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21.過日の果実(六)
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ギャラリーの近くの喫茶店に、水森さんと二人で入る。窓際ではなく、奥の席に座り、ブレンドを注文する。
水森さんは眼鏡の位置を少し上げて、話を切り出した。
「水森貴一の日記が残っています。村上叡心の絵を初めて見たときから、あなたに恋焦がれていた様子が窺えます」
「……ちょっと待ってください。あの絵のモデルは私ではありません」
前提が間違っていると言いたかったのだけど、水森さんは不思議そうに私を見るだけだ。
「あなたでしょう。違いますか?」
「私、どれだけ長生きなんですか」
「百年くらいは生きられるでしょう? 不老の生物なのですから」
これは、困った。冗談ではないようだ。水森さんは本気で、私が村上ミチだと思っている。そして、それは、間違いではない。困った。
「……あぁ、先にお伝えしておくと、僕はあなた以外にも不老の生物を知っているんですよ」
「……え?」
「国外にいる次兄の恋人が、そうです。彼女は、血を摂取しないと生きられない生物です。俗っぽい言い方をすると、吸血鬼、なんですよ」
吸血鬼……?
血を摂取しないと生きられない……?
「だから、彼女は身分を変えるたびに、医師や看護師の資格を取得する生活を送っていました。それらの職業なら血を扱いますからね」
「……」
「しかし、医療器具の廃棄方法などが規則で決められている日本や先進国では生きづらいことを知り、後進国にて医療行為と血の摂取を行なうことにしたようです。とは言っても、恋人である次兄が、以前から血を提供していましたけどね」
……同じ、か。血と精液の違いだけで、本質は同じ。それがないと、生きていけない。
だから、「そういう生物がいる」と水森さんは知っていた。私が「そういう生物」であると見抜いたのは、見抜けたのは、そのためか。
「村上ミチは、月野あかりさん、あなたですね?」
「それを知って、どうするんですか?」
「僕は最初から伝えているでしょう。知的好奇心を満たしたいのだと。あなたの生態に興味があるのだと」
それは、水森さんもセフレに加わりたいということか? そういう誘いか?
「私をどうしたいんですか?」
「あぁ……あなたとセックスはしません。ただ、話し相手になってもらいたいだけです」
「話し、相手……?」
「そう。例えば」
ブレンドコーヒーを飲んで、水森さんは微笑んだ。
「例えば――村上叡心と、水森貴一と、あなたの関係、とか教えてもらいたいですね」
手が、震える。思わず、手を強く握りしめる。
村上叡心と私は夫婦で、水森貴一はパトロン、だった。
それがいつしか、叡心先生の衣食住と絵のために、妻である私が、水森貴一に請われて体を提供する――そんな狂った関係に変わってしまった。
私に綺麗な着物を着せて、満足そうに笑いながら、私を優しく抱く水森貴一。
「すまない」と何度もむせび泣きながら、水森貴一との情事の痕跡の上に、鮮やかな絵の具を塗りつけていく叡心先生。
その叡心先生の手によって、また新しいキャンバスに生まれ変わったような気になる私。
叡心先生の目の前で、水森貴一が私を抱くこともあった。何度も、何度も。水森貴一が満足するまで、一日中。
夫の前で他の男から抱かれる辛さを、汚されていく地獄を、私は受け入れるしかなかった。先生は泣きながら、唇を噛み締めながら、それでも、筆は休めなかった。
水森貴一は、そんな私の絵を、叡心先生が描く私の絵を、好んだ。
狂っていた。
何もかもが、狂っていた。
水森貴一が私を抱く回数が増え、叡心先生の心が蝕まれ、私の体と心が真っ黒に塗り潰されていく――。
そんな、思い出したくもない日々の記憶が一瞬で蘇る。
佐々木先輩。私は、これ以上の「悲劇」を知りません。辛すぎるのに、忘れられない記憶です。
「……日記に、書いてあるのでは?」
「あくまでも水森貴一の日記ですから。あなたと村上叡心の心境は、そこからはわかりません」
「お話ししたくありません」
「まぁ、そうでしょうね」
ならば、言わないで欲しい。聞かないで欲しい。私は思い出したくもないのだから。
水森さんと話しているだけで、腹が立ってくる。それが彼の目論見なら、成功だ。私は腹立たしくて仕方ない。
「……すみません。怒らせてしまいましたね」
「そうですね」
「まぁ、そのあたりの事情はそこまで知る必要はないので、僕としては構わないのですが……月野あかりさんは、精液を主食とする生物で間違いありませんね?」
興味がないなら、ほんと、聞かないで欲しい。いちいち腹の立つ言い方をする人だ。
体の震えが少しずつおさまってくる。怒りはまだおさまらないけれど。
「……そうですね、そうなりますね」
「何日に何回摂取しないと生きられないのでしょう?」
「週に一度くらいで大丈夫そうですけど」
「精液は何cc必要ですか?」
「一回でも十分ですが、多いほうが腹持ちはいいです」
「経口摂取ですか? それとも経膣で?」
「……両方です」
なに、これ。なに、この尋問みたいなの。
恥ずかしいとか通り越して、ちょっと気持ち悪いんだけど!
