ハッピーエンドをさがして ~バッドエンドを繰り返す王子と令嬢は今度こそ幸せになりたい~

千咲

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三章 ○○ハッピーエンド

028.【サンドリヨン】おとぎ話のその先

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 あるところに、可愛らしい娘が優しい両親と一緒に住んでおりました。しかし、娘が幼いうちに、母親が亡くなってしまいました。
 父親は娘を使用人たちに任せ、妻を亡くした寂しさを埋めるように仕事に没頭していきました。

 娘は愛情に飢えていました。寂しくて、寂しくて、たまりません。優しい愛に包まれたくて仕方がありません。
 ですから、あるとき、聖母神に祈りを捧げたのです。

 ――わたしに、新しい家族をください。

 その願いは聞き届けられました。父親は新たな母親と、娘二人を迎えたのです。
 しかし、新たな継母と継姉は娘をいじめました。意地の悪い三人は娘を使用人のように扱い、「灰かぶりサンドリヨン」と蔑んだのです。
 理想的な優しい母と姉ではないことに、娘は心を痛めました。しかし、家族の愛に飢えていた娘は、多少意地が悪い程度のことだとして、それなりに過ごしておりました。

 あるとき、王国の王子が花嫁探しの舞踏会を開くことになりました。娘は社交界デビューを果たしておりましたが、上の娘たちをさっさと嫁がせたい父親が二人にドレスを新調したため、娘のための新しいドレスはありませんでした。
 娘は舞踏会へ行きたくて行きたくて仕方ありません。王子と結婚したら、きっと、幸せな未来が待っているからです。新しい家族の愛を手に入れることができるからです。
 しかし、意地悪な家族は娘だけを邸に残したまま、王宮へ行ってしまいました。
 娘がわぁわぁと泣いていると、どこかから声がしました。

『そんなに舞踏会へ行きたいのなら、今から言うものを準備するがいい』

 娘がカボチャやネズミ、トカゲを持ってくると、それは素敵な馬車と御者、使用人になりました。娘はカボチャの馬車に乗って王宮へ向かいます。

『五つ時まで、存分に楽しむがよい』

 声の主は結局姿を現しませんでした。
 王宮へ着くと、夢にまで見た舞踏会が開催されています。継母や継姉も見つけました。
 娘は藍色の髪の王子と踊り、楽しい時間を過ごしました。しかし、五つ時の鐘の音が聞こえたため、慌てて邸へと戻ります。その際、ガラスの靴を置き忘れてしまったことには気づきませんでした。

 後日、藍色の髪の王子がガラスの靴を持って娘の前に現れました。王子からの求婚に、娘は大喜びで応じました。
 二人の結婚式はそれはそれは盛大に行なわれました。家族は祝福してくれましたが、娘は新たな家族をも手に入れたことのほうを喜んだのです。
 ようやく結ばれた二人。幸せな日々が続くのだと、娘は信じておりました。しかし、幸福は長くは続きません。

 いつまでたっても、二人の間には子どもができません。結婚式が終わって三年ほどで王子のもとへ「娘を側室に迎えてください」と貴族たちがやってくるようになりました。
 王子は夜ごとどこかの令嬢と遊ぶようになり、娘もまた寂しさを他の男で埋めるようになりました。
「王子様と幸せに暮らしました」という結末はおとぎ話にしかないのだと、娘は大変落ち込みました。そんなとき、またあの声が聞こえてきたのです。

『望みどおり家族を与えてやったというのに、これ以上の幸せをまだ望むというのかえ。何とも強欲な娘よのう』

 強欲だと言われても、娘には何のことであるかさっぱりわかりません。ただ、現状は望んだ幸福とは程遠いものであるという事実だけが、娘の思考を支配しておりました。

「でも、これはわたしが望んだ幸せではなかったわ」
『では、お前の幸せとは何かえ?』

 娘はしばらく考えます。娘の幸福はどこにあるのでしょう。
 生みの母親が生き続けていれば、と考えたこともあります。しかし、父が男爵夫人と出会ったら、父は母を蔑ろにするであろうことはわかっていました。王子と同じように。母があの寂しさを感じながら生きていくことは、想像したくもありません。
 娘は考えます。
 もしも、継母や継姉の心が優しく、娘を大切に想ってくれるのならば、とても幸せな時間を過ごすことができるのではないか、と。

「優しい家族に囲まれて、穏やかな時間を過ごしたかったわ」
『ほう。結婚では幸せになれないとは、おかしなことを言うのう』
「夫の心を繋ぎ止めることは容易ではないの。家族愛に勝る愛はないのではないかしら。それを証明したいの」
『家族の愛が、お前の幸せか……よかろう、叶えてやろう』

 娘は愛に飢えていました。ずっと家族から愛されたいと願いました。ずっと、愛する家族と一緒にいたいと。
 しかし、何度人生を繰り返しても、うまくいきません。継母や継姉は随分と優しくなり、娘を甘やかしてくれますが、ずっと一緒にはいてくれません。父や継母はいつか死に、継姉は嫁いで行ってしまうのですから。
 娘の欲する愛は、いつか手から零れ落ちてしまう砂のようなものです。娘はまだ、それに気づきません。

「家族にはわたしの近くにいてもらいたいの。ずっとそばに」
「そうだわ、もう一人王子を作って、お姉様にはその人と結婚してもらえればいいんじゃないかしら。そうすれば、近くにいられるわ」
「お姉様を遠くに嫁がせてはいけないの。あぁ、困った。これは失敗だわ。早くやり直さなくちゃ」
「あぁ、ダメ、これもやり直し。こんなの、全然幸せじゃない。今のお姉様には死んでもらわなければ」
「どうして王子は邪魔をするの! 全然ダメだわ、早く死んでもらわないと! 早くやり直さないと!」

 途中で舞台に上げた人形のことも、継姉や王子が苦しんでいることにも、娘はまったく気づいておりません。それどころか、一つ綻びができるとそれを直すこともせずに、すべてを諦め、捨ててしまいます。
 理想の家族を求める怪物に成り果てても、声の主が呆れ果てても、娘はまだ諦めないのでした。

「わたしは、ずっと悪夢を見ているの。不幸の中から幸福を探す、途方もない年月の悪夢を」

 娘は、まだ気づかないのです。ずっと、ずっと、幸せな夢を探しているのです。

 ずっと、ずっと……。


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