【R18】スパイス~高梨姉弟の背徳~

千咲

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71話、姉。

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 篠原さんがやって来たのは、翌日の日曜日、昼過ぎのことだった。
 彼は、朝から何時間か並ばないと買えない一華堂の二色プリンとロールケーキを手土産に、まずは玄関先で土下座した。

「昨日は本当に申し訳ありませんでしたっっ!」
「近所迷惑だから、とりあえず上がってください」

 朝のうちにショウと打ち合わせをしていたので、打ち合わせ通りに私は脱衣所でこっそり様子を伺って、ショウに篠原さんへの対応を任せる。
 二人が涼しいリビングに入ったことを確認してから、脱衣所からキッチンへ移り、調理台に置かれた一華堂の箱を見て、私は即座に彼を許す方向に転じた。一華堂の大きめの箱には、それくらいの価値があるのだ。
 そして、暑いけれども湯を沸かし、三つのカップとコーヒーを準備する。
 途中、リビングから乾いた音と、何かが倒れる音がしたけれど、聞かなかった振りをする。
 一発だけなら、と許可したのは私だ。拳ではなく平手打ちで、と指定したのも私だ。それでショウの気がおさまるなら、篠原さんにとっても、悪くない話だろう。

「失礼します」

 コーヒーと切り分けたロールケーキを持って、リビングに入る。
 左頬を真っ赤に腫らした篠原さんが座布団に、右手を押さえたショウがソファにそれぞれ座っている。篠原さんは私の姿を見た瞬間に、座布団からおりてまた土下座をした。

「本当にすみませんでした!」
「一華堂、何時間並びました?」
「えっ、あっ、三、時間くらいかと」
「では、それを篠原さんの誠意だと思っておきます」

 テーブルの上の茶封筒に気づき、ショウを見ると、「もらっておいて」と冷たく言う。

「俺の一発と、一華堂の行列に並んだ三時間と、その示談金で、手打ち。いいよね、姉ちゃん」
「あ、うん」
「あっ、ありがとう、ございますっ!」

 これで、社会的な制裁は終わったということなのかな。
 篠原さんは頭を深々と下げたけれど、ショウはまだ睨んだままだ。

「ただし、次はありません。同じことが起こった場合、示談にはせず、被害届を出します。その上で、さらに篠原さんには制裁を加えますので」
「いや、大丈夫です。次は絶対にありません」
「なら、いいですけど」

 ほぅっと大きなため息を吐き出して、篠原さんはようやく顔を上げた。彼に濡らしたタオルと保冷剤を渡す。彼は頭を下げながら、それを受け取って左頬へと押し当てた。
 ショウは小さくため息をついて、ソファにもたれる。私はその隣に座り、篠原さんにコーヒーとケーキを勧める。

「……美郷店長が仕組んだことですか?」
「いや、店長は関与していない……直接は」
「直接は?」
「あれから、俺もよく考えたんだ。なぜ、こんなことをしてしまったのか」

 篠原さんは背を丸め、肩を落としながら、ぽつぽつと話し出した。

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