「精液が不足した場合はどうなるのですか?」
「……あまり記憶がないのですが、どうやら見境なく男を口説いてしまうようです」
「餓死しそうになったことは?」
「何度か。戦争の前後は男の人がいなくて大変でした」
「……あなた、何年生きているんですか?」
「さあ?」
考えたこともない。思い出すこともできない。それくらい、遠い昔の話だ。
「湯川以外のセックスフレンドは、あなたに他にも相手がいることを知っているのですか?」
「はい。伝えてあります」
「湯川より若い?」
「二十九歳と、二十歳ですね、確か」
あまりよくは覚えていないけど。三十代は湯川先生だけだ。それだけは確かだ。
「あれ。一人減りました?」
「相手の結婚が決まったので、関係を解消しました」
「あぁ、不倫はしないんでしたね。ということは、今は三人?」
「はい」
「これから増やす?」
「その予定です」
目星は全くついていないけど。まぁ、適当に。ひと夏だけの思い出、というのも悪くないし、都合もいい。
でも、絶っっ対に水森さんだけは、ない。
「湯川からプロポーズされましたか?」
「……水森さんにお話しすることではありませんよね、それ」
「あぁ、確かに。友人として気になったもので」
「湯川先生には、あの裸婦像は私の曾祖母くらいの先祖だと伝えてあります。余計なことは言わないでくださいね」
「あ、はい、わかりました」
「話が終わりなら、私はこれで――」
テーブルの上に一枚のポストカードが置かれる。村上叡心展のポスターの、見返りの裸婦像だ。
「差し上げます」
「ありがとうございます」
箱根の美術館でも、叡心先生のポストカードを買ったのだった。これは、少し嬉しい。少し。
「村上叡心の絵は、将来的には、どこかの美術館に寄贈するかもしれません」
「……え?」
「水森家で保管するにも、限度がありますし……彼の絵は非常に価値が高いと思いますので、大勢の方に見てもらったほうが良いのではないかと、家族で話し合っている最中です」
「そう、ですか」
それならそれで、気軽に観に行くことができるので、私にとっては朗報だ。
「あなたが、この時代に僕の前に現れてくれて、本当に良かった。本当に」
水森さんの言葉に嘘はない。先ほどの尋問のような口調ではなく、優しい感じだ。
「水森貴一の日記を読んだあと、あなたに会えたら、言わなければならないと思っていた言葉があります」
「はあ……」
「申し訳ありませんでした」
水森さんは、立ち上がってその場で頭を下げた。
そんな、いきなり、謝られても。
「水森貴一のしたことは、非常に低俗で、欲にまみれた行為だったことでしょう。そのせいで、あなたと村上叡心の仲を引き裂いて……あなたから彼を奪った。僕が今謝ったところで、何の意味もないことはわかっていますし、許してはもらえないでしょうが、やはり、子孫として、あなたに謝りたい」
そして、再度、深々と頭を下げる。
「申し訳、ありませんでした」
その言葉は、今、聞きたかったんじゃない。
あのとき、台風の中、大しけの海に身を投げた叡心先生を、波間に沈む手を、掴めそうだったのに、私を羽交い締めにして取り押さえた、水森貴一本人から聞きたかった。
一緒に連れて行ってと泣き叫ぶ私に、すまなかった、と、ただそれだけで良かったのに。
「……私は、水森貴一を絶対に許しません」
「はい」
「でも、水森貴一の責任は、あなた方子孫にはありません。私に謝らないでください」
「……はい」
