10 / 75
10.週末の終末(四)
しおりを挟む
「……ん」
目を開けたら、好きで好きでたまらない人の寝顔があればいいのに。残念ながら、好きではあるけれど、今日別れる人の寝顔である。
宮野さんはぐっすり眠っている。私が起き上がっても目が覚めないくらいの深い眠りだ。それも仕方ない。宮野さんが何度も私を抱くから、いつの間にか夜になり、私の腰は砕ける寸前だ。今も下腹部が痛い。ちょっとヤリすぎた。
リビングのソファで、宮野さんの願い通り何度も抱き合った。
勃ったら挿れる、だなんてセックスはあまりしたことがない。宮野さんは果てなくてもただ挿入っていたい、そういう気持ちだったようだ。挿入るなら精液を出して欲しい私には理解しがたい感情と行動だ。
昨夜は抱き潰されてぐったりしたまま、宮野さんお手製のカルボナーラを食べて、シャワーを浴びながら一回、ベッドで一回ヤッてから寝てしまったようだ。もうお腹いっぱいだ。
宮野さんから借りたシャツに手を通し、音を立てないように部屋を出る。
リビングのテーブルの上に、宮野さんのスマートフォンを見つける。ロックは数字で解除するタイプ。
一、一、二、五、と入力するとロックが解除される。十一月二十五日は、宮野さんと私が出会った日。彼が死のうとした日だ。
電話帳から私の名前を探す。「月野あかり」は難なく見つかった。真面目な宮野さんは、変なニックネームなんかで名前は登録していなかった。助かった。
月野あかりの連絡先を迷うことなく消去する。ついでに、アプリの連絡先も履歴も。これで、連絡は取れなくなるはずだ。
脱衣所に干してあった服と下着は乾いている。さすがに独身寮のベランダで女物の服は乾かせないし、雨も降っていたので、一晩で乾きそうなものだけ洗ったのが良かったようだ。シャツを脱いで、それらを身につける。
「靴下、靴下」
白い薄手の靴下はどこへ放ってしまったのか。脱衣所にもキッチンにも、リビングにもない。だとすると、寝室かな。
ペタペタと足音が鳴らないように、宮野さんが眠る寝室へと入る。シングルベッドと本棚くらいしかない部屋の中、目当ての靴下はすぐ見つかった。ベッドのそばに落ちていた靴下を拾い上げて履く。
「……」
軽い寝息を立てる宮野さんの短い髪を撫で、目を細める。ベッドの脇に座って、しばらく寝顔を見つめる。
彼とセフレであった期間は三年。短いようで、長かった。彼は私への執着をひた隠しにしていたから、関係が長く続いたのだろう。私の「心」まで欲しがり、それを伝えてくる人は、すぐに断ち切ってしまうから、宮野さんは稀有な存在だと言える。
宮野さんには、幸せになって欲しい。
損失をカバーするために生涯かけて銀行に尽くすのだと決めた彼を、その仕事ぶりを、常務が「娘を嫁に出してもいい」と買ってくれたのだ。宮野さんは自由がなくなると嘆くけれど、きっと常務は彼を公私共に支えてくれるはずだ。
そして、父親の勧めだとはいえ、結婚を決意した常務の娘さんが、彼をしっかり守ってくれる人だといいな。
……なんて、私が考えることではないのだけど。
「もう、死ぬことを考えないでね」
