかりが他の男に会うって言うから」
「言ってな」
むりやり唇を塞がれて、今度は翔吾くんの舌が私の口内を蹂躙する。痛いくらいに舌を吸い上げて、深く深く腰を押し付けてくる。
呼吸まで奪われるような、乱暴なキス。手足を使って離れようともがけばもがくほど、強く捕らえられ、繋がりが強固なものになっていく。
そして、体が高められていく。
「んっ、ふ、ん、う」
泡が生じるほどの激しい交わり。淫らで粘着質な音と甘い声、汗と卑猥な匂いがお互いの熱を煽る。
「あかり、も、無理」
「来て。わた、しも、イッ――」
先に絶頂に達したのが私。膣壁が翔吾くんの肉棒を強く締め上げた瞬間に、彼も昇り詰めて、中で一気に射精した。
びくびくと震えるお互いの性器を一番敏感なところで感じながら、ゆっくり腰を振って、快感の波に身を任せる。
「んっ、ん……」
「……あかり、ごめん」
「うん?」
「キスマーク……見えるところに」
ダメだって言われたのに自制できなかった、と翔吾くんはうなだれて、私の肩に顔を隠すようにして抱きついてくる。
「俺が一番、酷いね……」
「そうだねぇ」
短い髪を撫でながら、苦笑する。そんなにヘコまなくてもいいのに。
「料理中に油が跳ねたことにするよ。絆創膏で隠せばいいし」
翔吾くんは慌てたように顔を上げて、私に縋るような視線を向けてくる。泣き出しそうな瞳に私の顔が映ってよく見える。
「……怒って、ない?」
「怒って欲しいの?」
「いや……でも……別れられるより、怒ってくれたほうが、いいかも」
体だけの関係は、「いつでも別れられる」から便利なのだけど、それゆえに、不安が生じるのだろう。「別れを切り出される」タイミングは、恋とは違い、唐突に訪れる。
「怖い?」
「いつでも、怖いよ」
「キスマークくらいで別れたりしないよ。安心して」
宥めるようにキスをして、翔吾くんの不安を拭う。
今はそれでなくとも精液不足なのだから、別れられるわけがない。精液不足でなければちょっと考えるところだけど、プレイの一環だと思えば構わない。許容範囲内だ。
「さすがに、殴られたり、刺されたりしたら、別れるかもしれないけど」
「暴力は、絶対に、しない! しないから!」
必死に縋ってくる翔吾くんを優しく抱きしめて、思案する。
セックスフレンドを不安にさせない方法、かぁ……そんなマニュアル本なんて、きっと、ないだろう。けれど、今、一番知りたいのだ。
あぁ、本当に。
どうすれば、セフレがセフレでいてくれるのだろう。
どうすれば、セフレが私の全部を欲しがらないでいてくれるのだろう。
誰か、教えて欲しい。
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