「叡心先生の絵を、今まで大事に保管してくださって、ありがとうございました。それが贖罪だと考えていただければ、それで構いませんので」
もう終わったことで、誰かを責めることはしたくない。叡心先生も、そんなこと望んでいないだろう。
「あ、それから、またもしポストカードを作ることがありましたら、一枚いただけると嬉しいです」
「では、そうします」
コーヒーを飲み干して、席を立つ。あぁ、またあの炎天下の中を歩くのは嫌だなぁ。冬は苦手だけど、夏も苦手になりそうだ。
会計へ向かいながら、水森さんが笑う。
「また、話を聞かせてください」
「嫌です」
「そうおっしゃらずに」
「私、あなたのことが嫌いなんです」
斜め上を睨みつけると、優しい視線とぶつかった。
「僕はあかりさんのこと、結構好きですけど」
は? な、な、に、それ!
どさくさに紛れて……なに!?
「血は争えませんね」
会計をすませている水森さんの後ろを通って、そそくさと外へ出る。むわっとした都会の夏の熱気が私を包む。暑い……暑すぎる。喫茶店の中をチラと見て、水森さんを待つ道理はないと判断する。
ストローハットをしっかりかぶって、私は走り始める。
あぁ、もう、本当に大嫌い!
もう、二度と、水森の人間とは会いませんように!
◆◇◆◇◆
「サキュバスちゃんの純情」番外編「月光の誘惑」を公開いたします。
本編では書かれないセフレとの出会いや一夜限りの情事などを書いていきたいと思っています。
不定期更新です。
もちろんエロあります。
そちらもよろしくお願いいたします。
水森さんは眼鏡の位置を少し上げて、話を切り出した。
「水森貴一の日記が残っています。村上叡心の絵を初めて見たときから、あなたに恋焦がれていた様子が窺えます」
「……ちょっと待ってください。あの絵のモデルは私ではありません」
前提が間違っていると言いたかったのだけど、水森さんは不思議そうに私を見るだけだ。
「あなたでしょう。違いますか?」
「私、どれだけ長生きなんですか」
「百年くらいは生きられるでしょう? 不老の生物なのですから」
これは、困った。冗談ではないようだ。水森さんは本気で、私が村上ミチだと思っている。そして、それは、間違いではない。困った。
「……あぁ、先にお伝えしておくと、僕はあなた以外にも不老の生物を知っているんですよ」
「……え?」
「国外にいる次兄の恋人が、そうです。彼女は、血を摂取しないと生きられない生物です。俗っぽい言い方をすると、吸血鬼、なんですよ」
吸血鬼……?
血を摂取しないと生きられない……?
「だから、彼女は身分を変えるたびに、医師や看護師の資格を取得する生活を送っていました。それらの職業なら血を扱いますからね」
「……」
「しかし、医療器具の廃棄方法などが規則で決められている日本や先進国では生きづらいことを知り、後進国にて医療行為と血の摂取を行なうことにしたようです。とは言っても、恋人である次兄が、以前から血を提供していましたけどね」
……同じ、か。血と精液の違いだけで、本質は同じ。それがないと、生きていけない。
だから、「そういう生物がいる」と水森さんは知っていた。私が「そういう生物」であると見抜いたのは、見抜けたのは、そのためか。
「村上ミチは、月野あかりさん、あなたですね?」
「それを知って、どうするんですか?」
「僕は最初から伝えているでしょう。知的好奇心を満たしたいのだと。あなたの生態に興味があるのだと」
それは、水森さんもセフレに加わりたいということか? そういう誘いか?