生きることだけ考えて欲しい。その価値が、彼にはあるのだから。
最後に額にキスをして、寝室を出る。
一晩一緒に過ごしたのだから、もういいはずだ。宮野さんがいつまで私にいてもらいたかったのかは、わからないけど。長くいればいるだけ、離れがたくなってしまうものだから。
カバンを取って、パンプスを履く。傘を持って、さて、鍵はどうしようかなと思った瞬間に、後ろからぎゅうと抱きしめられた。
「っ、宮野さん!?」
「なんで、もう、行くの」
「……離れたくなくなっちゃうから」
私が、ではなく、宮野さんが、だけど。
私を抱きすくめながら、宮野さんは苦しそうな声で、私に告げる。
「……行かないで。まだ、そばにいて」
悪いけど、執着心を見せ始めた彼の言葉は聞けない。泣かれたって、喚かれたって、無理なものは無理だ。
「宮野さん。ダメだよ」
「名前で呼んでよ」
「潤、もうダメなの」
苦しいくらいに力の入った腕をポンポンと撫でる。色白で細い腕。繊細で優しい指。今まで私を抱いてくれてありがとう、ね。
「こんなに、あかりのことが好きなのに?」
「うん」
「あかりしかいらない。あかりだけが欲しいのに?」
「うん」
「あかりだけを、愛しているのに?」
「うん」
別れのときは、いつだって苦しいし悲しい。私にだって心はあるのだから、気持ちが揺さぶられることもある。
「……あかりと、結婚、したかった」
「ダメだよ。私は結婚できない」
「子どもができないなら、それでもいいんだ。あかりと二人で、生きていきたかった」
「潤」
「だってあかりは、俺を救ってくれた、天使だから」
……宮野さん、残念。サキュバスは、天使じゃなくて悪魔に分類されるんだよ。
私はそんな、清らかで綺麗なものじゃないの。ごめんね。
「あかり、お願い」
「ダメだよ」
「……じゃあ、最後に、キスだけ」
宮野さんとのキスはセックスしたくなるからなぁ。どうしようかな。んー……断ろう。
と、少し悩んだのがまずかった。
「じゅ、っ、んっ」
無理やり顔を後ろに向かされて、乱暴に唇が奪われる。噛みつくように唇が吸われ、空気を求めて開いた瞬間に、舌が口内へ挿入ってくる。
ブラウスの裾から手が差し込まれ、キャミソールの下を指が這い、無造作にブラの中に指が侵入する。
「やっ、あっ」
柔らかい突起に甘い刺激が与えられる。その先の快楽を知っている下腹部が疼く。逃れようとすればするほど、腕がきつく私を抱き寄せる。
トランクスに隠された男根が硬く勃ち上がり、おしりのあたりにわざと当てられる。
……キス、だけじゃ、ないじゃんっ!
「んっ、ふ」
スルリとスカートが撫でられ、裾をめくり上げ――指が一気にショーツを膝上まで引き下ろす。くぐもった悲鳴は、宮野さんの舌の上で響くだけ。むき出しになったおしりに、熱いものが密着する。
「痛かったら、ごめんね」
余裕のない、けれども、最大限の気遣い。その優しさが宮野さんらしい。
「っあ!」
据え付けられた白い下駄箱にしがみついた瞬間に、痛みが走る。濡れてもいない解されてもいない隘路を割って、肉棒が挿入された痛みだ。
「痛い? ごめん、あかり」
泣きたくなるほど痛いです、宮野さんのバカ!
