【R18】サキュバスちゃんの純情

千咲

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18.過日の果実(三)

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「やっ、あ、んんっ」

 浴衣を着て眠ったら、帯は解け、あられもない姿で目覚めることの多い私ではあるけれど。そうなるのは、寝相が悪いわけではなく、一緒に眠った人のせいでもあるのだと、今朝、知った。

「せん、っ、やぁっ」
「あかりがかわいいのが悪い」

 つまりは、朝起きたらかわいいセフレが浴衣をはだけさせて眠っているのを見て、さらには生理現象も手伝って、先生はかなりムラムラしたらしい。
 ムラムラした先生は、私から浴衣を剥ぎ取り、ショーツを引き抜き、胸や秘所を愛撫しながら、じわじわと蜜が溢れてきたところで、硬く反り立った肉棒を私の背後から挿入したのだ。

「あっ、あ、う、んっ」

 後ろから攻め立てられながら、ぎゅうと枕をつかむ。枕に顔を埋めて、声を押し殺す。

「聞かせてよ、声」
「やっ、やぁっ」
「あかり」
「んんんっ!」

 蜜に濡れた指でクニと肉芽に触れられて、一瞬でイキそうになる。
 カーテンの隙間から漏れる光は、まだ薄暗い。朝の早い時間か、曇りなのか、定かではない。朝食までまだ時間があればいいのだけど。

「あかり、締めないで。出ちゃう」
「せんせ、そこ、やっ」
「ん、一緒にイこうか」
「っあ!」

 深く腰を押し付けられると、先生の先端が私の最奥を刺激する。肉芽にも与えられる甘い痛みに、何も考えられなくなる。

「奥に出すよ」
「せんせ、わた、もうっ」
「おいで、あかり。俺も……っ」

 びくんと体が震える。膣内の収縮を感じると同時に、奥にじわりと熱が広がっていく。先生がゆっくり抽挿をするたび、腰が震えて、その余韻を楽しみたいとさえ思ってしまう。

 静かな部屋に、ハァハァと荒い二人の息づかいだけが残る。
 しばらく繋がったままでいたけど、先生が柔らかくなった肉棒を引き抜いてしまう。まだ余韻に浸っていたかった……。

「……六時半。朝食まであと一時間か」
「せんせーのばか」
「だってあかりがかわいいから」

 そんなの理由になりません! 朝から襲わないでください! ビックリしちゃうでしょ!
 先生が横に寝転んだので、私も足を伸ばして横になる。

「おはよう、あかり」

 頬についた髪を優しく払って、先生が軽くキスをしてくれる。柔らかい唇が何度も頬や額や唇に押し付けられ、私の心を解していく。

「よく眠れた?」
「眠れたけど、寝起きが、ねぇ」
「朝からするの、初めてじゃないでしょ?」
「ホテルに泊まったときは、そうだけど」

 何を驚くことがあるの、と先生は笑う。まぁ、そうだけど……寝起きの後背位はちょっとキツかったです。

「あかり、温泉入ろう」
「やだー動けないー」
「じゃあ、俺先に入ろうっと」

 湯川先生は案外温泉が好きなんだなぁと、広い背中とシャープなお尻を見送る。浴衣は布団の上。ボクサーパンツは、どこだ?
 全裸で移動していく彼の姿を見るのは初めてで、何だか不思議な感じ。そこで私はようやく、旅行の目的に思い至る。

 湯川先生は、私に「自分」を知ってもらいたいのだ。自分のぜんぶ、を。

 布団の中に隠れていたボクサーパンツと浴衣と帯を手に取って、私も脱衣所へ向かう。もちろん、全裸で。
 今日、先生は私をどこへ連れて行ってくれるのか――正直、わくわくしているのだ。


◆◇◆◇◆


 部屋で準備してもらった和朝食を食べ、支度をしてから旅館を出る。今日も同じところに泊まるので、荷物はそのままだ。
 今日も暑くなると言っていた通り、快晴。むぎ……ハットをかぶり直す。

「バスの時間を見て、すぐ来そうだったらバスで行くよ。来ないなら、タクシーで行こう」

 幸いにもバスは五分後くらいに来たので、青色のかわいらしい観光バスに乗り込む。二人掛けの席に座って、先生を見つめると、少し緊張しているようだ。真面目な顔をして真っ直ぐ前を向いている。