「私をどうしたいんですか?」
「あぁ……あなたとセックスはしません。ただ、話し相手になってもらいたいだけです」
「話し、相手……?」
「そう。例えば」
ブレンドコーヒーを飲んで、水森さんは微笑んだ。
「例えば――村上叡心と、水森貴一と、あなたの関係、とか教えてもらいたいですね」
手が、震える。思わず、手を強く握りしめる。
村上叡心と私は夫婦で、水森貴一はパトロン、だった。
それがいつしか、叡心先生の衣食住と絵のために、妻である私が、水森貴一に請われて体を提供する――そんな狂った関係に変わってしまった。
私に綺麗な着物を着せて、満足そうに笑いながら、私を優しく抱く水森貴一。
「すまない」と何度もむせび泣きながら、水森貴一との情事の痕跡の上に、鮮やかな絵の具を塗りつけていく叡心先生。
その叡心先生の手によって、また新しいキャンバスに生まれ変わったような気になる私。
叡心先生の目の前で、水森貴一が私を抱くこともあった。何度も、何度も。水森貴一が満足するまで、一日中。
夫の前で他の男から抱かれる辛さを、汚されていく地獄を、私は受け入れるしかなかった。先生は泣きながら、唇を噛み締めながら、それでも、筆は休めなかった。
水森貴一は、そんな私の絵を、叡心先生が描く私の絵を、好んだ。
狂っていた。
何もかもが、狂っていた。
水森貴一が私を抱く回数が増え、叡心先生の心が蝕まれ、私の体と心が真っ黒に塗り潰されていく――。
そんな、思い出したくもない日々の記憶が一瞬で蘇る。
佐々木先輩。私は、これ以上の「悲劇」を知りません。辛すぎるのに、忘れられない記憶です。
「……日記に、書いてあるのでは?」
「あくまでも水森貴一の日記ですから。あなたと村上叡心の心境は、そこからはわかりません」
「お話ししたくありません」
「まぁ、そうでしょうね」
ならば、言わないで欲しい。聞かないで欲しい。私は思い出したくもないのだから。
水森さんと話しているだけで、腹が立ってくる。それが彼の目論見なら、成功だ。私は腹立たしくて仕方ない。
「……すみません。怒らせてしまいましたね」
「そうですね」
「まぁ、そのあたりの事情はそこまで知る必要はないので、僕としては構わないのですが……月野あかりさんは、精液を主食とする生物で間違いありませんね?」
興味がないなら、ほんと、聞かないで欲しい。いちいち腹の立つ言い方をする人だ。
体の震えが少しずつおさまってくる。怒りはまだおさまらないけれど。
「……そうですね、そうなりますね」
「何日に何回摂取しないと生きられないのでしょう?」
「週に一度くらいで大丈夫そうですけど」
「精液は何cc必要ですか?」
「一回でも十分ですが、多いほうが腹持ちはいいです」
「経口摂取ですか? それとも経膣で?」
「……両方です」
なに、これ。なに、この尋問みたいなの。
恥ずかしいとか通り越して、ちょっと気持ち悪いんだけど!