「でも、止めないから」
「あっ、あ……」
「逃さないよ」
耳元で響く低音に、ドキドキしてしまう。
乱暴にされるのは、嫌いではない。いつもは優しい宮野さんが、私に遠慮することなく、本能で中に挿入ってきた――そんな状況に、興奮しないわけがない。
ぎゅうと手を握りしめて痛みに耐えながら、じわじわと広がってくる快楽を享受する。ゆっくり押し進められていた楔が、湧き出る蜜に手助けされ、簡単に奥へと到達する。
「挿入っ、た……」
根元までしっかり挿れられると、最奥が圧迫感で痛くなる。けれど、甘い痛みだ。やめてほしくない痛みだ。
「あかり」
宮野さんが上体を少しかがませると、また角度が変わって先端が違う場所に当たる。甘美な不意打ちに、声が漏れる。
「っふあ……奥、当たって……気持ちい……」
「本当? 激しくしても大丈夫?」
宮野さんの心配そうな声に、笑ってしまいそうになる。あんなに乱暴に挿入ってきたくせに、今さらそれを聞くの? 本当に、バカなんだから。
「……激しくして、いいよ」
背後にいる宮野さんを、上目遣いで見上げる。彼の喉がゴクリと鳴る。男の人の煽り方は熟知しているのだ。
「最後に、いっぱい、私の奥に出して」
「あかりっ!」
肉棒が一気に膣口まで引き抜かれ、また一気に奥まで挿入される。何度か抽挿されると、蜜が膣内全体に広がり、肉棒の滑りを良くする。そうなると、本当に、気持ちいい。
「やっ、あ、っ、あ」
「外に声が聞こえちゃうよ、あかり」
そうは言っても。後ろから突かれると、どうしても声が漏れてしまう。声を我慢するなんて難しい。
それに、昨日からの腰への負担で、足がガクガク震えてきた。たぶん、あと数分で立っていられなくなる。
「じゅ、ダメ、足がっ」
「つらい? じゃあ、四つん這いになる?」
うんうんと頷いて、ゆっくり床へと倒れ込む。傘もカバンも床に落ちた。ひんやりとしたフローリングがほてった体に気持ちいい。
「んっ、ん、あ」
「あかり、かわいい。おしり突き出して、エロい」
深く浅く、宮野さんは自らの欲を打ち付けてくる。腰をつかむ指の熱が好き。犯されているみたいで、たまらなくエロい。
「潤、に、犯され、てるっ」
「そう、あかりを無理やり犯してるの」
「あ、ん、んっ、きもち、い」
気持ちいい。正常位も後背位も、好き。
そこに、愛も心もなくても。体だけの繋がりであったとしても。
「……あかり、イキそう」
「いいよ、中にっ」
「最後は、あかりの顔を見ながらイキたい」
ずるりと熱が引き抜かれる。膣が快楽を求めて切なくひくつく。くるりとひっくり返って、宮野さんを見つめる。泣き出しそうな顔で、宮野さんは。
「あかり、好き……好き、だった」
溢れる蜜口に亀頭を宛てがって、泣き出しそうな顔のまま、宮野さんは体重をかけてくる。
「っあ……」
「あかり、愛してる……愛してた」
過去形。
宮野さんにもわかっている。これが最後のセックスで、決別のセックスだと。
「あかり、結婚したかった……君と一緒に……生きて」
落ちてくる涙。言葉にならない愛。届かない心。
彼がどれだけ私を愛し、大事にしてきたか。わからないわけじゃない。彼から大切に扱われているという実感はあった。「好きだ」と言われなくても、私に興味を示してくれなくても、好意は感じていた。
それが本当は、深い愛情だったなんて、夢にも思わなかったけれど。
すべて、見ないように、感じないようにしていたのは、私自身のせいなのかもしれない。
「潤、私も、好きだったよ」
宮野さんの体を抱きしめて、嗚咽を耳元で聞きながら、彼に囁く。
