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篠宮小夜の受難(四十七)

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 同時に絶頂を迎えたあとは、二人してハァハァと荒く喘ぐだけ。時折、私の収縮に合わせてお互いの体が跳ねる。まだ、官能の余韻に浸っていたい。

「……小夜?」
「ゴム、あったの?」
「あぁ……んー」

 歯切れが悪い宗介。視線が泳ぐ。

「まさか、中に、出した?」

 面談に来るだけなら準備していなくても不思議ではない。
 今回は、煽ってしまった私が悪いのかもしれないけど……。

「生で中に出すわけないでしょ、小夜」
「……え?」
「ちゃんとゴムはつけてるよ」

 熱がずるりと抜き取られ、腰が揺れる。やっぱりまだ繋がっていたい、なんて願ってしまう。
 宗介の手元を見ると、肉棒は全体がやけに黒い。先端だけ薄い灰色なのは、宗介の精液がそこにあるということだ。
 黒色の薄い膜は、以前のピンク色のものよりはずっとグロテスクで怖い感じがする。あぁ、だから見せたくなかったのか、と思い至る。そんな気遣いはいらないのに。

「コンビニで買ってきておいたんだけど、ちょっと色が失敗だったかなーって」
「確かにちょっと怖いね」
「まぁ、ね。中に出されたかと思った?」
「……うん」

 宗介はそんなことしない、と思っていても、いつ理性のタガが外れるかわからない。私だって、さっき、避妊具があるか聞くのを忘れて、受け入れてしまった。
 欲は怖い。自分のことがコントロールできなくなってしまう。

「大丈夫。あと二年は我慢するよ。来年は皆受験生だからね。生徒に迷惑かけたくない」
「うん」
「小夜、降りて」

 抱きかかえられるようにして、床に降りる。机はあとで拭かなきゃ。引っかかったままだったブラのホックを留める。
 宗介は手早くティッシュにゴムを包んで、そのままもう一袋を手にする。

「よいしょ」

 ……宗介?
 くるりと体が反転させられて、机に手をつく形になる。足を少し開かせられて――ま、まさか。

「宗介!?」
「ん? あぁ、まだ収まってないから、もう一回イカせてよ」
「っい!」
「立ったまま後ろから、小夜を犯したい」

 犯したい。
 もうその言葉だけでゾクゾクする。イッたばかりなのに、まだ疼く。求めてしまう。欲に際限はない。
 一度絶頂を迎えてしまったら、何度でも、簡単な刺激で達することができるのだと宗介が教えてくれた。その体で。声で。

「あぁ、小夜」

 肉棒を私の中に埋め込むことなく、花弁の間に何度もなすり付けて、ぬるぬると往復させて、そうやって焦らして、私を煽る。
 挿入(いれ)て。挿入て欲しい。
 中に来て。中に。

「おねだりしてごらん?」
「っ!」

 宗介の先端が私の肉芽をつつく。びくりと腰が揺れる。ぐりぐりと押し付けられると、また愛液が溢れ出てしまう。
 欲しくてたまらない。

「小夜」
「……きて」
「ん? 聞こえないよ?」
「おね、がい、宗介ぇ……中に挿入て」
「何を? どこに?」

 カッと顔が熱くなる。
 何を、どこに? 言わせたいの?
 肩越しに宗介を睨むと、彼はニヤニヤと笑いながら、腰を揺らしている。

「ほら、小夜。言って。何をどこに挿入て欲しいの?」
「……酷い」
「言わなきゃ、このままここで出すよ」
「酷い!」

 一度生まれた熱は、なかなか引かない。それどころか、羞恥心を煽られて、一層熱くなる。
 ……言わなきゃ、駄目なの?

「宗介、早くっ」
「だーめ。言って、小夜」

 蜜口でぬるぬる動く宗介の熱は、あと少し角度を変えるだけできっと簡単に中に挿入ってしまう。けれど、宗介が腰をしっかりと押さえつけているから、私から彼を迎えに行くことができない。
 あぁ、もう……こんなふうに焦らして追い詰めないで。本当に、つらい。

「宗介、キス、したい」
「ん」

 くるりと向きを変えられ、宗介の腕の中にすっぽり収まって、見上げてすぐのところにある唇にキス。
 プチンとホックが外され、今度は完全にブラが取り払われる。

「っは……や」
「やっぱりすぐ消えちゃうね、キスマーク」

 胸に舌を這わせながら、宗介はところどころに赤い痕を残していく。先週よりも強く吸われているような気がする。いた、痛い。

「またあとでいっぱいつけないと」
「あ、宗介ぇ」
「小夜、言って。何をどこに?」

 宗介の頭をぎゅうと抱きしめて、髪の毛の中に顔を埋めて、小さな声で呟く。あぁ、もう、恥ずかしすぎる。
 宗介の馬鹿っ!

