【R18】サキュバスちゃんの純情

千咲

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17.過日の果実(二)

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 ザワザワと緑が揺れる。掛け流し口から温泉が落ちてくる音も、耳に心地よい。
 熱を含んだ風が髪と肌を撫でていく。

「ん、ふ」

 浴槽の中で抱き合ったまま、先生の肉棒を咥え込んで、キスをする。緩く腰を動かすたびに水面が揺れて、ザバザバと波が立つ。

「せんせ、気持ちい……」
「俺も」

 鎖骨に噛み付いて、先生は痕を残す。胸の頂きを指で捏ねられるたび、中がきゅうと切なく締まる。中はもう、私と先生の体液でヌルヌルしすぎてしまっている。
 じんわりと広がる快楽の波は、お互いを絶頂に引き上げるほどの激しいものではない。お互いの体を少しずつ刺激して、交わる行為を楽しむためのものだ。

「あかりの肌、綺麗だね」
「温泉のせいかなぁ」
「もとから綺麗だよ」

 ありがと、と笑って唇を重ね合う。
 気持ちいい。先生とのセックスは、本当に気持ちいい。たぶん、彼がものすごく私を慈しんでくれるから、そして、研究熱心だからだと思う。私をどうやって気持ちよくさせるか、どうやって高みへ連れて行くか、すごく考えてくれている。
 精液だけ欲しいのに、快楽に溺れてしまいたくなってくる。

「夕食は六時からだよ」
「はぁい」
「そろそろ出る?」
「出ない。まだ挿れていたいの」

 先生は「のぼせるよ」と苦笑する。
 夕食を食べて、ゆっくりして、セックスして、温泉に入って、またセックスして……そんな時間も悪くはない、か。

「先生、出す?」
「いや、あとの楽しみに取っておくよ」
「はぁい。じゃあ、抜くね」

 完全に抜く前で腰を止め、キスをする。膣口で亀頭をいじめて、先生から声が漏れたところで、深く腰を落とす。ザブンと大きな波が立つ。

「っ、あ……あかり」
「ん、気持ちいい?」
「気持ち、い……抜くんじゃなかったの?」
「先生の白いのを、ね」
「ダメだって。夜できなくなっ……っ、あ」

 もう一度同じように深く繋がりを求めたあと、ゆっくりと肉棒を引き抜く。夜できなくなっちゃうのは、困る。ここは先生の体を休めさせてあげなくちゃ。
 切なそうな表情の先生が私を見上げて、そっと腰を引き寄せ、お腹にキスをする。ん、くすぐったい。

「あかり」
「ん?」

 チリと小さく痛むお腹に、赤い花びらが散らされていく。湯に濡れたキスマークは、何とも扇情的だ。

「……ありがとう」

 俺を受け入れてくれて? 旅行に来てくれて?
 先生の言葉の意味なんて、理解しなくてもいい。きっと。

「せんせ、浴衣着よう、浴衣。で、ご飯食べたあと、ゆっくり布団で……脱がせて?」
「脱がせるだけじゃ、ねぇ」
「じゃあ、脱がせて、中身を食べて?」
「ん、そうする」

 ザバリと湯川先生が立ち上がって、額にキスをしてくれる。

「……毎日、こんな幸せだったらいいのに」

 先生の呟きは聞かなかったことにして。
 濡れた床をゆっくり進んで、脱衣所へと向かう。風が涼しくなってきた。
 ほんと、露天風呂は、いいなぁ。


◆◇◆◇◆


 相模湾や駿河湾で捕れた新鮮な魚介類、地元箱根の野菜、飛騨牛……大きなテーブルが食べ切れないほどの料理で埋め尽くされていく。
 湯川先生の食べるスピードに合わせて料理を持ってきてくれる仲居さんが、「金目鯛の煮付けでございます」「天然アワビの造りでございます」「山菜の天ぷらでございます。こちらから順番に」と説明してくれるけれど、全部美味しすぎて、言葉が全然頭に入ってこない。
 瀬戸内も魚介類が美味しかったけど、箱根も海に近いんだなぁと納得できるくらいに美味しい。あんなに山道を通ったのに不思議だ。