「潤、来て」
びくんと腰が跳ねる。宮野さんは少し起き上がって、涙に濡れた目で私を見下ろす。
「一番奥に、来て」
「あかりっ」
速くなる律動に、舌を求め合うキス。こうやって、キスをしながら受け入れるの、好きだったよ。
「あかり、イクっ」
小さく呟いたあと、すぐに唇を塞いで。宮野さんは、一番奥で、私の大好きなご馳走を出してくれた。
最後まで、私の中と唇を味わって、宮野さんは嗚咽混じりの言葉で、セックスを終えた。
「……ありがとう」
「うん」
「最後に、好きって、言ってくれて、ありがとう」
何度も口付けられる頬や額。徐々に柔らかくなっていく楔。
「あかり」
私を見下ろして、宮野さんは、笑った。
「さよなら」
触れるだけのキス。少ししょっぱい、最後のキス。
こちらこそ、三年間、ありがとう。
本当に、ありがとうございました。
さようなら、宮野潤さん。
目を開けたら、好きで好きでたまらない人の寝顔があればいいのに。残念ながら、好きではあるけれど、今日別れる人の寝顔である。
宮野さんはぐっすり眠っている。私が起き上がっても目が覚めないくらいの深い眠りだ。それも仕方ない。宮野さんが何度も私を抱くから、いつの間にか夜になり、私の腰は砕ける寸前だ。今も下腹部が痛い。ちょっとヤリすぎた。
リビングのソファで、宮野さんの願い通り何度も抱き合った。
勃ったら挿れる、だなんてセックスはあまりしたことがない。宮野さんは果てなくてもただ挿入っていたい、そういう気持ちだったようだ。挿入るなら精液を出して欲しい私には理解しがたい感情と行動だ。
昨夜は抱き潰されてぐったりしたまま、宮野さんお手製のカルボナーラを食べて、シャワーを浴びながら一回、ベッドで一回ヤッてから寝てしまったようだ。もうお腹いっぱいだ。
宮野さんから借りたシャツに手を通し、音を立てないように部屋を出る。
リビングのテーブルの上に、宮野さんのスマートフォンを見つける。ロックは数字で解除するタイプ。
一、一、二、五、と入力するとロックが解除される。十一月二十五日は、宮野さんと私が出会った日。彼が死のうとした日だ。
電話帳から私の名前を探す。「月野あかり」は難なく見つかった。真面目な宮野さんは、変なニックネームなんかで名前は登録していなかった。助かった。
月野あかりの連絡先を迷うことなく消去する。ついでに、アプリの連絡先も履歴も。これで、連絡は取れなくなるはずだ。
脱衣所に干してあった服と下着は乾いている。さすがに独身寮のベランダで女物の服は乾かせないし、雨も降っていたので、一晩で乾きそうなものだけ洗ったのが良かったようだ。シャツを脱いで、それらを身につける。
「靴下、靴下」
白い薄手の靴下はどこへ放ってしまったのか。脱衣所にもキッチンにも、リビングにもない。だとすると、寝室かな。
ペタペタと足音が鳴らないように、宮野さんが眠る寝室へと入る。シングルベッドと本棚くらいしかない部屋の中、目当ての靴下はすぐ見つかった。ベッドのそばに落ちていた靴下を拾い上げて履く。
「……」
軽い寝息を立てる宮野さんの短い髪を撫で、目を細める。ベッドの脇に座って、しばらく寝顔を見つめる。
彼とセフレであった期間は三年。短いようで、長かった。彼は私への執着をひた隠しにしていたから、関係が長く続いたのだろう。私の「心」まで欲しがり、それを伝えてくる人は、すぐに断ち切ってしまうから、宮野さんは稀有な存在だと言える。
宮野さんには、幸せになって欲しい。
