【R18】君がため(真面目な教師と一途な教育実習生)

千咲

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篠宮小夜の受難(三十九)

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 雨が降る。
 窓から離れている個室には、しとしとと雨粒が地面を打つ小さな音だけが聞こえてくる。例年より少し遅い梅雨入りのような気がする。

「はい、どうぞ」

 ブレンドコーヒーと共に置かれたイチゴのショートケーキ二つに、宗介が目を丸くする。
 一つには小さく細いロウソクが刺さっており、おばさんがライターで火をつける。

「おばさん、ありがと」
「いえいえ、いいのよ。娘の友達の無茶振りには応えてあげなきゃね。もちろん、お代はいただくけど」

 昨日、予約を入れたときに、ケーキをお願いしておいた。おばさんは「じゃあ一華堂のケーキを買ってきてあげる!」と朝から有名菓子店に並んでくれたのだ。手間賃も会計のときに上乗せしよう。

「一日遅れたけど、誕生日ケーキね」

 一本しかないロウソクの火が揺れる。ショートケーキだから、さすがに二十二本も刺したくはない。私は小声で歌を歌う。

「……ハッピーバースデー、トゥーユー。じゃあ、宗介、どうぞ」

 フゥ、とロウソクの火が消える。パチパチと小さく拍手をすると、奥から同じように二人分の拍手と「おめでとう」という声が聞こえた。

「ありがとうございます」

 奥の二人にも聞こえるように礼を言ったあと、宗介は照れているのか、視線を少しさ迷わせる。

「久しぶりだなぁ、こんなふうにお祝いされたの」
「家では祝ってくれないの?」
「いや、祝ってはくれるけど、妹も中三だし、嬉々として歌を歌うような感じでは、ないかな」
「……中三。私も歳を取るわね」

 小学生だった子が受験生とは。六年の歳月は恐ろしい。子どもはあっという間に大きくなる。
 ん、受験生? 誠南学園なら、中高一貫だから、もしかして受験生ではない?

「あれ? もしかして、誠南学園中等部?」
「ええ、父の出身が誠南なので、俺も妹も通わざるを得ないという感じで。まぁ、そのおかげで小夜を見つけることができたから、結果としては良かったけど。あ、ケーキ美味しい」

 イチゴは甘いけれど、クリームとスポンジは柔らかく甘すぎない。味がくどくないから、いくらでも食べられそうだ。
 さすが一華堂のケーキ。並ばないと買えないだけはある。

「んー、美味しい」
「コーヒーにも合うね」

 久しぶりに食べたケーキに、私もニヤニヤしてしまう。あー、美味しい。

「――で」
「?」
「朝、何考えていたの?」
「あさ?」
「朝イチのセックスのとき」
「んぐ」

 今、このタイミングで、聞くこと!? 確かに「あとで聞く」って言っていたけど、今じゃなくてもいいでしょ!?
 おばさんたちに聞かれないように声のトーンを落とす。

「セックス以外のことを考えたでしょ」
「……宗介のこと、考えてた」
「俺のどんなこと?」

 うぅ……なんて答えよう。なんて……。
 お、思い浮かばない。しかも、私の嘘なんてすぐに暴いてしまいそうな宗介だ。

「……宗介が、手慣れているなって、思って」
「へぇ……なるほど。なんでなのか知りたいって思ってる?」
「いや、知りたいような、知りたくないような……すごく複雑な気持ちで」
「じゃあ、知らなくていいよ。俺は小夜だけ好きだから」

 微笑まれると、それ以上は聞いちゃいけないのかな、なんて思ってしまう。視線をさ迷わせてうずうずしていると、宗介が苦笑する。

「今までに付き合った人はいないよ。小夜が初めて。でも、経験はある、で答えになる? 相手は――」
「じゅ、十分です……!」

 宗介は私の様子を見ながら、ニヤニヤと笑う。「そんなことを気にしていたの?」と問われると、本当に恥ずかしくて仕方ない。自分のことを棚に上げて、と思ってしまう。

「俺の相手のことが気になるなら教えるけど、別に大したものじゃないから」
「……うん、大丈夫」
「今は……これからは、小夜だけだから」

「心配しないで」と言われてようやく落ち着く。相手はプロの方なんだろうなと想像してみたりもしたけれど、もう考えないようにしよう。
 知りたくて仕方がなくなったら、聞こう。今は、いいや。

「ありがと。大丈夫だから」
「うん」

 大丈夫。不安なことは聞けばいい。宗介はちゃんと応えてくれる。礼二みたいに、嘘で誤魔化したりしない。それだけはわかる。
 元カレと今の彼氏を比べるのは、本当に失礼だと思うけど、比較対象がそこにしかないの。少ない情報でいろいろ考えなきゃいけないの。ごめんね、宗介。
 でも、礼二が最悪だったから、相対的に見るとすごくいい人に見えているから、宗介。世間的に見ると――アウトでも。

「……勃った」
「……」

 世間的に、アウトでも、ね。


◆◇◆◇◆


 玉置珈琲館の会計はもちろん私が持ったのだけれど、宗介は不満そうだった。財布を出しながら「払いたい」と何度も言っていた。誕生日なのだから、甘えておけばいいのに。
 だから、「買い物袋お願い」と仕事を与えると、喜んで重い買い物袋を持ってくれる。
 ありがたい。腕力も、扱いやすさも。