「……高校生のときに、社会科見学で箱根に来たんだ」
「へえ。水森さんも?」
「ああ。水森と仲良くなったのは、そのときからだな」

 へえ。箱根は湯川先生と水森さんの思い出の地ということか。
 でも、たぶん、そんな男同士の友情の話をするためにここへ私を連れてきたわけではないだろう。
 青色のバスは観光客を乗せて山を行く。緑の葉っぱが揺れる山道を結構な速度で進んでいく。

「降りるよ」

 先生が降りるよう促したのは、とある美術館の前のバス停。緑の木々のトンネルの向こうに、ガラス張りの正面口が見える。

「出入り口が二階にあって、展示は地下にあるんだ」

 先生がそう説明してくれた通り、美術館の姿は眼下に現れた。ガラス張りのエントランスは見た目には涼しげだけど、近づくと結構暑い。
 一階へ降りて、汗だくになる前に素早くチケットを購入する。そして、展示のある地下へとエスカレーターで向かう。

「涼しいねぇ!」
「……うん」

 先生のテンションが低い。入館時にもらったはずの館内マップも私に見せてくれないので、仕方なく展示室へと入る。
 かわいらしい化粧箱や香水の瓶、セザンヌ、モネ、ルノワール、ドガ……有名な画家の絵が並ぶ。先生は展示室の入り口の近くに立ったまま、動こうとしない。

 私は説明文を読みながらゆっくり展示品を見る。昨日の美術館ではゆっくり見られなかったから、とても嬉しい。また昨日の美術館にもいつか行ってみたい。きちんとぜんぶ見てみたい。
 時間をかけて展示を見たあと、先生のところへ戻る。

「見たよ、先生」
「……うん」
「次は地下二階?」
「……そう」
「先生、行こう」

 冷房でとても涼しいのに、湯川先生の手のひらは汗びっしょり。何かに緊張しているのは間違いないだろう。
 でも、気にせず手を取って、出口へ向かう。

「……あかり」

 エスカレーターでさらに階下へ降りている最中に、湯川先生の震える声が隣から聞こえた。

「俺は、あかりを失いたくない」
「勝手に消えたりはしないから安心して」
「でも……」
「別れるときはちゃんと言うから」

 エスカレーターから降りて、展示室へどんどん向かう。湯川先生は私に引っ張られているだけだ。
 入り口にいた監視員が私たちの姿を見てぎょっとする。早歩きで展示を見回る人なんていないから、当たり前のことだ。
 地下二階には、西洋画家の作品だけでなく、日本画家の絵も展示されていた。ピカソやゴッホ、岸田劉生の有名な絵もあったけど、私たちの目的はそれじゃなくて――。

「……あった」

 着崩れた着物も、落ちた髪も直そうともせず、縁側に横たわる女の絵。地味な色の着物の、はだけた衿の間から白い乳房がちらりと見え、衿下からは誘っているかのような白い足が覗く。女は気だるげに、笑みを浮かべている。
 その女の顔は、私にそっくり。

 画家の名は――村上叡心。

 女は、私だ。

「……湯川先生」

 ビクリ、と先生の肩が震えた。ゆっくりと絵から視線を外して、怯えた目で私を見下ろす。見上げる私は、笑う。笑えているだろうか。

「あかり、俺は」
「高校生のときから、私を探してくれていたんですね」

 高校生にこの絵は刺激が強すぎると思う。明らかに事後の絵ではないか。まったく、もう。
 せめて、水森さんの家にあるという見返りの裸婦とかのほうが良かった。たぶん、あれなら、刺激が強すぎることは、ないと思う。覚えていないけど。

「ありがとうございます、私を見つけてくださって」
「あかり、その、怒って、ない?」
「まさか。怒ってなんか」

 そんな必要はない。そんな余裕もない。
 零れ落ちそうになる涙をこらえるので、必死だ。

「せんせ……っ」

 また、会えるなんて、思わなかった。

 叡心先生の絵に再会できるなんて、思わなかった。

 広島市に売られていった絵の大半は、既に戦争で焼失してしまったのだと思っていたし、水森家がまだ所有してくれているなんて、思ってもみなかったから。
 ポーチからハンカチを取り出して、涙を拭く。

「あかり? 大丈夫?」

 大丈夫じゃない。
 全然、大丈夫じゃない。

 嬉しくて。
 嬉しすぎて、全然、大丈夫じゃない。

「あかり、あっち……あっちで休もう?」

 湯川先生が休憩用のソファへ連れてきてくれて、ようやく私は、くったりと緊張を解く。

 叡心先生……会いたかった……。

 そうか、私、また会いたかったんだ……。

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