損失をカバーするために生涯かけて銀行に尽くすのだと決めた彼を、その仕事ぶりを、常務が「娘を嫁に出してもいい」と買ってくれたのだ。宮野さんは自由がなくなると嘆くけれど、きっと常務は彼を公私共に支えてくれるはずだ。
そして、父親の勧めだとはいえ、結婚を決意した常務の娘さんが、彼をしっかり守ってくれる人だといいな。
……なんて、私が考えることではないのだけど。
「もう、死ぬことを考えないでね」
生きることだけ考えて欲しい。その価値が、彼にはあるのだから。
最後に額にキスをして、寝室を出る。
一晩一緒に過ごしたのだから、もういいはずだ。宮野さんがいつまで私にいてもらいたかったのかは、わからないけど。長くいればいるだけ、離れがたくなってしまうものだから。
カバンを取って、パンプスを履く。傘を持って、さて、鍵はどうしようかなと思った瞬間に、後ろからぎゅうと抱きしめられた。
「っ、宮野さん!?」
「なんで、もう、行くの」
「……離れたくなくなっちゃうから」
私が、ではなく、宮野さんが、だけど。
私を抱きすくめながら、宮野さんは苦しそうな声で、私に告げる。
「……行かないで。まだ、そばにいて」
悪いけど、執着心を見せ始めた彼の言葉は聞けない。泣かれたって、喚かれたって、無理なものは無理だ。
「宮野さん。ダメだよ」
「名前で呼んでよ」
「潤、もうダメなの」
苦しいくらいに力の入った腕をポンポンと撫でる。色白で細い腕。繊細で優しい指。今まで私を抱いてくれてありがとう、ね。
「こんなに、あかりのことが好きなのに?」
「うん」
「あかりしかいらない。あかりだけが欲しいのに?」
「うん」
「あかりだけを、愛しているのに?」
「うん」
別れのときは、いつだって苦しいし悲しい。私にだって心はあるのだから、気持ちが揺さぶられることもある。
「……あかりと、結婚、したかった」
「ダメだよ。私は結婚できない」
「子どもができないなら、それでもいいんだ。あかりと二人で、生きていきたかった」
「潤」
「だってあかりは、俺を救ってくれた、天使だから」
……宮野さん、残念。サキュバスは、天使じゃなくて悪魔に分類されるんだよ。
私はそんな、清らかで綺麗なものじゃないの。ごめんね。
「あかり、お願い」
「ダメだよ」
「……じゃあ、最後に、キスだけ」
宮野さんとのキスはセックスしたくなるからなぁ。どうしようかな。んー……断ろう。
と、少し悩んだのがまずかった。
「じゅ、っ、んっ」
無理やり顔を後ろに向かされて、乱暴に唇が奪われる。噛みつくように唇が吸われ、空気を求めて開いた瞬間に、舌が口内へ挿入ってくる。
ブラウスの裾から手が差し込まれ、キャミソールの下を指が這い、無造作にブラの中に指が侵入する。
「やっ、あっ」
柔らかい突起に甘い刺激が与えられる。その先の快楽を知っている下腹部が疼く。逃れようとすればするほど、腕がきつく私を抱き寄せる。
トランクスに隠された男根が硬く勃ち上がり、おしりのあたりにわざと当てられる。
……キス、だけじゃ、ないじゃんっ!
「んっ、ふ」
スルリとスカートが撫でられ、裾をめくり上げ――指が一気にショーツを膝上まで引き下ろす。くぐもった悲鳴は、宮野さんの舌の上で響くだけ。むき出しになったおしりに、熱いものが密着する。
「痛かったら、ごめんね」
余裕のない、けれども、最大限の気遣い。その優しさが宮野さんらしい。
「っあ!」
据え付けられた白い下駄箱にしがみついた瞬間に、痛みが走る。濡れてもいない解されてもいない隘路を割って、肉棒が挿入された痛みだ。
「痛い? ごめん、あかり」
泣きたくなるほど痛いです、宮野さんのバカ!