「あかり、金目鯛美味しいよ。お肉も。焼いてあげようか?」
「もうお腹いっぱいになってきた」
「えー、もう? 少食だなぁ、ほんと」
「先生、食べてよぅ」

 だって、三回も中で出してくれたから、温泉に入る前から満腹に近かった。だから、夜の分に取っておこうと、あのとき先生をイカせなかったのだ。
 金目鯛の煮付けは甘くて美味しい。真鯛の刺し身も、鯛飯も好きだけど、煮付けもいいなぁ。

「北海道も魚介が美味しかったなぁ。今度はあかりも連れて行ってあげるよ」
「寒いのは苦手だから、冬以外で連れてってね」

 へぇ、寒いのは苦手だったんだ、と湯川先生は驚く。
 結局、先生が焼いてくれた肉を口に入れる。柔らかくて、肉が舌の上でとろけていく。目を丸くした私を見て、先生は笑う。うん、美味しい!

「だから、お見舞いのとき、あんなに着込んでいたんだ?」
「だって寒かったんだもん」

 駅から病院までは少し歩かなくてはいけなくて、ダウンジャケットにブーツに、ニット帽に、カイロに……まぁとにかく完全防備だったのだ。二月だったのだから、仕方ない。
 と。先生の猪口が空いたので、日本酒を注ぐ。箱根道と書いてあるので、地元のお酒だろう。

「あかりは飲まない?」
「こないだ焼酎ロックで意識失ったよ、私」

 烏龍茶を飲みながら苦笑する。あのときは、焼酎ロックの前に何杯かチューハイを飲んでいたのだけど。
 天ぷらはつゆと塩が準備されていて、悩みながら……両方楽しむことにする。塩のほうが好きかもしれない。

「……会社の飲み会?」
「うん」
「男もいたの?」
「先生、妬いてる?」

 男がいたどころか、男の人に家まで送ってもらいましたけど。送り狼的なことは何もありませんでしたけど!
 あ、シャコ酢だ、シャコ酢! 身からじわりと甘酸っぱい酢が溢れてくるのがたまらない。酢の物が苦手な先生から、シャコ酢をもらって食べる。 

「……普通、妬くよね」
「そう?」

 セフレが他の男と接触するのにいちいち妬いていたら、身が持たないよ、先生。
 うぅ、お腹が苦しい。旅館でのご飯ってこんなにたくさん出てくるのか……少ないよりはいいのかもしれないけど、私には多すぎるので、先生に食べてもらう。

「ほんとは俺だけにして欲しいよ」
「はい、先生、あーん」

 テーブルの対面、促されるまま口を開けた先生の口に、アワビの刺し身を差し入れる。私も食べると、弾力がありコリコリしている。貝はそこまで得意ではないのだけど、美味しい。

「仲がよろしいんですね。こちら、穴子の炊き込みご飯とお吸い物です。デザートをあとでお持ちいたしますね」

 仲居さんには仲の良いカップルにしか見えないみたいだ。まぁ、夫婦でも愛人でも、何でもいいけど。
 穴子の炊き込みご飯はあっさりしていて美味しい。聞くと、ちょうど旬なのだそうだ。

「明日はどちらにお出かけなさるんですか?」
「妻へのサプライズなので内緒です」
「あらあら、それは失礼いたしました。では、ごゆっくり」

 湯川先生も、サラリと嘘をつくなぁ。苦笑してから、メロンを頬張る。うー、甘酸っぱい! 美味しい! 甘いものが苦手な先生の皿もいただきます!

「美味しいね」
「うん!」
「あかりともっと美味しいものを食べに行きたいね」
「是非!」

 食べ終わって、仲居さんたちに器を片付けてもらった。
 部屋が静かになると、先生が私の膝に頭を乗せてきた。膝枕をしながら、短い髪を撫でる。甘えてくる男は好きだ。甘えられすぎるとダメだけど。これくらいなら、好ましい。

「ねぇ、あかり」
「うん?」
「……あかりは、他の男と別れないの?」
「一人別れたよ。結婚が決まったからって」

 湯川先生は、たぶん、他の男と別れて欲しいんだろう。そして、私を独占したいのだ。
 先生が毎週欠かさず私に精液を与えてくれるなら、それでも良いのだけど、忙しい先生にはそれは難しい。
 この三連休も結構無理をして取ったようで、来週と再来週は埋め合わせで仕事なのだそうだ。術後すぐの患者さんはいないみたいだから、急変で呼び出されることはないだろうと言っていたけど、どうなるかはわからない。

「相手が結婚したら、別れるの?」
「うん。不倫はしないの。先生も、結婚するときは言ってね」
「大丈夫。あと十二年はしない予定だよ」

 四十代でも、お医者様ならモテるだろう。早漏が酷くなっても、きっと大丈夫だろう。歳のせいにできるし。

「……四十五歳は、父が亡くなった歳なんだ」
「お父様が?」
「医者の不養生ってやつなのかな。心筋梗塞で倒れて、そのまま逝ってしまった」

 湯川先生は、ぽつりぽつりとお父様との昔話をしてくれる。
 学生時代から付き合っていたお母様と結婚し、湯川先生が産まれたこと。三十五歳でクリニックを開いたこと。毎日いきいきとしているお父様を見て、自分も医者を志したこと。受験のときには常にお互いの意見をぶつけて、衝突しながら、将来のことを語り合ったこと。

「父のような医者になりたいって、ずっと背中を追いかけてる。俺も一応名医だと言われてはいるけど、俺はまだ父を超えられていない気がするんだ」

 それは、湯川先生が初めて私に見せた弱い部分なのかもしれない。先生の表情まではわからないけれど、きっと、泣きそうになっているに違いない。

「心臓血管外科へ行ったのは、そういう理由があったんだね」
「……そうだね。助けられるなら、助けたいんだ。でも、助けられなかった命も、いっぱい見てきたけど」
「ねぇ、先生」

 頭を撫で、髪を梳きながら、微笑む。

「先生は、お父様を超えたいんじゃないよね。超えるんじゃなくて、一緒に歩きたいんじゃない?」
「……あかり」
「お父様と同じ歳になって、そこから一緒に人生を歩いていきたいんだよね。だから、四十五歳になったときに、お父様に恥じない自分でありたい、そう願っているんだよね?」

 太腿が軽くなり、熱が逃げていく。湯川先生は起き上がり、私を見つめる。目が潤んでいるのに、気づかないふりはできない。

「あかり」
「はい」
「俺と結婚して欲しい」
「しません」
「じゃあ、今すぐあかりを抱きたい」
「ん、いいよ」

 なんで結婚してくれないの、俺のどこがいけないの、と縋ってくる人じゃなくて良かった。本当に、良かった。
 先生が、自分の希望を押し付けて、私を束縛するような人なら、別れなければならないけど、そうではない。彼は私を独占したがってはいるけれど、それを実行しようとはしていない。

 諦めているのだ。
 先生は薄々気づいていたはずだ。プロポーズをしても断られると。だから、すぐに願いを切り替えた。

「あかりの肌、スベスベ」
「温泉のおかげかな」

 シュルと細い帯が解かれる。淡い藤色の浴衣の衿下を割って入ってきた指に、太腿が撫で上げられる。衿の縁の部分に舌を滑らせて、鎖骨から胸の谷間へ熱を動かしていく。

「せんせ、布団で」
「布団で?」

 先生をぎゅうと抱きしめて、布団で抱いて欲しいと願う。畳の上でもいいけど、背中とか腰がちょっと痛くなる。
 せっかく布団が敷いてあるのだから、少し歩いて、その上でセックスをしたい。先生と布団でする機会はなかなかないから。

「布団で――犯してよ」

 私のお腹はもういっぱいだけど、先生の性欲も処理してあげないと。ね。

「あかりっ」

 湯川先生には効果てきめんの言葉だったらしく、彼は喜びながら私を抱きかかえて布団へと連れてきてくれた。
 器用に掛け布団を除けて、布団に背中から着地した瞬間に、先生からキスの雨が降ってくる。

「もう一回、言って。今の」

 そう、切なそうにおねだりされたら、応じないわけにはいかない。

「望、私を――いっぱい犯して」

 先生の浴衣の衿下から覗くボクサーパンツの中は、硬く屹立している。今日はあと何回できるかなと算段しながら、明日は少なめにして欲しいなと願う。
 じゃないと、私、壊れちゃうよ。

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