「精液が不足した場合はどうなるのですか?」
「……あまり記憶がないのですが、どうやら見境なく男を口説いてしまうようです」
「餓死しそうになったことは?」
「何度か。戦争の前後は男の人がいなくて大変でした」
「……あなた、何年生きているんですか?」
「さあ?」
考えたこともない。思い出すこともできない。それくらい、遠い昔の話だ。
「湯川以外のセックスフレンドは、あなたに他にも相手がいることを知っているのですか?」
「はい。伝えてあります」
「湯川より若い?」
「二十九歳と、二十歳ですね、確か」
あまりよくは覚えていないけど。三十代は湯川先生だけだ。それだけは確かだ。
「あれ。一人減りました?」
「相手の結婚が決まったので、関係を解消しました」
「あぁ、不倫はしないんでしたね。ということは、今は三人?」
「はい」
「これから増やす?」
「その予定です」
目星は全くついていないけど。まぁ、適当に。ひと夏だけの思い出、というのも悪くないし、都合もいい。
でも、絶っっ対に水森さんだけは、ない。
「湯川からプロポーズされましたか?」
「……水森さんにお話しすることではありませんよね、それ」
「あぁ、確かに。友人として気になったもので」
「湯川先生には、あの裸婦像は私の曾祖母くらいの先祖だと伝えてあります。余計なことは言わないでくださいね」
「あ、はい、わかりました」
「話が終わりなら、私はこれで――」
テーブルの上に一枚のポストカードが置かれる。村上叡心展のポスターの、見返りの裸婦像だ。
「差し上げます」
「ありがとうございます」
箱根の美術館でも、叡心先生のポストカードを買ったのだった。これは、少し嬉しい。少し。
「村上叡心の絵は、将来的には、どこかの美術館に寄贈するかもしれません」
「……え?」
「水森家で保管するにも、限度がありますし……彼の絵は非常に価値が高いと思いますので、大勢の方に見てもらったほうが良いのではないかと、家族で話し合っている最中です」
「そう、ですか」
それならそれで、気軽に観に行くことができるので、私にとっては朗報だ。
「あなたが、この時代に僕の前に現れてくれて、本当に良かった。本当に」
水森さんの言葉に嘘はない。先ほどの尋問のような口調ではなく、優しい感じだ。
「水森貴一の日記を読んだあと、あなたに会えたら、言わなければならないと思っていた言葉があります」
「はあ……」
「申し訳ありませんでした」
水森さんは、立ち上がってその場で頭を下げた。
そんな、いきなり、謝られても。
「水森貴一のしたことは、非常に低俗で、欲にまみれた行為だったことでしょう。そのせいで、あなたと村上叡心の仲を引き裂いて……あなたから彼を奪った。僕が今謝ったところで、何の意味もないことはわかっていますし、許してはもらえないでしょうが、やはり、子孫として、あなたに謝りたい」
そして、再度、深々と頭を下げる。
「申し訳、ありませんでした」
その言葉は、今、聞きたかったんじゃない。
あのとき、台風の中、大しけの海に身を投げた叡心先生を、波間に沈む手を、掴めそうだったのに、私を羽交い締めにして取り押さえた、水森貴一本人から聞きたかった。
一緒に連れて行ってと泣き叫ぶ私に、すまなかった、と、ただそれだけで良かったのに。
「……私は、水森貴一を絶対に許しません」
「はい」
「でも、水森貴一の責任は、あなた方子孫にはありません。私に謝らないでください」
「……はい」
「叡心先生の絵を、今まで大事に保管してくださって、ありがとうございました。それが贖罪だと考えていただければ、それで構いませんので」
もう終わったことで、誰かを責めることはしたくない。叡心先生も、そんなこと望んでいないだろう。
「あ、それから、またもしポストカードを作ることがありましたら、一枚いただけると嬉しいです」
「では、そうします」
コーヒーを飲み干して、席を立つ。あぁ、またあの炎天下の中を歩くのは嫌だなぁ。冬は苦手だけど、夏も苦手になりそうだ。
会計へ向かいながら、水森さんが笑う。
「また、話を聞かせてください」
「嫌です」
「そうおっしゃらずに」
「私、あなたのことが嫌いなんです」
斜め上を睨みつけると、優しい視線とぶつかった。
「僕はあかりさんのこと、結構好きですけど」
は? な、な、に、それ!
どさくさに紛れて……なに!?
「血は争えませんね」
会計をすませている水森さんの後ろを通って、そそくさと外へ出る。むわっとした都会の夏の熱気が私を包む。暑い……暑すぎる。喫茶店の中をチラと見て、水森さんを待つ道理はないと判断する。
ストローハットをしっかりかぶって、私は走り始める。
あぁ、もう、本当に大嫌い!
もう、二度と、水森の人間とは会いませんように!
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本編では書かれないセフレとの出会いや一夜限りの情事などを書いていきたいと思っています。
不定期更新です。
もちろんエロあります。
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感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。
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