「でも、止めないから」
「あっ、あ……」
「逃さないよ」
耳元で響く低音に、ドキドキしてしまう。
乱暴にされるのは、嫌いではない。いつもは優しい宮野さんが、私に遠慮することなく、本能で中に挿入ってきた――そんな状況に、興奮しないわけがない。
ぎゅうと手を握りしめて痛みに耐えながら、じわじわと広がってくる快楽を享受する。ゆっくり押し進められていた楔が、湧き出る蜜に手助けされ、簡単に奥へと到達する。
「挿入っ、た……」
根元までしっかり挿れられると、最奥が圧迫感で痛くなる。けれど、甘い痛みだ。やめてほしくない痛みだ。
「あかり」
宮野さんが上体を少しかがませると、また角度が変わって先端が違う場所に当たる。甘美な不意打ちに、声が漏れる。
「っふあ……奥、当たって……気持ちい……」
「本当? 激しくしても大丈夫?」
宮野さんの心配そうな声に、笑ってしまいそうになる。あんなに乱暴に挿入ってきたくせに、今さらそれを聞くの? 本当に、バカなんだから。
「……激しくして、いいよ」
背後にいる宮野さんを、上目遣いで見上げる。彼の喉がゴクリと鳴る。男の人の煽り方は熟知しているのだ。
「最後に、いっぱい、私の奥に出して」
「あかりっ!」
肉棒が一気に膣口まで引き抜かれ、また一気に奥まで挿入される。何度か抽挿されると、蜜が膣内全体に広がり、肉棒の滑りを良くする。そうなると、本当に、気持ちいい。
「やっ、あ、っ、あ」
「外に声が聞こえちゃうよ、あかり」
そうは言っても。後ろから突かれると、どうしても声が漏れてしまう。声を我慢するなんて難しい。
それに、昨日からの腰への負担で、足がガクガク震えてきた。たぶん、あと数分で立っていられなくなる。
「じゅ、ダメ、足がっ」
「つらい? じゃあ、四つん這いになる?」
うんうんと頷いて、ゆっくり床へと倒れ込む。傘もカバンも床に落ちた。ひんやりとしたフローリングがほてった体に気持ちいい。
「んっ、ん、あ」
「あかり、かわいい。おしり突き出して、エロい」
深く浅く、宮野さんは自らの欲を打ち付けてくる。腰をつかむ指の熱が好き。犯されているみたいで、たまらなくエロい。
「潤、に、犯され、てるっ」
「そう、あかりを無理やり犯してるの」
「あ、ん、んっ、きもち、い」
気持ちいい。正常位も後背位も、好き。
そこに、愛も心もなくても。体だけの繋がりであったとしても。
「……あかり、イキそう」
「いいよ、中にっ」
「最後は、あかりの顔を見ながらイキたい」
ずるりと熱が引き抜かれる。膣が快楽を求めて切なくひくつく。くるりとひっくり返って、宮野さんを見つめる。泣き出しそうな顔で、宮野さんは。
「あかり、好き……好き、だった」
溢れる蜜口に亀頭を宛てがって、泣き出しそうな顔のまま、宮野さんは体重をかけてくる。
「っあ……」
「あかり、愛してる……愛してた」
過去形。
宮野さんにもわかっている。これが最後のセックスで、決別のセックスだと。
「あかり、結婚したかった……君と一緒に……生きて」
落ちてくる涙。言葉にならない愛。届かない心。
彼がどれだけ私を愛し、大事にしてきたか。わからないわけじゃない。彼から大切に扱われているという実感はあった。「好きだ」と言われなくても、私に興味を示してくれなくても、好意は感じていた。
それが本当は、深い愛情だったなんて、夢にも思わなかったけれど。
すべて、見ないように、感じないようにしていたのは、私自身のせいなのかもしれない。
「潤、私も、好きだったよ」
宮野さんの体を抱きしめて、嗚咽を耳元で聞きながら、彼に囁く。
「潤、来て」
びくんと腰が跳ねる。宮野さんは少し起き上がって、涙に濡れた目で私を見下ろす。
「一番奥に、来て」
「あかりっ」
速くなる律動に、舌を求め合うキス。こうやって、キスをしながら受け入れるの、好きだったよ。
「あかり、イクっ」
小さく呟いたあと、すぐに唇を塞いで。宮野さんは、一番奥で、私の大好きなご馳走を出してくれた。
最後まで、私の中と唇を味わって、宮野さんは嗚咽混じりの言葉で、セックスを終えた。
「……ありがとう」
「うん」
「最後に、好きって、言ってくれて、ありがとう」
何度も口付けられる頬や額。徐々に柔らかくなっていく楔。
「あかり」
私を見下ろして、宮野さんは、笑った。
「さよなら」
触れるだけのキス。少ししょっぱい、最後のキス。
こちらこそ、三年間、ありがとう。
本当に、ありがとうございました。
さようなら、宮野潤さん。
0
感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。
お気に入りに追加
691
あなたにおすすめの小説


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる