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95話、姉。
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「で、弟くんとは仲良くしているの?」
久しぶりにカナとランチ。リストランテ・マミヤのハンバーグランチを初めて食べたけど、めちゃくちゃ肉汁が出てきて美味しい。牛脂混ぜてるのかな。レシピ教えてもらいたいなぁ。
「元から仲はいいよ」
「私が聞きたい答えはそれじゃないなぁ」
カナは私が一週間分の記憶をなくしたことを知っている。そして、カナからいろいろ聞いて初めて、その一週間に起こったこと――つまりは、事件の大体の内容を理解したのだ。
カナがいなければ、私はすべてを知らないままだっただろう。ショウは教えてくれなかったから。
「仲良くは、しているよ」
「へぇ。週末はデート?」
「うん。その予定」
「うちも久しぶりに泊まりで旅行だわ」
カナ、付き合っている人がいたの!?
私が目を丸くしていると、カナが苦笑する。
「彼氏がいない高梨の前で、彼氏の話をするわけにはいかないでしょ」
「え、私は別にいいのに」
「そう? 事件に巻き込まれて休んだ誰かさんのせいで、彼氏の仕事にしわ寄せがきて先週は会えなかったから、今週末はゆっくりできるわぁ」
「……!?」
え。まさか? カナの彼氏って?
「川口!?」
「んなわけない。ジュラルミンケースは諦めて、もらったお金で旅行するの。泡銭は使い切らなきゃ。その点は高梨に感謝しているよ」
「えええっ? かちょう!?」
意外なんですけど!
課長は仕事はできるし、人望も厚いし、三十五歳でカナと年の差はあるけど、でも。
「……ハゲ、だよ?」
「私、ハゲでもデブでもチビでも大丈夫なの。ハゲているから、変な虫が寄り付かなくてありがたいのよ。ジェイソン・ステイサムみたいで格好いいと思うけど、私だけなんだろうなぁ」
ものすごい惚気をクールに言い放ったカナが、事もなげにサラダを口に運ぶ。今日はポテトサラダだ。
あぁ、だから、課長がいろいろ根回ししてくれていたのかぁ、と納得する。カナの入れ知恵なんだな。
でも、ジェイソン・ステイサムは言いすぎだと思う。色の白い竹中直人くらいじゃないかな。
「高梨は忘れてるけど、いろいろ都合つけてもらったんだから、ね。戸籍を市役所に取りに行きやすいように、市役所近辺の仕事を押さえてもらったり」
「戸籍?」
「高梨と弟くんが実の姉弟なのか、戸籍を取ればわかるよって言ったのは私だよ。忘れちゃったか」
道理であのとき私が市役所にいたはずだ。私、戸籍を確認しに行っていたのかぁ。
「なるほど。それで市役所にいたのか」
「その様子だと、確認はまだみたいね」
「みたいだねぇ」
私の持ち物の中にそれっぽいものはなかった。手帳にメモが残っていたけど、あれは戸籍の確認の仕方だったのかな。
「まぁ、今度夏休みに実家に帰ったときにでも確認してみるよ」
「それならいいけど……家族会議にならないよう気をつけてね」
「あー……善処するわ」
なんで市役所に行くのかと聞かれたりしたときの答え方を考えておいて、両親から詮索されないよう注意しないといけないなぁ。いや、黙って行けばいいのか。うん、ショウにも内緒で黙って行こう。
「院生に、川口に、弟くんに、警部補? 高梨はモテ期だったのねぇ」
「なんて言うか、心が落ち着かないよね……実際、そうなると」
「贅沢な悩みだねぇ。警部補はどうなった?」
水谷さんからは、あれから何のアクションもない。諦めてくれていると嬉しいな。
ハンバーグの最後の一切れを口に含む。味わって咀嚼しながら、今日の夕飯のことに思いを馳せる。出し巻き作ってくれるって言っていたから、和食かな。
「そういえば、弟くん、居酒屋辞めるんだよね?」