「っ、……宗介の、……を、私の……に、挿入(いれ)て」

 たぶん、顔は真っ赤だ。こんな顔、見ないでほしいのに、宗介は無理やり私の腕を取り払って、顔を上げてフッと笑う。

「小夜、かわいい。ご褒美に――」

 またくるりと机のほうを向かされて、おしりをくいと上げられる。恥ずかしいところがぜんぶ丸見えだ。こんなに恥ずかしい格好をさせられて……本当にもう死んじゃいたい。

「――奥まで犯してあげる」
「んっ、ああ!」

 奥まで。
 言葉通り、宗介の肉棒が一気に奥まで穿たれる。苦しいのに、気持ちいい。
 机の上においた両手をぎゅうと握りしめる。膣内に宗介を迎え入れるときは、いつもかなりの圧迫感がある。私に興奮してくれているんだなと思うと、嬉しい。
 嬉しい、けど。

「小夜の中、すごいうねってる。わかる? そんなに締めたら、すぐ出ちゃうよ」
「やっあ」
「いやだ、は駄目だよ。そんなに俺のでイキたいの?」

 深い注挿が浅いほうへ切り替えられる。抜けてしまいそうで、切ない。後ろから浅いところを擦られるのは、本当につらい。気持ち良くて、つらい。

「そ、すけ」
「小夜先生」

 この場所で、先生って呼ばないで。ものすごい背徳を感じてしまう。
 ただの男と女のままでいさせてよ。先生と生徒になっちゃ、だめ。だめ。

「小夜先生のが俺のを美味しそうに咥えてる。ヌルヌルしていて、うねっていて、本当に気持ちいい」
「やっ、やぁ……!」
「ずっとこうして犯したかった。俺、幸せだよ。小夜先生と繋がることができて、幸せ」

 浅く 浅く 深く、浅く……宗介が何を待っているのかなんて、すぐわかる。だから、こんなにも、私を煽る。こんなにも、攻め立てる。

「っあ、や、は」
「中、キツくなってきた。イキたいんだね?」

 それが目的だったくせに。宗介は酷い。体で、声で、私を嬲って、私から官能を引き出そうとして。

「……里見くん」
「っ!?」

 私だけ煽られるのは、不公平でしょ。
 効果は抜群だったのか、一瞬、宗介の動きが止まる。

「里見、くん、いつも、そんなこと、考えて、たの?」
「っ、せんせ……!」
「っあ、もっと、奥まで……奥に、おいで」

 国語準備室に響く水の音と、肌を打ちつけ合う音は、たぶん、一生忘れられない。こんなに、求めて求められて、愛して愛された記憶を、ずっと覚えておきたい。

「小夜、せんせっ」
「里見、くんっ」

 私は真面目が取り柄のつまらない教師で、宗介は一途に私を想ってくれた元生徒で、教育実習生。
 私は、四年前に酷い言葉で宗介を縛って、今も縛り続けている。
 けれど、来年には解けてしまう鎖は、今度は私を縛り付けるだろう。宗介から離れることができない、鎖となって。
 一生、縛られ続ける。

「里見、く、あっ」
「小夜せんせ、俺、もう」

 後ろからだと、宗介の気持ち良さそうな顔が見られなくて残念。
 声も、体も、彼の限界を示している。
 腰に添えられていた指に、痛いくらいに力が込められる。肌に爪が食い込むくらい気持ちいいなら、その痕もぜんぶ受け入れてあげる。

「さと、く、いっしょ、に、っあ」
「一緒にイこう」

 ぐっと硬さを増して奥に押し進められた肉棒に、私の中が反応する。熱の先端に私の奥が抉られ、急に甘い痺れが訪れる。
 あぁ、好きだ。好き、だなぁ。

「里見く、好きっ」
「あ、だめ、それ、すぐ来る」
「さと、み、く、すき」

 本当は、もっと抱き合っていられたらいいのに。さすがにここでは、難しい。
 だから、彼の熱を一箇所だけで感じて。

「小夜せんせ、イク、ごめん、イッちゃう」
「わたし、もっ……っあ!」

 甘くて深い闇が訪れる。
 びくんとうねる膣内が、宗介の肉棒を飲み込んで、その白濁とした液体を絞り取る。何度も何度も中が震えて、腰が揺れて、そのたびに宗介が甘く声を漏らす。

「宗介、好き」
「……それ、毎日、言って」

 体を捩って肩越しに宗介を見ると、汗をかきながらも嬉しそうに微笑んでいる彼と目が合う。

「どう、しよっかな」
「言ってよ、小夜。俺、毎日頑張れるから」
「何を?」
「勉強も、バイトも、ナニも」

 宗介は手早く楔を抜き去って、お互いティッシュで後処理をして。

「宗介、好きよ」
「俺も、小夜が好き」

 ほぼ全裸で抱き合ったまま、宗介は私の耳元で囁く。

「ここでするときは、先生と生徒、って設定だと燃えるね」

 ……今、決めた。
 二度目は、ないっ! もう二度と、絶対に、欲には負けない!

「初めて生で中出しするのもここにしようかな」

 宗介の卑猥で最低な計画は聞かなかったことにして。

「今日はどうする?」
「荷物も持ってきたし、泊まっていい?」
「いいけど……先週みたいな激しいのはやめてね」
「え。先週以上に貪りたいんだけど」

 宗介の目は既にギラついている。何なら今すぐ三回戦目に突入しても構わない、という視線に、ただただ背筋が凍る。怖い。怖いから。
 深く求められるのも、良し悪しだ、本当に。

「小夜」

 宗介に優しく抱きしめられる。この暖かな腕の中は、今ではとても安心できる場所になってしまった。
 ……十四時、お腹が空くはずだ。お昼は何を食べようかな。公開失恋のおかげで、一緒にいるところを生徒に見られても言い訳ができるようになったことだし、そのあたりのファミレスでも構わないかな。

「小夜、愛してるよ」

 甘い声に、心が満たされていく。好きな人と肌が触れ合うのは幸せだと思う。とても、幸せ。

「今夜も一晩中、愛し合おう?」

 あー……でも、やっぱ、それは無理。
 軽めのやつでお願いします。



 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな


 ――あなたと、末永く一緒にいられたら幸せです。

 宗介。
 ねぇ、あなたなら……私と幸せに、なってくれる?
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