「今夜はうちで食べる?」
「いや、今夜は家で誕生日用のご馳走が準備されているから、帰るよ。本当は今夜も泊まりたいけど、明日の準備もあるし」

 明日から実習ばかりだから、大変だろう。数学は国語とは違うから、指導の大変さはわからないけれど、教育実習の大変さはよくわかる。

「小夜」

 冷蔵庫に買ったものをしまっていると、後ろから腰を抱き寄せられる。邪魔だよー宗介。

「小夜」

 耳元で聞こえる甘い低音は「お誘い」の合図だ。それはわかっている。さっきから、硬いものが当てられている。ぐりぐりとお尻に押し付けられて、びくりと体が反応する。
 けど、さすがにキッチンではしたくない、かな。

「たぶん、これが最後。あと一週間はできないから……いい?」

 断る理由はない。体力的にはしんどいけれど、宗介が望むなら、気持ち良くさせてあげたい。
 袋の中身をぜんぶしまって、宗介のほうを振り向くと、既に上半身が裸の恋人の姿があった。
 準備万端!? 早いな!

「……おいで」

 抱き合いながら性急なキスをして、舌を求め合う。宗介の舌を吸って唾液を嚥下すると、彼は嬉しそうに笑っている。

「小夜、今すぐ挿入(いれ)たい」
「今すぐは、難しいんじゃ?」
「小夜はキスだけでも濡れるよ」

 それは仕方ない。キスは好きだし、触れ合うのも気持ちいい。そして、キスのあとの行為を想像したら、濡れてしまうのは普通のことだ。

「便利な体でしょ?」
「便利とは思わないけど、俺を求めてくれているってことだから、嬉しいよ」
「っふ、あ!」

 シャツの裾からするりと指が侵入してきて、キャミソールの下の素肌を這う。ブラ越しに頂きのあたりをぎゅっと押しつぶされると、刺激によってぷくりと先端が隆起してくる。その硬さに気づいて、宗介は口角を上げる。

「乳首、弱いよね、小夜」
「ん、ふっ、あっ」
「あー、その顔たまんない」

 自分がどんな顔をしているのかなんてわからない。でも、たぶん、欲しがっている。
 キスして欲しい。触って欲しい。舐めて欲しい。挿入て欲しい。イッて欲しい。
 私の体で、気持ち良くなって欲しい。

「そーす、っあ!」
「あぁ、かわいい。ずっとその顔見ていたい」

 宗介の冷たい指がブラのカップの上のあたりを引き下げ、胸の下のあたりで留める。それだけ形を変えたらブラが傷んでしまうと思っても、硬く勃った先端がキャミソールに擦れて、その甘い刺激に腰が揺れる。
 やだ、もっと触って欲しい。

「ここでする?」
「ベッドか、ソファがいい……っあ」
「じゃあ、ソファ」

 キッチンから離れ、半ば引きずられるような形でリビングへ向かう。
 ボタンを外したシャツをソファに敷いて、宗介とソファに倒れ込む。大きくはないソファに二人で寝転ぶと、手か足はプラプラと空に浮いてしまうけれど、構わない。
 抱き合うと、素肌の感触が気持ちいい。

「小夜はやっぱり赤が似合う」

 耳介に舌を這わせながら、宗介は笑う。ルビーのピアスは、ずっとつけたままだ。替える気が起きないほど、私の耳にしっくり馴染んでいる。

「脱いで」

 足にぴったりフィットしたクロップドパンツは脱がせにくかったのか、宗介が困ったような顔でお願いしてくる。仕方がないなぁと呟いて、宗介の肌の下でショーツ一枚になる。
 その間に宗介もズボンを脱いで、避妊具をソファの近くに置く。

「きれい」
「宗介も、鍛えてる?」
「一応ね。大学でもサッカーやっていたし、ジム通いもしていたから」

 道理で筋肉質なんだなと、胸板とお腹周りをペタペタ触る。少し汗ばんだ肌が、私の肌に吸い付いてくる。

「触って」

 宗介に促されるまま、ボクサーパンツに手を伸ばす。熱く硬い宗介の雄が、触ってもらいたそうにひくひくと動いている。凶悪なまでの快楽をもたらしてくれる肉棒は、私の中ではかわいい存在となっており、好ましいとさえ思っている。
 宗介の先端から先走りの液が漏れ出たのか、ボクサーパンツの上のあたりが湿っている。触ると、少しヌルヌルしている。
 ボクサーパンツの中に上から手を入れて、しっとりと熱を持ち、私の中で暴れたいと主張する肉棒の先端を親指で擦る。ヌルリと蜜が零れ出て、私の指を汚すけれど、そのまま鈴口に指を這わせる。

「……っ、気持ちいい、小夜」

 ヌルヌルした指が亀頭をいじめるたび、宗介の腰と体がびくびく脈打つ。もう片方の指で、熱く滾った茎の部分を上下に扱くと、さらに蜜が溢れ出てくる。
 すくって舐めたい衝動を必死に抑えていたから、宗介の指がキャミソールをめくり上げ、さらにショーツの上に移動したことに気づかなかった。

「小夜も気持ち良くなろうね」

 胸の頂きとショーツの下の肉芽に同時に刺激を与えられ、私の体は、一気に高みへと連れて来られる。

「ひゃああっ!」

 乳首を甘く噛まれ、ショーツごと陰核を摘まれ、蜜口にも指を宛てがわれ、情欲に濡れる視線で犯される。
 抗いようのない快楽に、ただただ、溺れるだけ――。

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