「うん。今月いっぱいで辞めるって」
「じゃあ、この間行ったバーでバイトを探しているから、伝えてみてくれない?」
「バー……?」
カナは「あぁ、覚えてないか」と財布から紙を取り出す。受け取ると、バーのマスターの名刺のようだ。
「料理が出来て、お酒が好きな子がいいなって言っていたよ。居酒屋よりは時給いいと思うけど、勤務時間が長くなっちゃうかもしれないから、サイト確認してねって伝えておいて」
「ありがとう、カナ。伝えてみるね」
名刺をしまうと、カナが何か言いたそうにこちらを見て、すぐに視線を逸らす。
カナが聞きたいことが何なのか、何となくわかる。けれど、自分の中で結論が出ていない以上、口に出すわけにはいかない。
ピルケースから錠剤を取り出して、水で流し込む。
「さて、午後の仕事も頑張りますか」
「明日は休み、明後日も休み! 今日は外回り、頑張らなくちゃ」
「暑いのに、お疲れ様」
「コンビニでアイス買って食べる時間が至福なんだわ」
「それは内勤だと味わえない幸せだねぇ」
他愛のない話をしながら、会社へ戻る。カナとわかれ、自分の部署に戻り、課長を見つけた瞬間に、言い様のない安心感が胸を支配する。
色白の竹中直人、だよなぁ。
思わず、にやりと笑ってしまう。
やっぱりジェイソン・ステイサムには見えないよなぁ。
給湯室に歯を磨きに行きながら、ため息を吐き出す。
カナは優しいから聞いてこない。たぶん、私が切り出さない限りは。
「私は、どうしたいんだろう」
ショウと、どう生きていきたいんだろう。
十日くらい考えてみたけれど、わからない。
ショウが敢えてキスまでで関係を止めているのは、たぶん、私の心の準備ができるまで待ってくれているのだろう。
でも、実際は、あの一週間の中で一線を越えてしまっている。はず。ショウの言葉と、キスだけで濡れてしまう私の体の反応を信じるなら。
セックスまで至ってしまった姉弟が生きていく道なんて、限られてしまうのに。それでも、あのときの私は止められなかったんだ。
キスだけでも背徳を感じてしまうのに、ショウに抱かれてしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
キスだけでも抱いて欲しくてたまらなくなってしまうのに。その先を知るのが、怖い。
でも、拒否をして、ショウに嫌われてしまうのは、もっと、怖い。
怖い――。
先々週の高梨マドカは、その恐怖を、どうやって乗り越えたの?
それが、今、知りたくてたまらない。
久しぶりにカナとランチ。リストランテ・マミヤのハンバーグランチを初めて食べたけど、めちゃくちゃ肉汁が出てきて美味しい。牛脂混ぜてるのかな。レシピ教えてもらいたいなぁ。
「元から仲はいいよ」
「私が聞きたい答えはそれじゃないなぁ」
カナは私が一週間分の記憶をなくしたことを知っている。そして、カナからいろいろ聞いて初めて、その一週間に起こったこと――つまりは、事件の大体の内容を理解したのだ。
カナがいなければ、私はすべてを知らないままだっただろう。ショウは教えてくれなかったから。
「仲良くは、しているよ」
「へぇ。週末はデート?」
「うん。その予定」
「うちも久しぶりに泊まりで旅行だわ」
カナ、付き合っている人がいたの!?
私が目を丸くしていると、カナが苦笑する。
「彼氏がいない高梨の前で、彼氏の話をするわけにはいかないでしょ」
「え、私は別にいいのに」
「そう? 事件に巻き込まれて休んだ誰かさんのせいで、彼氏の仕事にしわ寄せがきて先週は会えなかったから、今週末はゆっくりできるわぁ」
「……!?」
え。まさか? カナの彼氏って?
「川口!?」
「んなわけない。ジュラルミンケースは諦めて、もらったお金で旅行するの。泡銭は使い切らなきゃ。その点は高梨に感謝しているよ」
「えええっ? かちょう!?」
意外なんですけど!
課長は仕事はできるし、人望も厚いし、三十五歳でカナと年の差はあるけど、でも。
「……ハゲ、だよ?」
「私、ハゲでもデブでもチビでも大丈夫なの。ハゲているから、変な虫が寄り付かなくてありがたいのよ。ジェイソン・ステイサムみたいで格好いいと思うけど、私だけなんだろうなぁ」
ものすごい惚気をクールに言い放ったカナが、事もなげにサラダを口に運ぶ。今日はポテトサラダだ。
あぁ、だから、課長がいろいろ根回ししてくれていたのかぁ、と納得する。カナの入れ知恵なんだな。
でも、ジェイソン・ステイサムは言いすぎだと思う。色の白い竹中直人くらいじゃないかな。
「高梨は忘れてるけど、いろいろ都合つけてもらったんだから、ね。戸籍を市役所に取りに行きやすいように、市役所近辺の仕事を押さえてもらったり」
「戸籍?」
「高梨と弟くんが実の姉弟なのか、戸籍を取ればわかるよって言ったのは私だよ。忘れちゃったか」
道理であのとき私が市役所にいたはずだ。私、戸籍を確認しに行っていたのかぁ。
「なるほど。それで市役所にいたのか」
「その様子だと、確認はまだみたいね」
「みたいだねぇ」
私の持ち物の中にそれっぽいものはなかった。手帳にメモが残っていたけど、あれは戸籍の確認の仕方だったのかな。
「まぁ、今度夏休みに実家に帰ったときにでも確認してみるよ」
「それならいいけど……家族会議にならないよう気をつけてね」
「あー……善処するわ」
なんで市役所に行くのかと聞かれたりしたときの答え方を考えておいて、両親から詮索されないよう注意しないといけないなぁ。いや、黙って行けばいいのか。うん、ショウにも内緒で黙って行こう。
「院生に、川口に、弟くんに、警部補? 高梨はモテ期だったのねぇ」
「なんて言うか、心が落ち着かないよね……実際、そうなると」
「贅沢な悩みだねぇ。警部補はどうなった?」
水谷さんからは、あれから何のアクションもない。諦めてくれていると嬉しいな。
ハンバーグの最後の一切れを口に含む。味わって咀嚼しながら、今日の夕飯のことに思いを馳せる。出し巻き作ってくれるって言っていたから、和食かな。
「そういえば、弟くん、居酒屋辞めるんだよね?」
「うん。今月いっぱいで辞めるって」
「じゃあ、この間行ったバーでバイトを探しているから、伝えてみてくれない?」
「バー……?」
カナは「あぁ、覚えてないか」と財布から紙を取り出す。受け取ると、バーのマスターの名刺のようだ。
「料理が出来て、お酒が好きな子がいいなって言っていたよ。居酒屋よりは時給いいと思うけど、勤務時間が長くなっちゃうかもしれないから、サイト確認してねって伝えておいて」
「ありがとう、カナ。伝えてみるね」
名刺をしまうと、カナが何か言いたそうにこちらを見て、すぐに視線を逸らす。
カナが聞きたいことが何なのか、何となくわかる。けれど、自分の中で結論が出ていない以上、口に出すわけにはいかない。
ピルケースから錠剤を取り出して、水で流し込む。
「さて、午後の仕事も頑張りますか」
「明日は休み、明後日も休み! 今日は外回り、頑張らなくちゃ」
「暑いのに、お疲れ様」
「コンビニでアイス買って食べる時間が至福なんだわ」
「それは内勤だと味わえない幸せだねぇ」
他愛のない話をしながら、会社へ戻る。カナとわかれ、自分の部署に戻り、課長を見つけた瞬間に、言い様のない安心感が胸を支配する。
色白の竹中直人、だよなぁ。
思わず、にやりと笑ってしまう。
やっぱりジェイソン・ステイサムには見えないよなぁ。
給湯室に歯を磨きに行きながら、ため息を吐き出す。
カナは優しいから聞いてこない。たぶん、私が切り出さない限りは。
「私は、どうしたいんだろう」
ショウと、どう生きていきたいんだろう。
十日くらい考えてみたけれど、わからない。
ショウが敢えてキスまでで関係を止めているのは、たぶん、私の心の準備ができるまで待ってくれているのだろう。
でも、実際は、あの一週間の中で一線を越えてしまっている。はず。ショウの言葉と、キスだけで濡れてしまう私の体の反応を信じるなら。
セックスまで至ってしまった姉弟が生きていく道なんて、限られてしまうのに。それでも、あのときの私は止められなかったんだ。
キスだけでも背徳を感じてしまうのに、ショウに抱かれてしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
キスだけでも抱いて欲しくてたまらなくなってしまうのに。その先を知るのが、怖い。
でも、拒否をして、ショウに嫌われてしまうのは、もっと、怖い。
怖い――。
先々週の高梨マドカは、その恐怖を、どうやって乗り越えたの?
それが、今、知りたくてたまらない。
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